【編集部注】著者のMatt HeimanはGreylock Partnersの投資家である。
ほぼ3年前、Saar Gurと私は、ベンチャーキャピタリストたちによって見過ごされてしまうことの多い、初期段階の消費者向けプロダクト企業たちが、如何に大成功を収める可能性を秘めているかについて、記事を書いた。 その当時、VCたちは、消費者向け直販ビジネスに大きな成果がみられないことや、どのブランドが成功するかが難しいことを理由に、このカテゴリーにほとんど関心を抱いていなかった。
その記事が出た後、ユニリーバはDollar Shave Clubを10億ドルで買収し、WalmartはBonobosを3億1000万ドルで買い、KelloggがRXBarを6億ドルで獲得し、そしてPurple Mattressは実質ほぼ10億ドルで公開を果たした。どの会社もまだ創業10年にも満たない企業ばかりだ。そしてWarby Parker、Daniel Wellington、Glossier、そしてAllbirdsといったその他の企業たちは、独立を保ったままではあるものの、いずれもわずか数年のうちに、数億ドルに達する売り上げを達成しているようだ。
これらのスタートアップたちは、ミレニアル世代の消費習慣の変化に恩恵を受けているだけではなく、まだ十分に活用されていないデジタルマーケティングチャネルを通して、消費者たちにリーチして、ブランドへの認知度を高めている。実店舗の棚をAmazonが置き換え、TVスターたちをソーシャル・インフルエンサーたち(ソーシャルメディアで影響力のある人たち、YouTuberなど)が置き換えたように、新しいブランドはこれらのチャネルを活用するだけではなく、プロダクトとビジネスモデルをそのチャネルを中心に構築している。
そうした領域での成功が、およそ想像できる限りの各プロダクト業界で、競合を仕掛ける企業を生み出していることは意外なことではない。とはいえ、全てのプロダクトが、テクノロジースタートアップによる破壊的挑戦(ディスラプション)に適しているわけではない。Andy Dunnは「Digital Native Vertical Brands(DNVB:デジタルネイティブな直販ブランド)の台頭」という素晴らしい記事を書いたが、どの”DNVB”が最も成功するのかを、どうすれば見分けることができるのだろうか?以下にその着目点を見ていこう。
現行チャネルの不便さとユニークなデジタル体験の提供
DNVBの典型的な特徴は、オンラインで販売されることだ。そしてオンラインでの販売が最も効果を発揮するのは、既存のオフラインチャネルを通じて購入を行う際に、どうしてもつきまとう不便さがあるときだ。
例えばDollar Shave Clubが解消する不便さは、コンビニエンスストアにはカミソリとカミソリの刃が置いてあるものの、それらはしばしば保護カバーで覆われていたり、カウンターの背後に置いてあって、手にとるためには店員が関与することが多いという不便さだ。Warby Parkerは眼鏡店がしばしば、処方箋を持たない顧客を断ったり、対応に時間がかかったりしているという不便さを解決して伸びている。NurxとRomanは、人びとがあまり喜んでは話したがらない薬(避妊薬や勃起不全治療薬)に対する処方箋を得る際の、不便さを解消している。
価格の非合理性も、購入時の不便さの一形態だ。たとえば、実店舗でマットレスを購入しようとする場合、製造者たちはそれぞれの店舗に対して少しずつ異なる商品管理単位で出荷しているため、消費者は単純に価格を比較することが困難になっている。CasperやPurple Mattressのようなマットレス直販のスタートアップたちは、そうした非効率性を解消することができた。
処方にきび薬も、生産コストに対して法外な価格が付けられているプロダクトの例である。これは現行、薬が処方され、購入され、そして支払いが行われている方法に起因している。Curologyは、同じ有効成分を含む薬をオンラインで、通常の数分の1の費用で提供することができた。
デジタルによる実現でも明らかに必要なことは、プロダクトをきちんと出荷できる能力だ。オンラインで何かを販売するためには、物理的な大きさと経済性を出荷時にうまく扱わなければならない。Casperの成功の重要な、しかし見過ごされている理由の1つは、彼らのマットレスが空気を多く含む素材で作られていて、比較的標準的でコンパクトな大きさの箱の中に圧縮されて届けられるということだ。また、そのマットレスは空気に触れると、勝手に広がって元の大きさに戻るので、顧客に要求される大変な作業は特にない。もしそうではなくて、Casperが完全な形のマットレスをそのまま出荷しなければならなかったとしたら、出荷のための物流はもっと複雑になり、そのことでより販売価格は高価になることだろう。
デジタルによる実現を考える際の、また別のやり方は、インターネットを介して直接消費者に販売することが、伝統的なチャネルでは実現不可能なプロダクトデザインや経済性を可能にする特性だ。
例えば、 Grove Collaborativeは、各種家庭用洗剤を濃縮された形(すなわち水が加わっていない状態)で販売し、出荷時の重量とコストを大幅に削減している。Windexのような既存の競合商品は、物理的な小売店舗の棚スペースに置くことを前提にデザインが最適化されているために、同様のプロダクト革新に踏み切れずにいる。
購入頻度が多いまたは平均注文額が高い
ソフトウェアと同様に、成功する消費者ビジネスは、一般に生涯顧客価値(lifetime values:LTV。1人の顧客がトータルに支払う金額)が高い。高いLTVを達成するには2つの方法がある。1度きりだが高額で高利潤の販売か、あるいはより低額で利潤も低いが何度も繰り返される販売である。
繰り返し、そして頻繁に購入される商品は、特に興味深い。こうしたビジネスでは、新しい顧客の獲得のためにより多くのコストをかけることができる。なぜなら一度顧客を獲得してしまえば、長期間に渡って収益を挙げ続けることが可能になるからだ。過去10年間で非常に成功した消費者ブランドのスタートアップの多くがこの特徴を備えていた。Ritual、Dia&Co.、Lola、そしてHubbleなどの、サブスクリプション型や高頻度リピート型のビジネスは、最近のそうしたビジネスのほんの一部だ。
しかしその一方で、それほど頻繁に買われることのない商品を売るブランドスタートアップも数多く存在している。例えば、家具や宝飾品などが良い例だ。これらのスタートアップは、高い平均購入価格に主眼を起き、最初の売り上げでマーケティング費用を回収できる程度の利益を挙げることに注力する。1度きりの高額商品を扱って、大きなビジネスを手にする道は、不可能ではないものの、より多くの困難が待ち受けている。顧客と繰り返し接触する機会が多くないために、新しい商品を紹介する機会を得にくいのだ。
Hubbleのコンタクトレンズは月額30ドル
プロダクトと販売店にとっての高いマージン
考慮すべきもう1つの重要な特性は、カテゴリのプロダクトマージンだ。何が「高くついている」かは、カテゴリ毎に大きく異なる。しかし一般的に言えば、70%以上の粗利益率を持つプロダクトは、特に魅力的なものだ。なぜならその場合はソフトウェアビジネスと同じような特性を示すことになるからだ、特にそれたが上で述べたように高い反復購入を期待できるものなら尚更である。実際、これらのタイプの製品を販売している企業の損益計算書は、ソフトウェアビジネスのものと似通ったものとなる。ほとんどの消費者プロダクトはマージンが30〜50%だが、スキンケア、化粧品、ビタミンなど、70%のマージンを継続可能ないくつかのカテゴリが存在している。
DNVBは通常、直接消費者に対して販売されるため、小売カテゴリ毎のマージンを考慮することも大切だ。食料品のようないくつかのカテゴリでは、小売りのマージンが少ないことは良く知られているが、旅行用カバン、アパレル、アイケアといった他のカテゴリのマージンは、はるかに多い。
よく耳にする都市伝説は、直販をする新しいブランドは、小売に渡すマージンを排除することができるので成功できるというものだ。しかしこれほど間違った認識はない。より大きな小売業者に頼る代わりに、ブランド自身が物流の重荷を自ら背負っているというだけなのだ。そもそも通常大手の小売業者の方が、スケールメリットによって物流をより効率的に捌くことができる。
直販を行なう結果、消費者ブランドのスタートアップは、eコマースプラットフォームの管理、顧客サービス、そして最も重要な顧客獲得といった小売コストを、自分で背負わなければならないのだ。こうしたスタートアップたちは、長期的にも既存の業者より高いマージンを期待してはならないので、マーケティングコストを賄うためには、最初からマージンを十分に高くとれるカテゴリーに参入する必要がある。
ソーシャルメディアでのシェアか、アーンドメディアでの賞賛か
最高のブランドとは、その顧客にブランドとの結びつきを誇らしく思わせるようなものだ。そのようなことが起きるのは、ブランドが顧客のアイデンティティに結びつくことができた場合である。口コミだろうが、最近ならソーシャルメディアだろうか、顧客が積極的にマーケティングしてくれるようなブランドは、顧客獲得のコストを劇的に下げることのできるメリットを有している。
Daniel Wellingtonには現在350万人のInstagramフォロワーがいる。これは従来の広告手段の代わりに、ソーシャルメディアによるシェアを使ってわずか数年で売り上げ2億5000万ドルを達成したブランドの好例だ。別の例では、Glossierが、オンライン販売の70%が個人からの紹介を経由していると述べている。
顧客自身がプロダクトを使っている自撮り写真を投稿しない場合でも、アーンドメディアがそのギャップを埋めることができる。アーンドメディアとは、レポーターやブロガーたちがプロダクトを取り上げてくれることだ。優れた商品にとっては、費用対効果の高いマーケティングチャネルである。魅力的なミッションと創業のストーリーを持った企業は、しばしば沢山のアーンドメディアを獲得することができる。靴と服のブランドTomsは、何か1つの売り上げがあるたびに、1足の靴を必要としている子供に寄付する運動をしているが、重要な社会的使命を掲げることで、継続的にアーンドメディアを獲得し続けている会社だ。また有名人を巻き込むことも、大型のアーンドメディア獲得のための選択肢の1つだ。
このタイプのマーケティングの利点を活かすことが可能かどうかを評価する1つの方法は、カテゴリーの中のブランドの歴史的重要性を考慮してみることだ。たとえば、靴やアパレルのようなプロダクトでは、長年にわたりブランドは重要だったが、マットレスや家具のような業界ではあまり重要ではない。しかし、未来が過去と同じように続いていくと仮定することもまた危険だ。最高の消費者スタートアップの中には、以前は存在していなかったカテゴリーの中で、重要なブランドを打ち立てることができたものもある。
Into the GlossのメイクアップブランドであるGlossierは、完璧なナチュラルルックセットを揃えている。
流行の影響を受けないプロダクト
アパレルなどの特定のカテゴリーは、急速に変化するファッションサイクルの影響を受ける。これらのタイプのビジネスを始めたり投資したりすることは格別に難しい。なぜならば、現時点での成功も確保した上で、消費者たちの未来の嗜好も継続的に予測して行かなければならないからだ。そして何かを象徴するようなブランドは、もし世間の嗜好がその精神とは離れてしまったときには、効果的な発展は難しくなるだろう。
変化する嗜好の移ろいやすさと予測の難しさが、投資家たちが初期の消費者プロダクトに近寄ってこない一般的な理由だ。しかし、消費者の好みが安定していて、その変化も季節ごとではなく何十年もかかって起こるようなカテゴリーも、沢山存在している。例えば、家庭用品、パーソナルケア、および市販薬のようなプロダクトたちは安定している。
おわりに
上記は、消費者プロダクトのスタートアップを成功に導くものを、完全に包括的に示したものではない。これらのルールの(すべてではないにしても)多くを破っていて、それでも大成功収めている例も確かに存在しているのだ。例えばAllbirdsは、上記の基準の多くにきちんと適合してはいないものの、大きな成功を収めているように見える最近の例である。
歴史的に見れば、各世代では常に、後によく知られた名前になる新しい消費者ブランドたちが生まれていた。現在の環境のユニークな点は、新しいブランドたちが、卸売チャネルの制約なしに対象となる顧客たちに直接アクセスできる可能性があるということだ。従って急速に拡張できる可能性もある。
もちろん、多くの新しい消費者ブランドのスタートアップたちは成功しない。それがこのゲームの特性なのだ。しかし、今や勝ち残れる者たちにとって、オッズは上昇し、得られる賞金は創業者たちや投資家たちが注目すべき程に多くなっている。
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(翻訳:Sako)