スタートアップや大企業の新規事業の財務戦略策定を手がけるプロフィナンスは12月18日、誰でも簡単にWeb上で事業数値計画を作成できるサービス「ProfinanSS」をリリースした。
ProfinanSSのわかりやすい特徴は、複雑な関数や数式などを使わずとも“ガイドに沿って必要な数値を入力していくだけで”財務3表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)や主要経営分析指標が自動で生成されること。これによって起業家や企業の新規事業担当者などが数値計画作りに費やす労力を削減し、より多くの時間を本業である事業作りに使えるようにサポートする。
ユーザーはまず最初に簡易版の事業計画を作成する。このステップではプロダクトの名称やビジネスモデル、販売価格、原価、人件費の目安といった基本的な数値を入力していくことで、計画の大筋を最短3分ほどで確認することが可能だ。
次のステップでは簡易版を軸に、より詳細な事業計画を作り込む。とは言っても、ここでもユーザーはガイドを参考にしながら空欄を埋めるだけでいい。
従来であればExcelやスプレッドシートで関数や数式などを使いながらシミュレーションすることが多かったかもしれないが、このサービスではその大半が自動化されている。そのため「原価率はどれくらいか」「在庫の回転期間はどのくらいか」「従業員数はどのように推移していく計画か」といった基となる数字を入れていけば事業計画がどんどん生成されていく。もちろん関数エラーやミスによる余計なストレスとも無縁だ。
作成した事業計画は表形式だけでなくグラフで表示することも可能。Excel形式でダウンロードすることもでできる。
さらにProfinanSSでは事業計画をブラッシュアップするのに役立つセルフチェック機能を搭載。「価格設定の背景」や「原価の内訳」、「マーケットの規模」など投資家の目線を取り入れた複数の質問が用意されていて、それに回答することで計画を整理しながら実効性を高めていくのに使える。“簡易的な壁打ち”を自分1人で実施できる仕組みとも言えるだろう。
現在これらのサービスは全て無料で利用することができる。プロフィナンスではファイナンスの専門家による個別での事業計画レビューを有料で提供するほか、今後は予実管理機能や資本政策機能などを追加していく計画で、それらの一部を有料化することを考えているようだ。
「こんな苦労を起業家には味わって欲しくない」
ProfinanSSのアイデアは、プロフィナンス創業者である木村義弘氏自身がかつて事業計画を作る際に大変な思いをしたことがきっかけとなり生まれたものだ。
木村氏は東京大学大学院で統計的品質管理を学んだのち、スタートアップ投資などを手がけるインスパイアに入社。そこでは投資先の事業計画や財務計画をいくつも作成してきた。
最初に担当したのはユーグレナ。当時は今ほどファイナンス関連の本やノウハウが出回っていなかったこともあり苦戦し、2ヶ月間仕上げることができなかった。最終的にはExcelのセルに切り刻まれる夢を見るほど追い込まれていた時期も乗り越え完成させたそうだが、この時に「こんな苦労を起業家には味わって欲しくない」という思いが芽生えたという。
その後はベンチャー企業のインド事業立ち上げに携わった後、独立を挟んでデロイトトーマツコンサルティングにジョイン。ミャンマーオフィスの立ち上げを推進し、日系企業の新興国戦略策定やインフラ開発の財務モデル構築などの案件をいくつも担当した。2015年に参画したトライステージでは国内外のM&Aや買収先のCFOも担うなど、それまでとはまた別の角度からファイナンス関連の業務を経験している。
ProfinanSSはこうした木村氏の経験やナレッジをシステムに落とし込んだサービスと捉えることもできるだろう。近年は本にしても、Web上の情報にしてもこの領域におけるナレッジが徐々に充実してきてはいるものの「定番と呼べるツールはまだない」というのが木村氏の見解だ。
まずは立ち上げ期のスタートアップや大企業の新規事業部門担当者の悩みを解決する「簡単な事業計画策定ツール」としてスタートするが、ゆくゆくは事業計画から予実管理まで対応するCFO支援ツールとしての機能や、大企業が子会社や複数事業の予算作成・管理をスムーズに行える機能などを追加しながら「管理会計・ファイナンス領域でイノベーションを起こせるようなサービス」を目指すという。
「全ての起業家が数字に強い訳ではない。慣れない事業計画作りに膨大な時間を奪われ、本来起業家や事業家が時間を使うべき事業の立ち上げ・経営に集中できないのは大きな課題。ProfinanSSを通じて数値作りの時間・労力を最小化し、事業作りの時間を最大化するとともに、投資家や銀行とのコミュニケーションを最適化するサポートを行っていきたい」
「一方で目指しているのは資金調達の効率化ではなく、経営の高度化だ。まず最初に成し遂げたい『事業』があり『資金調達』はそれを実現するためのアジェンダの1つ。デットやエクイティによる調達はさらにその手段の一部でしかない。単に資金調達を効率化するのではなく、事業計画を策定する過程や完成後に、定量的な観点も踏まえて事業を俯瞰して考えることで経営のレベルが上がる。それを後押しするようなプラットフォームを目指す」(木村氏)
プロフィナンスは2018年の設立。同社にはマッキンゼーを経てソフトバンクの社長室長や日本テレコムの執行役員本部長などを務めた経験を持つ安川新一郎氏が共同創業者兼取締役として携わっているほか、2019年4月には6名の個人投資家が出資を行っている。