【編集部注】著者のGian Paolo Bassi氏はSolidWorksのCEO
その年代の子供たちのほとんどが、デジタル機器に触れながらも、しばしば愚かなゲームをしたり猫の動画を見たりしている一方で、8つの小学校の教師たちと164人の4年ならびに5年生たちは、同じデバイスを新しい学びのために使っている。テキサス州とバージニア州の15の教室では、生徒たちは製造デザインとデジタル製造プロセスを使って、物理的なモデルを作成し、基礎となる数学的概念を学習して、意味のある文脈でそれらを利用している。
このFabLab Classroomは、STEM教育における「E」(Science、Technology、Engineering、MathのE)に焦点を当てた全米科学財団のパイロットプロジェクトである。このプロジェクトはノーステキサス大学で始まった。マサチューセッツ工科大学(MIT)で始められたNeil GershenfeldのFab Labの縮小版をモデルにしている。生徒たちはコンピュータ上で自分たちのプロジェクトを3Dで設計し、その後シンプルな素材を使用してアイテムを作る。
生徒たちや教師たちに利用可能な広い範囲のデジタルツールと設備が、K-12教育システム(小学校1年から高校3年までの12年間の教育システムの総称)を変容させている。Fab Labsとメイカースペースが子供たちに、設計し考案し学ぶことができる創造的な場所を提供する。ビデオゲーム(例えばMinecraft)とバーチャルリアリティ(VR)が、デザインベース学習ツール(design-based learning tools)として採用されている。学校で、共同作業スペースで、そして自宅で、3Dプリンタはより容易に利用可能になっている。こうしたすべてのツールとSTEM教育における幅広い取り組みが、とても若い年齢の子供たちに3D設計を行わせている。
自分自身が単なる消費者ではないことに子供たちが気がつくことを、いかに学校が手助けできるかが焦点である。
STEMに対する国家的な興味と熱意に不足はない。 オバマ大統領はよりSTEMに焦点を当てたカリキュラムが、アメリカの教育の困難とアメリカの製造業の衰退の是正を助けることができると考えている。米国教育省の事務次官Jim Sheltonはこう語る「STEM教育は全ての生徒にとって、彼らがこの先何をしたいかに関わらず重要です」。
STEMの支持者たちは、新しい種類のツール、機械、および方法へのアクセスが増えることで、若者たちが触発されていると信じている。それは単に製造の民主化だろうか?それとも、メイカーマインドセットとハンズオン手段の更なる開放と、デザインベース教育による消費者から生産者への急激なメンタルシフトを引き起こすのだろうか?
「行動主体性の感覚」によって動かされる
子供の学問的な旅の早期に、これらのツールを提供するようにシフトすることで、私たちは単にデザインベース学習の大いなる機会を与えているだけではなく、生徒たちが自信をもってデザインと製作に取り組む能力の開発を助ける「行動主体性の感覚*」を身につけさせているのだ。ハーバード教育学大学院のAgency by Design(デザインによる行動主体性)プロジェクトによれば:
「メイカー中心教育の重要な目標は、若者や大人たちに、自分の世界を構築し形を整えるための力が与えられた(エンパワーされた)気持ちにさせる手助けをすることです。こうしたメイカーエンパワーメントの感覚の獲得は、個々人の物理的概念的環境の中のデザインを捉え関わることを学ぶことによって(別の言い方をすれば、デザインに対する感受性を磨くことによって)強く促進されます。この感受性は、若者や大人たちが物やシステムのデザインを間近に観察し熟考するとき、デザインの複雑さを探求するとき、そして自らを自分たちの世界のデザイナーであると理解するときに身に付くのです 」。
私はこれらのテーマを日々3D CADの顧客との会話の中で見聞きする。特に最近の大学卒業生たちからだが、K-12セグメントで働く私たちの教育チームからも見聞きするのだ。
それがSTEMと呼ばれようが、より包括的にSTEAM(AをArtのために追加)と呼ばれようが、生徒たちは真に学びに打ち込んでいる。生徒たちが教育レッスンを活気のあるものにする新しい仕組みで触発されている姿を見ることは心強い。たとえば新しく急速に拡張されているGoogle Expeditionsパイオニアプログラム(Google Cardboardを使って教師たちが生徒たちにVR体験を与える手助けをする)などだ。この没入的3D体験は、海底から火星の表面に至る仮想の旅を可能にする。
FIRSTロボット競技会では、Agency by Designが「デザインへの感受性」と呼ぶ活動に、米国の78000人以上の生徒が活発に参加している。生徒たちは、ボールを救い上げて投げたり、障害物を飛び越えたり、一見不可能な動作を行ったりといった、すべてが膨大なSTEM学習の成果を編みあげたメイカー精神の下で実現されるロボットを作るために、実世界に対する計算を行っている。
米国の教育ニュースをカバーする非営利、無党派のサイトThe 74によれば、ニューオーリンズのBricolage Academyの教室には欠けているものがあるらしい:椅子だ。最近では、The Maker Movement Is About More Than Science and Math — But Is All This Tinkering Really Effective?(メイカー運動は科学と数学以上のものだ — しかしこのティンカリングは本当に効果的なのか?)という表題のもとに、Mark Keierleberが次のような記事を書いている、「机の前に紙と鉛筆を持って座る代わりに、生徒たちは作業台の前に立ちLEGOやロボット、木のブロック、そして回路基板でティンカリング(いろいろ工夫しながら作ったり試したりすること)をしています」。
Bricolage Academyの生徒たちは、テキサス州とバージニア州の164人の生徒たちと同様に、氷山の一角に過ぎない。その氷山はいま、STEMのパワーやメイカー運動、そして新しいパーソナライズド学習を混ぜあわせた教育方法などを体験させることを始めることで、何百万人もの更なる生徒たちを海面へと浮かび上がらせようとしている。
これらの生徒たちと教師たちが使う言葉は、オバマ大統領や、教育省、 Agency by Designプロジェクトが使っているものとは異なるかもしれないが、伝えているメッセージは同じである:「驚くようなものを作る方法を学びたい」。
それは単にテクノロジーあるいはSTEMにフォーカスしたものではなく、それどころかメイカーマインドセットにだけ注目したものでもない。そうではなく、自分自身が単なる消費者ではないことに子供たちが気がつくことを、いかに学校が手助けできるかが焦点である。 彼らはデザイナーで、クリエイターで、メイカーで、そしてプロデューサーなのだ。今日の5年生は、生涯を通したSTEM学習者となるだろう。
訳注:*行動主体性の感覚:sense of agency(自分自身の行動を人からの指示ではなく自分自身で決めていく感覚)
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(翻訳:Sako)