オンライン記憶カードのQuizlet、リモート学習の急拡大で新たな10億ドルのスタートアップに

世界中の生徒、学生や教員たちがリモート学習に移ることを余儀なくされている中、デジタル記憶カードのスタートアップが10億ドルの会社評価額を得た。QuizletGeneral AtlanticがリードしたラウンドCで3000万ドルの資金を調達した。

QuizletのCEO、マシュー・グロツバック(Matthew Glotzback)氏は、「今回の資金調達ラウンドでは10億ドルの会社評価額を得た。前回、2018年のラウンドの5倍となった」と述べている。Quizletの判明している資金調達総額は6000万ドル以上だ。

Quizletはオンライン記憶カードとその利用ガイドを簡単に作成できるサービスで、パンデミックで途方もないトラフィックを集めているというニュースに引き続いてこの資金調達が発表された。ユーザーは自分で学習ガイドと記憶カードを作成するだけでなく、ガイドやカードを友達と共有して互いに問題を出し合うなどグループ学習もできる。これは試験の準備にも有効だ。COVID-19によって休校になったため、オンラインで情報を共有、交換しながら学習を続けるために効果的な方法を探していた生徒たちがQuizletプラットフォームに殺到した。

生徒、学生は毎週10億以上の小クイズをQuizletに追加しており、学習ガイドも4億本以上が作成されている。 サンフランシスコを本拠とするこのスタートアップは主要な国際市場で200%から400%のユーザー拡大という急成長を遂げている。同社は1日のあたりのトラフィックの具体的数字を示すことは避け、「月間ユーザーは5000万人以上だ」と述べたるにとどまった。これは2年前に発表した統計の数字だ。

グロツバック氏によれば、アメリカの高校生の3分の2以上、大学生の少なくとも半数がQuizletを使用していると指摘した。これほどの規模のマーケットには量にくわえて非常に大きな多様性がある。Quizletは化学における酸や塩基 からジェットコースターの力学芸術の知覚心理学まで数多くの分野を扱っている。

なぜ記憶カード企業が10億ドルもの評価を受けるのか不審に思う読者も多いだろう。実のところ10億ドルの価値はカード事業にあるわけではない。人工知能をベースにした学習プラットフォームというところにある。現在Quizletのビジネスのコアでありもっとも力を入れているのがこの部分だ。グロツバック氏は「Quizletの学習モードがもっとも人気のある機能だ」と述べている。AIを利用した学習により、ユーザーは限られた時間でテーマとするトピックをマスターし、試験に備えることができる。

Quizletの新たな投資家となったGeneral Atlanticは世界ののエドテック企業に投資しており、OpenClassrooms、Ruangguru、Unacademy、さらに最近ではDuolingoがポートフォリオに追加されている。グロツバック氏は「われわれは今後も国際市場における拡大を図っていくが、具体的な目標や地域名を念頭に置いているわけではない」と述べた。現在、同社は130か国、19言語で利用されている。つまり成長の余地はまだ十分あるわけだ。

Quizletでは売上は前年比で100%成長していると述べているが、収益性についてはコメントを避けた。

Quizletでは、2013年11月に上場したオンライン教科書のCheggを最も近いライバルに近い存在と見ている。
グロツバック氏は「アメリカではCheggのユーザーは(われわれより)多く、教育分野では非常に大きな存在となっている」と述べた。また「Duolingoなどは(言語学習という)特定マーカットを対象としたバーティカルなサービスだが、Quizletは幅広くカリキュラム全般に対応する」と述べた。

今回のラウンドでQuizletは正式にユニコーン(10億ドル企業)となったが、これを社員に発表したとき、」グロツバック氏は「われわれは一層ラクダ(のような着実な存在)に近づいた」と語った。

「われわれのビジネスは大規模なものとなっている。使い方が簡単で、すぐに始め、すぐに共有できるプロダクトのおかげだ。有料バージョンにアップグレードするユーザーがこれほど多数に上るのはサブスクリプション料金がきわめて低価格だからだ。これがわれわれの経営を支えている」。

多くのスタートアップとは異なり、「ゆっくり、着実に」というのは創業時からの精神だという。Quizletは2005年にに当時わずか15歳だったAndrew Sutherland(アンドルー・サザランド)氏によって創立された。サザランド氏はマサチューセッツ工科大学の学生寮からQuizletを運営し、資金は2015年まで完全にブートストラップ(自己資金)だった。元YouTubeのエグゼクティブだったグロツバック氏は2016年にCEOとして迎えられた

そのような慎ましいルーツから出発したにも関わらず、パンデミックで多くのスタートアップに逆風が吹いている中、今回のラウンドを成功させたのは注目に値する。

グロツバック氏は「われわれが資金調達ラウンドの処理と会社業務のリモート化に取り組んでいたのは株式市場が連日暴落を続けていた。今回のラウンドはそういう不安な時期だったが無事に完了させることができた」という。

グロツバック氏は「今回のラウンドは機会があったために実行したもので、経営上キャッシュを必要としていたわけではない」と語った。

つまりQuizletの(ユニコーンという)勲章は、この壊滅的な時期に、エドテック分野には再活性化将来への希望の芽の双方があること立証した例といえるだろう。 オンライン・リモート学習は今や単なるツールから必須の学習プラットフォームに成長しつつある。

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滑川海彦@Facebook

パンデミックで浮き彫りになるリモートラーニングビジネスのチャンスと課題

バーチャル科学実験室を提供するエデュテック企業であるLabsterは、米国時間4月14日、カリフォルニア州のコミュニティカレッジネットワークと提携して、そのソフトウェアを210万人の学生が利用できるようにすることを発表した。

California Community Colleges は、国内で最大の高等教育システムであるといわれている。Labsterとの提携は生物学、化学、物理学、および一般科学に向けの130種類のバーチャルシミュレーションを115の学校に提供するというものだ。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が学校の閉鎖を余儀なくしているために、多くのエデュテック企業たちは、自社のソフトウェアを無料で提供したり、無料トライアル期間を延長したりすることで対応をしてきた。4月14日に発表されたLabsterの提携の中で、新しくて注目に値するのは、現在の情勢がビジネス上の取引にどのようにつながるかを示す、いくつかの最初の兆候を示している点だ。

コペンハーゲンを拠点とするLabsterは、バーチャルSTEM実験室を教育機関に販売している。Crunchbaseのデータによれば、Labsterはこれまでにベンチャーキャピタルから、知られている限り3470万ドル(約37億3000万円)を調達している。Labsterの顧客にはカリフォルニア州立大学、ハーバード大学、グウィネットテクニカルカレッジ、MIT、トリニティカレッジ、そしてスタンフォード大学などが名を連ねている。

実験装置は大変高価であり、予算の制約により各学校は最新のテクノロジーを導入するのに苦労している。従ってこれまでLabsterの提案してきた価値は、より安価な代替案であるということだった(学生がバーチャル実験室で試薬をこぼしても、掃除の手間が省けるが)。

だが、新型コロナウイルスによるパンデミックの拡大を制限するために、世界中の学校が閉鎖を余儀なくされている中で、その訴求ポイントは少々変化した。現在それは科学実験室に代わる唯一実行可能な手段として、自分自身を売り込んでいるのだ。

多くのエデュテック企業にとって、リモート学習の急増は大規模な実験となった。学校がその運営を完全にデジタル化するために奮闘する中で、エデュテック企業たちは、しばしば自社の製品とテクノロジーを無料で提供している。

例えば先週、セルフサービスの学習プラットフォームであるCodecademy、Duolingo、Quizlet、Skillshare、そしてBrainlyは、生徒と教師のためにLearn From Home Club(在宅学習クラブ)を立ち上げた。それに先立ち、Wizeは同社の試験コンテンツと宿題サービスを無料で利用できるようにしている。また、ZoomはK-12スクール(高校以下の学校)にビデオ会議ソフトウェアを無料で提供したが、その結果は功罪の入り交じるものとなった

Labster自身は、全国の学校に500万ドル(約5億3700万円)分のLabsterクレジットを無償で提供した。こうしたリストは枚挙にいとまがない。

Labsterの今回の新しい取引は、今ならエデュテック企業が大きな費用をかけることなく、新しい顧客を確保できることを示している。

LabsterのCEOで共同創業者であるMichael Bodekaer(マイケル・ボデカー)氏は、この取り引きの価格についての詳細は明かさなかった。彼はLabsterが各々の学校と協力して、それぞれが教師のトレーニングとウェブセミナーのサポートにどれだけ投資できるか、または投資したいかの理解に努めたことを明かした。彼はまた、Labsterがこの取り引きから利益を得ていることは認めている。

「私たちはパートナーをサポートするための準備をしっかり整えたいと思いますが、同時に営利組織としてのLabsterが自分たちに給与を支払えることも確実にしたいのです」とボデカー氏は語る。「しかし、繰り返しになりますが、私たちのコストをカバーできる程度までの大幅な割引を提供します」。

他の多くのエデュテック企業と同様に、Labsterにとっての長期戦略は今回のような短期的な措置が長期的な関係へと発展していくように、学校に彼らのプラットフォームを気に入ってもらうことだ。

「会社として維持できる限り、これらの割引を維持するつもりです」と彼は語る。「当初は8月まで割引を行うつもりでしたが、現在は年末まで延長する予定です。状況によっては、さらに延長する可能性があります」。

価格設定はさておき、Labsterそして実際のところリモートラーニングに焦点を合わせたいかなるエデュテック企業にとっても、本当の実現上の困難はデジタル格差(digital divide)だ。ビデオ会議用のコンピューターや、演習用のインターネット接続さえも利用できない学生もいるのだ。

新型コロナウイルスのパンデミックは、リモート学習に必要なテクノロジーへのアクセスが、アメリカ全土でどれだけ不足しているのかを浮き彫りにした。カリフォルニア州では、Googleは支援を必要としている学生たちに、無料のChromebookと10万箇所のWi-Fiアクセスポイントへの無料アクセス権を提供した。

ボデカー氏によれば、Labsterは現在、モバイルデバイス上でのソフトウェアの提供に取り組んでおり、またGoogleと協力して、自社の製品がChromebooksなどのローエンドコンピューターで動作することを確認している最中だ。

「私たちは、ハードウェアにとらわれず、学生がすでに持っているシステムやプラットフォームをサポートしたいと考えているのです」と彼は言う。「持っているハードウェアが障壁にならないようにしたいのです」。

今回の提携によって、210万人の学生がLabsterのテクノロジーにアクセスできるようにはなったものの、その集団の中でコンピューターにアクセスできない可能性がある学生の割合については直接把握されていない。エデュテックにとっての試練そしておそらくその成功は、ハードウェアとソフトウェアの、どちらにも偏らない真のハイブリッドに依存したものになるだろう。

画像クレジット:doyata / Getty Images

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(翻訳:sako)