二酸化炭素排出が多い企業の排出量をAIを使い測定するCarbonChain

最後に背中を押したのはオーストラリアの山火事だった。

Adam Hearne(アダム・ハーン)氏は温室効果ガス排出量が世界で最も多いいくつかの企業で12年間働いた。まず、最大の鉱業会社の1つであるRio Tinto(リオ・ティント)。その後Amazon(アマゾン)では欧州のインバウンド配達オペレーションを指揮した。アマゾンのオペレーションでは何百万トンもの二酸化炭素を大気中に排出するが、ハーン氏はそこで物流が滞ることのないようにする役を担った。

アマゾンの事業では、2019年に5117万トンの二酸化炭素を排出された。同社のレポートによると、これは石炭火力発電所13基分に相当する。

そして、ハーン氏の母国で山火事が起こった。

2019年の山火事では、4600万エーカー(約18万6000平方キロメートル)が炎に包まれ、9000戸超の家屋が破壊された。そして400人余りが亡くなり、無数の動物も犠牲になった。絶滅の危機に陥っている生物もある。

ハーン氏は同年、ビジネススクール時代に一緒にラグビーで汗を流した古い友人であるRoheet Shah(
ロヒート・シャー)氏と、インペリアル・カレッジ・オブ・ロンドンのコンピューターサイエンスと機械学習の専門家であるYuri Oparin(ユーリ・オパリン)氏、Jeremiah Smith(エレミヤ・スミス)氏らと共にCarbonChain(カーボンチェーン)を立ち上げた。いまY Combinatorを卒業しようとしている同社は、汎用品の産業が排出するガスを正確に測定するサービスを売り込んでいる。汎用品の産業による排出ガスは世界の温室効果ガス排出量の50%を占める。

同社のサービスの登場は時宜を得ている。世界中の国々が二酸化炭素や温室効果ガスに対してこれまでよりも厳しい規制を導入しようとしている。EUは、地域のローカル経済を反映した気候変動に関する新たな規制導入に向けて緩やかに動いている。ロシアのような石油国家ですら新たな気候規制を制定しようとしている(少なくともロシアの当局者によるとそうだ)。

こうした動きで欠けているものは、企業が正確にガス排出量を追跡する手段と、排出量の相殺がどれくらいうまくいっているのかしっかりとモニターできるテクノロジーだ。

CarbonChainは温室効果ガス排出のかなりの部分を占める部門に目を向けることでこの問題に取り組む、とハーン氏はいう。

「世界は、どの企業がどれくらいのガスを排出しているのか正確に把握する必要がある」と7月のインタビューでハーン氏は述べた。

同氏によると、ガス排出の削減と規制が機能していることを確かめるために、当局は石油・ガス、そしてコモディティ、資源開発の部門をウォッチする必要がある。「そうした部門はそろって二酸化炭素をかなり排出し、ゆえにそれを数値で表す必要がある」

CarbonChainはこうした産業のサプライチェーンにおけるあらゆるアセット用モデルを構築したという。同社は重産業で使用されている各種設備のデジタルツインを作った。企業が使用している設備についての情報が得られなければ、そうした企業のための設備をつくっているエンジニアリング会社をあたる。

「明かされない数字を入手するために、我々はすぐ隣に発電所があるアルミ精錬所まで行かなければならない」とハーン氏は話した。「排出の90%は電気の使用によるものだ」。

同氏によると、CarbonChainのシステムは1杯のコーヒーやワインを生み出すためにどれくらいの二酸化炭素排出をともなうかがわかるほど正確だ(ちなみに、輸入ワインの場合2ポンド、約900グラムの二酸化炭素排出される)。

CarbonChainは、生産者や既存の炭素取引の枠組みで活動している炭素トレーダーにサービスをすでに販売している。

これまでのところ、同社は英国政府からおおよそ50万ドル(約5300万円)、そして顧客(非公表)の1社から投資を受けた。

同社のテクノロジーは、排出モニターを行っていると主張する他のどの企業よりも確固とした方法論を備えているようだ。炭素排出データを企業に提供していると称する他のスタートアップには、350万ドル(約3億7000万円)を調達したPersefoni、Y Combinato卒業生のSINAI Technologiesがある。

もしCarbonChainが本当に鉄筋1つに至るまで材料にともなうガス排出量を測定できるのなら、業界にとって重大な帰結をもたらす可能性がある。

同社はまた、機械学習を用いた膨大なデータセットの収集に基づく垂直的なソリューションを構築するかなりの業界経験で起業の潮流にうまく乗っている。

カテゴリー:人工知能・AI

タグ:CarbonChain 二酸化炭素

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(翻訳:Mizoguchi

今年のCO2排出量は過去最高に、まだ望みはある?

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異常気象や海面の上昇、さらには数百人の米国人を殺し、数十億ドルの損害をもたらした気候変動の主要な要因、二酸化炭素の排出量は、2019年に過去最高を記録することになる。

これは、グローバルカーボンプロジェクト(Global Carbon Project)のデータによる。同プロジェクトは、世界中の研究者のイニシアチブとして、スタンフォード大学の科学者であRob Jackson(ロブ・ジャクソン)教授が率いている。

グローバルカーボンプロジェクトによる予測は、「地球システム科学的データ」(Earth System Science Data)、「環境研究論文集」(Environmental Research Letters)、「自然の気候変動」(Nature Climate Change)と題された3つの論文や記事として発行されている。

これは良くない知らせだ。しかし、楽観的な見方を好む人に対しては、良い知らせもある。二酸化炭素の増加率は、過去2年に比べれば劇的に下がっているのだ。とはいえ、ジャクソン教授の声明によれば、地球上の国々が、エネルギー、輸送、産業に対するアプローチを変えるために大胆な行動を起こさない限り、排出量は今後の10年も増加し続ける可能性がある、と研究者たちが警告しているという。

「昨年よりも排出量の増加が鈍ったというのは確かに良い知らせですが、それで気を抜くわけにはいきません」と、スタンフォード大学の地球、エネルギーおよび環境科学研究所(Stanford Earth)の地球システム科学のジャクソン教授は声明の中で述べている。「排出量は、いつになったら減少し始めるのでしょうか?」とも。

世界的には、化石燃料からの二酸化炭素排出量(これが全排出量の90%以上を占める)については、今年は2018年の排出量より0.6%増加すると予想されている。2018年は、2017年から2.1%も増加していた。また2017は、2016年の排出量と比べて1.5%の増加だった。

研究者によると、石炭の使用量は世界中で劇的に減少しているのに対し、天然ガスと石油の使用は増加している。また豊かな国々での一人当たりの排出量が依然として高いことは、開発途上国からの排出量を相殺するのに十分な削減はできていないのを意味している。途上国では、エネルギーと輸送手段を、天然ガスとガソリンに頼っているのだ。

「豊かな国における排出量の削減幅は、依然としてエネルギーへの依存度が高い貧しい国における増加幅を上回らなければなりません」と、エクセター(Exeter)大学の数学教授であり、グローバルカーボンバジェット(Global Carbon Budget)の論文「地球システム科学的データ」の主筆、ピエール・フリードリンシュタイン(Pierre Friedlingstein)教授も声明で述べている。

進展が見られる国もある。英国とデンマークでは、ともに二酸化炭素排出量を削減しながら、経済成長を達成することができた。The Economistが引用した報告書によると、英国では史上初めて、今年の第3四半期に、国内の家庭や企業に供給された電力量で、再生可能エネルギーによるものが、化石燃料によるものを上回った。

データと画像はThe Economistによる

今年初めの国際通貨基金(IMF)の調査によると、風力と太陽光発電のコストが劇的に低下しているため、豊かな国でも天然ガスに対してコストで競合できるようになり、もはや石炭より安価になったという。

それでも、米国、EU諸国、および中国の合計で、二酸化炭素の全排出量の半分以上を占めている。米国における排出量は、前年比で減少し、1.7%減少すると予測されている。ただしそれだけでは、中国などの国々からの需要の増加を埋め合わせるには十分ではない。中国における排出量は、2.6%増加すると予想されているのだ。

そして米国は、安いガソリンや大型車への依存症を断ち切る方法をまだ見つけていない。米国が、気候変動の拡大を緩和できるはずの乗用車による排出規制を放棄したことも、悪い方に働いている。それはそうとして、米国の現在の自家用車の所有率が世界に与える影響を考えれば、交通手段を根本的に改革する必要に迫られている。

前出の報告によれば、米国の一人当たりの石油消費量はインドの16倍、中国の6倍となっている。また米国には、ほぼ一人あたり1台の車があるが、その数字はインドでは40人に1台、中国では6台に1台だ。どちらの国でも、もし所有率が米国と同様のレベルに上昇すると、いずれも10億台の車が走り回ることになる。

グローバルカーボンプロジェクトが報告したスタンフォード大学の声明によれば、世界の二酸化炭素排出量の約40%は石炭、34%が石油、20%が天然ガスによるもので、残りの6%はセメントの製造など、他の発生源に起因するものだという。

「米国やヨーロッパで、石炭の使用量を削減すれば、二酸化炭素の排出量を減らし、雇用を創出し、空気をきれいにすることで人命を救うことにもつながります」と、スタンフォード・ウッズ環境研究所(Stanford Woods Institute for the Environment)、およびプリコート・エネルギー研究所(Precourt Institute for Energy)の上級研究員でもあるジャクソン教授は、声明の中で述べている。「より多くの消費者が、太陽光や風力など、より安価な代替エネルギーを求めているのです」。

政策、技術、社会的習慣の変化などの組み合わせによって、まだ行程を逆戻りさせることができるという希望はある。新しい低排出車の導入、新たなエネルギー貯蔵技術の開発、新しい応用分野におけるエネルギー効率と再生可能電力の継続的な進歩には、それなりの明るい希望もある。そして、排出量の多い牧畜や作物栽培に対する代替手段への社会的な取り組みも有望だ。

「気候変動に対して、あらゆる対策を講じることが必要です」と、ジャクソン教授は声明で述べている。「そこには、より厳しい燃料効率基準、再生可能エネルギーに対するより強力な政策的インセンティブ、さらには食事の変革、炭素の回収と貯蔵技術、などが含まれます」。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)