米Virgin Galacticは、民間企業による宇宙旅行事業の実現に最も近い位置にある。すでに同社はテスト機による宇宙飛行にも成功しているが、その道のりは平易なものではなかった。Virgin Galacticによる宇宙旅行計画は、どこまで現実に近づいているのだろうか。
賞金獲得した宇宙船
Virgin Galacticの宇宙船のルーツは、10年以上前に遡る。まず、米Scaled Compositesは民間による有人弾道飛行を競う「Ansari X Prize」に参加するために、宇宙船「SpaceShipOne」を開発した。
SpaceShipOneは途中まで飛行機に係留して運ばれ、その後にロケットエンジンを利用し上昇。目標高度に到達した後は、グライダー飛行で地上へと降下する。このシステムは、後のVirgin Galacticの宇宙船にも取り入れられている。
2004年6月、SpaceShipOneはカリフォルニア州のモハーヴェ空港から離陸し、宇宙空間として定義される高度100kmに到達。また同年の9月と10月にも宇宙飛行に成功し、無事賞金を獲得した。
母艦から飛び立つ宇宙船
そして、Scaled Compositesから技術を受け継いだのが、英Virginグループに属するVirgin Galacticだ。
Virgin Galacticの宇宙飛行には、宇宙船「SpaceShipTwo」と母艦「WhiteNightsTwo」が利用される。WhiteKnightTwoがSpaceShipTwoを高度14kmまで運び、その後高度100kmを目指す仕組みは、SpaceShipOneと同じだ。
SpaceShipTwoはパイロット2人、乗員6人が搭乗する宇宙船。高度100kmの宇宙空間では、乗員は数分間の無重力(微重力)状態が体験でき、また丸い地球の水平線や漆黒の宇宙が眺められる。
悲劇の事故を乗り越えて
Virgin Galacticは、SpaceShipTwoの初号機となる「VSS Enterprise」を製造し、2013年4月から飛行試験を開始。同年には宇宙飛行を実現させるはずだった。
しかし2014年10月の飛行試験の際、VSS Enterpriseは突如爆発し墜落。副操縦士が亡くなるという、最悪の事故が発生した。後の調査により、この事故は副操縦士の操縦ミスが原因だったと判明している。
この事故により、Virgin Galacticによるテスト飛行は2年以上中断されることになる。しかし同社は宇宙旅行を諦めることなく、後継機種の開発に取り組んだ。
再び空を目指す宇宙船
初号機の悲劇を乗り越えて製作されたのが、2号機となる「USS Unity」だ。USS Unityは2016年12月に飛行試験を開始し、2018年4月にはエンジン飛行を実施。また降下の際のグライダー飛行についても、テストが繰り返された。
そして2018年12月には、とうとう高度約80kmの「宇宙空間」に到達した。なお一般的には100kmから上が宇宙だとされているが、アメリカ空軍は高度80km以上を宇宙空間だと定義してる。どちらも間違いということはない。
さらに、2019年2月にはUSS Unityは乗客を乗せた状態で、宇宙空間への到達に成功。乗り込んだのはVirgin Galacticでトレーナーを務める人物だが、商業飛行の開始が近づいているのは間違いない。
すでに販売済みのチケット
なお、Virgin Galacticはすでに宇宙旅行のチケットを25万ドル(約2800万円)にて販売している。日本でもクラブツーリズムが代理店としてチケットを販売しており、日本人の購入者も存在している。
現時点では、初の商業フライトの正確な日程は決定されていない。ただし、Virgin Galacticの創業者のリチャード・ブランソン氏は7月16日に自らが搭乗してのフライトをにおこない、年内にも商業運行を開始したいと表明している。
加熱する宇宙旅行ビジネス
また、宇宙旅行ビジネスを計画しているのはVirgin Galacticだけではない。たとえばAmazon創業者のジェフ・ベゾス氏が立ち上げた米Blue Originは、高度100kmに到達するロケット「New Shepard」を開発している。
New Shepardは垂直に打ち上げるロケットで、先端のカプセル部分に乗客が登場する。そして数分間の無重力体験や、宇宙からの眺めが楽しめる点は、Virgin Galacticの宇宙船と一緒だ。なお、Blue Originは年内に宇宙旅行のチケットを販売し、年末までに有人でのロケット打ち上げを実現したいとしている。
さらに、イーロン・マスク氏が立ち上げた米SpaceXは、宇宙船で月の裏側を周回し地球に帰還する旅行を2023年にも実施する。この宇宙旅行に参加するのは、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」率いる前澤友作社長だ。前澤氏は、自身だけでなく複数人のアーティストも宇宙旅行に参加してもらい、作品作りに活かして欲しいと表明している。
一昔前までは小説や映画の中の話でしかなかった、民間会社による宇宙旅行。それが実現する日は、そう遠くなさそうだ。
(文/塚本直樹 Twitter)