極少額の投資や寄付を勧める動き


【編集部注】著者のPatrick Wallenは、弁護士でありRubicon Venture Capitalのフェロー。スタートアップとVCのプロフェッショナルである(この著者による他の記事:How Trump will impact venture capital: The future of QSBS)。

#DeleteUberの数が増えるにつれて、Lyftは自らを善意の提唱者であると宣伝する機会を、巧みに掴み取った。大衆からの支持を得るための試みの一環として、Lyftは乗客1人ごとに一定の寄付を開始する。

これは3月下旬に発表された“Round Up&Donate”(切り上げて寄付)計画に従うものだ。Lyft利用者は、運賃をドル単位で切り上げて(ランドアップ)その差額を寄付することを選べるようになる。たとえば、元の運賃が8ドル50セントだったとすると、利用者の支払い金額は9ドルとなり、差額の50セントはACLU(アメリカ自由人権協会)へ寄付され、市民の自由を守ることになる。

Term SheetStrictlyVCをフォローしている人たちは、個人投資または非営利支援のためのラウンドアッププログラム(切り上げプログラム)をサポートするために、かなりの投資が行われて来たことを思い起こすだろう。例えばPayPalや楽天のような大手のテクノロジー企業が、カリフォルニア州ニューポートビーチにあるAcornsに投資を行って来た。

6000万ドル以上の資金を持つAcornsは、ユーザーが買い物をする時の金額を切り上げて、その釣り銭を自動的に投資に回すことによってマイクロ投資を可能にするサービスを提供する。

AcornsのCEOであるNoah Kernerは、ラウンドアップ投資の事を「特に若い人たちとって、お手軽に(投資を)始める方法の1つです」と説明している。「そして私たちは、お客様たちが更なる投資を行うことのできる機能を提供しています」。

Acornsは、運用を開始して最初の8ヶ月の間に、2500万ドルの資金を調達したが、その利用者の4分の3は18歳から34歳だった。

Kernerによれば、釣り銭を使って投資することは「本当に無意識に行なうことができます」ということだ。彼は、「コーヒーを飲むことを我慢して、未来のスターバックスに投資せよ」といった古い金融格言を引用しながら、「しかし人びとの振舞を根本的に変えることは難しいことです。無意識の内にそうしたことを自動的に支援してあげる方が簡単です」と語った。

モバイル経済が2020年までに倍増し、1000億ドル以上になると予測される中で、企業たちは、こうした傾向に対応するために若年層に向けての努力を重ねている。米国の世帯の約65%が少なくとも1件の寄付を行なう中で、ミレニアム世代の85%近くが寄付を行っている。Millennial Impactレポートによれば、ミレニアム世代が最も寛大な世代であると主張する者もいる。

このマーケットに可能性見出しているのが、スタンドアロンアプリのCoin Upの CEOであるLeena Patidarだ。Coin Upは、Apple Storeに初めて登録されたモバイル寄付アプリの1つだ。Patidarは私にこう語った「(Appleは)当初、私たちを受け入れませんでした。Appleが私たちを承認するのは大変なことだったのです」。そして今彼女の会社には、マイクロ寄付の民主化に向かうライバルのDropsが加わった。

PatidarはLyft幹部とプログラムについてのコンサルティングを行い、切り上げの「主流化」をサポートしている。彼女は、Coin Upが若いユーザー層に合わせるようにデザインされていることから、顧客たちが自身のラウンドアッププログラムを実施し、寄付の上限を設定したり、寄付先のリストからの選択を行なうことができると話した。Kernerのコーヒーショップ訪問の格言に触れて、Patidarは「そうしたラテは高くつく可能性がありますね。寄付が何処に行くのか、どの程度の金額まで出て行くのかについて、制御する必要があるでしょう」。

Patidarによれば、彼女のアプリは、「特別な催しものに対する500ドル」はおそらく用意できないものの、「何かより大きな動きの一部として寄与したいと願う」ミレニアム世代向けのものだ。

App Storeの中では新しい種類のアプリたちであるにもかかわらず、少額寄付に関わる他の気にすべき傾向を見せるものもある。“America’s Charity Checkout Champions”を隔年で出版するEngage fo Goodの、コミュニケーション責任者であるMegan Strandは、POS(Point of Sale)業界とラウンドアップ寄付戦略の専門家だ。

Strandは、特に今年は、ラウンドアッププログラムに多くの「不満」が見られたと述べている。まだ出版されていないものの、私は彼女の調査に関する早期レポートに関して問い合わせを行うことができた。Strandは、1ドル以下の寄付は「促しやすいので」とコメントしつつ、現在のトレンドはラウンドアップ寄付に向かっていると語った。Strandは、これまでキャッシュレジスタで固定額の寄付を行えるようにしていた組織が、今やラウンドアップをオプションとして追加し、実際上これをディフォルトオプションにしつつあるという、初期の調査結果に驚いていた。

もし私たちが少額寄付を謳う壮大なストーリーで、ちびちびと小銭を巻き上げられているだけなのでは考えるのなら、Strandが挙げる事例に目を向けてみよう。例えばJC Pennyはラウンドアップ寄付を用いて、1年で300万ドル以上の寄付を集めた。POSに似たプログラムで固定額の寄付を提供できるeBayは同じ年に6000万ドルを集めている。そしてBank of America(BofA)の”Keep the Change”(釣り銭をとっておこう)プログラムは、その開始以来30億ドルを集めているのだ。Strandは、より親しみのある固定POS寄付が、最終的には非営利団体の総額を上げるという点で、ラウンドアップ戦略に道を譲るかどうかは、疑問視している。

誰もがマイクロ寄付の有効性について確信しているわけではない。イェール大学の経済学の教授であり、Impact Mattersの共同創業者であるDean Karlanも、こうしたラウンドアッププログラムが本当に寄付を増やすかどうかに関しては疑問を抱いている。Karlanは、上で触れたBofAの”Keep the Change”プログラムでの、1人当たりの平均額が小さいことを挙げて、こうした釣り銭を寄付することで結果的に「暖かくふんわりとした感覚」を私たちが得てしまい、そうして頭の中に生まれる「チャリテイボックス」によって結果的に後の大きな寄付が妨げられるのではないか、と心配している。私がKarlanと話した際には、ラウンドアップ寄付をすることで、「本当の姿よりも自分が利他的だという誤った感覚」に陥ってしまうのではないかと語っていた。

彼は語る「物を買うための取引コストが下がってきています。今や衝動的に慈善団体を作るのは10年前よりも簡単です。それについて深く考えることなく、ただ数回のクリックを行なうだけというのは、良くないことかもしれません」。Karlanは「私はデータを信じます」と宣言し、アカデミックの世界は「真の効果についての実際の証拠を待っているのです」と述べた。そしてLyftは何が上手く行くことなのかを示すための絶好のポジションにいると指摘している。最終的にKarlanは、このお手軽な寄付が、実質的な寄付を、増やすのかそれとも置き換えるのかがわかるまでは、Lyftのプログラムに対する賞賛は控えようと考えているのだ。

Strandは、ラウンドアッププログラムの広がりの見通しに対して熱心だが、すべてのプログラムが均等に扱われるわけではない。「Lyftが何をするのかに興味があります」とStrandは言う。「彼らにとってのチャレンジは、ユーザーに対して何故、そしてどのようにオプトインするのかを伝えることなのです」とStrand。「もしLyftがこれを続けるならば、それを正しく行って、それを積極的に推し進めることを願いますね」。そして以下のように付け加えた「これをアプリの誰も気にしない様な深い場所に埋め込んでしまうなら、間違ったやり方だということになります」。

何百万人ものユーザーに寄付を促すことには大きな影響を期待できるものの、Strandが指摘するように、ユーザーはなによりもまず、オプトインする必要がある。ただし、これはCoin UpのPatidarや、AcornsのKernerにとっては問題ではない。

「アプリをダウンロードする時点でオプトインすることになりますから」とKernerは言う。しかしLyftにとっては、このことは重要だが簡単なことではない。Libertarian Paternalism Is Not an Oxymoron(自由主義者の保護主義は語義矛盾ではない)という論文の中で、行動経済学の父Richard Thalerとその同僚であるCass Sunsteinは、オプトインを支える科学を探求し、人びとが現状維持に偏ることを説得力のある形で議論している。

これはLyftにとっては悪い知らせだ。 最近発表されたように、彼らはまずAndroidユーザーたちが、アプリ設定の中でプログラム参加を行えるようにする。つまりオプトインさせるということだ。もしその代わりに、オプトアウトを採用するならば、労なく金を集められるようにするようなものだ。

第3の選択肢は、ユーザーに明示的に選択させることだ。ThalerとSunsteinは、こうした強制的な選択は、オプトインを必要とするものよりも高い参加率をもたらすが、オプトアウトを要求するものよりは低い参加率になると結論付けている。

オプトアウトをデフォルトとすることに対して反対する者は、しばしば個人の自主性や、純粋な選択肢を持つ自由を理由に挙げている。しかしながら、例えば人生の早い時期で投資をしないことを選択するようなことが、個人的な利益にとっておそらく害になるということを知りながら、人間はしばしば愚かな選択をしてしまう。30歳未満の米国成人で株式で資産を持っているのは、25%強程度に過ぎない、という報告もある。これこそが、Kernerが人びとを「正しい」方向へ誘うというアイデアに熱心な理由だ。彼は言う「若い人たちは投資に意識が向いていません」だからこそ「Acornsが優しく誘うのです」。

Kernerは「早くから投資家になることは正しい選択です。顧客には多大な敬意を払っていますが、私たちはそのための水先案内人となろうとしているのです」と語る。

またその一方で、もしミレニアム世代が社会活動に寄付を行いたいと思っているのなら、そちらへのより広範な参加を促すようにデザインされたシステムを用いて、ミレニアム世代を誘うのも良いことだろう。

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(翻訳:Sako)