「Uberだけではない」:カーネギーメロン大のコンピューターサイエンス学部長に聞いた、学界からの人材流出問題

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10年あまりもの間、Andrew Mooreはカーネギーメロン大(CMU)においてコンピューターサイエンス学部とロボティクス学部の教授であった。彼は2006年にGoogleに引き抜かれ、同社のターゲット広告と詐欺防止のチームを率いることになった。

CMUは2014年に、Mooreを学部長として再び招き入れた。だが彼は今でも、実業界から教授たちに引き抜きのオファーがかかった時、彼らがどのように感じるのかをよく理解している。彼いわく、学界と実業界の人材獲得競争は、年々その激しさを増しているという。

1年前、Uberが同大学のロボティクス学部に目をつけ、そこから科学者とリサーチャーを40人引き抜いたのは有名な話だ。今日、私たちはMooreにその件について話を聞いた。Mooreはどのようにして優秀な人材を同校につなぎとめているのか、そして、2000人の学生を抱える彼の学部は、今どの分野に注力しているのか。記事の長さの調節のため、インタビュー内容には編集が加えられていることを、あらかじめご了承いただきたい。

TC:何度も質問されているとは思いますが、同校の教授やリサーチャーがUberに引き抜かれたことによるダメージは、どれほど大きかったのでしょうか?

AM:そのような出来事はたびたび起こります。学界と実業界が日々革新的なものを生み出している分野では特にそうです。2015年の1月、Uberは同社のAdvanced Technologies Centerをピッツバーグに設立するにあたって、当校から4人の教授と35人あまりの技術スタッフを引き抜きました。この出来事は学界にとって、私たちの教授が実業界にしばらく吸収されてしまうという例の一つでしかありません。私もその一人です。たいてい毎年5人から15人ほどの人材が、1年から4年ほど学界から実業界に引き抜かれていきます。彼らの多くはその後に学界に戻ってきますが、そのうち数人は戻ってきません。

TC:この出来事は重大な時代の流れとして受け止められていましたが、そうではない?

AM:その世間の認識こそが、もっとも大きなダメージになってしまうのです。現実は、私たちが抱える40人の教授のなかから、4人が引き抜かれたということに過ぎません。この分野は急速に成長しているため、その一方では昨年に17人の教授を雇い入れています。その半分がロボティクスの分野に所属し、もう半分が機械学習の分野に所属しています。その世間の認識については遺憾に思います。私たちは新しい人材の不足に苦しんでいるのではなく、彼らにポストを与えることに苦労しているのです。

TC:カーネギーメロン大とUberの、現在の関係はどうでしょうか?交流はありますか?

AM:私たちはUberを応援しています。公的な交流はありませんが、私たちとUberは、同じ街に住む親しい隣人なのです。具体性に欠けた学術理論が商用の製品に進化することは、ピッツバーグの経済に多大な恩恵をもたらします。

このような引き抜き競争は、今まさに(人工知能と)ロボティクス分野において広く発生しています。この分野の教授たちに対する需要がとても大きいため、私たちは彼らに対して、学界に残って学生を育てることに注力するように促しています。この新しいフロンティアを育てるために、我が国には彼らの力が必要です。そして、米国でも指折りの(学術)機関に勤める者として、私の指名は最良の人材を育て上げることです。そのために私がその優秀な教授たちに徹底させているのは、スタートアップにとっても最新鋭すぎるような、急進的な新しいテクノロジーを学生たちに使わせるということです。

TC:実業界からオファーされる金額に対抗するために、どのようなインセンティブを彼らに与えていますか?

彼らに与えているのは単に、私たちが持つ理想だけです。自動化の技術と、AIアルゴリズムによる人間のアシスタントは、多大な数の人々を救い、人間をリスクから遠ざけるという事実です。私たちが抱えるエキスパートのなかには、ゲーム理論を応用した腎臓移植のドナーと患者とのマッチングによって、1年に何百人もの命を救っている者もいます。何十年後に世界が90億の人口を抱え、耕作に適した土地が減っていたとしても、それに耐えうるような効率的な農業を実現させようとしているグループもいます。

TC:しかし、実業界がオファーする金額は多額です。

実業界に引き抜かれた教授はその後、お金の心配をしなくても良くなります。ただその一方で、(学界に残った)教授は、子どもを大学に生かせるための資金繰りに苦労している。おかしなことですが、これが現実です。実業界に移るというのはとても魅力的なことなのです。そのため、私を含めた学長たちは、彼らが数年間スタートアップを設立したり、大企業に勤めたりすることを推奨し始めています。そして学界に戻ってきてもらうのです。

TC:教授たちがそこから得られる給料やエクイティを貯め込めるようにでしょうか。

AM:これには2つの理由があります。1つ目の理由は、彼らに対する需要がかなり大きいので、たとえ数年間だけでも、キャリアを賢く選ぶことによって彼らは経済的に豊かになれるということです。もう1つの理由は、企業に関わることで彼らが刺激され、その後大きなアイデアを持って(CMUに)戻ってきてくれることが多いということです。

人材流出という問題を軽視しているわけではありません。何千万ドルにも値する人材をつなぎとめておく方法を考えることで、私の抜け毛も進行してしまいます。ただ、教授たちが持つ世界クラスの能力によって、望むのであれば起業することもできるという事実に、私たちは誇りを感じています。

TC:Uber はあなたにも声をかけましたか?

AM:どの企業が誰を雇ったかについては、コメントしかねます。

TC:昨年、あなたが監督する7つの学部の内の1つであるthe Robotics Instituteが、コンピューター・ビジョンの新しい修士号プログラムを開始しました。その他の分野における注力分野はどこでしょうか。そしてそれはなぜでしょうか。

人工知能の世界において、12カ月前には注目されていなかったにも関わらず、それ以降に急激に注目されている分野が、感情認識技術の分野です。その分野の技術のほとんどが、当校のコンピュータ・ビジョン・プログラムと、ピッツバーグ大学(の心理学および精神医学部)から生まれています。その技術を知るために、実業界や政界からCMUを訪れる人々の数は計り知れません。

人間がミクロレベルで発する感情を認識し、その人がストレスを感じているのか、嬉しいのか、興味をもっているのか、または眠いのか、ということを知ることができれば、(それによって開発できる)アプリケーションの数は数多く存在します。その範囲は、より良い教育や医療の分野から、セキュリティ分野にいたるまで多岐に渡るでしょう。何千人もの人々が、音声と文字の分野に注力をしていますが、人間の感情認識は、それに加わる第3の主要分野なのです。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook