名称変更したToyota Venturesが先行技術やカーボンニュートラルに取り組む企業への約330億円投資を発表

トヨタ自動車の独立系ベンチャーキャピタルファンドであるToyota AI Ventures(トヨタAIベンチャーズ)は「AI」がなくなり、単にToyota Ventures(トヨタ・ベンチャーズ)として生まれ変わった。この新名称を記念して、3億ドル(約330億円)の資金を追加投入し、Toyota Ventures Frontier Fund(トヨタ・ベンチャーズ・フロンティア・ファンド)とToyota Ventures Climate Fund(トヨタ・ベンチャーズ・クライメイト・ファンド)という2つのファンドを通じて、将来の実用化が期待される先端技術や、カーボンニュートラルに取り組む企業に投資する。

この2つのファンドの規模はそれぞれ1億5000万ドル(約165億円)ずつで、Toyota Venturesの運用資産は5億ドル(約550億円)を超えることになる。これまでAI、自動運転技術、モビリティ、ロボティクス、クラウドを中核としてきた同社の投資分野は、Frontier Fundへの新たに資本注入により、スマートシティ、デジタルヘルス、フィンテック、エネルギーなどの分野も加わることになる。投資アプローチは変わらないが、投資先として検討するスタートアップ企業の範囲が広がるわけだ。

「AIの全体に占める割合が縮小するような感じです」と、Toyota Venturesのマネージングダイレクターを務めるJim Adler(ジム・アドラー)氏はTechCrunchに語っている。「Frontier Fundの最初のミッションは、トヨタにとっての次を発見することです。トヨタは1930年代には自動車を中核にしていましたが、今後は他の事業でも成長していくでしょう。スタートアップは市場での実験であり、我々はイノベーションがどこから生まれるかを理解し、それに慣れることができるのです」。

グローバル企業としてのトヨタは、37万人以上の従業員を雇用し、金融テクノロジーのように投資から会社全体が利益を得ることができるさまざまな事業部門をカバーしている。Frontier Fundはモビリティの域から一歩踏み出したものだ。エマージングテクノロジーを市場にもたらすだけでなく、顧客として、あるいは買収によって、新たなイノベーションを引き込むことを目的としていると、アドラー氏は語っている。

「私が思うに、この会社のビジョンは、機械はこれからも存在し、人間のできることを増幅させるものだということです。そしてトヨタは、機械が人間を増幅して社会に利益をもたらすということを理解しています。これは非常に陳腐に聞こえるかもしれませんが、トヨタは本当にそれを信じているのです」と、アドラー氏はいう。

同じ意味で、新たに設立されたClimate Fundは、トヨタが2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を加速させるのに役立つスタートアップ企業に投資することを目指している。トヨタは、何年も前から水素への投資を行っており、日本の燃料会社であるENEOSとの最近の提携もその一環だ。だが、アドラー氏によれば、カーボンニュートラルの達成に役立つものであればどんな技術でも受け入れるという。

「再生可能エネルギーが大きな役割を果たすと、私たちは考えています」と、アドラー氏は語る。「水素の製造、貯蔵、流通、利用が重要な意味を持つことになるでしょう。炭素の回収と貯蔵も重要です。私たちは水素に関して何十年もやってきましたが、もしかしたら状況が変わるかもしれないので、独断的になるつもりはありません。水素はこれまで市場がなかったため、スタートアップコミュニティでクラウドソーシングされていませんでした。しかし、市場は生まれつつあると思います」。

このファンドは、アーリーステージの資金調達を希望する起業家からの売り込みをウェブサイト上で受け付けている。Toyota Venturesはまた、製品開発から多様性や人材採用まで、あらゆる面で助言を求める創業者のためのリソースとして、新しいアドバイザー・ネットワークと協力することも発表した。

Boxbot(ボックスボット)の共同創業者でCEOのAustin Oehlerking(オースティン・オーラーキング)氏は、声明で次のように述べている。「Toyota Venturesは、2018年のシードラウンドに投資していただいて以来、Boxbotにとってかけがえのないパートナーです。コンセプトから製品 / 市場適合までの道のりにおいて、複雑で実存的な課題を乗り越えるために、彼らは大きな力となって私たちを助けてくれました。ジムとチームは、ベンチャー企業との提携を成功させるためには、コーポレートベンチャーキャピタルがどのように機能すべきかをよく理解しています」。

アドラー氏は、彼と彼のチームが起業家出身であることから、テーブルの反対側がどのようなものであるかを理解していると、同氏はいう。Toyota Venturesがアーリーステージのスタートアップに焦点を当てているのは、そこから最も興味深いイノベーションが生まれると信じているからだ。

「アーリーステージのベンチャーキャピタルは未来への望遠鏡だと、私は強く信じています」とアドラーはいう。「そうして私たちは、すべての人々のためになる価値のあるイノベーションを見つけることができるのです」。

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

インターネットファーストの創業者に向けたBanana Capitalのデビューファンド

度々話題になるツイートからTurner Novak(ターナー・ノヴァック)氏を知る人も多いかもしれないが、同氏は常にミームメーカーとして活躍していたわけではない。

米国の地でシングルマザーに育てられたノヴァック氏。経済的な事情からインターネットにアクセスできないことも多々あった。あらゆるインターネット会社のお試しサービスを活用しながら乗り切り、トライアル後はインターネットがない状況が何カ月も続いたこともある。このときの経験こそが、同氏とテクノロジーとの関わり方を形成してくれたと同氏は振り返る。

「インターネットがいかに影響力の強いものであり、重要であるかを実感しました。またその時の経験のおかげで効率的な使い方を学ぶことができました」と同氏はいう。

そして現在、投資家となったノヴァック氏はその理念に基づいた会社を立ち上げた。Banana Capital(バナナキャピタル)はウェブ上に存在するコンシューマーテック系の創設者を見つけて資金調達する会社である。応募超過となったデビューファンドは999万ドル(約10億円)で、平均的な小切手の額は2万5千ドル(約270万円)から30万ドル(約3300万円)。Banana Capitalへの投資家にはWinnie(ウィニー)の共同創業者であるSara Mauskopf(サラ・マウスコフ)氏、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)のジェネラルパートナーであるSriram Krishnan(シュリラーム・クリシュナン)氏、GGVのマネージングパートナーであるHans Tung(ハンズ・タング)氏などが含まれる。またTwitter(ツイッター)のミームアカウントであるVC Starter Kit(VCスターター・キット)もLPとなっている。

ノヴァック氏は幅広い消費者セクターへの投資を予定しているが、中でも特にソーシャル、医療、eコマース分野におけるアーリーステージのスタートアップに関心を持っており、0.2〜3%の所有権を目標としているという。それと比較して、同じ運用資産を持つプレシードステージのCleo Capital(クレオ・キャピタル)は、ラウンドのリードと15〜20%の所有権を目標としている。

長期的にどのステージでプレーするかの柔軟性を持たせるため、同氏はラウンドをリードするのではなく、低い所有権を積極的に狙うという選択をしたという。

ミームとバナナの関係性

ノヴァック氏はBanana Capitalをインターネットファーストのファンドと表現している。この言葉はしばしばバズワードになるが、地理的なものではなくインターネットによって構築されたネットワークがどのようなものなのか、同氏の実績を見ればその信憑性は疑う余地もない。

ノヴァック氏のあり方は、同氏のミームに最もよく表れている。同氏は2020年6月にシリコンバレーを揺るがした「Eye Mouth Eye」キャンペーンに参加し、投資家の注目を集めるのはFOMO(取り残されることへの恐れ)と誇大広告であることをミーム文化を使って説明した。同氏はTwitterやTikTokでテクノロジーに関するミームを投稿し続けているひと握りの投資家の1人であり、オーディオソーシャルアプリClubhouse(クラブハウス)とその資金調達者に関するシリーズを繰り返し投稿している。スタートアップがVCに売り込む様子を撮影した模擬動画はTwitterで18万6200回以上再生され話題となり、TikTokでも何度か再生されている。

単なるスパイスのような役割を果たしているツイートもあるが、ミームはこの新進ファンドマネージャーにとってある種の戦略となっている。例えば、同氏の模擬ピッチ動画がきっかけで、ある企業への投資が実現したことがある。ツイート後に創業者から直接メッセージが届き、キャップテーブルの空き枠に招待されることも少なくない。この戦略はディールフローにおいての同氏の差別化の1つとなっている。Banana Capitalのポートフォリオには、Flexbase(フレックスベース)、Skillful(スキルフル)、Bottomless(ボトムレス)など11の投資先が存在する。

「インターネットの文化やミームを理解し、ウィットやユーモアを楽しみそれを評価してくれる人たちが自然と私の投資先になっています。こういった人たちはおそらく直感的な投資感覚を備え持っているタイプなので、確かにその方向に偏っているかもしれません」。

同氏は多様な創業者への投資に関する明確な目標や義務については話していないものの、Gelt VCでは資本の41%を女性のCEOに提供したという実績を挙げている。現在までにBanana Capitalのポートフォリオの創業チームの65%に非白人の創業者が含まれ、50%のチームに複数の性別が含まれている。

ノヴァック氏は当面、ミシガン州のアナーバーに住み続ける予定でいるが、成長著しいハイテクの中心地であるマイアミを無視できないでいるようだ。URLジョークはさておき、同氏の住所はいわばインターネットだと言えるのだろう。

「私のネットワークはサンフランシスコやニューヨークにあるわけではなく、単にインターネット上にいる人々なのです。それが私の人との出会い方です」。

同氏は自身の会社をBanana Capitalと呼ぶ理由を説明してくれた。第一に、バナナは世界で最も消費されている果物の1つであり、歴史の中で何度も改良され、生物工学的なプロセスを経てきているため、同氏の投資対象が消費者分野であることと繋がりがあるためだ。

第二の理由?同氏によるとそれは「果物のファンドなんて存在しないからです。私は人よりも少し真面目じゃないため、名前にそれが反映されているというわけです」。

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タグ:Banana Capital投資ファンドミーム

画像クレジット:Yulia Reznikov / Getty Images

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Dragonfly)