仮想通貨の巨人Binanceは法定通貨取り引きと非中央集権型取引所に未来を賭ける

Binanceは、1年前にどこからともなく現れたスタートアップだが、今や世界でもトップクラスの仮想通貨取引所になっている。それが、ビジネスを次の段階に推し進めようと、大きく動き始めた。これには、国際市場での法定通貨と仮想通貨の取り引き、そして同社の通貨取り引きサイトを補完する非中央集権型の取引所の開設といった計画が含まれている。

同社は、今の弱気な市場においてすら、毎日10億ドル以上の仮想通貨の取り引きを行っている。しかし今日まで、仮想通貨同士の取り引きしか許可されてこなかった。これは主に、法定通貨の交換サービスを認可する法的規制の問題に行く着くのだが、今はその転機を迎えている。

先週、シンガポールで開催されたCoindeskのイベントで、CEOの趙長鵬(ジャオ・チャンポン:CZ)は、世界中の市場に法定通貨の交換サービスが可能な取引所を大量に開設する計画を明らかにし、詳しい話をTechCrunchのインタビューで話してくれた。

「今のところ、私たちは中央集権型で仮想通貨同士の取り引きを行っています」と趙は話す。「法定通貨のゲートウェイは提供いていないので、そこは他社に依存しています。しかし、世界中の政治家と交渉したところ、法定通貨のチャンネルを持つことができました。法定通貨を、仮想通貨の世界へ簡単に持ち込めるようにしたいのです」

機関投資家による資金は確かに必要だ。Bloombergの分析によれば、仮想通貨の価格は1月の高値から55パーセントも下落した。そのため、Binanceのような主要プレイヤーは、この傾向を逆転させるために、大手による多額の資金援助が必要となる。不誠実な相場師が仮想通貨の世界から立ち去ることから、価格が下がることを歓迎する人も少なくないが、仮想通貨への関心の低下は、取り引きの促進によって利益を得ている人たちにとっては好ましくない。

趙は、今年中に3箇所の法定通貨取引所を開設し、2019年までに10箇所に増やす計画を口にしていた。「理想的には、ひとつの大陸に2箇所」とのことだ。この計画の目標のひとつには、大手の機関投資家が仮想通貨エコシステムに資金を投入しやすくすることがある。それによって、Binanceだけでなく、業界全体が潤う。

小売り業者と機関投資家との両方に対応したいと、彼は話す。「私たちは、ターゲットを小売り業者に絞ってきましたが、機関投資家が仮想通貨の世界に入ってくることを、とても楽しみにしています」

2018年7月、ツークで開催されたTechCrunchのブロックチェーン・イベントで話をするBinanceのCEO趙長鵬(写真:Daniel Vaiman/Explore To Create)

 

Binanceはすでにリヒテンシュタインで合弁事業を行っており、マルタで法定通貨を扱うこと、そしてシンガポールに取引所を準備していることを公表している。現在はまだ限定的なベータ版だが、シンガポールの取引所は、顧客確認、トレーディングフロー、スケーラビリティーといった分野の負荷テストを済ませた後、来月中には営業を開始するという。

Binanceが興味を示している他の市場について、彼はとくに言及していなかったが、いずれも仮想通貨の主要市場でありながら規制が厳しい中国、日本、アメリカは対象地域から除外すると明言している。中国は、少し前にICOと取引所を禁止した。アメリカは仮想通貨の解析を始めている。日本は、取引所で扱えるトークンの種類が制限されているなど、取引所の認可に関する規制が非常に厳格だ。

「日本では仮想通貨が発達していますが、取り引きに関する規制が厳しすぎます」と趙は言う。「そのため、取引所の開設がとても難しい」

実際、現地での営業を断念する前に東京にオフィスを構えていたことのあるBinanceが、日本で営業免許を取得しようとすれば、取り扱うトークンの種類を日本の規制に合わせて選び直さなければならない。だから、その判断は理にかなっている。いずれにせよ、趙にはまだ日本を再評価する気はなさそうだ。

Coinbaseはさらに多くの仮想通貨を準備しているようだ(本文は英語)

また趙は、中国のICOと取引所を禁止した決断を「評価する」と述べ、アメリカでは他社に重労働を丸投げできてハッピーだと話している。

「アメリカには興味がありますが、優先度は一番ではありません。他の人たちが私たちより先に入るでしょう」と彼はTechCrunchに語った。

ニューヨーク州司法長官Barbara Underwoodは報告書の中で、州の取引法に違反している可能性のある3つの取引所のうちのひとつとしてBinanceを挙げていることを考えれば、それは驚くに当たらない。これについて、趙はコメントを控えた。いずれにせよ、アメリカの法律の枠内で取引所を開設するためには、アメリカの規制の側にせよ、Binanceの側にせよ、変えなければならないことが山ほどある。

その代わりに、マルタやバーミューダのような仮想通貨に寛大な国に参入したBinanceは、提案中の取引所の開設に成功すれば、シンガポールにオフィスを構える予定だという。

法定通貨の他に、同社は、売り手と買い手が仲介者を通さずに直接取り引きできる非中央集権型取引所(DEX)の開設も目指している。

著名な人たちは、中央集権型取引所を非難してきた。イーサリアムの開発者Vitalik Buterinは、資金管理、資産選択、価格など、中央集権型取引所の多くのものを「地獄で燃やしてしまえ」とまで言い放っている。Binanceは、それが同社の市場ポジションであるという単純な理由から、独自のDEXを持つ他の企業と同程度に進歩しているようなので、他者を追随させることができるだろう。

BinanceのDEXは、今日行われている取り引きの流れを劇変させるだろうが、(趙がCoindeskに語ったところによれば、過去6カ月で3億5000万ドル(約395億円)の利益を出した)Binance自身は、それでも利益を上げることができる。なぜなら、そのDEXはBinance自身のブロックチェーン上で、同社のノードを大量に使って運用されるからだ。ノードが取り引きに使われれば、ネットワーク使用料が入ると趙は話している。

同時に、DEXの利用量が増えればBinanceのBNBトークンの価値も上がり、利益が得られると趙は主張している。

先日、Binanceは、DEXの本当に初期型のデモを公開したが(ネタバレになるが、大したものではなかった)、完全版のサービスが今年の年末か、遅くとも2019年の初めには使えるようになると趙は話している。現在はBinanceのCEOである趙だが、Bloombergに先物取引用のソフトウエアを開発していた経験もあり、プロジェクトの開発も指揮している。

「開発は順調です」と彼は言う。「私たちのDEXは非常にシンプルですが、高速です」

 

取引所のビジネス以外にも、Binanceは仮想通貨業界全体を成長させる事業にも取り組もうとしている。今年の初め、同社によると10億ドル(約1130億ドル)相当の投資ファンドの設立を発表した。企業と、新しい仮想通貨投資ファンドに直接投資するという。また、世界中でアーリーステージのアクセラレーター・プログラムを実施するという意欲的な計画もある。仮想通貨エコシステムを支援して、新しいビジネスの開発を助けることが狙いだ。

両方のプロジェクトを管理するBinance Labs部門の責任者Ella Zhangは、先月、ブロックチェーンと仮想通貨の実際の使用事例は、Binanceがビジネスとして「成功」するために欠かせないと、TechCrunchに率直に語っていた。

注:著者は少額の仮想通貨を保有している。理解を深めるためには十分だが、人生を変えるほどの額ではない。

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(翻訳:金井哲夫)