【編集部注】著者のJoanna GlasnerはCrunchBaseの記者である。
最近多くのスタートアップたちが、私たちを眠らせる方法を探っている。これに反応して投資家たちは、勢い込んで高額小切手を書き込んでいる。
これを「大いなる眠り」(Big Sleep)と呼ぼう。何十年も、私たちから眠りを奪うテクノロジー(ストリーミングビデオ、ゲーム、ソーシャルネットワーク、24時間365日のショッピングなど)に投資を続けて来た果に、ベンチャーキャピタル業界は、私たちの目を閉じさせる手助けをすることに、相当量の資金を投入する方向へ舵を切ることを決めた。
そうでなければ、睡眠に焦点を当てたアプリや、セラピー、そしてモニタリングデバイスなどの膨大な数のベンチャーが生まれている理由を説明できないのではないだろうか?少なくとも2社がユニコーンの地位に達することが確実視されている、とてもホットなマットレス業界の例もある。
睡眠を巡る数字
Crunchbaseの資金調達データの分析によれば、睡眠に注力する企業たちがここ数年のうちに調達した資金は累計で7億ドルに上っている。昨年1年間だけでも、3億ドル近くの金額が調達されている(資金調達を行った睡眠スタートアップのリストはこちら)。
これは相当大きな数字だが、記録的なものかどうかは分かりにくい。睡眠は独立した投資カテゴリではないため、最近の資金調達アクティビティを他の期間と比較することは難しい。なにしろ「大いなる眠り」スタートアップのリストには、モバイルアプリ、製薬、医療機器、メディア、消費者向け製品などの様々な分野の企業が含まれているのだ。そして睡眠専門ファンドや、連続睡眠起業家たち(serial sleep entrepreneurs)は存在していない。
にも関わらず、最近は睡眠分野の企業に向けられた、とても大きな資金調達ラウンドが存在している。消費者向けプロダクトの分野での、最大の資金調達企業は、快適なマットレスを作りオンラインで売るCasperだ。この創立4年のニューヨークの会社は、後期ステージラウンドの投資をTargetから受ける決定をする前には、10億ドルでTargetに売却されるのではと囁かれていた。Casperはこのときのラウンドで約7000万ドルを調達している。(他のマットレスのスタートアップはここを参照)。
消費者は睡眠測定装置に興味を持っている
一方消費者向けデバイス側には、Sense睡眠追跡システムを開発したHelloがいて、これまでに4100万ドルを調達している。それは定量的睡眠と呼ぶことができる分野の会社の1つだ。定量的睡眠とはデバイスとアプリによって睡眠サイクルを詳細に分析し、より安らかな夜を過ごすための助言を与えてくれるものだ。
消費者向けのスタートアップにも注目が向きつつはあるものの、睡眠関連ベンチャーへの投資の大部分を獲得しているのはライフサイエンスや医療デバイス企業である。Crunchbaseのデータセット内で見つかる最も多額の資金調達を行った睡眠重視の非公開企業は、Inspire Medical Systemsだ。閉塞性睡眠時無呼吸症の治療のための埋め込みデバイスを開発している。このミネソタ州の企業は、ベンチャーファンドから1億1000万ドル以上を調達した。そこには11月に調達した3800万ドルも含まれている。その他のトップ資金調達企業には、不眠症治療デバイスのEbb Therapeutics(旧Cereve)、そして処方箋に基づく家庭用睡眠試験のプロバイダであるNovasomが含まれる。
もちろん投資家たちは、人々をリラックスさせるための暖かくてふんわりとした気持ちから、これらの企業を支援しているわけではない。利益を得ることが目的だ。
睡眠中心スタートアップへの投資は、世の中の睡眠不足の増加とその害に関する意識の高まりに伴ってやって来た。昨年、疾病対策予防センター(CDC)は、アメリカの成人の3分の1以上が普段十分な睡眠を取っていないとの調査結果を発表した。CDCは、睡眠が1日7時間未満であると、肥満、糖尿病、高血圧、心臓病、脳卒中、そして精神的苦痛のリスクが高まると付け加えている。
テクノロジーで休息を支援し、疲労に対処する
睡眠不足もまた大きな差し迫った問題だ。ワーカホリックの習慣が賞賛されるシリコンバレーでさえ、ほとんどの熱心な技術者たちは、睡眠不足が燃え尽きや判断ミスに繋がりかねないことは認めるだろう。この問題に対処するために、何かをしている者もいる。
インターネット起業家たちが、スタートアップで働くことで引き起こされる燃え尽き症候群に対する解決策を提案するのは、自己矛盾のように思えるかもしれない。しかし、より多くの連続起業家たちが、「安らぎの流行」に次々と飛び乗っているのは事実なのだ。著名なメディア起業家であるArianna Huffingtonが、昨年Thrive Globalの立ち上げによりこの分野へ参入したことは、広く報じられた。700万ドルの資金を調達したこのメディアプラットフォームが自ら掲げる使命は、「ストレスと燃え尽きの流行を終わらせる」といういうものだ。(このThriveに至る遥か昔、Huffingtonは技術者のために昼寝室を用意することを主張していた)。
Thriveに数年先行しているのがHeadspaceだ。4000万ドル近くを調達した瞑想と気付きのアプリだ。過去数年の間に資本調達を行った、いくつかの瞑想中心の スタートアップの1つだ。
もちろん投資家たちは、人々をリラックスさせるための暖かくてふんわりとした気持ちから、これらの企業を支援しているわけではない。利益を得ることが目的だ。彼らのほとんどはまだ利益を得ていないが、得ることができた者もいる。
長年トレンディなものを作り続けてきたAppleは、まさに今月、Bedditの買収によって睡眠分野へ進出した。Bedditは有名な睡眠追跡アプリとそれに接続されるデバイスのメーカーだ。買収価格は明らかにされていないが、Bedditがこれまでに調達した資金が400万ドル未満であり、Appleが670億ドルの現金をバランスシートに載せていることを考えると、この売却は、投資家たちにとって好ましいものだったと言っても間違いではないだろう。
マットレス事業に関しては、噂されたTargetによるCasperへのアプローチは、大口の買収者たちが新参者たちに価値を見出していることを示しているようだ。ユタ州を拠点とするマットレススタートアップPurpleは、年間セールスが1億5000万ドルを超えるまでに成長したと言われている。しかもベンチャー資金は受けていない。
しかし、最大の投資およびエグジットは、深刻な睡眠障害の治療を目指す企業に向けられることが多い。最近の市場予測によれば、不眠症のセラピーならびに治療薬の市場は、米国内だけで2021年までに42億ドルに達すると言われている。ちなみに昨年は34億ドルだった。
消費者向けのアプリやガジェットは、登場しては交代していくだろうが、本当に良い夜の睡眠を与えてくれる手助けをするセラピーやプロダクトには、継続的な需要があるだろう。
*この記事の原題は “Chasing dreams may be the next sleeper hit for venture capitalists” というものだが、sleeper という単語には「眠る人」という意味の他に「将来ヒットする」「時が来るまで正体を隠している」という意味もある。ということで、翻訳では「眠れる獅子(本来の実力を発揮していない)」という訳語をあてた。
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(翻訳:Sako)