第一生命が欧州スタートアップとイノベーションを模索、その具体的な内容とは?

Dai-ichi Life International (Europe) Limited でHead of London Innovation Labを務める伊豆淳氏

少子高齢化が止まらない日本。あらゆる業界で国内マーケット縮小への対策が迫られている。生命保険事業を営む第一生命は2017年にイノベーション専門組織を設置、2018年に東京とシリコンバレーにラボ組織を設置するなど、テクノロジーの活用とグローバルなパートナーシップ構築に注力している。同社の取り組みをDai-ichi Life International (Europe) Limited でHead of London Innovation Labを務める伊豆淳氏、同London Innovation LabでInnovation Managerを努める米本兼也氏が語った。

本記事は、イントラリンク主催「第一生命がヨーロッパに目を向ける理由 〜現地スタッフが語る欧州スタートアップエコシステムの特徴とポテンシャル〜」のセッション内容を編集・再構成したものとなる。

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欧州という保険市場

伊豆氏によると、現在、保険業界はGDPの成長鈍化や人口減少などの外部環境踏まえて課題に対応すべき状況にあるという。また、スマートフォンユーザーが増え続けており、こうしたトレンドも取り込んでいく必要があるという。

「欧州と日本は似たような人口構成を持っていて、社会環境も類似しています。高齢化や、それにともなう医療費負担の増加など、日本と同じような課題を持っています」と伊豆氏。

ここで日本と世界の保険市場を見てみると、実は日本が米国、英国に次ぐ3番目の市場規模を持つ保険大国であることがわかる。しかし、欧州を1つの市場とみなすと、その市場規模は日本よりも大きい。

伊豆氏は「統計の取り方にはいろいろあり、こちらの統計では中国が含まれていないのですが、仮に中国が入ってきても日本が上位に入ってくることに変わりはありません」と補足する。

いずれにしても、欧州という市場は大きい。欧州の保険事業プレイヤーを見ても、ドイツのアリアンツ、フランスのアクサ、イギリスのアビバ、イタリアのゼネラリなど、大規模でグローバルな企業が目に入る。

欧州インシュアテック動向

こうした大規模保険事業プレイヤーはイノベーションにも注力している。

伊豆氏は「彼らはGAFAMと連携し、ラボを設立し、インキュベーター、アクセラレーターを立ち上げるなど、活発な活動を見せています」という。

大手はこのような動きを見せているが、スタートアップはどうだろうか。

伊豆氏は「欧州のインシュアテック企業は豊かな状況にあります」と話す。

欧州のインシュアテック企業の評価額は230億ユーロ(約3兆円)となっている。また、欧州インシュアテックへの投資額は右肩上がりで、2021年には42億ユーロ(約5409億円)の投資が見込まれる。一方の日本は、インシュアテックだけでないスタートアップ全般への投資額(2020年)が37億ユーロ(約4765億円)だ。インシュアテックに限定するとこれよりも投資額が低いことがわかる。

では、インシュアテックに関わるスタートアップと既存の保険会社は競合するのだろうか。

伊豆氏は「保険会社は保険の製造、販売、管理と、保険に関わるすべての機能を持っています。インシュアテックスタートアップでこうした『全機能』を備えているところは多くありません。彼らはむしろ、従業員の福利厚生、健康サポートや請求管理、自営業、中小企業向け保険など、保険会社のパーツの機能に特化して優位性を発揮しようとしています」と考えている。

最新欧州インシュアテック事例

こうした動向を受けて、保険の提供方法にも変化が訪れている。

例えば、パラメトリック保険。この形の保険では、気温、雨、風速などの潜在的な損失に関連するパラメータを契約書に明記し、保険会社が天気などのデータを監視し、データが損失発生の閾値に達したら自動的に保険が支払われる。

組み込み型保険というものもある。これは、例えばスキーを楽しみたい顧客が、スキー場のチケットをオンラインで購入する際、追加の保険の注文の有無をオンライン決済の中で顧客に確認することで、保険をプッシュするものだ。

また、AIの活用も見逃せない。自動請求サポート、カスタマーサポートのためのチャットボット、掛け金のダイナミック・プライシングなどを行うためのデータ分析、写真による請求処理など、保険のさまざまなプロセスの中でAIの活用が進んでいる。

その他にも、ブロックチェーンの活用や、テレメディシン(遠隔医療)など、インシュアテック企業のテクノロジー活用は枚挙にいとまがない。

伊豆氏は「当社は欧州で有望なスタートアップとのイノベーションを模索していますが、こういった状況で欧州のエコシステムにいきなり入るということは現実的ではありません。当社は現地のアクセラレーターにアプローチしたり、業界団体に参加したり、欧州のスタートアップと繋がりのあるコンサルティング企業のサポートを得たり、欧州スタートアップに投資するなどして、徐々にエコシステムに入るようにしています」と語る。

第一生命が欧州スタートアップとパートナーシップを構築する方法

米本氏は、保険事業で海外展開する難しさを指摘する。

Dai-ichi Life International (Europe) Limited London Innovation LabでInnovation Managerを務める米本兼也氏

「国が変われば商習慣が変わります。ですが、保険の場合、国の福利厚生とも関わるサービスですので、ある国で展開したサービスを他の国でそのまま横展開することができません。同じことは技術でも言えます。欧州で良い技術を持つスタートアップを見つけても、その技術が日本でそのまま活用できるかは別問題です。欧州のスタートアップを日本に紹介するときには、その技術が日本でどう役立つのか、勝ち筋を見据えてから紹介するようにしています。また、技術をサービスに反映するときにはできるだけスモールスタートして、撤退する必要が出てきたらすぐ撤退できるようにしておくことも大事です」と米本氏。

また同氏は欧州でコラボレーションするスタートアップを見つけ出し、日本の第一生命につなげる役割を果たしているが「ビジネス部門への気遣い」の重要性も訴える。

「私のいるイノベーション部門だけではイノベーションはできません。イノベーションを起こすためには、現業を持つビジネス部門の力が不可欠です。ですが、彼らには、今、この瞬間走らせているビジネスがあります。そのため、彼らに大きな負担をかけることは避けながら、新しい技術を導入することで得られる効果をアピールし、興味を持ってもらうように努めています」と米本氏は語る。

また、同氏は海外スタートアップとの連携で不可欠な英語に関しても言及した。

米本氏によると「問い合わせなどのコミュニケーションが英語だ」というところで日本側が構えてしまうこともあるという。

米本氏は「そういうときには、英語の翻訳や資料作りなども対応してくれるコンサルティング会社さんにプロジェクトの初期から入ってもらうなどして、日本側の負担や心の壁を小さくしていく工夫が必要ですね」と締めくくった。

メンタルセルフケア・アプリ「emol」と第一生命グループが協業、ミレニアル世代向け保険商品を提供開始

メンタルセルフケア・アプリ「emol」と第一生命グループが協業、ミレニアル世代向け保険商品を提供開始

AIチャットを介したメンタルセルフケア・アプリ「emol」(エモル。iOS版。Android版は秋予定)を提供するemolは7月19日、アプリ上で第一生命保険および第一スマート少額短期保険(第一生命グループ)との協業開始を発表した。emolのアプリ上で、第一生命グループによるミレニアル世代向け保険の提供を開始する。

emolは、2020年9月から11月にかけて、第一生命と共同で、AIがユーザーの悩みに合わせて適切な保険商品をレコメンドするというDX実証実験を行ってきた。emolアプリ上で、AIとユーザーとの会話の中に保険に関する話題が出たときに、AIがヒヤリングを行い、適切な保険商品をレコメンドし、ユーザーに第一生命のウェブサイトへ誘導するという内容という。そこでユーザーが第一生命のウェブサイトへのリンクを実際にクリックした割合(クリック率。CTR)を測定したところ、TwitterやFacebookなどSNS広告のCTRを圧倒的に上回ったそうだ。

今回の協業では、emolアプリ上でユーザーがチャットでAIに悩みを話した際に、保険に関連する話題に合わせレコメンドする機能を採用。またemolアプリ上にAIが保険の診断を行う保険の窓口を設置し、いつでも対象の保険についてAIに質問できる場を提供する(emol保険の窓口は後日発表予定)。

第一生命グループは、スマホで契約ができるミレニアル世代向け新ブランド「デジホ」の保険商品として、「所得保障保険」(emolお仕事ほけん)、「コロナminiサポほけん」(emolコロナほけん)を展開する。

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カテゴリー:ヘルステック
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