美容クリニックにテックスタートアップの方法論を持ち込むSISU、施術価格の透明化やオンライン即時評価などを提供

最近では多くの人が、肌のたるみやシワの補正するためにボトックスやフィラー(注入)治療を顔に受けるようになっている。新型コロナウイルスの感染蔓延でその傾向はさらに強まったかもしれない。ベンチャーキャピタルがこの分野に目を向けるのも不思議ではない。小規模で散在していた眼鏡店の市場がWarby Parker(ワービー・パーカー)のようなスタートアップによって壊滅的な打撃を受けたのと同じように、裏通りの美容クリニックの非常に変化に富んだ経験がいま投資のターゲットになりつつある。

SISUは、この比較的未開拓の世界にテックスタートアップの方法論を持ち込んだ美容クリニックのチェーンだ。同社は現在、GreycroftとBullpen Capitalが率いるシリーズAラウンドで550万ドル(約58億円)を調達している。このラウンドには、PCHの創設者兼CEOであるLiam Casey(リアム・ケイシー)氏、Voxproの共同創設者であるDan & Linda Kiely(ダン&リンダ・キーリー)氏などのエンジェル投資家とともに、Mana VenturesとGaingels Syndicateも参加した。

今回調達した資金は、米国の美容クリニック市場に参入し、唇、あご、目の下、頬、眉などの「顔の特徴」の施術価格を標準化するために使用される。また、シワ除去注射、真皮や顔のフィラー(ヒアルロン酸などの注入)、レーザー、歯のホワイトニングなどの治療も提供する予定だ。いうなれば、Face as a Services(サービスとしての顔)、FaaS事業を展開している。

SISUによると、ボトックスの利用者は単位ごとに課金されるが、多くの場合は結果に関係なく最大本数が販売されることが多いという。SISUは、患者の希望価格を設定するだけで、ウェブサイトには「オンラインでの即時評価」と「デジタル予約」の機能を用意する。

同社は米国でeコマースプラットフォームを立ち上げ、東海岸では20施設の美容クリニックの開設を計画している。アイルランドではすでに8つのクリニックを展開済みだ。

創業者自らが「美容治療のためのOne Medical」と呼ぶSISUは、Dr. James Cotter(ジェームズ・コッター博士)、Dr. Brian Cotter(ブライアン・コッター博士)、アイルランドの起業家であるPat Phelan(パット・フェラン)氏によって率いられており、以前は通信市場で名を馳せていた。フェラン氏は、米国の消費者信用調査会社のTransUnionに2015年に4400万ドル(約46億4200万円)で売却したオンライン本人確認技術を擁するTrustevと、2012年に売却したモバイル接続管理技術をCubic Telecomの両方を設立した人物だ。

彼らは大きな市場に参入している。一部の推計によると「美容医療」市場は2023年までに145億ドル(1兆5300億円)に達すると予測されている。

画像クレジット:Blackrock Clinic

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(翻訳:TechCrunch Japan)

コンプレックスを武器に、美容医療アプリ「トリビュー」はどのようにして生まれたのか

国内の美容医療市場は右肩上がりだ。2009年の売上規模は2482億円、2014年では2833億円、2017年は2014年と比べると114.8%の3252億円に成長している。

美容脱毛サロンのミュゼプラチナムが実施した調査によると、美容医療を受けた8割の人がその事実を「隠さない」と回答。ひと昔前まで、美容医療は人知れずコソコソやるイメージが強かったが、今や“プチ整形は当たり前”の時代になりつつある。

2017年、国内で美容医療に関する情報収集がクリニックのHPやSNS上などに限られていたとき、いち早く口コミ・予約アプリ「TRIBEAU」(トリビュー)をローンチさせたのがトリビュー。代表の毛迪(モウ・デイ)氏自身も美容医療を何度か受けており、「ユーザーとして自分も使いたいアプリがほしい」という思いでサービスを開発した。アプリ立ち上げまでの道のりやコロナ禍におけるサービスの展望について話を聞いた。

毛迪(モウ・デイ)
中国生まれで5歳から日本育ち。 立教大学卒業後、2014年にリクルートへ入社。ゼクシィに配属され、国内大手企業を担当する。2016年に退職し、2016年にVCのアーキタイプへ入社。大企業向け新規事業立案や出資先の支援など行う。2017年にトリビューを設立。

ブライダル事業に興味を持てなかったリクルート時代

若いうちに仕事を任される環境で身におきたいと思いから、新卒でリクルートへ入社。ゼクシィに配属され、大手企業の広告戦略立案や広告制作ディレクションなどを任されていたが、ブライダル業界には興味を持てなかったという。

「ビジネスパーソンとしてのスキルは身に付く環境でしたが、肝心のサービスに対してはまったく熱量を持てず。部署異動も検討したのですが、リクルートの他事業で興味のある領域もなかったため、ほどなくして起業を考えるようになりました。

心から夢中になれて自分の価値を世の中に提供できる分野はなんだろう、と考えてたどり着いたのが『美容医療』でした」。

10代の頃から美容クリニックに通っていたというデイ氏。「施術を受けて見た目のコンプレックスが解消されると明るい気持ちになれます。見た目で悩んでいる人が前向きになれる選択肢の一つに美容医療がある世界を作りたいと思い、この分野での起業を決意しました」。

VCで働いて学びながら1年かけて起業準備

リクルートを退職し、起業するためのサービス案を考えるがなかなか納得いくプランが立てられない中、たまたま出会ったアーキタイプの中嶋さんから「うちで働いて勉強しながら起業準備をしないか」と提案が。

「当時、事業の進め方も知らなければ、スタートアップ業界の知り合いもほとんどいない状況。起業するは願ってもない環境だと思い、2つ返事でお世話になることにしました」。

2016年にアーキタイプへジョインし、1年間ほど大企業向けた新規事業立案や出資先の支援などを担当。アーキタイプでの経験はのちの企業や資金調達に大きく役立ったという。

「大手企業で社内ビジコンの事務局をするプロジェクトに参加したり、米国のスタートアップ企業で資金調達したところをレポートにまとめたりなど、今まで経験したことのない業務を任せてもらい大変勉強になりました。また、投資先のミーティングに参加させてもらったときは、実際にどのようなトラブルが発生するかなどケーススタディも知ることができました」。

日中はVC業務を行い、それ以外の時間は事業計画やサービス開発、資金調達などに充てた。最も苦労したのはエンジニア探しだったという。アプリ開発を依頼できるエンジニアを見つけるため、yentaやFacebookを使い100人以上にアプローチをした。

「プロダクトのない状態で会ってくれるエンジニアは本当に少ない。だから気になる人には片っぱしからメッセージを送りました。結果、yenta経由と友達の紹介でエンジニア2名が集まり、開発に半年ほどかけてローンチすることができました」。

初期ユーザーはTwitterのDMで獲得、1日100通送った

アーキタイプをめでたく「卒業」し、2017年7月に起業。同年10月にサービスをリリースした。最初の課題はユーザーの獲得。まずは整形垢(SNSで美容医療についての情報を発信するアカウント)として有名な人をリストアップし、毎日100人に「こういうサービスを作ったのでよかったら使ってください」とDMを送付した。はじめの返信率は5〜10%ほど。

「インターンの学生に作業をお願いして週次で進捗報告会を行いました。どういう文言だと返信率が高いのか、どういうアカウントだと拡散力があるのかなどのPDCAを回していました。この作業を1年ほど続けていたら、『もう使っています』という返信をいただくことが増えてきて。サービスが浸透してきていることを肌で実感できたため、この施策は終了しました」。

サービス開始から2年半。ユーザー座談会や謝礼キャンペーン、YouTubeチャンネルの開設などを経て、ダウンロード数は30万件を突破している。

今はオンライン診療で情報収集をする時期

新型コロナウイルスの感染拡大により、美容クリニックが休業したり渡韓での施術が中止になったりと美容医療業界も大きな影響を受けている。そこでトリビューは4月15日に自宅に居ながらオンラインで相談できる「TRIBEAUホームカウンセリング」機能をスタート。アプリ上のチャット機能から、美容クリニックにカウンセリングや施術の見積もりを無料で受けられる。

「外出自粛を要請されているいま、情報収集に時間をかけることをお勧めしています。TRIBEAUホームカウンセリングはリリース初日から数十人の利用があり、中には『美容医療に興味はあるけれど病院へ行く勇気がない』という人が病院予約へのワンクッションとして活用するパターンもありました。

口コミとあわせてオンライン相談も利用していただき、自分に合ったクリニックやドクターと出あう機会を増やしていけたらと思います」