生きた細胞を使った血管組織のプリントに成功したことで、3Dプリント組織の開発が加速され、最終的には、わずかな細胞のサンプルから臓器が作れる可能性が見えてきた。
先月末、Prellis Biologicsは、870万ドル(約9億1800万円)の資金調達と、3Dプリントによる臓器の製造に向けた複数の目覚ましい進展を発表した。数多くの大学の研究をベースにしたこの取り組みを、同社は「ボリュメトリック・バイオ」と呼んでいるが、今年の初めには独自の大きな進歩を公表している。
Prellisの新たな成功は、血管組織構造体を研究機関に販売する商用化までのタイムラインをスピードアップさせるものだ。そしてそれは、血管付きの植皮、インシュリンを生成する細胞、人工透析を必要とする患者本人の組織から作った血管シャントへの展望も開けたと、Prellisの共同創設者でCEOのメラニー・マシュー(Melanie Matheu)氏はインタビューの中で話していた。
患者本人の細胞から作る血管シャントは、その方法を成功に導く可能性を高めるとマシューは言う。「そのシャントが失敗すれば、選択肢の幅が限定されてしまいます。胸にポートを付けるしかありません」。Prellisが提案する治療法は、人々の生活の質を高め腎臓移植を待つ人たちの時間を延長できるとマシューは話す。
数カ月前、ライス大学のJordan Miller(ジョーダン・ミラー)氏とワシントン大学のKelly Stevens(ケリー・スティーブンス)氏の2人のバイオエンジニアは、ワシントン大学、ローワン大学、デザイン会社のNevbous Systemの協力を得て、人の肺の機能を模倣する気嚢のモデルを公開した。このモデルは、周囲の血管に酸素を送ることができ、人体に備わってる身体経路を模倣する血管ネットワークを構築できる。
「置換が可能な、実際に機能する組織を作る上での最大の障害は、密集した組織に栄養素を届ける複雑な血管をプリントする技術がないことでした」と、ライス大学のBrown工学研究科准教授のミラーは、声明の中で述べていた。「さらに、私たちの臓器には、実際に独立した血管ネットワークが存在します。肺の気道と血管、肝臓の胆管と血管などがそうです。こうした組織に深く入り込んだネットワークは、物理的にも生化学的にも絡み合い、その構造自体が組織の機能と密接に関わり合っています。我々のモデルは、直接的な完全な方法で多血管化に挑戦できる初のバイオプリント技術です」。
ミラーは、ボリュメトリック・バイオと呼ばれる研究の商用化を目的としたスタートアップを立ち上げた。研究者たちは、オープンソースのライセンスで発見結果を自由に利用できるが、バイオプリンターや素材、試薬などを販売することでこの技術の商用化も目指している。
ミラーのチームが開発している技術は、液体の特定の部分だけが硬化し、残りの部分は流してしまえるよう、光に反応する光反応化学物質を使用している。問題は、こうした化学物質は多くが発がん性であることだ。そこでミラーたちは、伝統的な光反応化学物質に代わるものを、意外なところで発見した。スーパーマーケットだ。
彼らは食品用の着色料が使えると推測し、ミラーはスーパーマーケットへ出かけ、クッキーなどによく使われる着色料を購入したと、Scientific Americanの記事に書かれていた。
「私たちは喜んで奇声を上げました。そのアイデアが気絶するほどシンプルだったからです。それはすぐさま、劇的に複雑な構造体の製作を可能にしてくれました」と彼は記事の中で述べている。
Prellisは、独自の大きな一歩を踏み出した。今回の発見とともに同社は、同社製の血管の足場(スキャッフォールド)を使って、実験動物への腫瘍の移植に成功したことを発表した。この試験がターゲットとする市場は、新しい治療法の効果を人の治験の前に動物実験で実証する創薬だ。
生きた細胞とヒドロゲルを組み合わせたプリントによる構造体は、動物の細胞増殖の足場(スキャッフォールド)を提供するように作られている。スタンフォード大学と共同で進めてきた研究で、Prellisは、わずか20万個の細胞を使って、動物に完全に腫瘍を移植できるようになった。同社によると、通常の腫瘍移植で必要になる細胞の数よりもずっと少ないとのことだ。
同社はこうも強調している。8週間で、彼らは透明な構造体の中に最大50ミクロンの分岐した血管を発見したのだが、これは、その動物の血管系が、その循環器系にスキャッフォールドを受け入れたことを意味するという。
Prellisは実際に、彼らの3Dプリント生物学の研究結果である血管のスキャッフォールドを、研究者向けに製作して販売すると宣伝している。カリフォルニア大学サンフランシスコ校、ジョンズ・ホプキンズ大学、カリフォルニア大学アーバイン校、Memorial Sloan Ketteringがんセンターを含む大学や製薬会社では、標準化された組織の構造体を使った試験方法を研究している(治験には重要なものだ)。
創薬への応用だけでも数十億ドル単位の市場になると、マシューは言う。しかし、同社が最終的に目指しているのは、完全に移植可能な3Dプリントによる臓器だ。まずは腎臓から始める。今年末までには、大型動物を使った移植実験を予定している。
「これまでも今後も一環して私の目標は、人のドナーから臓器を調達した場合とコストを同等にすることです」とマシューは言う。
マシューは、より多くの仕事を熟す必要がある将来を見越して、薬物療法と臓器開発に適した細胞が入手できるサプライチェーンを目指している。
そのため現在の新製品のロードマップは、血管のスキャッフォールドに始まり、血管付きの植皮、インシュリンを生成できる細胞、そして人工透析患者のための血管のシャントへと連続している。
「再生医療は、この数十年感で大きく進歩してきました。しかし、完全な臓器を作るためには、血管系のような、もっと高次元の構造体を構築する必要があります」と、Khosla Venturesの社長アレックス・モーガン博士(Alex Morgan)は声明の中で述べている。「Prellisの光学技術は、そのような大きな組織の塊に必要なスキャッフォールドを提供してくれます。今回の投資で私たちは、最終的には実際に機能する肺葉や、さらには腎臓の生産への取り組みを支援しています。それは、世界中の膨大な需要に応えるものです」
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(翻訳:金井哲夫)