転換社債は今やアーリーステージのスタートアップに限られる資金調達方法ではなくなった。転換社債は借用証書の一種であり、企業が所定の金額を借り入れたこと、その負債は期日、株価などある条件で株式に転換可能であることを示す。最近、ベンチャーキャピタルから多額の投資を受けた会社が追加の資金を転換社債で調達することが増えている。
以前はスタートアップが転換社債を発行するのは創業者が会社表額を決定できないときに採用されることが多かった。まだ十分なユーザーを得ていないスタートアップがベンチャーキャピタルに対して投資と引き換えに固定したパーセンテージの株式を与えるなら、会社の持ち分の大きな部分を不当に低い金額で売却することになる可能性がある。こうした場合に適切な会社評価額を決定するまでの時間を稼ぐくために転換社債による資金借り入れが行われることがあった。
しかしこの数カ月、成長が後期の段階に達しているスタートアップが転換社債による借り入れを行う例が増えている。Wall Street Journalによれば米国の電子タバコのメーカーであるJuulが転換社債による7億ドルの借り入れを行っている。SEC(証券取引委員会)への申請書によれば、 創立9年目になるニューヨークのクリエーター向けオフィス賃貸のNeueHouseは1500万ドルの転換社債の発行を準備中だ。暗号通貨取引所のLedgerXは380万ドルをこうした借り入れによって調達したところだ。
なぜ創立後時間を経た企業が転換社債発行を好むようになったのだろうか?ごく簡単にいえば、スタートアップはいわゆる「ダウン・ラウンド」を避けようとするからだ。ダウン・ラウンドというのは前回のラウンドよりも会社評価額が下がることで、スタートアップのイメージを低下させる。
ベンチャーキャピタリストもダウン・ラウンドを嫌う。これはファンドの出資者向けの財務報告に会社評価額の減価として明記しなければならないからだ。市場はスタートアップの成長が減速していることを知るし、なによりベンチャーキャピタリストが前回のラウンドでスタートアップを買いかぶっていたと自認することになる。
転換社債はこうした傷の応急処置に便利なバンドエイドだ。スタートアップはプロダクトを修正・改良して再度成長を軌道に乗せる余裕ができる。また会社の売却先を探したり、場合によっては現在のプロダクトに見切りをつけて事業をピボットさせることもできる。
外から見たかぎり、波乱の電子タバコ業界にいるJuulには事業見直しの時間が必要と思われる。電子タバコに対する規制は急激に強まっており、カリフォルニア州のモデスト学校区、ペンシルバニア州のバックス郡など、学校区や自治体からの訴訟も多発している。資金調達もそれだけ困難さを増している。
Juulは一時は成長確実な投資先とみられ、フィリップ・モリス、クラフト、ナビスコなどの著名ブランドを持つAltriaが株式の35%を128億ドルで買ったほどだった。しかし現在は同社は予断を許さない状況に置かれている。今年1月30日にAltriaはJuulの会社評価額を120億ドルと修正し、持株の価値を41億ドルと68%減価した。
Wall Street Journalの報道によれば、7億ドルが株式に転換されるのは次回のラウンドでJuulが100億ドルから250億ドルの会社評価額を得たときに限られる。つまり100億ドル未満、あるいは250億ドルを超えた場合、7億ドルは負債のまま据え置かれる。
会社評価額が低かった場合、投資家は株式より債券を好むことはわかりやすいが高かったときも転換が行われない理由は、新しい投資家が不当に高い評価額で投資を行うことにより既存投資家の持株が希薄化されないようにするためだという。万事うまく運べば、既存の投資家は次回新しい投資家が得るよりも良い条件で株式を得ることができるわけだ。
一般論としては転換社債の発行は会社にとって良いサインだ。もし破綻確実ならどんな名目であろうと新たに資金を調達できるわけがない。しかしJuulは2018年には「市場で最も有望な企業」と見られていたのだから現在の状況はかなり深刻だ。
転換社債で資金を調達したことは、将来の見通しが不透明で株式でベンチャー資金を調達することが困難であることを意味する。株式の売却でラウンドを実施するためにはスタートアップ側は売上高、キャッシュフローなどの財務指標が予め定められた目標に達し、また所定の手元現金を保有していることも求められる。
画像:JUSTIN TALLIS/AFP / Getty Images
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