戸建て住宅の向けの家庭用スマート配電盤を開発・販売するSpan(スパン)が、2月中旬に1010万ドル(約10億800万円)の資金調達ラウンドをクローズした。同社は、テスラで製品担当役員を務めていたArch Rao(アーチ・ラオ)氏が設立したスタートアップだ。
同社は、中国で起きていたことをすでに知っており、世の中が厳しくなるという感触を抱いていた。しかし、悪い知らせにも資金調達や事業への悪い影響の可能性にも臆することがなかった。
「私は、この新型コロナウイルス(COVIDー19)騒動は必ずしもネガティブには捉えていません」とラオ氏は言う。実際に同氏は、事態は回復に向かっていると考えている。「自宅待機要請が一部解除となり、そして太陽光パネルと蓄電池の設置は以前から必要だと思われているので、SunRun(サンラン)などの大手施工業者のオンラインでの売り上げが伸びています。このパンデミックによる制約は、私たちの上昇カーブに与えた影響は4分の1程度です」と語る。
新型コロナウイルスによる強制的な休暇は、実際のところSpanには好都合だったラオ氏は言う。同社は、新製品の開発と製品の販売に忙しくなることを想定した準備に取りかかっていた。太陽光発電と充電技術の導入を望む顧客からのプレッシャーは、特にカリフォルニアなどの州では消えていない。
カリフォルニアは、次なる山火事シーズンの到来と停電や輪番停電への準備を整えているが、それがオフグリッドの自家発電と充電への投資を住宅所有者に促していると彼は言う。
しかしラオ氏は、Spanは単なるスマートな配電盤だとは思っていない。送電網と自家発電ネットワークの交差点で、Spanの装置は家庭内の装置と電力の出入りの監視と管理を行うという独特な優位点に立っているからだ。
さらに彼は、そのビジョンにMatt Rogers(マット・ロジャーズ)氏からの投資というかたちで、ほかにはない専門家のお墨付きをもらっている。ロジャーズ氏は、家庭の電力使用の効率化に取り組む企業としては初の10億ドル規模に成長したNest(ネスト)の創設者だ。
自身の投資会社Incite Ventures(インサイト・ベンチャーズ)を通じてロジャーズ氏は、Spanの直近のラウンドに参加している。「私たちは、家庭で電力を大量に消費するものである暖房の温度調節器を根本から作り直そうとNestを創設したのです。私たちは、その厄介な装置を、インタラクティブで省電力なものに置き換えてきました」とロジャーズ氏は声明の中で述べている。「Spanには、家のなかのあらゆる電力浪費を解決できる可能性があります。だからこそ私はSpanの投資に参加し、アーチの相談役となったのです」。
ラオ氏がSpanに抱いているビジョンには、Nestを世界に送り出した最初のアイデアと同じほどの拡張性がある。「私たちのソフトウェアスタックが、Androidデバイスと非常に似ていることを考えてください」とラオ氏。「私たちには自社開発のアプリがあり、それ(ソフトウェア開発キット)をサードパーティーに提供しています」。
「ユーザーは、そのアプリをダウンロードし、外部の販売業者に管理を委託したい配線や電気機器を選択する。その見返りとしてわずかな経済的利益を得る」とラオ氏は説明する。「私たちが考えているのは、モバイル業界がこの10年間に採用してきたものと類似のモデルをデジタル電力分野に採り入れることです」と同氏。家の配電盤が30年ほども変わらず居座っていたとすれば、これは携帯電話も成し得なかった方法でSpanのプラットフォームに顧客を取り込むチャンスと言える。
Spanがバッテリーの供給元として契約した、LGなどの一部の提携企業は同氏のビジョンを広げてくれる。「LGは家電品メーカーですが、私たちと新しい家電製品との結びつきを示すロードマップでもあります」とラオ氏。「そこから家電製品の世界が推測できるでしょう」。
今回の1010万ドルの投資を主導したのはArcTern Venturesだが、Capricorn Investment Group、Incite Venturesという新規の支援者も加わっている。それ以前の投資企業は、Wireframe Ventures、Congruent Ventures、Ulu Ventures、Energy Foundry、Hardware Club、1/0 Capital、Wells Fargo Strategic Capital。その中には、今回の投資に再び参加したものもあるとのことだ。
投資家たちの興味を引いたのは、電力網と家庭との中間というSpanの立ち位置と、家庭での発電と充電と電力消費の監視と管理に家の人間が参加できる仕組みだ。Spanはまず、ハワイとカリフォルニアでのセールスに注力する。それらの州では政府の強いインセンティブがあり、助成金などで需要が加速され可能性があると同社は話している。
今回の投資ラウンドのほかに、バーモント州の電力会社Green Mountain Power(グリーン・マウンテン・パワー)の元最高責任者であるMary Powell(メアリー・パウエル)氏が独立役員としてSpanの取締役会に加わった。パウエル氏とラオ氏は、共にTesla(テスラ)でスタートアップ幹部として働いていたことがある。
「顧客第1の電力供給とはどんなものか、彼女はバーモント州の数千軒もの家庭にTesla Powerwall(テスラ・パワーウォール)を設置して、その実例を示してくれました」とラオ氏。「私たちのパネルを市場に送り出すこの時期に、また彼女と仕事ができて、とてもうれしいです」。
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(翻訳:金井哲夫)