絶対に失敗するスタートアップの創設者が言いそうな10の迷言集

ちょっとした面白ネタかと思って読んでみると、意外と考えてしまう一言もあったり。 — SEO Japan

自分のためにこのソフトウェアを作ったら、もともと私が思い描いていた通りの製品を大勢の人達が求めていることが判明した。

数名従業員を採用すると、CEOの仕事が随分と楽になり、差し迫った問題の処理に追われるのではなく、ハイレベルな戦略計画に力を入れることが可能になった。

インターフェースのデザインとコードの記述を行う前に、顧客候補について、あんなに時間を割いて考えるべきではなかった。

LLC、S法人、もしくは、C法人を形成するかどうかの判断は、スタートアップを成功に導く上で、大きな影響をもたらした。

会社の売却は、簡単に決めることが出来た。しかも、社員全員が同じ意見だった。

この会社が、従業員のいない新しい会社であり、ソフトウェアがバグだらけである点を、最初の数名の顧客に気づかれずに済んだ。これは演技力の賜物だ。

ソフトウェアの特許を申請したおかげで、ライバルは現れなかった。

最も効果的なマーケティングキャンペーンは、バズワードと曖昧な主張で固めたものだ。

MBAを取得していなかったため、他の人達よりも会社を作ることに苦労した。

道徳的、経済的に賢明だと思ったことに飛び付き、取り組みを始めるのではなく、もっと多くの文献を読んで、メリットとデメリットを熟考すればよかった。

コメント欄でさらに名(迷)言を紹介してもらえると嬉しい


この記事は、A Smart Bearに掲載された「10 things I’ve never heard a successful startup founder say」を翻訳した内容です。

最初の2つは特に深いと思いました。中には「自分のためにこのソフトウェアを作ったら、もともと私が思い描いていた通りの製品を大勢の人達が求めていることが判明した」ケースも無くはないと思いますが、それってホントに例外中の例外ですからね。ちなみにコメント欄にも「開発者をロックスターか忍者と呼びかどうかで議論した。」「起業の勉強は全てブログを読んで学んだ。」など色々書かれていて面白かったです。 — SEO Japan [G+]

サステイナブルとは程遠い「成功」する企業の危うさ

少し前にアメリカのベンチャー界隈で話題になったサービス立ち上げ前から41億円の資金調達をして話題になった写真共有アプリといえばColor。SEO Japanでもその経緯を記事にしたことがありますが、その主役はサービス以上に創立者のグエン氏。米国で数々の事業を立ち上げどれも数十億単位で売却やIPOをさせてきた彼(グエン氏はAppleに80億円で企業売却した経験あり)ですが、そのどれもが今日は破綻状態なのもまた注目を浴びる1つの理由でもあります。そんな彼を巡る逸話の数々と、そこから考える皆が成功を信じたにも関わらず成功が長続きしなかった企業が多数ある現実について考えた、バズワードを越えたバズカンパニーとそれに驚される私たちのの悲劇、いや喜劇を、自らも地道に活動を続ける起業家が語る。 — SEO Japan

マスコミ、または、シリコンバレーで通用する「成功を勝ち取る起業家精神」は、どう考えても普通ではない。しかし、その罪をマスコミやシリコンバレーに擦り付けることは出来ない。

確かに画質は良くなったけど、内容は相変わらず最低だね

まず、シリアルアントレプレナーのビル・グエン氏(7番目のスタートアップ「Color」は、立ち上げられる前に4100万ドルの資金を獲得したことで有名)に関する素晴らしいFast Companyの記事を読んでもらいたい(因みにColorの立ち上げは失敗し、破産した)。辛口の投資家として知られるポール・ケドロスキ氏は、Colorの評判を次のように表現していた:

「ネタになる。ベンチャーキャピタルのイベントで、いきなり「Color」と言えば、会場は爆笑に包まれる」

しかし、以前は、全く逆の反応が起きていた。立ち上げに失敗する前、Colorに関する意見を求められたことがあった。私はColorが何なのかよく分からないと答えた。すると、モバイルを理解していないのではないかと指摘された。恐らく、その通りなのだろう。しかし、それでは説明になっていない。

ビル・グエン氏は、この曖昧なアイデアに対して、どのように4100万ドルの資金調達を成功させたのだろうか?6つの会社を成功に導いていた実績があったためだ。これは十分に妥当な理由である。常軌を逸したアイデアに支援する価値があることを証明するには、これ以上役に立つデータはない。そして、グエン氏はプロジェクトに着手し、資金を獲得するまでピボットを続けていく。

しかし、私が考える「成功」の定義は異なる。以下にグエン氏の実績を挙げていく(Fast Companyの記事から抜粋した):

  • Forefront — CBTが1995年にIPOを行う。CBTの株価は1998年に85%下落し、集団訴訟に発展した。
  • Freeloader — 300万ドルの資金が投じられ、1996年に3800万ドルで売却されるものの、その翌年に閉鎖。
  • Support.com — 250万ドルの資金が投資され、32ドル/株でIPOを実施した。現在は2/株に低迷。
  • OneBox.com — 6000万ドルの投資を受け、サービス開始から18ヶ月後に8億5000万ドルでJ2に売却される。その後、閉鎖に追い込まれる。
  • Seven — 6000万ドルが投資される。今でも非公開会社の状況であり、IPOの申請を却下された。
  • Lala — 3500万ドルの投資を受け、8000万ドルでAppleに売却されるものの、6月に閉鎖が決定。

上のデータには1つのパターンが存在する: 事業を構築し、魅力的な株主の価値を創り出し、失敗する。

一方で、買った企業が、扱いに失敗しているのであり、グエン氏の責任ではないと言う考え方もある。しかし、購入した会社の全てが、愚かな対応を行ったのだろうか?そんなことはないはずだ。Smart Bearは、私が売却した後も、2008/2009年のリーマンショックをものともせず、収益と利益を5年連続で増やしている。IT WatchDogsを2005年に売却した後も、同じように収益は増加の一途をたどっている。

グエン氏の事業に投資を続けたVCも理性的な取り組みを行っていたはずである。砂上の楼閣が、必然的に崩れる前に、非公開株式の投資機関は、相当な利益を獲得する。グエン氏は、給料日まで魔法が解けない仕組みを理解しているのだ。

魔法と言う表現は大袈裟ではない。グエン氏と仕事をしたことがある人達の発言を読みながら、グエン氏を突き動かすのが、真実なのか、偽りなのか考えてみてもらいたい:

「大勢の営業スタッフが、現実と可能性の境界線をぼやかして、契約の締結に向けて、前進している。グエン氏は、意図的にこの境界線を軽視することに喜びを感じているように思える。」– Fast Companyの匿名希望の情報ソース

「グエン氏は、世界最高の絵描きを雇って絵を描くものの、絵に値する深みを与える語り手が欠けている。グエン氏は、自分の味方につけるスキルにおいてはジョブズ氏に引けを取らない。」– LalaのCEO & Colorの役員 ジェフ・ラルストン氏

「ビル・グエン氏は、相手が買いたくなるくらい、自らの発言を相手に信じてもらうことが出来る。まるで「ジェダイ」のような人物だ。」 — SevenのCEO、OneBoxの元CEO ロス・ボット氏

個人的には、欺く行為よりも、ダン・ライアンズ氏が言っていたように、持続可能だと心から信じていたものの実は持続不可能な会社が台頭していることが問題だと思う。

例えば、Grouponは、誰もがそのアイデアの素晴らしさを認め、真似する企業が続出した。しかし、成長、そして、営業に対して投じられた資金は、長期的な利益をもたらすことなく、また、小規模な店に対する製品の実際の価値は、同社の主張よりも遥かに低いことが判明した — 顧客を増やす取り組みを少しでも行えば、この点は明らかになるはずであった(レストランの経営者に訊いてもらいたい)。そのため、130億ドルの価値を見積もられてIPOを行ったものの、前月比の株価は、4分の1に落ち込み、既存のインフラが役に立つ、新しい、巨大なマーケットを探しながら、「常にピボットするモード」に移行したようだ。要するに、Grouponは、製品/市場のフィットを探す取り組みに戻り、巨大な市場(そして、がっちりと一致する市場)を見つけることでしか、多額のコストを相殺し、過去の投資資金を返済することが出来ない状態に追い込まれているのだ。

あるいは、Zyngaの例もある。同社は、Facebookをベースとした人気ゲームを次々に作り出し、ある程度の規模になるまでは、収益面でバランスが取れていたものの、現在の規模を維持することが出来るほどのイノベーションを続けられるとは思えない。また、同分野でゲーム(Draw Something等)がヒットする度に、当該のゲームを買収しているが、その直後に人気、そして、価値は急落している(Draw Somethingを2億ドルで買収したものの、1ヶ月後には、アクティブユーザーが500万人減った)。1年弱前にIPOされた当時の株価は10ドルであったものの、現在は2.43ドルに低迷しているのは、当然と言えば当然である。

このような企業は、グエン氏が立ち上げたColorとは異なる。数年に渡って、この手の企業は、(アクティブユーザーの人数だけでなく)疑いようのない収益を増やし 、(一時的に成功するアイデアではなく)繰り返し可能で、拡大可能なビジネスモデルを持ち、大きな市場を手に入れ(中小企業のリード生成、ソーシャルゲーム)、そして、急成長する企業にありがちな運営面での難題を乗り切っていた。

これは健全な企業に求められる重要なポイントであり、それでも、予想以上に寿命が短い(Facebookのゲームは、業界ではなく、一時的な流行であった)、もしくは、重役や投資家が、持続性よりも価値の増加を過剰に望んでいたように私には見えた(資金を増収に変えていたGrouponのエンジンは、製品を構築すると言うよりも、むしろ強制的に食料を与えているようであった)。

当然、これは後知恵の実情に疎い推測に過ぎず、ブログの記事でなら何とでも言える。しかし、その一方で、推測通りの収入曲線を描きながら、顧客の満足と獲得に固執した状態でHubSpotは高成長を維持し、Freshbooksは、理想的な収益を維持しながら、羨ましいくらい見事な企業文化を継続している。さらに、SEOMozは、TAGFEE(包み隠さず、偽らず、寛大で、楽しく、共感できる、特別な存在)を従業員、顧客、そして、投資家に納得してもらうことに力を入れ、激戦のSEOツールの分野で、一貫して成長を維持している。カスタマーサービスに徹底的にこだわるRackspaceは、プレミアム料金を要求し、10億ドルと言う巨大な収益を抱えつつも、30%と言う驚異的な成長率を維持している。

この中には自力で成長を遂げた企業もあれば、自力でスタートし、その後、資金を調達した企業もあれば、最初から多額の資金を得てスタートした企業もある。資金調達の経緯よりも、作り出す対象が重要である。

WP Engineで、上述した素晴らしい企業に仲間入りすることが私の目標である。あくまでも維持可能だと思えるやり方で、30名の従業員で、数百万ドルの収益を稼ぎ出し、Rackspace並にカスタマーサービスに力を入れ(1000社の顧客に対して、他のどの会社よりも多くのWordPressのエキスパートを雇用している)、SEOMozのように誠実さと透明性を重視し、さらに、HobSpotのようにマーケティングと成長だけでなく、顧客の満足度と維持に関して内部での計測を徹底的に行う企業を目指したい。

最後に、皆さんの会社について、同じことを考えてもらいたい。価値が長続きする製品/サービスを構築しているだろうか?維持可能な成長を意識するのではなく、闇雲に成長させようとしているだろうか?企業の文化的な価値を明確に伝え、この価値に従った行動を取っているだろうか(この価値が、適切な製品やサービスを作る上で欠かせない、適切な人材を集め、維持する源になる)?

格好良いモバイルアプリのような一時的に人気を得る製品を敢えて作っているなら、勿論、それはそれで楽しいかもしれない。

ただし、長続きする会社を作ることを目指しているなら、「長続き」の意味を正直に理解する必要がある。成長は必要だが、それだけでは十分ではない。


この記事は、A Smart Bearに掲載された「The rise of the “successful” unsustainable company」を翻訳した内容です。

私もどちらかというと地味に事業をこなす派ですが(それでも相当新規事業&投資は失敗してますが・・)、色々と考えさせられることの多い記事でした。 — SEO Japan [G+]

本物のピボットの極意とは?

リーンスタートアップを提唱する起業家が語る真のピボット論。成功に向かって模索している起業家は必見! — SEO Japan

Lean Analytics」(分析を事業において適切に利用する方法を解説する最新の書籍)の執筆者の一人、ベン・ヨシュコヴィッチによるゲスト投稿。現在、ベン・ヨシュコヴィッチは、2012年にSalesforceが買収したGoInstantで製品部門のVPを勤めている。また、ブログ「Instigator Blog」で定期的に記事を投稿している。また、ハンドル名「@byosko」でTwitterを利用している。

ピボットした経験はあるだろうか? 恐らくあるはずだ。

適切なピボットだっただろうか? そうであったと願いたい。

残念ながら、リーンスタートアップ、そして、リーンスタートアップが広めるコンセンプトのおかげで、ピボットは、ほぼ意味がなくなるほど価値を下げてしまった。「ピボット」と言う用語を耳にすると、唸るか、もしくは、肩をすくめてしまう。ピボットを言い訳として用いる人達が多いためだ。

起業家には妄想癖がある。これは起業家の特徴の一つである。現実歪曲空間に自ら身を投げ入れ、スタートアップを運営する厳しい環境を乗り越え、心の中で、自分達が作るもの、そして、思い描くものが成功することを確信している。起業家は、世界に飛び出し、消費者、投資家、提携者等に同じことを信じてもらう必要がある。証拠がない状態では、妄想、そして、現実歪曲空間に身を委ねて、前に進むしかない。

しかし、現実歪曲空間が、濃い霧で覆われ、事実と創作を見分けることが出来なくなったなら、破滅してしまう。起業家の多くが、この状況に追い込まれる。私達にとっての地獄である。

リーンスタートアップは、現実歪曲空間に穴をあける。その結果、壁にぶち当たらずに済み(あるいは、当たってもかすり傷程度で済む)、適応する上で必要な、知的な正直さを十分に私達に与えてくれる。

それでは、ピボットとは一体何なのだろうか?

私は次のように定義している: ピボットは、検証学習に基づき、スタートアップの焦点の一つの領域における変更を指す。

ビジネス全体を変えようとしているなら、それは「やり直し」である。やり直すことに問題があるわけではないが、それはピボットではない(また、正しい方向に導いてくれる見解がなければ、やり直しても失敗してしまう)。ピボットは、やり直しよりも遥かに定義の範囲が狭く — 学んだことを基に始める行為を指す。これは「バリデイティドラーニング」(検証学習)と呼ぶものだ。ピボットする場所、そして、理由を理解している時にピボットするべきである。取り組みを通じて(リーンスタートアップのメソッドを通じて取り組む)、自分自身が向かう方角を指し示す見解を得ることが出来る。

lean-cycle-learn

検証学習

バリデイティドラーニング(検証学習)は、リーンスタートアップの心臓と言っても過言ではない。仮説で始まり、続いて、テストを行い、仮説の正しさ、もしくは、誤りを証明する。 そして、分析を用いて、実験の成果を計測する。Backupifyを例にとって、考えていこう。

Backupifyは、オンラインバックアップ保存サービスを提供している会社だ。当初はリーンスタートアップの法則を徹適的に採用しているわけではなかったものの、創設者のロバート・メイ氏は、創設時からアイデアをテストする取り組みを実施していた。「当初、私達はサイトのビジターに専念していました。なぜなら、サイトにとにかくアクセスしてもらいたかったためです。その後、製品をテストしてもらう必要があったため、トライアルに焦点を絞るようになりました。」と、メイ氏は、当時の取り組みを振り返っている。当初、「サービスの提供を継続する上で、オンラインバックアップ保存サービスに関心を持っている人達は十分に存在するのか?」と言う仮説を立て、 ウェブサイト、そして、ビジターを獲得する(そして、登録してもらう)取り組みは、実験であった。継続する価値があることを正当化するためには、「十分な人数」をターゲットとなる目標で定めるべきであった(10名?100名?1000名?)。

ロバート・メイ氏は、十分に多くのネットユーザーが、オンラインバックアップ保存サービスに関心を持っていることを学んだ。しかし、事業が成長していき、料金を請求するようになると、問題に直面することになった。 顧客を獲得するコストは、得られる収益よりも遥かに高いことが判明したのだ。

「2010年の前半の時点では、1人の顧客を獲得するために243ドルを投資したものの、顧客一人当たりの年間の収益はたった39ドルでした。完全な赤字です。大半の消費者向けのアプリは、高額の顧客獲得コストをバイラル化によって避けていますが、バックアップはバイラル化しないのです。そのため、[顧客のセールス]からピボットし、企業を狙う必要がありました。」とメイ氏は指摘している。

ここで重要な点を2つ挙げる:

  1. メイ氏は、その他の多くのポイント(消費者がオンラインバックアップに興味を持っていること、顧客が長期的に関心を持ち続けること等)を学ぶまで、赤字である点に気づかなかった可能性がある。Backupifyが、顧客を獲得して、維持する方法を解明して初めて、メイ氏は、利益に焦点を絞ることが出来るようになった。
  2. 消費者向けのビジネスを拡大することが出来ると考えた、同氏の仮説は、赤字が判明したことで、無効になった。ロバート・メイ氏が得た教訓の「検証」された部分は、とても明白であった — ただ単に計算が合わなかったのだ。

そこで、Backupifyは企業に狙いを定める方針に転換し、その後、ビジネスを拡大していくことに成功した。企業は(基本的に)同じサービスにより多くの金額を支払い、メイ氏は、顧客獲得コスト:生涯価値の比率に注目し、コアの金銭の流れに目を光らせることが出来る。

検証学習は必ずしも定量化することが出来るわけではない。 スタートアップを創設したばかりの頃は、質的なアプローチを行う可能性が高い。質的なフィードバックは、厄介であり、解釈するのが難しいものの、重要度はとても高い。経験上、10-20名に話しかけると(十分に構成を練ったインタビューを顧客に行う)、パターンが見出され、十分に鋭い見解を得られ、決定を下すことが可能になる。その後、調査を用いて、より多くの人達により量的な方法で接触することで、この教訓をスケールアップすることが可能になる。

怠惰なピボット

検証学習を行わない状態では、闇雲にピボットしてしまう。これが「怠惰なピボット」であり、ビジネスを失敗に導く可能性が高い。怠惰なピボットは、次のような思考過程を経て形成される:

「今取り掛かっている試みは、あまりうまくいかない…理由はよく分からない…しかし、この別の試みは面白そうだし、格好いいから、やってみよう。」

恐らく、既存のアイデアに徹底的に力を注ぐことなく、また、別のアイデアに転換するために必要な見解を得ているようにも見えない。光り輝くアイデアから、別の光り輝くアイデアに飛び移っただけである。

リーン分析を使ってピボットを成功に導く

ピボットを成功させるには、焦点と学習が欠かせない。ビジネスの1つのポイント — ビジネモデル、価格設定、あるいは、ターゲットのマーケット等 — を変更し、結果を確認する必要がある。リーン分析に関する記事を作成している際、アイデアや製品をテストして、ピボットするべきか否かを判断するプロセスを説明する上で役に立つサイクルを思いついた:

pivot-flowchart

リーン分析サイクルを作成すると、仮説をテストして、必要に応じて適応するために必要な焦点の絞られた注目、そして、知識に基づいた正直さが求められる点に気づくはずだ。これはスタッツベースのアプローチだが、ハイレベルな問いを自分に問いかける手もある。

ビジネスモデルを評価する

私はLean Canvas(リーンキャンバス)を「自分の取り組みをしっかり理解しているかどうか」を確認するために必ず利用している。リーンキャンバスを良く知らないなら、絶対にチェックしてもらいたい。これは1ページのビジネスモデルツールである。リーンキャンバス(20-30分のセッションで作ることが出来るはずだ)を見た際に、自信を持って前進を続けることが出来るほど、十分に答えを得たと正直に言えるだろうか?解決しようとしている問題を本当に理解しているのだろうか?製品を売るチャンネルを把握しているのだろうか?不当な優位性を持っているだろうか?

次の一手を適切に判断するためには、ビジネスを定期的に見直さなければならない。

一部の人達はリーンスタートアップ(そして、その延長線上にあるリーン分析)を完全に機械的なプロセスであり、熱意に欠けており、効果がないと考える。あるいは、プロセスに従っていれば、必ず成功すると考える人達もいる。しかし、どちらの考えも誤りである。スタートアップは、工場の製造ラインで作られているわけではない。本能と熱意をないがしろにするべきではない。

リーンキャンバスに従い、次のステップに進む上で十分な情報、そして、十分な自信を得ているか自分自身に問いかけてもらいたい。いきなり問題に直面している場合は、解決する価値があるほど、その問題が深刻だと理解したと正直に言えるだろうか?顧客候補を対象とした、質の高いインタビューを十分に実施しただろうか?

リーン分析に関する記事を作成した際に、問題のインタビューを採点する取り組みを提案した。インタビューでは構成を良く練ることを前提としているため、特定の質問にスコアを割り振り、インプットに量的な印象をもたらすことも可能である。すると、質的なインプットのみを利用する方針を超えるため、検証学習にプラスの影響を与える可能性もある。

熱意は重要

実施している取り組みに対して熱意を持っていないなら、失敗する。成功に導くには、多大な労力が必要とされるため、強烈な思いやり、そして、感情がなければ、うまくいくはずがない。プロセスに焦点を絞る方針と、食い違うこともあるが、熱意/本能と情報に基づく正直さと厳しさを組み合わせる方法を見つける必要がある。

何か興味深いアイデアを発見し、ピボットする場所を導く — 現在のビジネスをベースとしたデータを持っていると仮定する。自動的にピボットし、ピボットを続ける前に、「本当に関心があるかどうか」を自分自身に問いかけるべきである。関心がないなら、ピボットが理に叶っているかどうか考え直す必要がある。

自分達の取り組みが分からなくなり、あまりにも力を入れていたため、当該のビジネスを始めた理由を忘れてしまった人達(私もその一人)に出会ったことがある。実に恐ろしい状況である。

ピボットを行う前に、向かおうとしている目的地に強い思い入れがあるかどうかよく考えてもらいたい。思い入れがあるなら、ピボットするべきだ。ないなら、ピボットを中止する必要がある。一歩下がって、評価を再び行う、または、時間を割いて、深呼吸をして、よく考える、もしくは、負けを認め、傷を癒して、再起を誓うべきかもしれない。

ピボットする前の簡単なチェックリスト

検証学習を行い、ピボットするべき方向に関するデータを得たと仮定する。また、ピボットを行い、事業を継続することを望んでいるとしよう。その他に何が必要だろうか?

  1. 大きなビジョン。 会社を始める前、達成しようとすることに対して、大きなビジョンを持っていたはずである。大きなビジョンがない状態では、拡大するポテンシャルのない小さな(一つの機能に特化した会社)スタートアップを作ってしまう。大きく、斬新なゴールが存在しないなら、ピボットを行う意味はない。ピボットは、大きなビジョンに向かってジグザグに進む行為である。
  2. 問題を深く理解する。 私が話しをする起業家の多くは、解決しようと試みている問題、そして、解決する価値があるうのかどうかを理解していない。十分に問題を調査していないためだ。あるいは、不変の真理を解決しようとしている起業家もいる。 根本的な問題を理解していないなら、適切にピボットする方法を解明することは出来ない。
  3. 実際の(反証可能な)仮説。 検証学習を行うだけでは、十分ではない。対照としてテストすることが可能な、反証可能な仮説が必要になる — さもなければ、ピボットがうまくいくかどうかを把握するのが大幅に難しくなる。
  4. 絶対に譲れない基準。 追跡する適切なスタッツを選び、比較する基準を設けることが、リーン分析のコアのコンセプトである。そのため、重要な計測基準を一つ(状況を把握することが出来る単一の計測基準)を持ち、譲れない一線を示す必要がある — つまり目標のターゲットを定める。ターゲットを達成することが出来なかったら、見直しを行う。ターゲットを達成したら、次のステップを進む自信(とデータ)を得られる。

ピボットは難しい。 適切にピボットを行い、成功に導く取り組みは、難しい。適当に、怠惰に、楽観してピボットを行うことも可能だが、それでは害をもたらすだけである。 正直さ、そして、データでピボットを支えることで、輝かしい未来を持つ事業を見つけられる可能性が得られるのだ。


この記事は、A Smart Bearに掲載された「The *real* pivot」を翻訳した内容です。

事業を軌道に乗せるまでには通常数々の苦難があり、成功を信じてそのまま続けるべきか、ピボットして方向転換すべきか、はたまた撤退すべきか、など起業家の悩みはつきません。この記事があなたのピボットを成功させるヒントの一つになれば幸いです。 — SEO Japan [G+]

儲からないSaaSビジネスモデルの罠

SaaS事業にも取り組んでいる私としては、ドキっとしてしまうタイトルですが、さてその内容は? — SEO Japan

2012年に前年比で80%の成長を遂げ、6000万ドルの収益を上げたMarketoが、IPOを申請した。

しかし、実際には、同社は3500万ドルを失っていた。これは一体どういうことなのだろうか?

go for broke

収益1ドルに対して、1.60ドルを支払い、利益の出ない製品を無理やり販売のチャンネルに詰め込む状況は、理想とは程遠い。

「企業向けのSaaSの会社を成長させるためなら、当然だ」などと考えるべきではない。言いたいことは分かる — 「販売、マーケティング、そして、初期費用の回収期間は長いものの、最終的に利益が出るはずだから、待ってくれ」と言いたいのだろう。

冗談じゃない。EloquaもSaaS会社であり、同じような製品を同じ業界で販売し、同じようにSalesforce.comを統合していたものの、IPO時、7100万ドルの利益のうち、損失は500万ドルであった。60%も失っていたMarketoと比べ、たった7%の損失である。

このような逆さまのビジネスモデルを、SaaSビジネスは見習うべきではない。現代のスタートアップコミュニティには、このように会社を成長させる考え方を理解した上で、逆らってもらいたい

一般的な考え方:

  1. 企業の顧客を獲得するには、多額のコストが必要になる。マーケティング、法務、顧客管理、オンボーディング、技術的な指導、トレーニング等々。このプロセスを何度も実施しても、顧客を失ってしまうこともある。つまり、このコストは、顧客を獲得する度に、分割で返却していくことになる。
  2. SaaSの会社は、時間の経過と共に収益を獲得していく。通常のソフトウェア会社は、企業との取引で10万ドルを要求し、上述した「顧客の新規事業」のコストをすぐに取戻し、さらに、利益も得るが、SaaSの契約では、5000ドル/月で支払われ、同額の収益を得るまでに18ヶ月間かかることもある。幸いにも、18ヶ月間が過ぎた後も、SaaSの会社は、5000ドルの月額料金を引き続き請求することが出来る。その他のタイプの会社は、たった20%/年のメンテナンス料金で誠心誠意尽くさなければならない。
  3. つまり、企業向けのSaaSの会社は、最初の12-24ヶ月間は利益を得ることが出来ない。
  4. しかし、成長著しいSaaSの会社は、新しい顧客を獲得し、その結果、顧客の数を増やしていき、儲けの少ない業務が次々に蓄積されていく。
  5. 儲けの少ない業務があまりにも多いため、以前の顧客との仕事が黒字に転換しても利益が出ない顧客がさらに多いため、会社は健全な成長を続けている限り、儲からないことになる
  6. また、製品を作るためのR & D、オフィスの賃料、重役の給料、広告、法務、融資、人事、技術サポート、会計等 — その他のコストの存在も忘れてはならない。実際に利益を得るためには、このコストを埋め合わせる必要がある。そのため、最終的な損益を黒字にするために必要な期間は長くなる。
  7. よって、少しでも成長しているなら、儲けが出ない状況は、SaaSの企業にとっては健全であり、妥当である。

会社を立ち上げたばかりの頃は、この考え方は誤っていない。しかし、Marketoの規模の会社には、当てはまらない。

その理由を説明しよう

この概念においては、成長するための資金の投入をストップすれば、利益が出ると言う暗黙の前提が存在する。よって、実際には利益を上げることが出来る企業であり、儲けが出ていないのは、成長しているためである。これは、マーケットシェアを増やし続けている証拠であり、望ましい状況である。

この考え方の誤っているポイントを指摘しよう — 成長させる試みを止めることは不可能である。つまり、成長率が低くなり、利益をもたらす顧客を多数抱える見返りを得られる日は、永遠にやって来ることはない。一体いつになったら黒字化するのだろうか?

それでけではない。SaaSの会社を成長させるのは、徐々に難しくなる。契約の解除が発生するためだ。維持率が高くても(75%/年)、収益の25%を新たな「利益の出ない」顧客で置き換える必要があり、損益は0になる。契約が解除される度に、利益が遠ざかっていく。

大まかな数字であっても、このモデルが失敗する理由を容易に理解することが出来るはずだ。企業を相手にするSaaSビジネスの典型的なスタッツを挙げていく:

  • 1年半の回収期間(顧客を獲得するために投資した資金を賄える収益を得られるまでにかかる期間)。
  • 75%の年間維持率(4年おきに顧客ベースを一新する。もちろん、長い期間とどまる企業もあれば、早く打ち切る企業もあるため、あくまでも平均の期間である)。
  • 顧客にサービスを提供するための30%のコスト(70%の売り上げ総利益率と言い換えることも出来る。要するに、1ドルの収益を得る度に、サーバー、ライセンス、技術サポート、顧客管理等の直接経費として0.30ドルが消える計算である。多くのSaaSの企業は、たとえSalesforce.comのような巨大な会社であっても、売り上げ総利益率は70%程度である)。
  • 15%の収益 == R & D部門のコスト。
  • 15%の収益 == 管理部門のコスト(賃料、融資、人事、重役の給与)。

平均的な顧客が、年間の収益Rドルをもたらすと仮定すると:

  • 顧客の存続期間の収益は$4Rとなる。ただし:
  • 顧客を獲得するために$1.5Rを投資する(回収期間)。
  • 顧客にサービスを提供するために、売り上げ総利益の$1.2Rを支払う(4年 X 30%のコスト)。
  • R & Dに$0.6Rを出費(4年間で15%)。
  • 管理費として$0.6Rを出費(4年間で15%)。

つまり、元々あった$4Rから最終的に残った$0.1Rが利益となる。これは収益の1/40であり、この額を得るために4年間を要する

しかも、まったく成長しないことを前提としている。しかし、最低でも契約の解除を賄うだけの成長を続ける必要があり、これで僅かな利益も失われる。

それでは、

どうすれば利益を出すことが出来るのだろうか?

成功をもたらす、利益を出すSaaSの企業(3000万ドル/年を上げる企業はもちろんのこと、500万ドルの利益を出す企業も注目に値する)は、利益を得るために複数の取り組みを行う:

  1. アップセル/アップグレードを介して、契約解除の影響を抑え込む。例えば、 Salesforce.comとZenDeskは、ユーザーを加える度に、そして、機能を増やす度に、一人当たりの料金を値上げする。顧客は増えているため、4年間の収益は4Rではなく、1年目ではR、2年目は1.5R、3年目は2R、そして、4年目は7Rになる可能性がある。この増加によって、計算に大きな変化が生じる。なぜなら、顧客を獲得するためのコスト、そして、一般的にR & Dと管理のコストも上がることはないためだ。「契約解除率」-「アップグレード率」=「ネットチャーン」である。ネットチャーンを0に近づけることは、利益を得る上で大きなステップとなる。優良なSaaSの企業は、ネットチャーンがマイナスに到達する。この境地に達する会社は、純粋なソフトウェア会社だけでなく、例えば、ハードウェア/サーバーを提供するRackspaceも、ネットチャーンをマイナスまで下げることに成功しており、その結果、収益を前年比で30%増加させ、15億ドルを獲得し、3億ドルの利益を上げている。
  2. バイラルな成長を達成して、契約解除を相殺する。「バイラルな成長」を名乗る資格があるB2Bの企業は少ない。しかし、実際にこのレベルに達した企業は、年間の成長率Xを維持し(Xは契約解除率よりもは遥かに高い)、獲得のコストを最低限に抑えている。このケースでは、契約解除が「追いつく」ことはなく、利益を出すことが出来る。
  3. 顧客獲得のコストを大幅に減らす。18ヶ月間の回収期間は、企業にとって大きな負担となる可能性がある。・広告を使って顧客を見つけることが出来るなら、・営業スタッフに話しかけることなく登録してもらうことが出来るなら、・製品内のチュートリアル、良質な文書、そして、利用方法を説明する動画を使って、製品を学ぶことが出来るなら、・データをサポートの支援を受けずにインポートすることが出来るなら、・営業スタッフが、プレゼンテーションを作成することなく、収支の管理者に価値を証明することが出来るなら、成長することが前提であっても、契約解除-切り換えのコスト、そして、適切な成長の規模を、利益を阻害しない程度に抑えられる。
  4. 売り上げ総利益を大幅に改善する。サービス主体の企業向けのSaaS会社なら、技術サポート、顧客管理、そして、本格的なITのインフラは必須である。だからこそ費用効率の高い(利益を出す)企業向けのSaaSの会社であっても、売り上げ総利益率を70%以上に引き上げることに苦労する(Slaesforce.comやRackspace等)。しかし、カスタマーサービスを最低限のレベルに抑えている企業(カスタマーサービスが悪いとは限らない)は、出世を続け、「資金と投じることなく」利益を得ることに成功している(例えば、Google、Facebook、Freshbooks)。

SaaSのビジネスの基本的な基準値は変化する点にも注目してもらいたい。SaaSの企業は、基準値を改善していく必要がある — 契約解除率を下げ、ネットチャーンを下げ、売り上げ総利益率を高め、顧客獲得コストを削減する必要がある。基準値の改善を怠り、「利益が出るまで成長」させる方針は、うまくいかない。

ジャッキー・メイソンの古いジョークを思い出す: ある衣料品店では、原価でジャケットを売っている。ある日、客が「それで利益が出るのですか?」と店員に尋ねたそうだ。すると、店員は「ジャケットを一杯売れば儲かりますよ!」と答えた。

Marketoは大量にジャケットを売っている。


この記事は、A Smart Bearに掲載された「The unprofitable SaaS business model trap」を翻訳した内容です。

米国と日本では規模も事情も違うでしょうが(そもそも儲からない会社に資金がそこまで投下されないですし・・・)、中々に身につまされる記事でした。数字で羅列されている1つ1つの項目、どれもそれなりに納得感もありますし、SaaSが成功するにはどこかで圧倒的に効率的なことをやって、利益が出る余剰を作ることが大事なのかな、と日々事情を回していて感じます。私が関わるSaaSサービス提供会社もバイラルな拡がりは最近見せてくれたのですが、これが仕事につながるかは全く未知数な今日現在です。 — SEO Japan [G+]

“本物の”ピボットを成功させる方法

日本のスタートアップ業界(?)でもお馴染みになってきたピボットという言葉。当初のビジネスモデルや製品戦略を市場や顧客ニーズに合わせて方向転換することを指しますが、ともすれば最初に考えた(本人的には素晴らしすぎる)アイデアに固執しがちな起業家にとって、時にピボットを必要に応じて行えるかがスタートアップ成功の大きな鍵ともいわれています。とはいえ、言葉でいうのは簡単ですが、適切なピボットの決断はまた難しいのも事実。今回は正しいピボットを実現するためのる様々なアドバイスを、自らのスタートアップをSalesforceに売却した経験もある筆者が語ります。 — SEO Japan

続きを読む “本物の”ピボットを成功させる方法

起業家が経験するスタートアップ売却の悲しみ

アメリカの起業家といえば、自ら創業したスタートアップも適切な時期にドライに売り抜け、一獲千金を獲得し、次の起業に挑む、、、そんなイメージがありますが、実際は皆がそういうわけではないようです。今回はスタートアップを売却する際に、世界共通の起業家の悲しみについて書き連ねた、余り他で見ない種類の告白的記事を。以前、起業家の妻の告白という記事を紹介したことがありますが、それにも負けて劣らない何か感じる部分のある内容です。 — SEO Japan

ファックス機に72ページ中34ページ目を差し入れた時、各ページのフッターを飾る“売主のイニシャル: _______”という大切な文面がぼんやりとかすみ、指が震えた。私は、このポンコツ野郎が一度に2ページをサッとつかんだり、斜めにしたりしないように、器用に各ページの上側を時代遅れの口に押し込んでいた。

これは過去6年の集大成だ。たくさんの苦労。たくさんのリスク。大勢のために平静を装った顔。サポートする証拠もないにも関わらず自分自身に課す変わらぬ楽観主義。給料を支払うことについて心配したあの眠れない夜。何かのエキスパートになることの養育。学ぶことによって立ち直らなければならない厳しい教訓。必要な時の後になって手に入る経験。チームのモラルのために鎮圧された内なる懸念。無賃に続く低賃金。“自分たちが殺したものを食べる”という精神。ほんの少しの収益、ひとかけらのバリデーションのためのろくでなしとの競争、物乞い、もがき、たかり。

それが終わった。やったのだ。やったぞ。これがアメリカンドリームなのか?

前の72ページの送信が成功したことを確かめて吐き出された73番目のページ。

そして…悲しみ

深い悲しみ。落ち込みではなく―絶望でも、かじがないわけでもない―、自分の犬が車に轢かれた、もしくは父親が末期患者であることが分かってみぞおちにパンチを食らって肺が胃に沈む時のような純粋な悲しみ。

“一体なんなのだ?何で私はこんな気持ちになっているのか?幸せな気持ちになるはずなのでは?こんな気持ちじゃなくて。”と私は思った。

ほぼ全てのスタートアップ創設者が、自分の会社を売却した後に深く長い悲しみを経験する。その売却がとてつもない成功である時にさえ。なぜだろう?

その答えは、全てのスタートアップ創設者にとって、会社を売る意思があるないに関わらず、大切で基本的なことである。

“私、Estyで自分の作品を販売してるの。見たい?”
- オースティンのコーヒー店のバリスタ

“あなたは誰?”と聞けば、彼女はこう答えるだろう:“私はアーティストよ。”

“あなたは生きるために何をしているの?”と聞けば、彼女はこう答えるだろう:“私はバリスタよ。だけど、それは私の昼間の仕事。私の作品を見たい?”

お金のためにコーヒーを注ぐから、彼女はバリスタなのか?自分のアパートを綺麗にするから、彼女はメイドなのか?

いいや、彼女はアーティストなのだ。なぜならそれが彼女の本当の姿だから。“バリスタ”は、目的のための数多くの必要な手段の1つだ。その“目的”は、人間の基本的要求に続いてアートを作ることだ。

スタートアップ創設者には、このような個人のアイデンティティと仕事のアイデンティティの区別が欠如している。そして、これが“売却ブルー”現象とその他の行動のカギなのだ。

スタートアップは創設者の個人的なアイデンティティだ。スタートアップは、目的を達成させるためにあなたがすることでも、あなたが“本当に”やりたいことの途中にある“必要悪”でもない。

スタートアップは執着だ。あなたは自分を抑えることができないからそれをする。他のことをしている時にもそれについて考えていたからだ。それは“あなたが誰であるか”の印だ。インタビューアーは私に“なぜあなたは2つ目のスタートアップそしてそのうちに4つ目のスタートアップをやることを決めたのですか?”と尋ねる。そして、その答えは、“最初のスタートアップを始めたのと同じ理由です―なぜなら、それが私のDNAで、私はそうしなければならないから”、である。

あなたは、スタートアップを持っている時、空き時間に何をしているだろうか?どの空き時間?これは、あなたの全ての時間である。それはあなたが眠りにつく前に考える最後のことではない。あなたを眠らせないことでもない。それは、マトリックスが空虚を埋めるように朝あなたの頭に流れ出る最初のことだ。そして、マトリックスは、実際にあなたの現実であり、そこにあなたは存在する。

それが、私がおんぼろのファックス機に法律用語を送り込む間に私の耳を通して口笛を吹いている出来事のような、苦痛な出来事をあなたが乗り切ることができる理由だ。あなたは消費されている、これがあなたの人生だ、これがあなただ。他のことが入る余地はない。

あなたが自分の会社を売ると、他の人はすぐに、“あなたは自分の子どもを売ったの?”のようなジャブを投げる。それはこういう意味だ:“あなたは裏切り者だ。”

それは自分の子どもを売るようなものだ。しかし、それはむしろ自分自身を売るようなものなのだ。もちろん、ビジネスは物理的にあなたとは別物であるし、間違いなくその成功はあなたのおかげというよりもあなたの信頼できる従業員のおかげだが、感情的にはそのビジネスは別個の存在ではない。

子どもを売ることについて言えば、これは、女性の70%が出産後に経験する“ベビー・ブルー”―モノアミンオキシダーゼAの上昇によって引き起こされる鬱状態―によく似ている。それらの女性の3分の1が、これを最大1年間経験する(産後鬱)。

それは、喪失と哀悼の気持ちと位置づけられる。それは、一見したところ、獲得と祝福という新しい命の到来とは食い違う。この知的な不一致は、2つ目の感情的効果、具体的に言うと、“新しい命を授かったのに悲しいなんて私は悪い母親に違いない”という破滅的な信条を生み出す。

ベビー・ブルーは会社を売るのと同じ感情的な影響なのか?そうではないかもしれない―私は、すでに“スタートアップは子どものようである”と言うのが好きではない。もしあなたがベビーとスタートアップの類似点を主張するのなら、産後鬱は責任の到来によって引き起こされるが、会社を売ることは責任の終わりである。

しかし、絶対に同じ1つのことは、“喪失と哀悼の気持ち”である。自分自身の一部が取り出されたのだ、決定的に。

これは通常の感覚であるだけでなく、圧倒的に大多数のケースである。コロンビアビジネススクール(Life after Exit)の長ったらしいがハイクオリティな研究が、22人の起業家にインタビューをしたところ、全員がこの影響を経験していた。中にはそのエネルギーを次のこと(ほとんどの場合は新しいベンチャー)に焦点を定め直す人もいたが、大部分の人はワクワクだけでなくアイデンティティを置き換えることができるものを見つけるのに何年もかかり、多くの人はその次のことをまだ見つけていなかった。

自分の会社を売ることは、彼らに別の疑問に回答することを強いる:もし何でもできるとしたら、あなたは何をしますか?仕事とは対照的に、あなたにとって本当に大切なことは何ですか?自分が本当に成長した時に、本当になりたいものは何ですか?

問題は、スタートアップがすでにそれだったということだ!それは、過酷な、とんでもなくクレイジーで、リスキーで、理不尽で、壮大な冒険である。それがあなたのしたかったことでなかったのなら、そもそもあなたはそんなことをしていなかっただろう。スタートアップは決して簡単なキャリアパスではない。

これは、大抵の場合はスタートアップを売ることが間違った選択であるという結論を導くのか?いいや。自分が“次のことを始めるのが待ち遠しい”と考えているのか、“自分の身の振り方が分からない”と考えているかに気付かないまま売るべきではないのは真実だ。また、何百万ドルを手に入れることがあなたを満たすもしくは幸せにすると信じたいという衝動を避けるべきであるのも真実だ。“お金はあなたを幸せにはしない”というのが決まり文句であるのは、それが真実だからだ。

しかしそれは、売ることが間違っているという意味ではない。

終わらせるのが辛いとしてもそうしなければならない悪い関係のように、特にあなたがその相手を心から愛している場合、それが感情的に辛いからと言ってあなたがそうする必要がないという意味ではないのだ。

1年目に会社を築くことは、5年もしくは10年通してその会社を築くこととは全く異なる。CEOの職務明細書は、時間と共に変化するし、それは会社も同じだ。あなたがそれを売却しようとしまいと関係ない。あなたは感情的にこれの準備ができているだろうか?

あなたは、拡張性のある成長プロセスを進めることを優先して後回しにされるイノベーションは構わないだろうか?日々のオペレーションのコントロールをマネージャーに引き渡し、マネージャーのコントロールを自分の実行チームに引き渡すことは構わないだろうか?自分からTextMateや、Adwardsや、ライブチャットや、営業電話をもぎ取って、自分のマネージャーを信頼して、あなた自身が嫌っているおせっかいで細かいことまでコントロールする上司にならずにいることは構わないだろうか?共同創設者と一緒にコードを完了させるために“週90時間を費やす”というよりも、多数の家族の生活の責任を背負うことは構わないだろうか?

事実、スタートアップは成長する。スタートアップはビジネスへと成長して、持続可能性とリスク回避とHR制度と戦略計画とエグゼクティブミーティングなどの束縛にがんじがらめになる。まだ創設者CEOが船を操縦しているが、それは違う種類の船だ。

これは悪いことなのか?そのような質問に対する回答はいつも、“時と場合による”、である。

私の場合、それは時間と共に変化した。Smart Bearでは、私は大きな会社を率いたくなかった。コードをチェックする自分の能力と環境を手放したくなかった。マネージャーを管理したり、年間1億ドルを稼ぐためにどんな変化、戦略、雇用、製品、マーケティング、販売が必要とされるかを算出したくなかった。だから私にとっては、私がC_Oを必要とする前、会社がFreedom Lineを渡るのに十分なお金を蓄えるほどの大きさになった後という良い時に売ったのだ。

新しい会社WP Engineでは、私には新しい野望と意思がある。私は今、マネージャーを管理し、ビジョンと方向性を設定するが日々のオペレーションは操作せず、会社の文化について心配するが全てのサーバーへのSSHアクセスは持たず、年間1億ドルを生み出すことができると信じている製品と市場とチームのある会社に向かって進んでいるCEOである。

それは私にとってエキサイティングなことだ。これが私の新しいチャレンジなのだ。私は今後も常に、コードを書くことや、会社を0ドルから年間100万ドルにすることを好むだろう。

しかし、今日、今現在、私にさえも分からない理由で、これが私という人間なのである。

私は夢のような宝を探しに行った。
虹の先にはそれが待っている。
探して、探して、探して、探して、
さらに探して、探して、そして―
そこにあったのだ。深い草むらの中、
古く曲がりくねった大きな枝の下に。
ついに私のものに、私のものに、私のものになった…
今、私は何を探すのか?
- Shel Silverstein, Where the Sidewalk Ends


この記事は、a smart bearに掲載された「Startup identity & the sadness of a successful exit」を翻訳した内容です。

感じ方は読む人次第と思いますが、どこか感傷的になってしまうと共に、スタートアップ起業、日米問わず人の全エネルギーを使うものであり、だからこそその苦労も喜びもひとしおなんだろうな、と感じた記事でした。失敗するにせよ、成功するにしろ、だからこそ止められないわけですが。。。無理に進めはしませんが、止めたくとも止められない魅力がある世界であることは間違いありません。 — SEO Japan [G+]