仮想通貨の確定申告を支援するAerial Partnersがヤフー子会社などから1.8億円を調達

写真右から2番目がAerial Partners代表取締役の​沼澤​健人氏

2月も中盤に差し掛かり、今年もいよいよ確定申告のシーズンを迎えようとしている。

昨年のこの時期は2017年に仮想通貨の取引が一般層にも広がったことで、確定申告の対象となる人が急増。ルールの整備も十分には追いついていないような状況だったことに加え、損益計算の仕組みも難解で多くの人が頭を悩ませた。

今回紹介するAerial Partnersは、この仮想通貨の税務問題を解決しようとしているスタートアップだ。同社は2月14日、Z​コーポレーション、ジェネシア・ベンチャーズおよび複数の個人投資家を引受先とした第三者割当により約1億8000万円の資金調達を実施することを明らかにした。

Aerial Partnersにとっては日本テクノロジーベンチャーパートナーズや家入一真氏らから5000万円を調達した2017年10月以来となる資金調達。組織体制を強化するとともに、既存事業のサービス拡充に力を入れる。

なお調達先のZ​コーポレーションは、ヤフーが既存事業とは異なる領域へ挑戦するために設立した100%子会社だ。仮想通貨関連ではビットアルゴ取引所東京(2019年2月にTaoTaoへ社名変更)へ出資しているほか、子会社のN.Avenueを通じてCoinDeskと国内運営のライセンスを独占契約。2019年3月にWebメディア「CoinDesk Japan」を創刊することも発表済みだ。

Aerial Partnersでは資金調達に合わせてZ​コーポレーションの高田徹氏、ゴールドマン・サックス日本法人技術部門の元Managing DirectorであるJohn Flynn氏が社外取締役に、グラコネ代表取締役の藤本真衣氏がアドバイザーに就任することも明かしている。

2つのプロダクトで仮想通貨の確定申告をサポート

現在Aerial Partnersでは「Guardian」と「G-tax」という2つのソリューションを通じて、仮想通貨の税務をサポートしている。

Guardianは損益計算から確定申告までの一連の作業を、仮想通貨に精通した税理士に“丸投げ”できるサービス。「そもそも何をやったいいのかわからない」「複数の取引所を使用していて損益計算が大変」といったユーザーの確定申告をトータルで支援する。

ユーザーの視点ではオンライン上で税理士を紹介してもらえるシンプルなサービスだが、裏側ではGuardianが税理士に対して損益計算システムやナレッジを提供することで作業を効率化しているのがポイント。利用料金は損益計算と申告書類をセットで依頼する場合で11万8000円だ。

もうひとつのG-taxは仮想通貨取引の損益計算を支援するサービス。33の取引所およびウォレットに対応し、損益を無料で自動計算できるのが特徴だ。同様のツールとしては9月に紹介したクリプタクトの「tax@cryptact」などがある。

Aerial Partners代表取締役の​沼澤​健人氏によると「昨年は実務上でどこに問題があるのか、そのナレッジが国内外で存在しなかった。そのためどちらかというとGuardianにより力を入れ、損益計算以外の部分も含めてしっかりと確定申告のサポートをしながら、ユーザーがつまづくポイントを整理してきた」のだという。

そこで得られた知見も踏まえ、機能面やデザイン面などG-taxを大幅にアップデート。対応する取引所の数や損益計算のスピードも改善し「G-tax単体でも自信を持って提供できる状態」になった。

仮想通貨の税務においては「対応できる税理士の数がボトルネックになる」(沼澤​氏)ため、11月には税理士の業務をサポートすることを目的とした有料の税理士版も公開。すでに50以上の税理士法人・事務所に導入されている。

「G-tax」のダッシュボード

将来的にはWeb3.0時代における「ブラウザ」の発明目指す

今回の資金調達を踏まえてAerial PartnersではG-taxの開発体制を強化するほか、Guardianのサービス拡充を進める計画。直近ではG-taxにおいて取引履歴情報の取り込みを簡単にする機能なども開発中で、今まで以上に損益計算が楽になるサービスにしていきたいという。

またAerial Partnersとしては中長期的にG-taxを拡張するような形で、対象となる領域を広げていく構想を持っている。すでにブロックチェーン技術のR&Dを含む新規サービスの開発にも取り組んでいるそうで、この動きを加速するための人材採用なども進めていく方針だ。

「長期的には仮想通貨取引所内のオフチェーンで行われるトランザクションに限らず、ブロックチェーン上に散らばったあらゆる情報をより簡単に管理できるサービスを作っていきたい。イメージしているのは、ブロックチェーンの社会実装が進んだWeb3.0時代における『ブラウザ』に当たるプロダクトだ」(沼澤氏)

沼澤氏によると将来的には「仮想通貨税務の会社」から「ブロックチェーンど真ん中」の会社へとアップデートしていく考えを持っているそう。そのためにも、まずは現時点で明確なニーズがある税務領域にまずはコミットする方針だ。

「確定申告で困っているユーザーを1人でも多くサポートしていくことが最優先。並行してまだまだ未整備の領域なので、実務上の課題などを当局側に伝えていく役割も積極的に担いたい。税務がボトルネックになってクリプトやブロックチェーンの社会実装が進まないという状況を作らないためにも、しっかりとしたプロダクトを提供していく」(沼澤氏)

仮想通貨の税金計算をサポート、取引履歴から売買損益を算出できる「G-tax」ベータ版公開

2017年の1年間で、ビットコインを始めとした仮想通貨の知名度は急上昇した。

以前から注目していた層や投資家はもちろん、大手取引所のテレビCMやマスメディアで取り上げられる機会が増えたこともあり、一般層にも広がってきている。VCやエンジェル投資家に2017年の振り返りと2018年のトレンド予想をしてもらっても、やはり仮想通貨に注目している投資家が多かった。

仮想通貨の取引を始める人が増える一方で大きな課題となりそうなのが、税金の問題だ。法整備が追いついていないことに加え、対応できる税理士も多くないのが現状。確定申告でどうしていいかわからず困っている人もいるだろう(仮想通貨の売却や使用により生じた利益は原則として雑所得に区分されるため、年間で20万円以上の所得を得た場合には確定申告が必要)。

この問題の解決に取り組むのがAerial Partnersだ。同社は1月6日、仮想通貨の売買損益を計算できる新サービス「G-tax」のベータ版をリリースした。まずは500人限定でユーザー登録を受け付け、順次拡大していく予定だという。

少数の取引所で売買だけを行う「ライト層」向けの利益計算サービス

G-taxは対応する取引所の取引履歴をアップロードすることで、仮想通貨の売買による利益金額を自動で計算するサービスだ。

現時点でZaifやbitFlyer、coincheckなど10の取引所に対応。海外の取引所で行った売買履歴の円貨換算、国税庁の「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」に示される方法に基づいて損益計算を行える。

TechCrunch Japanでは仮想通貨の税務問題に取り組むスタートアップとして、2017年11月にAerial Partnersを紹介した。同社は12月に税理士紹介・記帳代行サービス「Guardian」をリリース。ユーザーへ仮想通貨に詳しい税理士を紹介しつつ、税理士には税務計算をサポートする独自の計算システムを提供している。

G-taxはこの「独自の計算システム」の一部を切り出し、個人向けに無料で公開したものだ。Aerial Partners代表取締役の沼澤健人氏によると、今回G-taxのリリースに至った背景には「税務問題に悩む投資家からの問い合わせが想定以上に多かった」ことがあるという。

Guardianではこれまで2度ユーザーの募集を行っているが、100人の枠を設けた1次募集が30分、200人の枠を設けた2次募集も1時間で締め切りに達した。現在も問い合わせが続いていて、Guardian以外の解決策も検討。G-taxの開発に踏み切った。

「(取引所の口座開設数の状況や、投資家の方のサポートを通じて感じたことも踏まえると)確定数値ではないが、仮想通貨取引により確定申告義務が生じる人は数十万人単位にのぼると考えている。投資家の数が増えるとともに幅も広がり、少数の取引所で売買だけを行っている比較的ライトな層も多い印象。そのような投資家には自分で利益の計算ができるシステムを提供していくべきだと決断した」(沼澤氏)

税理士から断られる投資家も多い

仮想通貨に精通した税理士によるサポートがあり、マイニングなど売買以外もカバーするGuardianと違い、G-taxでできることは限られている。対応する取引所も一部のみで、損益計算は自動でできるが計算結果の正確性を税理士が検証、保証するものではない。そのためG-taxで算出した結果をもとに税理士に相談することを推奨しているという。

「これまで個人的に税務相談を受けた人や、Guardianの応募者の約半数は税理士から『受けられない』と断られた人たち。税理士側も仮想通貨の知識が必要な上に、各取引所ごとにデータの形式が異なるため、相談されても対応できないのが現状」(沼澤氏)

正確な取引データを集めて損益計算をするという工程が特にハードルが高いため、そこに焦点をあてたサービスとしてG-taxのリリースに至った。一方のGuardianは主にG-taxでは対応できないユーザーに向けて引き続き提供。利用価格を減額するとともに、電話対応や節税提案なども含めた上位プラン「Guardian+顧問」も始める。

Aerial Partnersではまず仮想通貨に関する「税金」の問題に取り組みながら、今後はポートフォリオ管理や取引管理など税金以外の領域への拡張も目指していくという。