筆者はベンチャーキャピタリストではない。テレビでベンチャーキャピタリストを演じたりもしていない(頼まれればやるかもしれない)。筆者はTechCrunchの編集者として、またStrictlyVCという毎日のニュースレターを通して、あるいはそれ以前も多くのメディアで(雑誌『Red Herring』の初期を覚えている方はいるだろうか)、何年もスタートアップを担当してきて、目を引くスタートアップというものを見てきた。
筆者の興味をそそるものが、将来の成功要因になるとは言わない。優れたアイデアがあっても多くの場合、進んでお金を払う顧客たちを数多くを見つけることはできない。管理不足や不運、古き良き競争のために死んでいくスタートアップもある。筆者が紹介するのは、筆者や読者にもっと時間があったならリストアップしたであろう多くのスタートアップのうちの、ほんのわずかなサンプルにすぎない。
筆者はかなり若い企業に焦点を絞った。現時点ではほとんどがシードラウンドで、過去数カ月で資金調達について開示したスタートアップを選んだ(1社例外あり)。業界や市場はさまざまだ。
意図していないのだが、興味深いのは選んだスタートアップにベイエリアに拠点を置く会社が少なかったことだ。ベイエリアは多くの点ですばらしい地域だが、才能やアイデアに関して、以前の優位性を失いつつある。
筆者が選んだ10の優れたスタートアップは以下の通りだ。
Xilis
ノースカロライナ州ダーラムにあるXilis(ジリス)は12月19日、マイクロ流体オルガノイド技術の研究を続けるため、300万ドル(約3億3000万円)のシードラウンドを発表した。マイクロ流体オルガノイド技術とは何か。同社の技術により、単一のがんの生検から1万個の微小腫瘍を生成し、どのがん治療が患者に効果があるのか、またはないのかを検証し、その患者にとって最も効果的な治療法を発見する時間を短縮するという。果たしてその技術でがんを治すことができるのか。それは誰にもわからない。同社は腫瘍学者であるデューク大学教授が創業した。同社はすでに臨床試験で成功を収めているという。筆者の同僚のJonathan Shieber(ジョナサン・シーバー)がここで同社について書いた。
参考:より効果的ながん治療に向けXilisが微小な腫瘍の培養技術を開発中
Terradepth
Terradepth(テラデプス)は、テキサス州オースティンに本拠を置く創業16カ月の会社で、2人の元海軍SEALs(特殊部隊)隊員が創業した。自動潜水艦を使用して、Data-as-a-Serviceの形態で深海情報の提供を目指す。筆者は多くの業界で使用機会があると思っている。Terradepth(テラデプス)は、ハードウェア企業であるSeagate Technologyがリードしたラウンドで800万ドル(約8億7000万円)を調達したばかりで、多くの競合他社がいるが、筆者はこのアイデアが方向性として気に入っている。取り組む価値があると思う。海は地表の約70%を覆っているからだ。Darrell Etherington(ダレル・イサリントン)が12月中旬に書いた。
参考:深海調査のための自動運転深海艇を運用するTerradepthが約8.8億円を調達、創業者はNavy SEALs出身
Apostrophe
カリフォルニア州オークランドに本拠を置く8年目の皮膚科の遠隔医療のスタートアップ、Apostrophe(アポストロフィー)は、電話で処方や治療を受けることを可能にする。同社は、SignalFireがリードし、FJ Labsも参加したシードラウンドで今月初めに600万ドル(約6億5000万円)を調達したことを発表した。皮膚科の遠隔医療会社は少なくとも半ダースはある。筆者は、最も良い会社がどれか、などと知ったかぶりをするつもりはない。皮膚は人間にとって最大の臓器であり、成層圏オゾンの減少により地表に到達する紫外線が着実に増加しつつある中で、迅速かつ便利に皮膚の検査できるというのは理にかなっている。ところで、同社が具体的にどうお金を稼いでいるのか疑問に思う向きもあるだろう。同社には通信販売薬局もある。Jordan Crook(ジョーダン・クルック)がここで同社について書いている。
参考:スマホでニキビの診察や薬の処方を受けられるApostropheが約6.5億円を調達
Conservation Labs
ペンシルベニア州ピッツバーグを拠点とする創業3年半のスタートアップ。Conservation Labs(コンサベーション・ラボ)の技術は、建物のパイプから測定データを取得し、信号に変換して水流の推定値を計算し、水漏れを検出する。同社はAmazon Alexa Fundなどの投資家から、シードラウンドで170万ドル(約1億9000万円)を調達した。筆者は、世界やビルの所有者に貢献する点、そして産業の規模が非常に大きい点も良いと思う。同社自身も注目しているように、米国だけでも毎年3兆ガロン(11兆リットル)以上の水が失われており、それは金額にして700億ドル(7兆6000億円)に上る。
Aircam
人は虚栄心が強く、せっかちだ。その2つの観点から、非常に表層的なレベルではあるが、筆者は創業約2年のカリフォルニア州サンタモニカに拠点を置くスタートアップ、Aircam(エアカム)が好きだ。結婚式やパーティーなどのイベントでプロの写真家が撮った写真に誰でもすぐにアクセスできるようにする。創業者兄弟が前の会社をAppleに売却したことは、ある程度の信頼につながっている。同社はシードラウンドで650万ドル(約7億円)を調達した。ラウンドはUpfront Venturesがリードし、Comcast Venturesも参加した。Anthony Ha(アンソニー・ハ)が先月それについて書いた。
参考:イベント写真共有のAircamがシードラウンドで約7億円を調達
BuildOps
BuildOps(ビルドオプス)は、カリフォルニア州サンタモニカを拠点とする創業1年半のスタートアップで、商業不動産に関わる中小下請業者向けのフィールドサービスおよびビジネスプロセスソフトウェアプラットフォームのメーカー。この秋のクロージングを含めて2つのトランシェからなるシードラウンドで580万ドル(約6億3000万円)を調達した。BuildOpsは、商業不動産建設業界でシェアを奪おうとしている驚くべき数が存在するスタートアップの1つであり、米国だけでも業界規模は毎年数千億ドル(数十兆円)に上る。同社は参入プレーヤーがいない市場セグメントもターゲットにしている。多くの建築家、不動産所有者、大規模なゼネコンはすでに既存のソフトウェアパッケージを使っているが、ビルに関わる中小請負業者や下請業者は通常、個別にオペレーションを回している。そのため建物の所有者も同様に、同社のソフトウェアを使えば利便性が高まる可能性がある。このソフトウェアは全体像を提示するため、不必要な工程、コミュニケーションミス、それらに伴う無駄な費用を回避できる。Jonathan Shieber(ジョナサン・シーバー)が記事を書いた。
Medinas
Medinas(メディーナ)は、カリフォルニア州バークレーに本拠を置く創業2年のスタートアップで、再利用可能な医療機器のマーケットプレイスを目指す。現在は、通常、機器を扱う会社が昔ながらのやり方で販売予定の再利用可能機器をリストアップした上で、直接販売している。Medinaの方法は、何十もの医療センターと協力して、所有しているもの、必要なもの、捨てる必要があるものに分類し、機器の簡易検査から出荷、再度の据え付けまで、販売のあらゆる側面をカバーする。市場は驚くほど大きく、ある市場調査グループによるとその規模は約380億ドル(約4兆円)に上る。Crunchbase Newsが10月に同社について書いたように、筆者は同社が機器を必要とする発展途上国を支援していることも気に入っている。CTスキャナーがカンボジアに、人工呼吸器がインドに、除細動器がメキシコに送られる様子を想像して欲しい。同社は、数カ月前にNFXがリードしたシードラウンドで500万ドル(約5億円)を調達した。
Mable
ボストンに本拠を置く創業1年の卸売商取引プラットフォーム、Mable(メイブル)は、小さな食品小売店が地元のブランドや新興ブランドを店の棚に置けるよう支援しようとしている。古臭く、つまらないビジネスに聞こえるが、ビジネスチャンスは豊富であり、創業者のArik Keller(アリック・ケラー)氏の見込みも同じだ。同氏の前の会社はFacebookに買収された。小規模から中規模の食料品店、ブランド、流通業者は、約15万の独立系の食料品店およびコンビニエンスストアで構成される6500億ドル(約71兆円)の市場の一部だ。中小食料品店のほとんどは、電話、メール、テキストメッセージで商品を仕入れて、棚に在庫を補充している。ケラー氏は元PayPalのプロダクトディレクターで、後に食料品店を買収した。同氏は、中小食料品店のオーナーらに、仕入れ管理に役立つモバイルアプリを使うよう説得できれば、彼らの生活をより楽にし、Amazon(アマゾン)やWalmart(ウォルマート)などの大企業などに対抗する力を高めることができると考えた。Mableの収益に関して言うと、一部の食料品店は同社のサービスに対して月額料金を支払う。それ以外の場合、新しい専門食品会社などのブランドから手数料を得て、新しい店舗への進出を支援している。同社はこれまでシードで310万ドル(約3億4000万円)を調達した。
Phylagen
サンフランシスコに拠点を置く創業4年半になるデータ分析のスタートアップ、Phylagen(フィラゲン)は、食品から繊維、偽造品まで、あらゆるものの微生物マップを作成して、モノの由来を判定する。基本的な考え方は、モノの「DNAの足跡」を探り当てること。製品(およびパッケージ)に付着する細菌、真菌、花粉の固有の組み合わせを意味する。同社が狙う市場機会は大きくかつ成長している。Allied Market Researchによると、来年までに食品トレーサビリティ市場だけで140億ドル(約1兆5000億円)の市場になるとの見込みだ。注目に値するのは、同社の資金調達の「旅」が少し進んでいることだ。CultivianSandbox、Breakout Ventures、Working Capitalなどが参加した今年初めのシリーズAを1400万ドル(約15億円)で完了した。
Bunch
サンフランシスコに拠点を置く創業2年半のスタートアップ、Bunch(バンチ)が開発したアプリは、ダウンロードすると、モバイルゲームをしている友人とオーディオチャットやビデオチャットができる。一見すると、「軽い」アイデアだと思うかもしれない。例えば、合成ポリマーから血管シーラントを開発しており、資金調達が進捗を見せているTissium(こちらもかなりきちんとした会社だ)と比べて欲しい。だが、人と人とのつながりが希薄になりつつある現代社会で、このアプリは娯楽だけでなく健康の観点からも幅広い魅力を持つ。社会的つながりが寿命を伸ばすことを示す研究は後を絶たない。Bunch(バンチ)が、Supercell、Tencent、Riot Games、Miniclip、Colopl Nextなどのトップゲームメーカーから11月のシードラウンドで385万ドル(約4億2000万円)を調達したことにも大きな意味がある。というのも、具体的には今回のラウンドの参加企業は、同社を競争相手とみなしているのではなく提携相手と考えているからだ(筆者はそう思っている)。Jordan Crook(ジョーダン・クルック)がこれについても書いている。
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(翻訳:Mizoguchi)