1960年代に一躍お茶の間の人気者となった「鉄腕アトム」。そんな彼が2017年、家庭用のコミュニケーションロボットとして僕たちの元にもう一度帰ってきた。
2017年2月、鉄腕アトムをAIを搭載した小型のロボットとして復活させる「ATOMプロジェクト」が始動した。このプロジェクト参加企業は全部で5社。講談社、手塚プロダクション、NTTドコモ、富士ソフト、VAIOだ。
ATOMプロジェクトでは、読者が全70号の分冊百科(パートワーク、週刊や隔週刊で特定のテーマについて刊行する出版物)「週刊鉄腕アトムを作ろう!」に付属するパーツを組み立て、AIを搭載した鉄腕アトム型の家庭用コミュニケーションロボット(以下、アトム)を完成させる。最新号となる第6号の価格は1843円だ。
TechCrunch Japanでは、プロジェクトの全体プロデュースを担当する講談社に取材。実機を前に、開発背景やビジネス観点から捉えたATOMプロジェクトについて話を聞いた。
40以上の機能、顔認識も
アトムには、VAIOが開発したメインボードが積み込まれ、その中に富士ソフトが製作したAI(フロントエンド。バックエンドのクラウドAIはドコモが担当)が搭載されている。メインボードは機体の動作を担当していて、いわゆる頭脳の役割を果たすのはRaspberry Piのようだ。富士ソフトはこれまでにも、高齢者施設などで実績のあるコミュニケーションロボット「PALRO(パルロ)」を開発していて、そこで培ったAI技術をアトムに応用している。
アトムがもつコミュニケーション機能は40種類以上。その中でも面白そうなものを以下に紹介しよう。
- スケジュールを伝える:Googleカレンダーと連携してスケジュールを伝える
- 個人登録:12人までの顔と名前を覚えて”友だち”として認識する
- 伝言を伝える:顔認識システムで”友だち”として認識されたユーザー間で、伝言を伝える
- アニメを再生する:胸部に搭載された液晶ディスプレイでアニメ「鉄腕アトム」を観ることができる
- 年齢当てゲーム:目の前にいるユーザーの年齢を当てる
- レシピを教えてくれる:レシピメディア「Spooonn!」と連携。液晶ディスプレイでおすすめレシピ動画を見られる。
今回の取材では「年齢当てゲーム」を実際にやってみた。会話にかかる時間だとか、アトムと実際にコミュニケーションしている様子を観察してみてほしい。
僕は26歳なのだけれど、アトムには35歳と言われてしまった(女性がいる飲み会などにはちょっと連れて行きづらいよね)。
アトムをプラットフォームに
前述したように、ATOMプロジェクトでは完成品のロボットを販売するのではなく、毎週パーツを組み立てるパートワーク方式が採用されている。デアゴスティーニでお馴染みの販売方法だ。この理由として、講談社でATOMプロジェクトリーダーを務める奈良原敦子氏は、「ATOMプロジェクトでは、単にロボットを販売するだけでなく、ロボットを読者との接点として捉えた事業構築までを目標としている。そのため、一定規模のユーザーをいち早く獲得できるパートワーク方式を取り入れた」と話している。
創刊から1ヶ月が経過した現在、売上ベースで10億円を突破しているというから、この選択は正しかったのかもしれない。奈良原氏によれば、読者の大半は「50代以上で、可処分所得が高く、AIなどに対する知的好奇心が高い人々」だそうだ。本格的なコミュニケーションロボットになると価格が20万円〜30万円のものもあるが、このアトムの場合、ロボットを”70回の分割払い”で買えることも読者を惹きつけた要因の1つなのかもしれない。
でも、パートワーク方式の一番の問題といえば、読者が途中で飽きてしまって最後まで購読を継続できないこと。僕自身、過去に3回ほどデアゴスティーニにトライして、そのいずれも失敗している。
奈良原氏によれば、ATOMプロジェクトでは読者を飽きさせないための対策として、「全国のドコモショップなどで、実際にロボットと触れ合えるスペースを増やしていく。このようなプロダクトは実際に触れ合ってもらうことが重要だ」と話している。
その一環として、「ドコモスマートフォンラウンジ名古屋」では4月3日から体験型のブースが設けられており、このような展示スペースは今後首都圏にも拡大していく予定だという。また、同じく講談社でATOMプロジェクトチームに所属する伊藤穰氏は、「3ヶ月ごとに興味のピークをつくるイメージで、イベントなども定期的に開催していきたい」と語る。
すべてのパーツを読者に届け、アトムが完成したあとは、アトムを一種のプラットフォームとして事業を深堀していく計画だと奈良原氏は話す。オンラインで機能のアップデートを重ね月額利用料金でマネタイズしていくほか、完成品の販売も予定しているという。このアトムは空を飛ぶわけではないけれど、彼がこれからどう進化していくのかは興味深いところだ。