カリフォルニア州Mountain Viewの彼のアパートから電話に出たAtomwiseの協同ファウンダAlex Levyは、“医者や薬屋に行かなくても、自分の家で、はしかの治し方が分かるんだよ”、と言った。
Y Combinatorの今の‘在学生’であるAtomwiseは昨年、一般的によくある疾患や、希少疾患の治療法を見つけるためのプロジェクトを10以上ローンチした。いずれも、治療に費用や時間がかかりすぎる病気だ。同社はエボラ出血熱ではIBMと協働し、はしかの治療法ではカナダのダルハウジー大学と共同研究をした。Levyによると、同社は、多発性硬化症の治療薬候補を見つけるために、わずか数日で820万種の化合物を調べた。
一般的に、新薬を開発して市場に出すまでには平均12年の年月と約29億ドルの費用を要する。開発される薬のうち、めでたく家庭の薬棚に収まるのは、ごくわずかだ(治験にまで行くのは5000件の研究開発案件のうち、わずか1つ)。
まだ存在しない仮説的な薬を調べることもできる。
—-Atomwise協同ファウンダAlex Levy
Atomwiseは、スーパーコンピュータと人工知能と、何百万もの分子構造を調べる特殊なアルゴリズムを使って、新薬発見のローコスト化を実現しようとしている。
“それはまるで超人の脳みたいに、何百万もの分子を分析してそれらの作用を、数年ではなく数日で調べる”、とLevyは言う。その仮想薬物発見プラットホームは、ディープラーニングを行うニューラルネットワークがベースだ。それは、既存の薬の分子構造と作用に関する何百万ものデータポイントを自分で学習するところから、仕事を開始する。
Atomwiseが使っているディープラーニング技術は、GoogleのDeepMindと同じようなタイプだが、応用の対象が医薬品という重要な分野だ。症状と治療薬のペアを見つけていくこの技術は、理論的にはまだ存在しない、今後ありえるかもしれない病気の治療薬を見つけて、何百万もの命を救うかもしれない。
“まだ存在すらしていない仮説的な薬を調べることもできる”。とLevyは言う。“新しいウィルスが登場すると、Atomwiseはその弱点を見つけて仮説的な治療法を素早く特定し、テストできる”。
また、現在市場に出回っている薬の化学構造をあらためて調べて、既存の疾患の治療可能性を見出すこともある。Atomwiseは今、FDAに承認され市場に出回っている薬の分子構造を調べて、エボラ治療薬の候補を見つけようとしている。
[写真: 細胞上で増殖するエボラウィルス]
今、多くの医療専門家たちが、今後20年で抗生物質耐性菌が急増して、あらゆる抗生物質が効かなくなり、巨大な医療危機をもたらす、と警告している。Atomwiseのスーパーコンピュータは、そんな手強い菌にも効く薬を見つけるかもしれない。
Atomiseが見つけた化合物がいきなり家庭の薬棚にやってくるわけではないが、しかし大量の分子構造を調べて候補を見つけるという作業を、コンピュータが短時間でやってくれることは、ありがたい。原理的には人間研究者は、そのあと、つまり候補物質を調べるという作業だけをやればいいから、新薬発見〜市場化に要する時間も短縮されるはずだ。
ただしAtomwiseはまだ若い企業で、治験にまで行った薬はまだ一つもない。製薬業界にとっては、大助かりな技術と思えるけど。
“もちろん試験は必要だけど、そこに至りつくまでの推量的作業を、すべてうちが代行できる”、とLevyは言っている。
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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa)