成長が続くフィンテック向けソフトのCanopyも2021年上半期に顧客数が4.5倍に

Canopy Servicing(キャノピー・サービシング)は米国時間8月9日、1500万ドル(約16億5000万円)のシリーズAをクローズしたと発表した。このスタートアップは、フィンテックなどにソフトウェアを販売し、その顧客がローンプログラムを作成したり、その結果得られたプロダクトを提供できるようにしている。

同社は2020年に350万ドル(約3億8500万円)のシードラウンドを実施した。シリーズAはCanaanがリードし、Homebrew、Foundation、BoxGroupなどが参加した。Canopyによると、バリュエーションはシードラウンドからシリーズAにかけて5倍になった。

同社は現在までに1850万ドル(約20億3500万円)を調達している。

この記事のここまでは、新しいスタートアップの資金調達ラウンドを発表する他の記事とよく似ている。そういう記事は、ラウンドそのものや、誰が取引に関わったのかといった一連の情報で始まる。となると、次に来るのは、競合他社や成長率、最近の買収についての投資家のコメントなどだ。だがこの記事では、フィンテックの未来と、未来の金融テクノロジーの階層というものの形について、少し考えてみたい。

TechCrunchは8月2日の週に、CanopyのCEOであるMatt Bivons(マット・ビボンズ)氏と話した。同氏はフィンテックがどこに向かうのかについて興味深い見解を持っている。それについて議論し、Canopyが何をしているのかを見ていきたい。

キャノピー

多くのスタートアップと同様、Canopyも「かゆいところに手が届く」ことを目指して設立された。ビボンズ氏は、前職でローンの回収に関する問題に直面した。そして、学生向けのクレジットカードを作ることを目指すスタートアップを創業。だが、同氏と共同創業者のWill Hanson(ウィル・ハンソン)氏は、そのプロジェクトを経て、B2Bに特化したローン回収テクノロジーの開発へと会社の軸足を移した。

この決断の背景には、Canopyのスタッフが行った市場調査により、多くのフィンテックスタートアップがクレジット市場への参入を検討していることが明らかになったことがある。フィンテックスタートアップにとってクレジット商品は、当座預金や普通預金よりも経済性の面ではるかに魅力的だからだ。Canopyは、ローンの回収管理が大変なことを知っていたため、それに注力することにした。

ビボンズ氏は、Canopyをローン回収業務のための最新のAPIと位置づけ、ライフサイクルのどの時点でもローンの作成と管理ができるようにした。同氏は、このスタートアップが行っていることは、フィンテックの世界の一部を開発者向けに改良するという、いくつかの成功したフィンテック企業が実行したことと似ていると指摘する。

ここで、フィンテック製品の未来についてのビボンズ氏の見解が登場する。同氏によると、企業は将来、金融テクノロジーのすべてのレイヤーを一枚岩として購入することはない。そうではなく、フィンテック世界の各層を実装する必要がある場合、各々に最適なAPIを買うことになるだろうと同氏は考えている。この点が重要なのは、Canopyがあまりにも小さな製品分野をターゲットにしていると言えるからだ。その市場が大きくないわけではない。債務とその回収は課題がある巨大な領域だ。しかし、企業がニッチな分野に集中することが意味を持つのは、その企業のリーダーが、ある分野に特化したフィンテック製品が大規模なサービスの束に勝てると見込んでいる場合だ。

また、ビボンズ氏は、過去5年間のフィンテックの多くはデビットカードに注目しており、その例としてChime、Step、Greenlightを挙げた。次の10年は、クレジット商品が注目されるだろうと話す。それは、Canopyにとっても朗報だろう。

Canopyの共同創業者ら。CTOのウィル・ハンソン氏(左)とCEOのマット・ビボンズ氏(右)

重要な点として、金融オタク向けでもあるが、ビボンズ氏はTechCrunchに対し、同社のローン回収テクノロジーは同社が信用リスクを負う必要がなく、約90%の粗利益率を確保していると語った。筆者はあまりに四捨五入された数字を信用しないが、この数字はCanopyが開発したものが魅力的なビジネスに成長する可能性を示している。

同社は現在、従来型のSaaSを提供しているが、ビボンズ氏によると、いずれは利用量に応じた価格設定に移行したいと考えているようだ。同社のサービスの現在の形態は、1アカウントあたり月額約50セント(約55円)、年間約6ドル(約660円)だ。同社の顧客の約40%は、シードおよびシリーズA規模のスタートアップ企業だが、ビボンズ氏は、時間をかけて顧客規模のグラフの上の方へ移動していると話した。

その結果としての成長には目を見張るものがある。2021年2〜5月にかけ、Canopyの顧客数は4.5倍に増加した。もちろん若い会社だから、年初時点では全体の顧客数が大きい数ではなかったかもしれない。しかし、このような成長は、投資家が腰を上げて注目するようなものであり、したがって同社のシリーズAに驚きはないと言える。

フィンテックの成長はそれほど鈍化しているようには見えないため、Canopyが売っているものの市場は拡大するはずだ。最高峰の、よりこだわりのあるフィンテック製品が、厚い層をもつ製品を市場で打ち負かすことができるという同社の見解に基づけば、同社は興味深い軌跡を歩むことができるだろう。そして、シリーズAで資金を調達したことで、今後の成長に関しては、より具体的な問題で悩むことになるはずだ。

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カテゴリー:フィンテック
タグ:Canopy Servicing資金調達

画像クレジット:Chan2545 / Getty Images

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Nariko Mizoguchi