年内にも心停止者の救命1号が出る―「コエイド」はハッカソンから生まれた救命サービス

読者のうち、駅なんかに置いてあるAEDの使い方が分かる人はどのくらいいるだろうか? あの心臓停止時の急病人に電気ショックを与えて蘇生するやつだ。ドラマでは見たことがある。映画でも見た。でも、本当のところ先進国のどこであっても、あれはほとんど役立っていない。

日本国内だけで心停止で年間約7万人が亡くなっている。1日200人だ。救急車が到着するまでの平均8.5分の間に手遅れになる。そもそも心停止と判断するのが難しいうえに、救急車を呼ぶ一般の人の多くはAEDの知識がない。そのうえAEDがどこにあるかすら分からない。

この問題に正面から切り込んで突破しようとしているのが、まだ東京で走りだしたばかりのスタートアップ企業の「Coaido」(コエイド)だ。

coaido

コエイドは、心停止に陥った患者の近くにいる消防士や医療関係者などにスマホアプリで通知して、救急車が到着するまでに心肺蘇生を試みるという枠組みを作った。心停止患者が発生して周囲の誰かが119番通報をしたとき、消防指令センターとの対話の中で心停止が疑われる場合にのみ、コエイドのシステムが稼働する。消防指令センターから「駆け付け要請」を受け取るのは、心肺蘇生の訓練を受けている消防士や医療関係者だ。最寄りのAEDを搬送する人と、蘇生に駆け付ける人が、それぞれスマホの地図上で患者とAEDの位置を確認できる。

この秋にもテストケースとして愛知県の自治体へ実際に導入する。テストケースとはいえリアルな環境で運用するので、早ければ10月にもコエイドがなければ失われただろう命が救われることになりそうだ。統計的に言って、今回対象となる自治体だけで1カ月に7〜8人程度の心停止患者が発生することになるという。

突発的な心停止患者のうち、救急車のみの駆けつけて心肺蘇生が行われないのが全体の約半分。この場合の救命率はわずか8.8%だ。心肺蘇生を行った場合は12.2%で、AEDも併用した場合は救命率が50%程度になるという。ただ、AEDを使った救命措置がとられるのは全体の3.5%に過ぎず、この比率を上げるのがコエイドの狙いだ。

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患者、AEDの位置を近隣にいる消防士や医療関係者のスマホに通知

コエイドの利用者は、すでに消防や救急医療の現場にいる人たちだけだ。このプロジェクトを開始した当初はAEDが必要なときにSOSを受発信できる一般向けアプリを作っていたが、自治体向けにシステムを販売するモデルにピボット。心停止患者が発生して周囲の誰かが119番通報をしたとき、消防指令センターとの対話の中で心停止が疑われる場合にのみ、コエイドのシステムが稼働する。消防指令センターから「駆け付け要請」を受け取るのは、心肺蘇生の訓練を受けている消防士や医療関係者だ。最寄りのAEDを搬送する人と、蘇生に駆け付ける人が、それぞれスマホの地図上で患者とAEDの位置を確認できる。

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ちなみに、心停止というのは文字通り心臓が止まったり、拍動が極端に悪くなること。年齢が上がるほど発生率は上がるものの、健康の若者や子どもでも突然なることがあるという。若い人では運動中の発症が多く、ボールが胸に強く当たるなどした場合に心停止になる例があるそうだ。

800自治体がターゲット、資金調達も視野に

コエイド創業者でCEOの玄正慎氏によれば、当初この問題に取り組み始めたとき、AEDの設置場所のデータは自治体ごとにデータ項目やファイル形式などがバラバラで、データに大きな問題があることに気づいた。そこでまず、厚労省やメーカー、AED設置事業者などを巻き込んで、全国のAED設置場所のデータの整備を開始、6月にマップ化して公開した。これを元に現在サービスの全国展開を視野にテスト運用を始めるところにこぎ着けたのだという。全国に800ほどある市以上の自治体への導入を進める予定だといい、救命患者の事例が出てくれば資金調達へ向けて動くのだという。

ビジネスモデルは自治体からの委託料として、1自治体あたり年間数百万円という収益を見込む。一方で、もっと根本的な問題にも「手当て」が必要だと玄正CEOは言う。例えば、緊急患者を見てみぬふりをしてしまう医療サービス従事者や医者がいるが、これは訴訟リスクを恐れてのこと。でも本当は状況に応じて救急医療における結果がマイナスであっても免責とするような法制度の改正が必要ではないかという。GPSや高性能な地図、プッシュ通知を搭載したスマホが出てきて新しい救命医療サービスが実現するなら、法律のほうも変えていく必要があるということだろう。

もう1つ、そもそもAEDというインフラは受益者負担になっておらず、設置者(例えば交通機関の事業者)がメンテナンスも含めたコストを負担しているといい、ここも変えていけるのではないかと玄正CEOは考えているそうだ。コエイドがなければ失われた命が出てくるとして、それにいくらなら支払いますかという風な問いを考えてみよう。コエイドの「利用者」の絶対数は、チャットアプリなんかの7、8桁くらい少なそうだけど、救われる心停止1件当たりの価値も7、8桁円ということになるのではないだろうか。とすれば、もし数万円という単位であっても受益者負担に切り替えるのも無理ではだろう。そうなれば救命サービスのインフラを変えていくことができるかもしれない。

実はハッカソン出身のコエイド

ところで、ぼくがコエイドについて玄正CEOに話を聞いたのは昨日の8月30日のこと。リクルートが運営する渋谷の「TECH LAB PAAK」で、TechCrunch Japan編集長として第1期生のデモデイで審査員をした場でのことだ。22チーム(人)が半年間の成果を発表した中で、コエイドはオーディエンス賞を受賞したほか、ぼくはTechCrunch Japan賞をお贈りした。

実はコエイドのようなビジネスは投資家受けしないものとぼくは思っていた。でも、デモデイに来ていた渋谷・六本木系のVC数名に雑談で話を聞いたところ評判も良いようだった。自治体への導入が見えるのなら、バリュエーションも計算しやすいということかもしれない。

ぼくの目には、コエイドはハッカソンから生まれてきた数少ない本格的なスタートアップ企業というふうに見える。玄正CEOは、実はTechCrunch Japanが過去に主催したハッカソンに参加したことがあるそうで、その後はMashup Awardsに参加し、クラウドファンディングのREADYFORでのキャンペーン成功を経て今に至っているという。ハッカソンの「作品」と、スタートアップ企業の間には埋めがたい溝があると思うのだが、そこを突破してきたという点や、霞が関や自治体を巻き込んで、インフラに関わる新しい試みを運用段階に持っていくスピード感が目を引く。

方向性模索中の起業家から、研究系プロダクト、黒字化済みスタートアップまで

さて、TECH LAB PAAKのデモデイは、このオープンしてまだ半年ほどの施設の成果が問われる日でもあったわけだけど、どういうチーム(人)が出ていたかについても簡単に触れておきたい。

いわゆるインキュベーション施設やコワーキングスペースと違って、「ITクリエーターのための、出会いとイノベーションの場」と銘打っているだけあって、デモデイの発表は多様だった。ちょっとした遊び心から始めたハックの延長という作品や、ガチの研究バックグラウンドの人が取り組むアカデミックな香りのあるプロジェクト、メディア・アートぽいものがあった。一方では、もう黒字化してB向けビジネスで地歩を築いているDeployGateのようなものもあった。まだまだ何をすべきか模索中で発表できるプロダクトがないという若い起業家もいたが、さまざまなバックグラウンドを持った、異なるステージにいる人たちが混ざって刺激を受け合っているというコメントが多かった。

TechCrunch視点で気になったプロジェクト(プロダクト)を順に紹介しよう。

・Chef’s hippocampus

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東京大学のYuta Kita氏のChef’s hippocampusと名付けられたプロジェクトは「コンピューターでレシピを作る」というもの。多様な食材についてレシピサイトから得た情報を元に関係性を解析。ある2つの食材について「何ホップで繋がるかを見ると食材の相性が分かる」という仮説から入り、食材ごとの距離と分散をマップする。分散は、標準偏差いくつ分かということで、その食材の組み合わせの出現頻度ということだ。

すると、ニンジンとじゃがいものように自明に相性が良く、あらゆる料理を通して使われる「つまらない」組み合わせだけでなく、「組み合わせとしては珍しいけど、味としては安定しているもの」というのが発見できるのだという。こうして出てきた新しいレシピは、例えば、エビとオレンジとカシューナッツという組み合わせ。だいぶ珍しいが、この組み合わせにチーズを入れると、うまいブレンドになる。なぜなら、エビとチーズはリゾットで、オレンジとチーズはスイーツで一緒に使われることがあり、チーズがコネクターのような役割をしているからなんだとか。Kita氏によれば、実際にこの組み合わせは美味しいそうだ。

これは料理だけではなく、素材と組み合わせによってクリエイティビティを発揮するような応用、たとえばファッションでも有効かもしれないという。たとえば、着こなしに中華系のアクセントを入れたいというときに「コネクター」となるアイテムが発見できるのではないか、という。

ジャンルを問わず適用可能性があることから、アルゴリズムの部分だけ独立したライブラリとしてRubyのGem「avsd」として公開しているそうだ。

Chef’s hippocampusは、審査員の1人だったフランス系アメリカ人のベンチャーキャピタリスト、マーク・ビベンズ氏がTruffle Capital賞を贈っていた。料理が本質的にグローバルであることと、フュージョン料理が世界各地で興隆していることなんかも評価の対象だったようだ。

・filme

コトコトが提供する「filme」(フィルミー)は、こどもの動画を自動編集してDVDにもできるスマホアプリだ。すでにアプリを提供していて、ユーザー評価は4点と高いそう。数十秒程度の動画を20日分撮りためると、そこから「成長シネマ」を自動作成する。自動作成部分はプログラムで行っていて人手をまったく必要としないという。Google Photoでも動画の自動編集はやってくれるが、違いは子どもの成長に特化していること。例えば子どもの表情をあえて静止画のように切り出すなど素材を活かした編集を施すそうだ。DVDの購入率(購入機会獲得者に対する直近3カ月平均)も52%と高いという。ちなみに、DVD購入は「孫の成長を祖父母に見せたい」という現役パパ・ママ世代のニーズかと思ったのだけど、案外そうではなく、パパ・ママ世代が買っているという。

・GIFMAGAZINE

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GIFMAGAZINE」は日本語のGIFデータベースで、現在5万作品の投稿があり、4200万PVに成長しているという。「渋谷っぽくないメンバーがアキバでやっている」といい、ネット好きが遊んでいるサイトと自分たちのサイトを大野謙介CEOは紹介する。GIFアニメといえば、アメリカでGiphyが有名だが、「Giphyにも負けてない」という。GIFアニメというと日本だと特殊なフォーマット、あるいは消え行くフォーマットと見られているかもしれないが、GIFMAGAZINEはGIFそのものにこだわっているわけではないという。その本質は「短い、ループ、クリックレス」。この3つはモバイルに適していて、それが今はたまたまGIFアニメなだけで、今後はGIFにこだわらずに取り組んでいくという。

・Linkum

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「Linkum」は、映画や音楽などで2つの作品の組み合わせを作ってレビューできる、新しい切り口のレビューサービス。Linkumチームの2人は「オタク」だそうで、自分たちの会話が、「早稲田松竹の2本立てがめっちゃいいよね」などと作品を比較して話すことが多いことから思いついたサービスだそう。例えば、マッドマックスの前作は北斗の拳をベースにしている、などということから、こうしたオタクなレビュー会話により、「人工知能にできないリコメンドができるようになる」のだという。今のところシンプルに2作品の関連と自然言語のレビューをRDMSに入れる実装になっているという。今後は「発掘型」とか「うんちく型」のレコメンドもできるのかもしれない。

・VISTouch

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VISTouchはMashup Awards出身のプロジェクトで、普段は神奈川工科大学で助教をやっている安本匡佑氏の研究だ。VISTouchは導電体のケースをiPodに取り付けて、それをiPad上に置くことで、iPad上にある3次元映像の断面を見ることができるという不思議な3次元視覚化のハックだ。例えば、iPadでGoogle Mapsを表示しておいて、そのiPad上をiPodを立てて動かすと、ストリートビューが見れる。ちゃんと方向や場所を認識するので、iPodが仮想的な3次元空間をのぞく「窓」のような感じに見える。安本氏は「これなら、ストリートビューでも、自分が地図のどこを見てるか分からなくなってくるという問題がない」という。医療向けであれば、点群をiPad上に仮想的に設定して、CTスキャンのどこでも断面が見ることができるようにして患者に見せるという応用もあるのではないかという。

このほかの発表のあったデモで非公開以外のものとしては、

・視覚も聴覚にも障害のある「盲ろう者」向けの指点字による伝達システム「Hand in Hand」
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・視覚情報を音に変換するヘッドホン型デバイスの「sight」

・Bitcoin取引所、ウォレット、決済サービスの「Coincheck」(直近の月間取り引き高は3億5000万円だそう)
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・イギリスに比べて「50年は遅れている」という出生前医療の情報提供とメンタルケアのためのピアサポートSNSアプリ

・JavaScriptで簡単に制御できて、例えばネット越しでのGoProのパンに使えるネット接続前提のモーターガジェット「Webmo」
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・iPhoneを頭に装着し、表示する色に応じて追っかけたり追っかけられたりする新しい鬼ごっこ「Twinkrun
・手が触れると音楽が作れる、メディア・アートのような「T★L Perc

などがあった。