テクノロジーとプライバシーの保護をめぐる話題が沸騰を続けている。そこで、ユーザーを追跡しないことでかねてから評価の高い検索エンジンのDuckDuckGo(DDG)がこのほど、2020年末に既存および新たな投資家の混成グループから、主に「二次的投資」で1億ドル(約110億円)あまりのバランスシートの底上げを達成したことを明らかにした。
同社のブログで名が挙がっている投資家はOmers Ventures、Thrive、GP Bullhound、Impact America Fund、そしてWhatsAppの創業者Brian Acton(ブライアン・アクトン)氏、「world wide web」を発明したTim Berners-Lee(ティム・バーナーズ=リー)氏、VCでダイバーシティの活動家Freada Kapor Klein(フレーダ・ケイパー・クライン)氏、そして起業家のMitch Kapor(ミッチ・ケイパー)氏などだ。そうそうたる顔ぶれである。
DuckDuckGoによると、二次的投資であることによって、初期の社員や投資家の一部がその財務状態を強化するとともに、株式の一部を現金化できた。
しかし同社はこうも言っている。すなわち2014年以降ずっと利益が出ている同社は「繁昌」しており、1億ドル以上の年商を各年に報告している。したがって今同社は、外部投資家の鍋で煮られ続ける必要がない。
同社の最後のVCからの調達は2018年で、それは、Omers Venturesからしつこく迫られた1000万ドル(約11億円)のラウンドだった。Omersは、今そのい金があれば目標とする成長、とりわけ国際化を達成できる、と口説いた。
DDGには、他にも発表すべき数値がある。同社によると、そのアプリは過去12カ月で5000万回以上ダウンロードされた。それまでのすべての年を合わせたよりも多い。
また月間の検索トラフィックは55%増加し、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど一部の国ではモバイルの検索エンジンのナンバー2の地位を獲得した(StatCounter/Wikipediaによる)。
上のデータは「我々はユーザーを追跡しないのでその数を挙げることはできないが、マーケットシェアの推計とダウンロード数および各国のアンケート調査などによるとDuckDuckGoのユーザーは7000万から1億と思われる」、と言っている。
ヨーロッパでは、GoogleのAndroid選択画面の変更が迫っている。そこでは、規制当局からの強制により、Googleは同社のOSが動くモバイルデバイスのユーザーに、彼らがデフォルトの検索エンジンを設定するとき競合他社の製品も提示しなければならない。これによってDuckDuckGoの各地での運は、大吉に向かうと思われる。
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Googleは、他の検索エンジン企業が、自分がAndroidの選択画面に表示される権利をオークションへの入札で買うという悪習をやめる予定だから、プライバシーなど独自の価値命題を持つライバルで、しかもDuckDuckGoのようにブランド知名度もある企業には、Googleのマーケットシェアを奪うチャンスだ。
DuckDuckGoはブログで、ヨーロッパやその他の地域でマーケティング活動を強化すると確約している。
そのブログ記事は「また弊社の好調なビジネスは弊社に、今すぐにでも使える、オンラインのプライバシーのためのシンプルなソリューションがあることを多くの人びとに伝えるためのリソースを与えている。2021年5月は弊社は、全米の屋外広告やラジオ、テレビなどの広告を駆使し、175の大都市圏でこのことを宣伝してきた。ヨーロッパや世界中のその他の国にも、この努力を広げていきたい」と述べている。
……なのでDDGの二次資金の多くの部分が、同社のグロースマーケティングに投じられるだろう。同社は今、オンラインのプライバシーや、ユーザー追跡、そして長年のデータスキャンダルを背景とする、まるで自分のことが知られているかのような気持ち悪い広告に対する人びとの関心が盛り上がっている今を、好機として利用したいのだ。
Appleが最近iOSユーザーにサードパーティのアプリ追跡とそれを無効にする方法を教えるようになったことも、これらの問題への一般大衆の気がかりを高めている。Appleは下の例のような、Apple自身の良く出来た広告によって、人びとの関心を惹こうとしている。
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シンプルで説得力のあるマーケティングメッセージでプライバシーを語ることは容易ではない、と言っても過言ではないだろう。それを考えると今のプライバシー技術は使いやすさとアクセシビリティーの両方でかなり進歩した、と言ってよい。
というわけでDuckDuckGoのビジネスは確かに、ウェブの進化における現在の重大局面にぴったりはまっているようにも見える。同社のブログは「シンプルなプライバシー保護を言い表す代名詞のようなものになりたい」と言っている。ということは、もはや対象はニッチではなく全世界だ。
「あまりにも長く、オンラインのプライバシーに関する議論は懐疑論者たちが支配してきた。もちろんプライバシーは気になるが、でも彼らには何もできないと。今こそ、この悪質な定説を葬り去るべきだ」、とDDGのブログは言っている。
プライバシー追究歴13年のこのベテラン企業には、今後の製品の計画もいろいろある。
同社はすでに2018年に追跡ブロックを検索エンジンに導入したが、今後の計画では、もっと総合的なプライバシー保護機能「何でもありのプライバシー集大成」を展開したい。そこには検索とは一見無縁なメール用の保護ツールもあり、数週間後にベータでローンチできる。そしてそれは「新しい受信トレイを作らなくてもプライバシーを強化できる」そうだ。
ブログ記事はさらに続く。「この夏の終わりごろには、アプリのトラッカーブロックがAndroidデバイスでベータで使えるようになる。ユーザーはアプリトラッカーをブロックできるようになり、自分のデバイスの楽屋裏で起きていることへの透明性が増す。そして年内には、今のモバイルアプリの完全に新しいデスクトップバージョンをリリースする。それはメインのブラウザーとしても使えるもので、我々のシンプルでシームレスな総合的プライバシー機能により、弊社のプロダクトのビジョンである『シンプルになったプライバシー』を現実にしたい」。
それは、今私たちが目にしているプライバシー技術の、もう1つのトレンドだ。検索エンジンなら検索エンジンという特定の一種類のツールで、注意深く、信頼を損なわないようにして堅固な評判を構築してきた者が、ユーザーの成長とともに、さまざまなアプリを取り揃え、完全に総合的なプライバシー保護システムを提供していく。
たとえばメールアプリのProtonMailはプライバシー企業Protonに姿を変えて、エンド・ツー・エンドの暗号化メールだけでなく、クラウドストレージやカレンダー、それにVPNまで揃えて、それらすべてが同社のプライバシー重視の傘の下に整然と収まっている。
プライバシー技術は今後ますます開発が加速度的に進み、これまでのついでの技術からメインストリームの技術へと変貌を遂げるだろう。
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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:DuckDuckGo、アプリ、プライバシー、検索エンジン
画像クレジット:Frank Vassen/Flickr CC BY 2.0のライセンスによる
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(文:Natasha Lomas、翻訳:Hiroshi Iwatani)