不動産テックスタートアップのestieは9月3日、デベロッパーや不動産機関投資家の投資・運用業務をサポートする新サービス「estie pro(エスティプロ)」を正式リリースした。
estie proが解決するのは不動産ファンドやデペロッパーといったプロの不動産投資家が行なっている物件の調査や分析に関する課題だ。
通常プロ投資家が担う商用不動産への投資はワンショットあたり数十億〜数百億円規模、時には数千億円に上るため綿密な分析が求められる。全く同じ物件は存在しないので、周辺物件やスペックの近い他エリアの物件を選定して地道に賃貸取引事例や売買取引事例を調査するのだけれど、そもそもこの選定作業だけでも骨の折れる仕事なのだという。
estie代表取締役の平井瑛氏によると現状は不動産ブローカーにヒアリングして「ブローカーズオピニオン」を取得する手法がよく使われているのだそう。ただし有益な情報を得るには事前に基礎情報を押さえておくことが必須な上に、各ブローカーは自らの体験ベースで話をするため、担当者によっては見込み賃料などに30%近く差が生じることもある。
苦労して取得したデータもフォーマットがばらばらだから、組織として時系列で構造化するところまでに至っていないケースも多いとのこと。情報を集めるまでにアナログな要素が多く、本来重要な分析業務までスムーズに行えていないことが大きなペインになっているという。
これに対してestie proでは独自のデータベースと適正賃料を推定するAIアルゴリズムを軸に、データドリブンでスピーディーに意思決定できる基盤を提供する。
同サービスでは都心5区オフィスの約6割、他エリアを含めると合計8000件以上の物件情報を完備。独自開発の非整形データパースシステムにより、各社が異なるフォーマットで開示する資料(PDF)から必要なデータを自動で取り込みデータベースに反映する。
J-REITのデータとそれ以外の企業保有不動産の情報を構造化した上で、フォーマットが違っても瞬時に正しい情報をPDFから取得できることが強み。「他のデータプロバイダよりもデータ量が多いことはもちろん、欠損や誤りが少ないという評価を受けている」(平井氏)という。
従来これらの作業は「Web スクレイピングでは高度な分析に足るデータは取得できず、バラバラのフォーマットに人手で対応せざるを得なかった」ため、手間や時間がかかるほかヒューマンエラーが発生する原因にもなっていた。estie proの場合は人の目で確認するまでのフローを半自動化し、正確なデータを素早く更新できるので、ここにかかる人的なリソースが少なくて済む。
加えて都心における主要オフィスビルの新規成約賃料を推定するAIアルゴリズムを搭載。2種類の公開情報と49種類の独自特徴量を使用し、2019年8月末時点での誤差率(中央値)は2.79%と精度には自信を持っているという。
これらのデータをマップ型のUIに落とし込み、エリアや延床面積、駅徒歩分数などさまざまな条件に合わせて該当する物件を簡単に絞り込めるのがestie proの特徴。上述した機能を備える基本プランに加えて、自社物件の情報を一元的に管理しオリジナルの機械学習モデルを構築できるカスタマイズサービスも提供する。
たとえば投資業務の場合、従来は丸1日以上を使って分析対象物件を選定した後、ブローカーのアポイントを取り面談を行っていた。平井氏によるとそこまでで約1週間、レポートを取得するのに追加で1週間のリードタイムがかかっていたが「estie proを活用すれば分析対象の選定とその基本情報が整理されたCSVファイル取得までが1分で完了する」そうだ。
「それを元に好きな分析をしたりブローカーとコミュニケーションをとったりできるので、初動が早くなるほか、投資の検討をするかしないかのスクリーニングが瞬時に完了することもある」(平井氏)
7月にクローズドベータ版をリリースし、すでに世界最大級の投資ファンドの不動産部門が導入済み。現在は業界最大手級デベロッパー複数社やグローバルな不動産ファンドにて導入の検討が進んでいる状況だという。
将来的には日本以上に不動産情報が整備されていない新興国マーケットにおける展開も計画。インド最大級の不動産データ提供・分析会社であるPROPSTACKと協力し、インド主要都市における賃貸成約データの分析やAIアルゴリズム開発を始めとした取り組みも開始している。
estieは2018年12月設立の不動産テックスタートアップ。前職で三菱地所に勤めていた平井氏を始めとした不動産業界出身メンバーと、ヤフーなどIT業界出身のメンバーらが集まる。以前「オフィス版のSUUMO」として紹介したオフィス用賃貸物件の検索エンジン「estie」などを展開中だ。