グーグルが自動運転500万キロのデータでも、日本なら何兆キロも取れる―世耕経産相

一般社団法人G1主催の「G1ベンチャー」がグロービス経営大学院東京校で6月11日に開かれた。G1ベンチャーはベンチャー経営に関わる起業家や学者、政治家などを集め、分科会に分かれて議論を展開するイベントだ。政治家や自治体首長などが参加してベンチャー育成について議論するのが特徴だ。

競争領域と協調領域の分離で、データを共有する社会へ

オープニングで講演した世耕弘成経済産業大臣は、今の日本が抱える競争戦略の課題について、次のように述べた。

「日本では(企業同士の)競争領域と協調領域が分かれていない。競争領域を限定することで世界と戦いやすい環境を作れるのではないか」

日本企業は国内市場で激しい競争をしているが、協力できるところは協力していかないと世界と伍して戦っていけないのではないかということだ。この状況を打破するために世耕大臣は「Connected Industries」を標語として、共有データを企業や産業の壁を超えて公共財のように持つというビジョンを説明した。

「自動運転の分野で500万キロの走行データを持っているグーグルがすごい、イスラエルのモービル・アイもすごいと皆さん言います。でも、日本の自動車関連企業が全部いっしょにやった瞬間に何兆キロというデータが入ってくる。それが社会で共有されればベンチャー企業ができることも増える」

世耕大臣の問題意識は、ドイツが「Industry 4.0」という標語を掲げて戦略的に進めているような中長期的なビジョンに基づいた包括的な取り組みが欠けていたこと。Industry 4.0と言えば製造業のコンピューター化といった文脈で人口に膾炙しているが、元々はドイツ政府がぶち上げた標語。それは有力ドイツICT企業のシーメンスやSAPが世界の製造業を組み込んでいくというしたたかな国家戦略なのだ。

2017年3月。ドイツ・ハノーバーで開催された世界第最規模のICTの展示会「CeBIT 2017」にはジャパン・パビリオンが設置。床面積7200平米という広大な領域に日本から118社が出展した。近年、日本からの参加企業数が減っていたことを危惧した世耕大臣が安倍総理に進言したことで実現した背景がある。ところが、それもある意味ドイツの戦略の手のひらの上。その反省から経産省内で議論を重ねた結果でてきた概念が「Connected Indistries」だという。冒頭にあるように協調領域と競争領域を分けて、協調できるところは協調していくという方向性だ。

中央官庁が産業政策を決定して選択領域にリソースを配分するというと、「情報大航海プロジェクト」など、失敗した日の丸プロジェクトが目に浮かぶ。産業政策という発想自体が賞味期限切れという意見も多いことだろう。ただ、世耕大臣ら経産省関係者が「Connected Industries」で目指すのは、環境整備や企業への「促し」のことであるようだ。

顧客企業の気持ちを「忖度」してデータを吸い上げない

例えば日立もファナックも製造機械を各製造業の企業に納入しているが、このとき顧客の気持ちを「忖度」して、あえてデータを吸い出していない。製造業の企業は企業で自社データを出すものかというマインドセットもある。そこをほぐして共有部分、協調領域を作り出すところは「政府がやってあげないとできない」(世耕大臣)という。まず製造業でやり、その次に他の産業でもやっていく。いっぽう、「(各企業が)守るべきものは守ってほしい。例えば匠の技術は守る。そうやってきちっとルールを作る」(同)。

もう1つ、日本がヨーロッパに比べて強いところがあるとすると、それはロボットに対する抵抗感の低さだという。高い失業率にあえぐヨーロッパでロボットによる効率化をするというと、若者たちによる暴動が起きかねない。比較的すんなりと一般人がロボットを受け入れるのは日本だけ、という。

産業ごとに協調領域を明確にして、それ以外の部分は競争領域として切磋琢磨する。自動車やロボットといった領域で有力な「共有データ」を持つことができれば、来るべきAI時代に日本の産業競争力は増し、データ活用でベンチャー企業が活躍する領域も増えるだろうというのがConnected Industriesの構想だ。

世耕大臣はまた、企業の内部留保が積み上がっていることからベンチャー企業への投資やM&Aを増やす政策を推進するとも話した。ドイツとの違いは、日本企業がM&Aに対して腰が引けていること。この点については「コーポレート・ガバナンスからやっていく」といい、ベンチャー投資をしていないところは投資家から見放されるような仕組みで、マクロに手当していくことを考えているという。「(自分が)大臣をやってる間に、ベンチャーを生み出す環境を作っていきたい」(世耕大臣)