GIFの生存戦略ー芸術、エンタメコンテンツ編:大野謙介「GIF文化史」連載〜第3弾〜

「GIF文化史」/ 大野謙介 – 全3回連載概要

大野謙介/GIFMAGAZINE(GIFの人)

1987年に誕生し、インターネットのビジュアルコンテンツを支えた1990年代。FLASHによりミームとしての役割が弱まった2000年代。そして2011年、スマホ&SNSの爆発的普及によってサクッと手軽に楽しめるGIFは 「1) 次世代ビジュアル言語」また「2) 芸術、エンタメコンテンツ」として復活します。ファイルフォーマットの次元を超え、新たなポップカルチャーに変化しつつある「GIF文化」についてデータや事例と共に全3回で考察をします。

第1回 “1度死んだGIFが復活した理由”
第2回 “GIFの生存戦略 – 次世代ビジュアル言語編”
第3回 “GIFの生存戦略 – 芸術、エンタメコンテンツ編”

第3回1分要約

サクッと手軽に楽しめる映像体験である「GIF」は芸術、政治、広告、エンタメでも活用されるようになります。その理由を世界中の事例と共に考察します。

以下、GIFアニメーションを中心に述べますが簡略化のため「GIF」という言葉を用います。

第1回、第2回の振り返り

第1回では、本当に「GIF」が流行っているのかを定量的に見てみました。そしてGIFが復活した理由は2011年以降のスマホ&SNSの爆発的普及であり、その背景には各国にそれを支えるカルチャライズされたGIFプラットフォームの存在がありました。

第2回は次世代ビジュアル言語としてのGIFについて解説しました。世界各国で送られるGIFの違い、そしてコミュニケーションツールが移り変わる理由を 1) 速さと距離、2) 保存、3) 伝達できる情報の量の3つと仮説を立てました。また5G時代に向かい、より誤解なく情報量多く伝達するために「短尺、ループ、クリックレス再生」する体験をもつコンテンツが重要性が高いことを解説しました。

GIFの2つの役割

GIFの役割は大きく2つあります。

1) コミュニケーションコンテンツとしてのGIF

2) メディアコンテンツとしてのGIF

1) コミュニケーションコンテンツとしてのGIF、これは人に送るからこそ楽しいというスタンプと同じ楽しみ方で、超短尺動画ならではの楽しみ方の1つです。
2) メディアコンテンツとしてのGIF、これは芸術や新たなエンタメコンテンツとして、作品を見て楽しむという超短尺動画の楽しみ方の1つです。

第3回は、2) のメディアコンテンツとしてのGIFについて様々な事例を見ていきましょう。

国内・海外におけるGIF活用事例
・政治としてのGIF
・芸術としてのGIF
・広告としてのGIF
・ハイライトエンタメとしてのGIF

政治としてのGIF

・LIVE-GIFFING THE 2012 DEBATE

世界中が注目するアメリカ大統領選挙。2012年は、オバマ大統領と共和党のロムニー候補の争いでした。2012年10月22日、大統領討論会をLIVE配信しながら、6人の有名GIFクリエイターが大統領のGIFを即興で作ってリアルタイムに公開していくイベント「LIVE GIFFING」が開催されました。

出典:LIVE-GIFFING THE 2012 DEBATE

政治を視覚的に楽しく、多くの方に興味をもってもらう方法としてGIFが活用されました。この場合イラストであっても写真でもあってもよかったかもしれません。しかし他のコンテンツ体験に比べ、「GIF」はインターネットミームとしての性質やデジタルアートとしての性質をもっています。だからこそにじみ出る親しみやすさ、俗っぽさが醸し出されます。政治という多くの人にとって堅苦しい場面を親しみやすく変える素晴らしいメディアコンテンツとしてのGIFの活用方法と言えます。

芸術としてのGIF

一般的に「GIF」というと、ミームとしての性質が強く、芸術と捉えている人は少ないと思います。ところが2012年以降、デジタルサイネージやタブレットが普及することでGIFを絵画のように鑑賞できる状況ができました。GIFが芸術としての役割を得るようになった世界的な出来事を紹介します。

・ロンドンの現代美術館サーチ・ギャラリーでのGIFコンテンスト

2014年、ロンドンの現代美術館サーチ・ギャラリーが、GIF動画のコンテストを開催。52カ国から4,000以上の作品の応募があり、最終的に6作品が受賞しました。

作者:GerardoJuarez 出典:Saatchi Gallery MOTION PHOTOGRAPHY PRIZE https://www.saatchigallery.com/mpp/

作者:Jaime Travezan 出典:Saatchi Gallery MOTION PHOTOGRAPHY PRIZE https://www.saatchigallery.com/mpp/

GIFが1つの芸術スタイルであることを認め、GIFならではの超短尺、ループをうまく活かした作品が表彰されました。

ただ、当時表彰された作品はシネマグラフという動く写真のような表現や、ミニマルな作品が多く、現在の幅広いGIFアートの表現からすると非常に偏ったものであると私は感じています。

現在では多くのGIFアートが誕生しており、「GIF」に対する鑑賞や解釈のレベルが世界的に向上していると同時に、新たな表現が創られています。

・GIFアートとして代表的な作家:Sholim

Sholimはセルビア ベオグラード出身のデジタルアーティストです。頭部をモチーフにし、グロテスクさと、それに反する小気味の良いループを両立させた独特のGIF作品を制作しています。Sholimの作品はGIFクリエイターの中でも特に際立って独特な世界観を表現しています。

出典:Ars Longa by Sholim © Sholim -GIFMAGAZINE

シャネルなどのハイブランドのGIF制作を手がけ、オリジナルの「GIFアート」を確立しているクリエイターの一人です。

・theGIFs2013~2018

日本でもGIFの芸術性を評価するコンテストは開催されています。手前味噌ではありますが、GIFMAGAZINEとアドビで主催する「theGIFs」です。毎年夏頃応募が開始され、年末に表彰式が開催されます。私は毎年審査員として関わっており、昨年はSholimも同じく審査員としてセルビアから来日しました。

そして今年は国際芸術祭である「あいちトリエンナーレ2019」より招待を受け、GIFMAGAZINEプロデュースでSholimの作品展示を実施します。PCやスマホ上では感じることのできないSholimの作品をぜひ見に来てください。

画像:Sholimと筆者(大野) theGIFs2018にて

・シンガポール開催するGIFの祭典”GIFFEST”

シンガポールでもGIFを芸術として楽しむ活動が行われています。GIFFESTとはNational Arts Council(シンガポール国家芸術評議会)が支援して実施している芸術祭典です。芸術,エンタメ,コミュニケーションのテーマでアーティストトークや展示を実施しました。私もご招待いただきシンガポールに行ってきました。

世界各国から選出されたGIF150作品を世界中のGIFerと共に楽しむことのできる壮大なイベントでした。GIFFEST主催者の2人、Tanya WilsonさんとSteve LawlerさんとGIFについて会場で様々お話を伺いました。

超短尺ループというGIFの性質から、現代に最も合ったストーリーテリングの手法として、芸術・マーケティングの両方の観点で、とても重要な表現と考えているそうです。いつか日本で一緒にGIFFESTを開催したいですね。

広告としてのGIF

政治、芸術としてだけでなく企業のマーケティング活動としてもGIFアニメが活用されています。

・海外:Netflix (フランス)

映画には雨、雷、くもりなど天気が重要なシーンがあります。Netflixがフランスに進出する際に、その場所の様々な天候に合わせた映画のGIFアニメをデジタルサイネージに表示するプロモーションを実施しました。

出典:Ogilvy Paris – NETFLIX GIF Campaign

現実と連動したGIFアニメはNetflixのコンテンツを知らせると共に、通行人に驚きを与える秀逸なプロモーションであったと言えます。

・国内:宝酒造(日本)

若い世代のへの認知向上やブランドへの興味や好感の向上を目的としてGIFを活用する例もあります。様々なGIFerの作品群を通して、カジュアル・フォーマル両方で楽しめる商品の魅力を伝えています。

出典:スパークリング清酒「澪」(Twitterより) 作:APO

出典:スパークリング清酒「澪」(Twitterより) 作:平岡 政展

出典:スパークリング清酒「澪」(Twitterより) 作者:まめ太郎

ハイライトエンタメとしてのGIF

スポーツのハイライトや映画,アニメの名シーンなどはメディア・コンテンツとしてのGIFが活躍する最たる例です。サッカーのスーパーシュートや体操の技、柔道の決まり手など、スポーツでは約3秒で決する場面が多いのでGIFアニメに適していると言えます。実際に2018年平昌オリンピックでは多くの試合のハイライトをGIFで投稿していました。

出典:Olympic Channel [公式](GIPHYより)

出典:映画『3D彼女 リアルガール』GIFMAGAZINE公式チャンネル

出典:「映画 クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~」GIFMAGAZINE公式チャンネル

まとめ:ファイルフォーマットの「GIF」からポップカルチャーの「GIF」へ

第1回から第3回を通して、主に2011年のスマートフォン登場以降のGIFの文化的役割と歴史について解説をしました。スマホ&SNSの爆発的普及によってサクッと手軽に楽しめるGIFは 「1)次世代ビジュアル言語」また「2)芸術,エンタメコンテンツ」としてアメリカ、中国、インドを始め様々な国で再注目されています。

「1) 次世代ビジュアル言語」という役割では、GIPHY(アメリカ)、闪萌-weshine(中国)、GIFSKEY(インド)、GIFMAGAZINE(日本)それぞれの国のGIFプラットフォームが、各国の自然言語として歴史的価値のある重要な分析データを蓄積しています。

GIF検索はGoogle検索に現れない、感情検索エンジンとなります。朝には「おはよう」のGIFを探します。昼には「ランチ」に関わるGIFを探します。告白したい人は「好き」のGIFを探します。GIFを探すということは、Google検索ではわからない、毎日74億人が行う感情表現に貢献することにつながっていくでしょう。

また、「2) 芸術,エンタメコンテンツ」という観点では、政治、芸術、広告、エンタメなどあらゆる場面で「超短尺」「ループ」というGIFアニメの性質が生かされたコンテンツ体験が今後5Gの通信環境になるに従い広がっていくと考えています。

ファイルフォーマットとしての「GIF」には取扱にいくつかの難点があり、いつかAPNGやWebPにとって変わるかもしれません。2000年頃の特許問題や、様々な困難を乗り越え復活しているGIFだからこそストーリーが生まれ世界中に愛されています。

ついにファイルフォーマットの次元を超え、新たなポップカルチャーに変化しつつあることによって、ファイルフォーマットに関わらず超短尺アニメーションの体験そのものを「GIF」と呼ぶ状況は世界各国で起こっています。2030年に振り返った時に「GIF文化」がどのような姿になっているかとても楽しみです。10年後も「ギフと間違えて読む人」がゼロになることは無いかもしれませんね。

Twitter(@sekai_seifuku)でご意見ご感想お待ちしています。DMもお待ちしています。では10年後にお会いしましょう。

筆者

大野謙介 / GIFMAGAZINE 代表取締役社長 CEO

GIFの人。1989年、福島生まれ。2012年、横浜国立大学工学部卒。リクルート入社。2013年7月に「株式会社GIFMAGAZINE」を大学後輩の中坂雄平(CTO)と創業し、GIFプラットフォーム「GIFMAGAZINE」をリリース。世界中のチャットやSNSで頻繁に送り合われている「GIF」を通じて、絵文字やスタンプに続く「次世代ビジュアル言語の創造」を目指す。また「GIF」の芸術的側面とマスエンタメ側面(映画,アニメ)を両立した「新しいポップカルチャー」を創ることを目指している。Twitter(@sekai_seifuku)

第1回 “1度死んだGIFが復活した理由”
第2回 “GIFの生存戦略 – 次世代ビジュアル言語編”
第3回 “GIFの生存戦略 – 芸術、エンタメコンテンツ編”

(編集:Daisuke Kikuchi / TechCrunch Japan編集記者)

GIFの生存戦略ー次世代ビジュアル言語編:大野謙介「GIF文化史」連載〜第2弾〜

「GIF文化史」/ 大野謙介 – 全3回連載概要

大野謙介/GIFMAGAZINE(GIFの人)

1987年に誕生し、インターネットのビジュアルコンテンツを支えた1990年代。FLASHによりミームとしての役割が弱まった2000年代。そして2011年、スマホ&SNSの爆発的普及によってサクッと手軽に楽しめるGIFは 「1) 次世代ビジュアル言語」また「2) 芸術、エンタメコンテンツ」として復活します。ファイルフォーマットの次元を超え、新たなポップカルチャーに変化しつつある「GIF文化」についてデータや事例と共に全3回で考察をします。

第1回 “1度死んだGIFが復活した理由”
第2回 “GIFの生存戦略 – 次世代ビジュアル言語編”
第3回 “GIFの生存戦略 – 芸術、エンタメコンテンツ編”

第2回 1分要約

世界中のチャットやSNSでGIFが送り合われています。スタンプや絵文字と共に表意文字として世界中に送られるようになった理由を、1to1のコミュニケーションツールの歴史と共に考察します。

以下、GIFアニメーションを中心に述べますが簡略化のため「GIF」という言葉を用います。

第1回の振り返り

第1回では、本当に「GIF」が流行っているのかを定量的に見てみました。そしてGIFが復活した理由は2011年以降のスマホ&SNSの爆発的普及であり、その背景には各国にそれを支えるカルチャライズされたGIFプラットフォームの存在がありました。

GIFの2つの役割

GIFの役割は大きく2つあります。

1) コミュニケーションコンテンツとしてのGIF

2) メディアコンテンツとしてのGIF

1) コミュニケーションコンテンツとしてのGIF、これは人に送るからこそ楽しいというスタンプと同じ楽しみ方で、超短尺動画ならではの楽しみ方の1つです。

2) メディアコンテンツとしてのGIF、これは芸術や新たなエンタメコンテンツとして、作品を見て楽しむという超短尺動画の楽しみ方の1つです。

第2回は、1) のコミュニケーションコンテンツとしてのGIFについて様々な事例やデータを元に見ていきましょう。

実際、世界では何人がコミュニケーションとしてGIFを送り合っているのか?

アメリカのGIPHYやTenor、中国の闪萌-weshine、インドのGIFSKEY、Googleなどが公表しているデータを元に算出すると、毎月約10億人がGIFを送り合っている可能性があります。

もちろん、複数ツールの利用による重複はあるかと思いますが。地球の人口が74億人、スマホ人口が約40億台とすると、世界のスマホを持つ4人に1人はGIFを送り合っていることになります。

しかしスタンプの台頭する日本においては、世界で10億人が送っているという実感が無いのが正直なところかなと思います。

世界の10億人がどのようなGIFを送っているのか?

実際にどのようなGIFを送っているのか、各プラットフォームが公表しているデータから見てみましょう。

◯アメリカで送られているGIFとは?

GIPHY(アメリカ)が公表しているデータによれば、2018年に最も閲覧されたGIFのベスト3は下記です。英語圏の芸能人やスラングを理解していないと送りづらいコンテンツです。日本の女子高生がこのGIFを送るようなイメージはありません。

GIPHY 2018年1位:Cardi B “Okurrrrr” by The Tonight Show Starring Jimmy Fallon

GIPHY 2018年2位:Colombia Futbol by Alkilados

GIPHY 2018年3位: Happy Party Gnome by Sherlock Gnomes, 268M Views

出典:GIPHY’s Top 25 GIFs of 2018

また、具体的な感情、挨拶で見てみると、例えば「Happy」は月間800万回、「Dance」は月間1290万回送られているそうです

送信回数が多く、好意的な会話で使われる「Happy」や「Dance」の場合、Amazonなどの大手企業もGIFを用意しています。広告色が強いと使いづらいですが、シーンにきちんと合っていて、コンテンツとして成立していれば送り合うことがあるでしょう。

Amazonの「Happy」GIF(GIPHYより)

Amazonの「Dance」GIF(GIPHYより)

◯インドで送られているGIFとは?

インドではどのようなGIFがコミュニケーションで送られているのか、事情を聞くためにインドのGIFプラットフォーム「GIFSKEY」の社長であるMahesh Gogineni(マヘシュ)さんにお話を聞きました。

右がGIFSKEY代表のマヘシュさん

第1回でも触れましたが、インドでは国内に多数の公用語が存在します。インドのGIFSKEYはヒンディー語やベンガル語などインドならではの9言語でGIFが探せるようになっています。

英語をメインの検索キーワードとしたGIPHYやTenorでは対応しきれないGIFを見つけることできます。また、宗教や独特なインド映画産業など、GIFSKEYは地元インドに好まれるGIFを提供しており、トップページの主要カテゴリには「Gods(神)」が存在しています。

マヘシュさんによると、インドで最も送られているのは「नमस्ते(ナマステ)」だそうです。ナマステは、おはよう、こんにちは、こんばんは、さよならといった、非常に沢山の意味を持つ単語なので、様々なシーンでナマステGIFが送られているのは想像ができます。

「ナマステ」GIF(GIFSKEYより)

また、マヘシュさんによると「Gods(神)」が重要なトップページのカテゴリとして存在している理由にはヒンドゥー教の習慣が関係しているそうです。

ヒンドゥー教では、月曜日は「シヴァ」、火曜日は「ハヌマーン」と曜日ごとに神様が決まっています。そのため、インドの方は曜日ごとの神様GIFをコミュニケーションで頻繁に送り合っているそうです。

「シヴァ神」GIF(GIFSKEYより)

◯日本で送られているGIFとは?

日本ではGIFMAGAZINEが、LINEのトークの「+」メニューの中からGIFを送れる機能「ジフマガ」を2019年2月に提供開始しました。日本のアニメ、映画、芸能事務所、クリエイターなどの公式GIFコンテンツがLINEの中で送れるようになっています。

第1回と繰り返しになりますが、アメリカのGIFではフェアユースという考えが比較的浸透しています。ディズニーを始め多くの大手コンテンツホルダーが自社の映像コンテンツをGIFにして世界中の人に送り合ってもらったり、二次創作を許容しています。アメリカも日本もコンテンツに対する愛や、クリエイターに対するリスペクトは非常に強い国だと思います。しかし、日本ではフェアユースという考えは浸透していません。

GIFMAGAZINEは、様々なクリエイターやアニメ、映画、芸能事務所の方々と共に、公式のGIFコンテンツを日本の方が楽しめるようにGIFを制作・配信しています。日本でGIFが日常的に送られるようになるのはこれからと言えそうです。

実際に日本では次の感情、あいさつのカテゴリのGIFが多く送信されています。

GIF送信カテゴリランキング(日本)

1位:OK

2位:うれしい

3位:ラブ(いいね)

4位:ダンス

5位:(笑)

© uwabami – GIFMAGAZINE

「Dance(ダンス)」のカテゴリは英語圏と共通しています。わたし自身が友人に「ダンス」のGIFカテゴリを送ってみて実感をしたことが1つあります。

同意したい時も、喜ぶ時も、「いいね」と伝えたい時も、会話を切りたいときも「ダンス」のGIFを送っておけば、テキストを送らなくても、ある程度どんな文脈でもポジティブな雰囲気で会話が成立してしまう点です。

時間や場所などの詳細情報をやり取りしたい場合は不向きですが、コミュニケーションをすること自体が目的になっている、信頼関係を確認することが目的になっている時のコミュニケーションにおいては「ダンス」は使いやすいのかもしれません。

ここまでアメリカ、インド、日本など国によって異なるGIFが送り合われていることを確認しました。

第1回では、GIFが、世界的に送り合われている理由として、2011年のスマホ&SNS、チャットの爆発的普及を挙げました。

それでは、いつまでGIFは送り合われるのでしょうか?

この連載を読まれている方はおそらくGIFになんらかしらの思い入れがある方だと思います。

ファイルフォーマットとしてのGIFは、Googleが開発を進めるWebPなどに取って代わる可能性はあるかもしれません。しかし超短尺のループ動画、体験としてのGIFが100年、1000年、愛くるしいインターネットのポップカルチャーとして存在し続けて欲しいと思っているのは、私だけでは無いと思います。

そこで、コミュニケーションにおいてGIFという表意文字がチャットアプリで送り合われるようになった理由をもう少し掘り下げてみながら、将来のGIFについて考察してみたいと思います。

そもそも、GIFという表意文字はどうしてスマホのチャットで送り合われるのか?

© HattoriGraphics – GIFMAGAZINE

人類は誕生以来、さまざまなツールを使ってコミュニケーションをしてきました。コミュニケーションをするデバイス次第で文字を送ったり音を送ったりと、送るコンテンツは大きく変わってしまいます。

ある時代では鳴声で味方にエサが良く取れる場所を伝え、ある時代では狼煙を上げて敵の襲来を伝えます。

馬に乗る時代では、手紙を届けて愛を伝え、車に乗る時代では、ブレーキランプを5回点滅させて愛を伝えることができます。

それではコミュニケーションに用いられたデバイスやツールの歴史の一部をみてみましょう。

・鳴声(発話)

・パピルス(紙)

・飛脚

・狼煙

・電話

・留守電

・LINE

コミュニケーションのツールが移り変わる理由は

音声、身振り手振り、狼煙など、そのツールの進化の歴史を調べていくと、次の3つの性質に変化が生じた時に、次のコミュニケーションのツールへ移り変わるのではないかと考えています。

1) 速さと距離

2) 保存(非同期コミュニケーションができる)

3) 伝達できる情報の量

1) 速さと距離の性質では、例えば鳴声よりも電話の方が地球の離れた場所でもコミュニケーションすることができます。

2) 保存の性質では、鳴声は受信者と時間を同期しなければ伝えることはできませんが、紙に文字を書くことで1時間後でも2時間後でも時間をずらして非同期的にコミュニケーションすることができます。

3) 伝達できる情報の量の性質では、紙に文字だけを書くと誤解が増えるから、絵文字やスタンプ、GIFなどで感情を付与して、単位時間あたりに受け取る情報量を増やしてコミュニケーションすることができます。

1) 速さと距離

2) 保存(非同期コミュニケーションができる)

3) 伝達できる情報の量

これらのいずれか1つの性質が著しく上回った時、または3つ全ての要素がわずかでも上回った時、次のツールに移りかわっていくのではないかと考えています。

もし仮に「速さと距離」「保存」「伝達できる情報の量」という仮説が正しいとするのならば、未来のコミュニケーションツールを予測することができるかもしれません。

数年後のコミュニケーションツールは?そこでGIFは送られるのか?

「速さと距離」「保存」「伝達できる情報の量」の3つの性質を現在のスマホのコミュニケーションから著しく成長させるとどうなるでしょうか?

伝えたい人に一瞬で誤解なく伝えることができる。それはまるでテレパシーのようなコミュニケーションかもしれません。

いちいち視覚情報に変換して電気信号に変換し直すのではなく、BMI(ブレインマシーンインターフェース)のように脳に直接送り届けるとするならば、その時、GIFは「見るもの」というよりは、「送り合われるデータ」としての役割を担っているかもしれません。

テレパシーの1歩手前のコミュニケーションツールは?そこでGIFは送られるのか?

テレパシーのような体験が将来的な理想の1つとした時に、テレパシーに至る途中のコミュニケーションツールについて先ほど説明した3つの性質を元に考えてみます。

「1) 速さと距離」は地球上ではLINEを使って日本とブラジル間を一瞬で伝えることができます。なのでこれ以上の改善は今すぐは難しそうです。「2) 保存=非同期」は紙からサーバーに変わり半永久的な保存は十分できています。しかし、「3) 伝達できる情報の量」つまり相手に誤解なく文脈や感情を伝えるという点では改良の余地がまだまだあるかもしれません。

現在、LINEなどのチャットでは文字とスタンプなどの静止画像を中心にやり取りをしています。しかし、自分自身の感情をより豊かに、楽しく伝えていくには動画コンテンツの方がリッチそうだと感じます。

しかし10秒〜15秒の尺ほどになってしまうと、情報量は確かに増えるのですが、今度は伝えたい内容を理解するまでに「速さ」を大きく阻害してしまい文字や画像に勝ることはできません。

改めてコミュニケーションコンテンツを歴史を追って見ていくと、静止画でない動きのある「動画」のコンテンツが1to1のコミュニケーションにスムーズに入ることができたのは、ガラケーの「デコメール」や「動く絵文字」、LINEの「動くスタンプ」の体験が挙げられます。それは短編、ループ、クリックレス再生する映像体験です。まさにGIF動画が満たす体験です。

デコメールの例(デコっち★えもっち webサイトより)

人類が視覚(目)を利用する限りは、超短尺の動画をコミュニケーションコンテンツとして利用し続けるかもしれません。

まとめ

第2回は「GIFの生存戦略 – 次世代ビジュアル言語編」と題して1) コミュニケーションコンテンツとしてのGIFについて触れました。世界各国で送られるGIFの違い、そしてコミュニケーションツールが移り変わる理由を 1) 速さと距離、2) 保存、3) 伝達できる情報の量の3つと仮設を立てました。また5G時代に向かい、より誤解なく情報量多く伝達するために「短尺、ループ、クリックレス再生」する体験をもつコンテンツが重要性が高まりました。

中国語、英語、日本語あらゆる言語を話す人が、たった一つの同じGIFを見ることで、「こんにちは」「好き」「具合悪い」という気持ちを伝えることができます。世界中のGIF作家やGIFプラットフォームによって新たな次世代のビジュアル言語が創られ、「ねこ」「楽しい」「素敵」といった名詞、形容詞、形容動詞にどのようなGIFがあてはまるかという壮大なGIFの辞書が創られていると言えそうです。

 

第3回は「GIFの生存戦略 – 芸術,エンタメコンテンツ編」です。2) メディアコンテンツとして、実際に芸術として評価されているGIFや政治、広告、エンタメに活用されるGIFについて、その理由を世界中の事例と共に考察してみましょう。Twitter(@sekai_seifuku)で感想やご意見いただけたら嬉しいです。DMもお待ちしています。ではまた次回お会いしましょう。

筆者

大野謙介 / GIFMAGAZINE 代表取締役社長 CEO

GIFの人。1989年、福島生まれ。2012年、横浜国立大学工学部卒。リクルート入社。2013年7月に「株式会社GIFMAGAZINE」を大学後輩の中坂雄平(CTO)と創業し、GIFプラットフォーム「GIFMAGAZINE」をリリース。世界中のチャットやSNSで頻繁に送り合われている「GIF」を通じて、絵文字やスタンプに続く「次世代ビジュアル言語の創造」を目指す。また「GIF」の芸術的側面とマスエンタメ側面(映画,アニメ)を両立した「新しいポップカルチャー」を創ることを目指している。Twitter(@sekai_seifuku)

 

第1回 “1度死んだGIFが復活した理由”
第2回 “GIFの生存戦略 – 次世代ビジュアル言語編”
第3回 “GIFの生存戦略 – 芸術、エンタメコンテンツ編”

(編集:Daisuke Kikuchi / TechCrunch Japan編集記者)