米国H-1Bビザ、ルール変更で申請手続きはシンプルに

米国政府は昨日、H-1Bビザプログラムに加える変更を発表した。このビザプログラムは専門知識を有する人が米国に来て働くのに最も活用する手段の一つだ。

今回のルールには2つの重要な変更がある。まず1つは、H-1Bビザ申請者は申し込み書類を提出する前に、H-1Bビザ抽選のために入国管理局に電子登録する必要がある。これは2020年に始まる。

このプログラムでビザが認可される労働者の数については議会が厳しい制限を課したため、数万の人が申し込んでも結局ビザを取得できない。現況では、申請者は移民当局USCISが行う抽選に申し込むために、企業によるサポート書類を含む全ての申請書類を提出しなければならない。

昨年は、全部で8万5000の枠に対して約19万人の申請があった。つまり、10万5000人は申請を完了させたが、抽選で漏れた。

2020年のH-1B手続きから適用される新ルールでは、申請者はまずUSCISに電子登録する。ここで抽選が行われる。もし選ばれたら、申請者はそれから申請書類やサポート書類を提出するよう案内される。ここでのポイントは、実際に抽選で選ばれた時のみ申請作業を行えばいい、ということだ。

この変更では、申請者の申請書類を準備する移民専門弁護士の収入減につながることが予想される。シリコンバレーの移民専門弁護士に企業がH-1Bビザ申請1件につき支払う一般的な予約金は安くて数千ドルだ。新ルールが始まっても弁護士は準備作業をすることを勧めるだろうが、新ルールは企業にとってコスト減となる。

2つめの変更点は、抽選の仕方についてだ。変更はいくぶん微細で、これについてはインターネット上でデタラメが多く見受けられるので、かなり注意しなければならない。

H-1Bプログラムでは、申請者を2グループに分けている。1つを通常グループ、もう1つを高学歴グループと呼ぶとしよう。通常グループにはビザ6万5000という制限があり、高学歴グループ(修士号以上を保持する者に限定されている)には2万という制限がある。

現在のプロセスでは、高学歴の申請者は最初に高学歴グループ内の抽選にかけられ、もしそこでの抽選に漏れたら通常グループにまじって2度目の抽選にかけられる。USCISがいうには、新ルールではプロセスが逆になる。全申請者を対象にまず通常グループで抽選があり、それから、1回目の抽選に漏れた高学歴申請者を対象に高学歴グループで2回目の抽選が行われる。

これが申請者にとって何を意味するのか。理解するには、テーブルのナプキンで確率論の計算を少しばかりしなければならないようだ(もしただ答えが知りたければ読み飛ばしてもらっても構わない)。

昨年は高学歴者用の2万の枠に対し9万5885人の申請があり、ビザを取得できるチャンスはおおよそ20.85%だった。これにより抽選に漏れた7万5885人の高学歴申請者は通常グループの9万4213人に加わった。そして、6万5000の枠に対して17万98人が申請し、ビザ取得確率は38.21%だった。2回にわたる抽選で、高学歴者は統計的に最初の抽選で2万のビザを取得し、通常グループの抽選で7万5885人の38.21%、つまり2万8998のビザを取得した。結局、高学歴者の51.1%がH-1Bを取得し、これに比べ通常グループ申請者のビザ取得率は38.21%だった。

これは古いルールでの話だ。では、新ルールで確率がどのように変わるかみてみよう。6万5000の枠に対し、高学歴者9万5885人が通常グループの9万4213人に加わって申請すると、取得の確率は34.19%となる。すると、高学歴者3万2786人が通常グループの抽選でビザを取得する。この抽選で漏れた6万3099人の高学歴者が、2万の枠が用意された高学歴グループの抽選に進むと、取得できる確率は31.7%となる。この数字を足すと、2万+3万2786=5万2786となり、高学歴者9万5885人のビザ取得率は55.05%とはじき出される。

最終数字としては、高学歴者のビザ取得率は旧ルールでは51.1%なのに対し、新ルールでは55.05%となる。一方、通常グループの申請者のビザ取得率は38.21%から31.70%に下がる。

より端的に言うと、USCISは(統計の観点から)高学歴者を“優先している”と言ってもいいだろう。もちろん、もしあなたがビザを申請しているのなら重要な修正だ。しかし、究極的には移民の優先順位が法に盛り込まれて以来大きな変化はなく、こうしたシステムを変更するだけの柔軟性を行政部門はさほど持ち合わせていない。

(追記:確率の計算はあくまでも“粗”だ。というのも、H-1Bプログラムにはいくつもの小さな優先事項があり、これにより確率は申請者によって異なってくる。チリとシンガポールの市民は特例を受けられる。またグアムやその他いくつかの米国領での労働を申請した場合も特別なプロセスを経ることになる)。

国境についての話:Huaweiとスマホプライバシー

米国、そして世界の多くの国々は国境ではプライバシー権をさほど提供していない。国は、どの旅行者の電子機器もスキャンし、引っかかるような内容のファイルやデータを保存できる。そうした策はACLU(米国自由人権協会)のようなプライバシー啓発機関のおかげでかなり明らかになってきている。

あらゆるものをスキャンすることは、国際的な捜査の面では有用だ。米司法省はHuaweiのCFO、Meng Wanzhouをさまざまな容疑で起訴した。容疑には米国の対イラン制裁措置にHuaweiが違反したことに関連する銀行詐欺や通信詐欺が含まれる。

起訴状によると、このケースの主要な証拠のいくつかは、MengがJFK空港を通過するときに行なった彼女のスマホのスキャンからのものだ。JFK空港の入国管理当局は、イランとSkycomのつながりに関するHuaweiの疑惑を裏付けるものをとらえた。起訴状には「Mengが米国に入国したとき、彼女は未割り当てスペースにファイルを含んだ電子機器を携帯していた。これは、ファイルが削除されたかもしれないことを意味している」。

エンド・トゥ・エンドの暗号についての議論があるが、国境で提供されるべきプライバシーのレベルについては複雑だ。一般的なプライバシー権については守られるべきだが、一方で法執行機関は正当な手続きにおいて犯罪を阻止するためのツールを持っているべきだろう。

国境についての話:ブレグジットと製造展開

私は昨日、Foxconnのウィスコンシンと広州での工場建設中止に関連する製造展開の記事を書いた。最近“ネジ探し”に失敗しているのは何もAppleだけではない。いまや英国に生産拠点を置く全ての企業は部品の確保を懸念している。

Bloombergは、「調査会社IHS Markitグループが金曜日に発表したレポートでは、英国企業の在庫は同グループが調査を行なってきた過去27年間の中で1月としては最も多くなった」と報道した。企業は、英国議会が欧州連合からの脱退の計画を繰り返し否決したために合意なしブレグジットのリスクが高まっているとして、ネジやパーツから医薬品に至るまで在庫を増やしている。

在庫は好きなだけ増やしていい。しかし、中国の改革・開放から30年がたち、中国の成功は国境や関税、港を世界で最も効率のいいものにしてきた。英国は競争したければ、同様の措置をとる必要がある。

TechCrunchは新たなコンテンツ方式を試している。このスタイルは“お試し”であり、あなたの考えを筆者(Danny:danny@techcrunch.comまで寄せてほしい。

スタートアップの弁護士に関する体験をシェアしてほしい

同僚Eric Eldonと私はスタートアップの創業者や役員に、スタートアアップの弁護士についての経験を聞いて回っている。我々の目標は、その業界を導くような方法を特定し、最善のプラクティスについての議論を起こすことだ。あなたのスタートアップのために素晴らしい仕事をした弁護士を知っているなら、短いGoogleフォームの調査を使って我々に知らせてほしい。そして世の中に広めてほしい。数週間内に結果などを公開する予定だ。

次は?

・社会のレジリエンスについてさらに取り組む

・私はいま、中国を舞台に多国で活躍する人物が登場するCho Chongnaeが書いたThe Human Jungleという韓国の小説を読んでいる。4分の1ほどを読んだが、これまでのところいい小説だ。

このニュースレターはニューヨークのArman Tabatabaiの助力を得て執筆された。

アップデート:H1-BからH-1Bへとハイフンの位置を直した。また、電子登録は立法案公告に基づく一般からのコメントを経て、今から2サイクル後に正式に変更される。最初の表記では今年導入される、としていた。

イメージクレジット: Scott Olson (opens in a new window)/ Getty Images

原文へ 翻訳:Mizoguchi)

スタートアップと移民をめぐる情報の真偽

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【編集部注】執筆者のDesmond Lim氏はQuickForceの創設者。

Uberがアメリカ各都市の移動手段に変化をもたらし、SpaceXがアメリカ国民に火星旅行を提供しようとしている。Oscar Health Insuranceが、健康保険をアメリカ国民にとって身近なものにし、ZocDocが医者のアポ取りを簡素化している。Razerが世界中のゲーマーから愛される製品をつくり、FanDuelは、スポーツファンが楽しめるファンタジースポーツのプラットフォームをつくり出した。これらの先進的企業の共通点に気づいただろうか?実は、創設者のうち最低ひとりが外国生まれの起業家なのだ。

ヴァージニア州アーリントンを拠点とする、無党派シンクタンクのアメリカ政策国家基金(the National Foundation for American Policy)のある調査によると、アメリカ国内の10億ドル規模のスタートアップのうち、51%(87社中44社)を移民が創設しており、さらに70%以上(87社中62社)で移民が重要なポストについている。

さらに同調査では、これらの企業が合計で6万5000以上もの雇用を生み出したことがわかっている。ここから、移民がアメリカの雇用創出や起業家精神、スタートアップのエコシステムに関して、大きな役割を担っていることが見てとれる。しかし、アメリカでは厳しい移民政策が敷かれており、「スタートアップビザ」に関する法案も未だ可決されていない。スタートアップビザに関しては、現在の情勢を考えると、段々法案可決が難しくなっているとさえ言える。

私は、最近修士課程を修了し、キャリアに関する様々なオプションについて模索する中で、自分で会社を立ち上げるか、スタートアップで働こうという決意を固めた。ほとんどの留学生のように、当初私は、アメリカに滞在し続けて起業やスタートアップでの勤務を行うことは不可能だという印象を持っていた。

私の友人の多くが、H-1Bビザのスポンサーとなり得るような信用力のある会社で勤務した方が良いだろうという思いから、AppleやGoogle、Facebookへ就職していった。さらに、毎年4月1日に行われるH-1Bビザの抽選システムのせいで、ビザを取得するチャンスは一度しかないとも聞いていた。

移住問題の解決策を模索することや、真実を突き止めることを諦めないでほしい。

そのため、外国生まれの起業家精神溢れる人たちにとっての「安全策」は、スタートアップの道へ進む前に、大企業で数年間働くというものであった。学生によって運営され、学生が立ち上げたスタートアップへの投資を行うDorm Room Fundという投資ファンドも、留学生が自らの事業を続けたり、スタートアップに就職したりするのではなく、大企業への就職という選択肢に走る1番の理由は「移民問題」だと語っている。

しかし、私のメンターや移民問題に詳しい弁護士と話をしていくうちに、このような話のほとんどが嘘であり、次のSpaceXやUber、Palantirとなる企業の立ち上げや、スタートアップでの勤務を目指し、アメリカ滞在を決意した起業家たちにとって、以下のような都市伝説や嘘、間違いを含んだ情報について知っておくことが大切だと学んだ。

H-1Bビザの抽選結果は、勤めている企業のサイズやブランドで決まる

真実:私の経験からいって、FacebookやTeslaで働いているH-1Bビザの申請者に許可が下りる確率は、その他の条件が全く一緒だとして、社員5人のアーリーステージスタートアップで働く申請者と同じである。確かに、FacebookやTeslaの人事部の方が申請書の準備については頼りになるかもしれないが、重要な点は、抽選結果が全くのランダムで決まるため、勤務先のサイズやブランドに関わらず申請者全員にとって、H-1Bビザがおりる確率は同じだということだ。

H-1Bビザの申請は、オプショナルプラクティカルトレーニング(OPT)期間の一発勝負

真実:2016年3月11日にアメリカ合衆国国土安全保障省は、新たなルールを制定し、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Math)(略してSTEM)の学位を持っている一定数の留学生については、全学部の留学生に許可される12ヶ月のOPT期間に加えて、さらに24ヶ月間の延長が認められることとなった。これによって、1回目の申請でビザがおりなくても、2年目以降に再度申請のチャンスが与えられることになる。

さらに、申請期限が4月1日であることから、もしも学部4年生、または大学院の最終学年在籍中に就職先が決まれば、OPTがはじまる前にH-1Bビザの申請ができるので、実質的にビザ申請のチャンスが1回分増えることとなる。

アメリカに滞在するには、H-1Bビザしかオプションがない

真実:H-1Bの他にも、B-1、 O-1、 E-2、 J-1、 L-1、F-1など取得できるビザには様々な種類が存在する。B-1(商用ビザ)であれば、出張者として6ヶ月間アメリカに滞在が可能だ。また、もしも科学、芸術、教育、ビジネス、スポーツの分野で、これまでの実績や評価をサポート材料に、申請者が卓越した能力を持っていることを証明できれば、O-1ビザがおりる可能性もある。また、新規・既存問わず、もしもアメリカ企業に多額の投資を行っていれば、E-2ビザが取得可能だ。L-1ビザは、同企業内での転勤者向けのビザで、母国で登記された会社の社員を、子会社設立のためにアメリカへ派遣する際などにぴったりだ。

抽選がH-1Bビザを取得するための唯一の方法

真実:H-1Bビザ取得には他の道もある。マサチューセッツ大学ボストン校のVenture Development Centerでは、the Massachusetts Global Entrepreneur-in-Residence (GEIR)というプログラムが提供されていて、外国生まれの起業家が、事業を継続しながらGEIRのメンターとして活動することで、発行上限無しのH-1Bビザを取得し、アメリカに滞在できるようサポートを行っている。GEIRプログラムは、2014年にマサチューセッツ大学とMassachusetts Technology Collaborativeの試験的プログラムとしてはじまった。さらに、シンガポールまたはチリ生まれの人については、H-1B1と呼ばれる非移民ビザ(永住を認めていないビザ)を取得でき、このビザが発行上限に達することはほとんどない。

外国人はアメリカで会社を設立できない

真実:私の会社の顧問弁護士から聞いた話によると、外国人でもアメリカで会社を設立することができる。実際、私と同じ大学にいた外国人の同級生たちの多くが、在学中もしくは卒業後に会社を登記している。しかし、労働に対して正当な報酬を受け取るためには、労働が許可されているビザをもっているか、OPT下になければならない。

自らが共同設立者のひとりである会社を通して、H-1Bやその他の非移民ビザの申請を行う際は、外国人が株式の過半数を保有することが認められていないため、牽制力のある取締役会や、申請者以外の主要株主の存在から、申請者が会社に対して支配権を持っていないということを証明しなければならない。

弁護士に法外な費用を払うことがビザ取得の唯一の手段

真実:アメリカに滞在して働きたいという外国人のための情報が、オンライン上でだんだん増えてきている。そのため、ビザ取得を目指す人は、オンライン上の情報にアクセスしたり、最近増えてきているClearpath ImmigrationLegal Heroなどの法律系スタートアップに相談することができる。

その他にもアメリカ国内には、外国人起業家をサポートし、彼らの野望を叶える手助けをしているスタートアップ関連プログラムがたくさん存在する。その中でも、ミッション重視の外国人起業家向けファンドであるUnshackledは、選別された外国人起業家の、労働ビザや永住権獲得に必要なスポンサーに関する問題対応のサポートを行っている。

アーリーステージスタートアップへの就職や起業を志す、熱意あふれる起業家たちにとって、自分のキャリアにおける次のステップにふさわしい場所を決める際には、移民政策に関する都市伝説や嘘、間違いを含んだ情報について理解することが重要だ。移民に関する情報は分かりづらい上に、オンライン上の情報は片手落ちであることが多い。しかし、ひとつだけ確かに言えるのは、もしもあなたが、自分のスタートアップのアイディアに真の情熱を持っているなら、移住問題の解決策を模索することや、真実を突き止めることを諦めないでほしいということだ。

著者注:私は、最近ハーバード大学を卒業したシンガポール生まれの起業家です。私自身は弁護士ではなく、アーリーステージスタートアップにおける勤務経験のある起業家として、私の個人的な経験をもとにこの記事は書かれています。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter