試験対策から生活情報まで、外国人留学生向けEラーニングのLincが1億円調達

外国から日本に留学する人材向けのオンライン教育サービスを提供するLincは2月14日、ジェネシア・ベンチャーズBEENEXTを引受先とする第三者割当増資を実施した。調達金額は1億円だ。

Lincの中心メンバーたち。写真左が代表取締役の仲思遥氏。ここに写る全員が外国籍の留学生だ。

近年、日本における外国人留学生数は右肩上がりで推移している。2007年には約12万人だった留学生数は、その10年後の2017年には約26万人にまで増えた。そういった人材が日本に来る際に障害となるのが、言語や文化の壁だ。Lincは同社のオンライン教育サービス「羚課日本留学」を通してその壁を取り払おうとしている(羚課はLincの中国語発音だ)。

現在、Lincが主に提供しているのが留学生向けの試験対策カリキュラムだ。外国人留学生が日本の大学に入学する場合、日本留学試験(EJU)を受験する必要がある。これは留学生版のセンター試験とも言えるもので、日本語能力のほか、地理、歴史、政治経済などの文系科目や、物理や化学などの理系科目などの基礎学力を評価するテストだ。

LincではこのEJU対策カリキュラムをオンライン授業という形で提供している。ただし、現在は歴史や数学などの科目の授業のみを提供。語学としての日本語を教える授業は提供していない。また、Lincは今のところ中国人向けにサービスを特化しているため、授業はすべて中国語で提供している。同社によれば、ターゲットとなる中国語圏の日本語学習者は約100万人ほどいるという。

羚課日本留学のオンライン授業には録画とライブ配信の2種類がある。科目授業など知識系の授業では録画形式で授業を行ない、日本に渡航したあとの生活についてレクチャーを行う授業では、受講者からの質問に対応するためにライブ配信で授業を行っている。この、日本の生活についてのレクチャーは、日本の慣習や文化に慣れない留学生にとって価値のある情報だ。

クレジットカードの審査で見られる信用情報(クレジットヒストリー)の履歴は、渡航した直後から蓄積される。留学生はその認識が低くなりがちで、渡航直後に公共料金の支払い遅延があったなどという理由でクレジットカードが発行されないケースもあるという。ライブ配信の授業ではこういった日本のルールについても学ぶことができる。「その人が育った国の常識に従えば良いのではなく、日本ではそういった遅延がのちのちトラブルにつながる可能性があることなどを教える」(Linc代表取締役の仲思遥氏)

こう話す仲氏自身、中国出身の外国人として日本の大学を卒業した元留学生だ。中国で生まれた仲氏は6〜12歳まで日本で暮らした。その後中国に戻ったが、「日本での生活が好きだった」という仲氏は進学先として日本の大学を選んだ。仲氏自身が日本での生活から学んだ“体験”を外国人留学生に伝えたいという。

現在のところ羚課日本留学では約680本の授業動画が提供されていて、総視聴回数は10万回を超えるという。単月ベースでの黒字化はすでに達成しているそうだ。羚課日本留学の利用料金は1年契約で10万円。日本語学校の中には日本留学試験の対策講座を行っている学校もあるが、それらの授業料は1年あたり約60〜70万円の費用がかかることもある。それに比べれば、羚課日本留学の利用料金はかなり安く設定されていると言えるだろう。

外国人が日本に留学しようと決意したとき、彼らの多くはまず留学エージェントに相談する。エージェントはバックマージン欲しさに日本語学校への入学を強く勧めるが、それが唯一の選択肢だと勘違いしてしまっている人もいる。その結果、授業料の支払いのために母国で大きな借金を抱えて来日する人たちもいる。仲氏は羚課日本留学について、「日本語学校以外の選択肢の1つとして見てもらいたい」と話す。

今回のラウンドで1億円を調達したLincは、今後カリキュラムの提供国を東南アジアにまで拡大する。また、将来的には、サービスを通して集めたユーザーデータをもとに外国人材の「信用」をスコア化し、それを利用して外国人向けの住宅探し、アルバイト探し、転職支援サービスなどにビジネス領域を拡大していきたいという。仲氏は今後、さまざまなライフイベントに関わるサービス群を提供していくことで「外国人版のリクルートを目指したい」と将来のビジョンを語った。