スタートアップとは何ぞや?

ネット界隈では日本でも起業が普通によくあることになってきた最近、スタートアップという言葉も当たり前になってきましたね。かつては「ベンチャー企業」と呼ばれていたと思いますが、スタートアップというと妙にかっこよく感じるのは気のせいでしょうか。起業といっても、それには様々な形があるわけですが、あえて「スタートアップ」と呼ぶのであれば、そこには通常の起業とは違う何かがあるはず?改めてスタートアップの意味を考える記事を今回は。 — SEO Japan

注記: San Diego Startup Week_Alternate_logoこの記事はSan Diego Startup Week期間中にXconomyで既に配信された作品である。

オックスフォード英英辞典(最近では、Oxforddictionaries.comと呼ばれることが多いかもしれない)はスタートアップを「新たに開設されたビジネス」と定義している。

言葉のルールを変えることを拒む人達には、この定義は支持されるかもしれない。しかし、言葉は進化し、定義は変化する。微妙なニュアンスが生まれ、調整する必要性が生じる。そのため、言葉は進化する。言語は現実を具体化するため、言葉自体よりも、言葉が表現する対象の中に真実が見られる。そして、最近、スタートアップコミュニティは、辞書に掲載されている定義を変えようと試みている。

例えば、この業界の専門家は次のように語っている:

スティーブ・ブランク: スタートアップとは、繰り返し可能、そして、拡大可能なビジネスモデルを求めて形成された組織を指す。

エリック・ライズ: スタートアップは、極端に確実性が低い状態で、新たな製品やサービスを提供するために作られた団体である。

ポール・グラハム: スタートアップとは早く成長することを意図して作られた会社を意味する。新たに資金を調達したからと言って、スタートアップと呼べるわけではない。同様に、テクノロジー業界に限られるわけでもなければ、ベンチャーキャピタルを獲得する会社に限られるわけでも、「出口戦略」を持つ会社に限られるわけでもない。唯一欠かせないキーワードは「成長」である。

マーク・サスターは、成長を過剰に意識すると一部のスタートアップは失敗すると指摘し、さらに細かく定義している。ビジネスモデルによって成長するスピードが遅いものの、それでもスタートアップのカテゴリーに含まれる。「小さな世界に印象を残す」(私なら「小さな世界に小さな印象を残す」と表現する)ことを目指したスタートアップも存在する。マーク・サスターによる的確な見解においても、スタートアップが「従来の小さな事業」とは一線を画している点が反映されている。

スタートアップの資金調達が進化するにつれ、サスターの見解が正しいことが証明されるようになるはずだ。ベンチャー投資家は多額の資金提供に値するごく一部の会社にのみ資金を調達し、残りは希少な「幸運」に依存しない投資を通じて資金を獲得することになる。最終的に、スタートアップとその他の会社の違いは、成長のレベルではなく、どちらかと言うと、心の奥底から成長を本気で求めているかどうかになる。

例えば、現在、メインストリートに店舗を持ち、ウェストストリートにも店をオープンさせたいレストランは、同地区のPRエージェンシー、クリーニング店、あるいは、家族経営の電気機器修理会社よりも、グローバルな防衛業務の提携を通じてビジネスの拡大を望む新しい軍服メーカーに近い。

成長の早い会社と、従来型の零細企業では、資金調達、コンサルティング、法律に関するアドバイス、不動産のニーズ等が異なる。成功するために求められる要素も異なる。成長の早い会社は、意欲的な目標を達成するため、セールススタッフやマーケティングスタッフで構成されるチームを結成する、権限を委ねる、エキスパートを雇う、ビジネスの一部をアウトソースする、提携を求める等を行う。 利益(ある場合)はビジネスに還元される。 (非難するわけではないが)従来型の小さな会社の経営者は、雇用、そして、外部のインフルエンサーとのやり取りにおいて、厳しい監視下に置く傾向が見られる。出来るだけ早い段階で利益を求め、利益をビジネスに戻すことには執着しない。

本気で考えよう

「スタートアップは何か」を軽い気持ちで考える浮ついた議論は、この複雑な現実をに無視している。ここで、この問題の解決を試みる。先程紹介した4名のエキスパートは、スタートアップは最初は小さな規模でスタートするものの、スモールビジネス(個人経営の会社等)とは異なる点に関しては同意するはずだ。スタートアップの定義は、事業を運営してきた期間よりも、拡大を試みる規模との関連性が高い。

スタートアップがスタートアップではなくなる時期についても、様々な意見がある。この点に関しても、事業を運営する期間が定義を左右するわけではない。Dropboxは7年間事業を展開し、10億ドルの資金を調達(負債金融を含む)しているが、投資家に配当を行うため、さらに大きな利益を必要としている可能性が高い。それでも、スタートアップである。

判断が難しい部分も多数あるが、スタートアップがスタートアップを卒業する3つの方法がある 1. 買収やIPO等の株式のイベントを経て、スタートアップの段階を終了する。投資家は資金を取り戻す。 2. マーケットが答えを出し、同じペースでの成長が見込めなくなる。事実上、小規模/中規模の「生活するための」ビジネスに落ち着く。株式公開の話は持ちあがらない。 3) 撤退する。

スタートアップのファウンダーは、マーケットを破壊する、少なくとも、現状に大きな変化をもたらすことを望む。この望みが達成されると、マーケットの規模が限定されると、あるいは、様々な理由でファウンダーが望みに見切りをつけると、スタートアップはスタートアップではなくなる。

小さな事業の経営者はこの考え方に反論するかもしれないが、事実として、大半の小さな事業は規模の拡大を望んでいない。早く成長すると、小さな規模の事業の経営者が望まない問題をもたらす。ストレスを与える成長が存在しない状態でこそ、満足感を得られるライフスタイルを味わえる。通常の神経を持っているなら、それ以上は求めない。目標とライフスタイルが一致すれば、それで満足するためだ。

広範囲にわたる影響は計り知れない。連邦政府および州政府の役人が、大きな企業になることを望むスタートアップと家族を養うために創設された会社との違いを、つい最近まで把握していなかった。

決して、後者を軽視しているわけではない。アメリカの経済を支えているのは小規模な事業(スモールビジネス)である。これは個人的な意見だが、事業を始めて自分の生活を良くしたいと望む起業家には、出来るだけ手を差し伸べるべきだと思う。それだけでも、アメリカンドリームの半分には当たる。

事業を生み出す事業

しかし、小さな事業は、拡大可能な事業を生み出さない。一方、拡大可能な事業は小さな事業を生み出す。ある地方の拡大可能なスタートアップ、TakeLessonsが2年の間に従業員が10名から100名勤務するビジネスに成長するには、大きく、それでいて、良質なオフィスが必要になり、そして、オフィス機器、経理、法律顧問等に資金を投じなければならない。

規模を拡大することが出来るスタートアップは、その他の製品やサービスの需要を高めるため、重要度が高い。このタイプの会社の成長は、その他の事業の成長を誘発する。大企業であっても、このような仕組みで地域の事業に影響を与えることは出来ない。大企業は地域経済の需要を僅かなレベルでしか動かすことが出来ない。新しい成長を重視する会社は、法律、会計、オフィス機器、デザイン、建築、食べ物、飲み物等、新たな需要を作り出す。

「小規模な事業」を軽蔑しているつもりはさらさらない。「生活するための事業」にも同じことが言える。このタイプの事業は、事実、サンディエゴの経済にとって欠かせない存在だ。しかし、小規模な事業と拡大可能な事業に必要なリソースは、圧倒的に異なる。市民組織、メディア、サンディエゴ市等は、この違いをよく理解し、サンディエゴ市のスタートアップ文化を育むことで、私達がもたらそうとする変化を調整し、共に動く必要がある。

スアートアップは大企業の小さいバージョンでもなければ、小規模な事業の大きなバージョンでもない。そのため、求められる取り組みはそれぞれ異なる。

ダウンタウンサンディエゴパートナーシッププログラムとサンディエゴ地域経済発展公社を通して、サンディエゴ市政府は市内のスタートアップ産業を支援する上で大きな一歩を踏み出した。恐らく、様々な後援者に求められる基本的な政策の違いを公式に認めているわけではないのだろう。それでもサンディエゴ市は小さな事業とスタートアップの違いを意識的に認識するべきである。それでは、推奨事項を挙げていく:

- スタートアップの観点で既存のプログラムを評価する。スタートアップを対象としているのか、あるいは、小さな事業を対象としているのか?

- スタートアップのファウンダーと交流し、既存のプログラムを修正することでスタートアップがメリットを得られるのかどうか判断する。

- 支援する価値があると判断したなら、小さな事業ではなく、あくまでもスタートアップとしてアプローチする。小さな事業の運営者と呼んでいるようでは、スタートアップのファウンダーに相手にしてもらえないはずだ。

- スタートアップを魅了する可能性がある区割り、税の面での優遇、そして、不動産等の新しいプログラムを考案する。小売りやその他の小規模の事業に対する需要を生み出す可能性があるためだ。

このように、政府、とりわけ地方自治体は、経済の成長の底上げを図るつもりなら、従来型の小さな事業と拡大可能なスタートアップの違いを理解しなければならない。


この記事は、Market By Numbersに掲載された「Who Cares What a Startup is? You Should.」を翻訳した内容です。

スモールビジネスとスタートアップの違いは成長性にあり、スタートアップはスケールすることで、雇用も拡大し、地域にも大きく貢献する、と非常にわかりやすい説明でした。別にネット界隈の起業を全てスタートアップと呼ぶわけではなかったようですね。ネットでもどう考えてもスモールビジネスの可能性しかないのにスタートアップと意気込んでいるケースも多々あるように見受けられます。スモールビジネスでも全然良いと思うのですが、その場合はそれが大好きであることが持続させるには大事な気がします。

記事にあるような政府や自治体が起業支援していく過程で、スタートアップとスモールビジネスの違いというか、成長・スケールの可能性については、本来吟味が必要なのかもしれません。とはいえ、最初の時点でその可能性は起業家自身もわかっていない場合がごく一部の超優秀な人を除けば少ないと思いますし、その可能性を判断できる人も少ないでしょうし、何より日本の場合はまだまだ起業数自体が少ないですから、とりあえず当面は「スタートアップはかっこいい」路線で起業数を増やす努力をしていく形でも良い気はしますけどね。なんてことをいっていると、真面目じゃない、と怒られそうなんですけど。 — SEO Japan