2020年版「Microsoft Flight Simulator」は完璧ではないが待ち続けたファンの期待を裏切らない出来栄え

長く続いたシリーズの最後のリリースになるかと思われていた「Microsoft Flight Simulator X」の発売から14年が経過した。ちょうど1年前に、マイクロソフトが新しいグラフィックエンジンとBing Mapsの衛星データを使用してこのシリーズを再始動すると発表したとき、古くからのファンはもちろん、旧バージョンをプレイしたことがなくても同社が予告編で披露した次世代グラフィックスに魅了されたユーザーの間では最新版は話題になっていた。新しいMicrosoft Flight Simulatorは待ったかいが十分にあるクオリティーで、8月18日からは自分の目で確かめることができるようになっている。

Microsoft StoreとSteamの両方販売されており、価格はいずれもStandard版が7450円だ。より多くの飛行機や空港にアクセスしたい場合は、1万700円のDeluxe版がある。さらに多くの飛行機を利用したい場合は1万3100円のPremium版も用意されている。各バージョンにどの空港と飛行機が含まれているかの詳細はこちらで確認できる。

フライトシミュレーターを初めてプレイする読者も安心してほしい。Standard版でも他のバージョンと同じ3万6000の空港に着陸することができ、飛行機も十分すぎるほど用意されている。また、必要に応じてPremium版などへのアップグレードも可能だ。

このゲームをとりあえず試してみたいならのXbox Game Passに1カ月間登録するのが最も安上がりだ。私はすでに数週間前にベータ版をかなり深く試しているが、マイクロソフトはPremium版の最終リリースの早期レビュー版を提供してくれたので、それをもう一度見てみる価値はある(未訳記事)。

私がこの最新版を見せたときにみんなが同様に感じたのは「その美しさ」だ。それは風景にも言えることで、Bing Mapsの写真測量データのおかげで細部まで再構築された都市と、マイクロソフトのパートナーであるオーストリアのスタートアップBlackshark.aiが2Dマップから再構築した都市が混在している。なお、詳細はBlacksharkへのインタビューを参照してほしい。リアルなのは都市や町だけではなく、高速道路や地元の道路、街灯、そして夜には家の窓がライトアップされるなど、まるでそこで誰かが生活しているようだ。

気象モデルに注目だ。最新版のFlight Simulatorでは、ゲームでは見たこともないような美しい雲が描かれている。遠くに見える雨雲は、現実の生活の中と同じように見える。そして風は、操縦している飛行機にリアルに作用する。また冬のフライトでは、雪が地面を覆っている。

画像クレジット:TechCrunch

マイクロソフトとフランス拠点のゲームスタジオのAsobo Studios(アソボスタジオ)は、フライトシミュレータで地球のほぼデジタルツインを作ることにした。それを実現するための唯一の方法が、すべてのオブジェクトを手作業で配置するのではなく、機械学習を活用することだった。そのため、最新版の世界にはまだたくさんの奇妙なものが残っている。ベータ版から最終版リリースまでの間に、開発チームがもっと修正してくれることを期待していたが、この点ではベータ版からあまり変化が見られなかった。ダムのように見える橋や、水の中に入ってしまう道路、そして建物や木の位置を間違えたものがいくつかある。

私の見解では、2020年版Flight Simulatorはまだ発展途上であり、最終リリースでもそれは変わっていないと考えている。たとえ間違いがあったとしても、都市や町はほかのフライトシミュレータの有料アドオンよりも高品質で、個人的には納得している。また、これらの画像データの多くはAzureクラウドからストリーミングされており、開発チームはアルゴリズムを微調整し続けているので時間が経てばこのような問題が減ることも期待できる。当初、私はこの間違いにこだわっていたのだが、しばらくするとゲームの楽しみを奪うものではないことに気付いた。

画像クレジット:TechCrunch

マイクロソフトに改善してほしかった点の1つに航空管制がある。これは常にマイクロソフトが、公平に言えば競合他社も苦戦していた分野だ。アルファ版とベータ版の間に問題になっていたもので、最終版でも変わっておらず本当に残念だ。なにが残念かというと、あまり現実的ではないのだ。

Flight Simulatorの航空管制官は通常の指示は出さず、離陸するまでは飛行機側にコントロールを引き渡してくれない。常に全員にゴーアラウンド(着陸復行、着陸のやり直し)するように伝えるのだ。ちなみに現実の航空管制官は、操縦する飛行機が離陸するタイミングを教えてくれる。最終バージョンのFlight Simulatorを使って3日間で行ったゴーアラウンドの数は、私のパイロットライセンスのためのトレーニング全体よりも多い。これは次のアップデートで改善されるはずだ。

あと、個人的には管制官が航空会社を実名で呼んでほしいところだ。ゲームとは異なるが、マイクロソフトはFlightAwareと提携して、飛行機の発着時刻をリアルタイムで表示するサービスを提供している。しかし、どういうわけかゲーム内では限られたモデルしか登場しない。ただし、ユナイテッド航空の欠航便が時折発生していることを除けば、今後さらに多くの旅客機が登場することが予想される。繰り返しになるが、これはおそらく今後のアップデートで改善されるだろう。

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飛行に関していえば、同社はベータ版以来いくつか微調整を加えている。私はボーイング787のコックピットには乗ったことがないが、私が乗ったシングルエンジンのセスナは期待どおりに動作した。ただし、舵はまだかなり不安定で調整が必要だが。そのほかの飛行機については保証できないが、本物のパイロットも同じようにリアルだと思うはずだ。

また、シミュレーター内の飛行計器にはいくつかバグがある。例えば、GPSシステムがときどき飛行機を滑走路に入れてくれないことがあった。また、ガーミン社の航空機用グラスコックピットであるG1000とG3Xのシミュレーション精度をもう少し上げてほしい。マイクロソフトとAsobo Studioは、アドオン開発者にもっと多くの余地を残すために、あえてこの精度に留めているのだろうか。

画像クレジット:Microsoft

ゲームのパフォーマンスはベータ版から変わっていない。バルセロナやベルリンのような都市で建物の屋根の上をかすめる場合でも、GeForce RTX 2070 SUPERとCore i7-9700Kの組み合わせで常時40フレーム/秒程度の速度を得られた。

パフォーマンスが20フレーム/秒台に落ち込んだのは、フランクフルト空港のように開発チームが手作業で作った空港の上空を低空飛行しているときだけだった。そのときでさえも、空港の上空を旋回して再び飛行した後には数値は40フレーム/秒台に戻っていた。

画像クレジット:TechCrunch

この記事では 「シミュレーター」 と 「ゲーム」 を同じ意味で使っていることに気づいたかもしれない。さまざまな理由でFlight Simulatorがユーザーが望むものを提供してる。飛行訓練、着陸チャレンジ、ブッシュフライング(着陸帯や滑走路が整備されていない場所への着陸や離陸)など、ゲーム要素がたくさんある。また、新型コロナウイルスが蔓延している現在においては、地球を低空でゆっくりと飛行し、素晴らしい景色を眺め、ほかのことをしばらく忘れられる、とてもリラックスできる環境を提供してくれる。とはいえ、ほとんどのカジュアルプレーヤーは、しばらくプレイすると飽きてしまうかもしれない。

ファンにとっては2020年版Microsoft Flight Simulatorは神からの贈り物だ。マイクロソフトが今後もアップデートを続け、多くの企業があらゆる種類のアドオンを開発する予定であることを考慮すると、ファンにとっては楽しみが今後何年も続くための素晴らしい基盤を手に入れたといえる。ゲームにはまだまだ開発の余地が残されており、例えば誰かが航空機や手作りの小さな空港を作ることも可能だろう。

プレビュー版でも言及したが、Flight Simulatorは技術的な驚異ともいえる作品だ。まだ完璧ではないが、その不完全さに目をつぶることはできる。

画像クレジット:Microsoft

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(翻訳:TechCrunch Japan)