いくらYouTubeのユーザーが10億人を超えるとはいえ、ミュージシャンはYouTubeから分配される広告収入では食っていけない。 今のミュージシャンの主要な収入源はコンサートツアーだ。だがYouTubeのおかげでミュージシャンは世界中で名前を知られることが可能になった。そこでミュージシャンのファンがどこにたくさんいるのか正確に知ることができれば、適切なコンサートツアーの計画を立てて、ビデオを無料で見ていたファンに30ドルのチケットを買わせることができるだろう。.
Music Insightsは、アーティストを手助けするGoogleのYouTube For Artistsプログラムの一環となる新しいアナリティクス・ツールだ。このツールは、それぞれのアーティストが人気がある都市、人気がある曲、ビデオの再生回数、ファンによる曲のアップロード回数(Content IDによって自動的に認識される)などの情報を総合的に提供してくれる。
YouTubeでMusic Insightsを担当しているプロダクト・マネージャー、David King は私の取材に対して、「YouTubeは世界中に膨大なオーディエンスがいる。われわれはアーティストに自分たちの音楽がどこでどれほど再生されているかという情報を提供して手助けをしたい」と語った。
Music Insightsからは次のような情報が得られる。
Top Cities:コンサートを開催する候補地を選ぶのに役立つ。もしかすると遠く離れた外国に思いがけず多数のファンがいることを発見するかもしれない。あるいはオークランドのような小さな町に隣のサンフランシスコよりも大勢のファンがいると分かるかもしれない。またこの情報は現地のラジオにその局をかけるよう説得する材料にもなる。
Top Songs: どの曲がどれほど人気があるかを判断できる。これはラジオ局へのシングルの売り込み、レーベルとの交渉、テレビ番組やCMへのライセンス、アルバム作成時の選曲などに役立つ。
総合再生回数: アーティストが自分たちの人気度を示すのに用いることができる。YouTubeはアカウントごとのトータル再生回数は以前から集計、提供していたが、総合再生回数はファンがアップロードしたミュージック・ビデオの再生回数も含めてカウントする。これによってアーティストは、たとえばレーベルやラジオ局に対して「われわれのバンドは公式ビデオの再生回数が1000万回あるだけでなく、ファンがアップロードしたビデオの再生回数も1000万回ある。われわれの草の根の支持はっきわめて強い」というように主張できるわけだ。
ただし、アーティストにアナリティクスを提供するのはYouTubeが初めてというわけではない。PandoraにはArtist Marketing Platformがあり、Spotify For Artists も似たような機能をもっている。
Kingはライバルの同様のサービスに対してYouTubeのデータが優位であるとして次のように述べた。「YouTubeは世界中であらゆる層のユーザーに利用されているという点で他のサービスの追随を許さない。〔PandoraやSpotifyは〕大規模なサービスではあるが、YouTubeのように世界中でくまなく利用できるわけではない」と述べた。たしかにPandoraの8000万、Spotifyの6000万というユーザー数はYouTubeの10億以上という数字の前にはかすんでみえる。
Kingによれば、YouTubeは将来このデータをAPI経由でアクセスできるようにしたいという。そうなればアーティストのチームはデータをリアルタイムで継続的に取得し、 他の統計アプリと連動させるなど一層高度な利用が可能になる。it with other analytics.
「われわれのマーケティング活動は大小を問わず、オンラインでもオフラインでもデータに基づいて行われている」とCrush Managementのデジタル戦略責任者のDan Kruchkowは言う(Crush Managementはニューヨークの大手音楽マネジメント会社で、Fall Out BoyやTrainなどの有名ミュージシャンのマネージメントを行っている)。
今回のアナリティクスの提供は最近のトラブルでYouTubeが失ったアーティストからの信頼を取り戻そうとする意味もあるだろう。YouTubeは有料サブスクリプション・モデルを準備中だが、その過程でアーティストに強引に新契約を結ばせようとして一部から強い反発を受けた。
YouTubeの提供するアナリティクスが実際にアーティストの役に立つなら、アーティストは主要なプロモーションの場としてYouTubeを選ぶだろう。そうなればYouTubeのチャンネルにファンが集まることになる。音楽ストリーミング・サービスの競争はますます激しさを増す中、アナリティクス・ツールはYouTubeの強力な武器になるかもしれない。
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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)