強力なL5バンドを使う次世代GPS対応の低コスト省エネ型チップ開発のOneNavが22.8億円調達、米政府系企業と開発契約

GPSは、エンドユーザーは簡単に使えるが、それを設計するエンジニアにとっては課題が果てしないSF的なテクノロジーの1つだ。今やGPSは現代人の生活の中核にあり、Amazonの荷物の配達から、クルマやトラックの運転、国立公園で行なうトレッキングまで、私たちは数メートルの精度で監視する地図上のピンに依存している。

誕生から数十年も経ったGPSの技術は、現在、待望の近代化が進められている。米国やヨーロッパ、中国、日本などは、L5バンド(1176MHz)と呼ばれる強力な信号を使える新世代のGNSS衛星を設置してきた(GNSSは、米国の規格であるGPSなどを含む衛星航法システムの総称)。そのため第1世代のL1バンドの衛星と違って、もっと正確な地図上の位置を指し示すことができ、特に都市部など正確な見通し線が得ることが難しい場所で役に立つ。米国政府の説明によると、L5は「安全な輸送やその他の高性能なアプリケーションの厳しい要求を満たす」よう設計されている。

衛星を軌道上に打ち上げるのは比較的簡単でも、それらの信号をスキャンして座標を三角法で求める電力効率の良いチップを作るのは難しい。これまでチップのメーカーは、L1とL5の両方を同時に取り出すハイブリッドなチップを開発してきた。Broadcomは最近、同社のハイブリッドチップの第2世代機を発表した

しかしここでご紹介するOneNavは、製品の設計に関してまったく違う意見を持ち、そのことを社名でも表現している。同社は新旧の信号が混在するハイブリッドチップを避け、1つのチップがL5の単一バンドをモニターする低コストで省エネ型のデバイスを開発しようとしている。つまり社名は、1つの(one)航法(nav)で十分、ということなのだ。

同社は米国時間5月20日、Googleの親会社Alphabetのファンドだけで運用されているVCであるGVのパートナーKarim Faris(カリム・ファリス)氏がリードするシリーズBのラウンドで、2100万ドル(約22億8000万円)を調達したことを発表した。その他の投資家は、前のラウンドで投資したNorwestのMatthew Howard(マシュー・ハワード)氏とGSR Venturesだ。2年前に創業したOneNavの総調達額は、これで3300万ドル(約35億9000万円)になる。

CEOで共同創業者のSteve Poizner(スティーブ・ポイズナー)氏は、測位ビジネスの古顔だ。彼の前の企業SnapTrackは、GPSを利用するモバイルデバイス用の位置技術で、それはドットコムバブルの最盛期だった2000年の3月にQualcommが10億ドル(約1087億5000万円)の株式払いで買収した。共同創業者でOneNavのCTOであるPaul McBurney(ポール・マクバーニー)氏も、やはりGNSSの世界で数十年を過ごし、彼のLinkedInのプロフィールによると、最近までAppleに在籍していた。

OneNavのCEOで共同創業者のスティーブ・ポイズナー氏(2009年撮影、画像クレジット:David McNew/Getty Images)

L5バンドの衛星が最近特に話題になってきたので、彼らは起業のチャンスだと考えた。市場とL5技術の現状を見ると、他社よりも先を進み、レガシーなGPS技術を捨てるべきだと考えられた。その彼らの方針によって、同社のチップは「サイズは旧システムの半分と小さいが信頼性と性能はずっと高い」とポイズナー氏は主張する。それにより「位置技術をもっと多くの製品に導入したい」という。

彼は、GPSのアップグレードとワイヤレスのアップグレードを比較して、次のように語る。「L5の衛星があればL1の衛星はもう必要ありません。しかし5Gでは、依然として4Gが必要です」。L5バンドのGPSは、それまでのGPSにできたことをすべて、もっと良くできる。一方ワイヤレスの技術では、新技術が旧技術を補完する形でピーク時性能を提供する場合が多い。

ただし、米国政府はL5の信号をまだ「運用前」だと考えている。なしている。米国のGPSシステムはわずか16基の衛星が信号をブロードキャストしているが、2020年代中に目標の24基になる。しかしその他の国々もL5のGNSS衛星を展開しているため、米国政府の見方では未然形でも、消費者にとっては現状でも十分かもしれない。

ポイズナー氏によると、OneNavの目標は「GNSS分野のArm」になることだ。世界中ほとんどすべてのモバイルデバイスがArmの設計によるチップを使っているように、OneNavはL5バンドGPSチップのさまざまな設計を行い、それを他のさまざまなメーカーの製品がSoCとして組み込む。そしてそれによって「彼らのシリコンをベースとするハイパフォーマンスな位置エンジンを、彼ら自身の製品に組み込めるようになる」。

本日の同社発表によると、OneNavによる設計の最初の顧客は、米国の諜報分野のベンチャーキャピタルで事業開発団体でもあるIn-Q-Telだ。同社は曰く「今や弊社は米国の政府機関と開発契約を結んだ」という。ただし同社の顧客評価部門は2021年末ごろに完了し、OneNavの技術が実際にエンドユーザーのデバイスに搭載されるのは2022年後期だ。

位置追跡は今やベンチャーキャピタルの大きな投資対象分野であり、GPSの外縁に多様な技術の企業が群がって、GPSに欠けてい細部的技術や機能性を提供している。ポイズナー氏によると、OneNavで開発しているものに対しても、それを補完する技術として、そういう多様な周辺的技術が育つことを期待したいという。「GPSがもっと良くなれば、そういった拡張的システムに対するプレッシャーも少なくなります。ただし、マンハッタンのダウンタウンや地下鉄の中など、GPSが使えない場所は依然として残るでしょう」とポイズナー氏は語る。

ポイズナー氏にとっては、起業家精神へのささやかな復帰だ。OneNav以前の彼は、カリフォルニア州の政治に深く関係していた。SnapTrackをQualcommに売却した数年後に、彼は州議会議員になろうとして失敗した。しかし以前の、Arnold Schwarzenegger(アーノルド・シュワルツェネッガー)知事のときには、2007年に州の保険庁長官に選挙で選ばれた。2010年には知事に立候補したが、共和党の予備選で、長年eBayのトップだったMeg Whitman(メグ・ホイットマン)氏に負けた。2018年には無所属で、州保険庁長官の座を再び狙ったが、負けた。

OneNavはパロアルトに本社があり、30名ほどの社員がいる。

関連記事
SpaceXがGPS III衛星打ち上げとブースター回収に成功
ガーミンがSuica決済対応GPSスマートウォッチ「VENU SQ」発表、水中対応光学式心拍計も搭載
米運輸省が政府GPSを置き換えられるか11社を評価、全ユースケースに対応できたのは1社だけ

カテゴリー:ハードウェア
タグ:OneNavGPS

画像クレジット:GPS.gov / U.S. Government

原文へ

(文:Danny Crichton、翻訳:Hiroshi Iwatani)