ハードウェアはチャレンジングだがリスクは低減できる、Scrum Connect 2018レポート

Scrum Venturesが11月19日に開催したイベント「Scrum Connect 2018」。「Hardware Session~Nikkei Startup X Special Session​~」では、ハードウェアスタートアップ企業2社のCEOが登壇し、パネルディスカッションを行った。

“芽”も見え始めたと米国スタートアップCEOは語る

セッションには燃料とバッテリーを組み合わせたハイブリッドエネルギーパワーシステム採用のドローンを開発している米Top Flight Technologies CEO兼CTOのLong Phan氏と、ロボットを自律制御させる「モーション・プランニング」の技術を開発する米Realtime Robotics President&CEOのPeter Howard氏が登壇した。

04_P1060016

米Top Flight Technologies CEO兼CTOのLong Phan氏

Long Phan氏は自社の技術についてハイブリッドエンジンとドローンを組み合わせることで「有効荷重と耐久性、安定性の3つの問題を解決した」と自信を見せる。

Realtime Roboticsが持つモーション・プランニング技術は、周囲の動きや障害物を検知して避けながら安全にロボットを自律制御させるというもの。周囲に作業者がいるような環境でもロボットを協調動作させられるという技術だ。

05_P1060024

米Realtime Robotics President&CEOのPeter Howard氏

司会者から「過去10年は基本的にソフトウェアスタートアップが中心だったのに対し、最近はハードウェアのエリアでスタートアップの活躍の余地が広がっている背景について聞きたい」という質問が出た。

「ハードウェアは非常にチャレンジングで、多くの資本投入が必要なこと、開発に多くの時間が必要になるという2つの課題がある。そのためほとんどの投資家はより早く結果が出るソフトウェアに投資したいという考えだった。しかし最近はハードウェアとソフトウェアのツールを組み合わせることで開発時間を短縮し、リスクを低減させている」(Long Phan氏)。

「シリコンバレーのVCコミュニティのうち、ハードウェア投資に興味を持っているのは10%以下程度だと思う。ハードに関心はあるものの、潜在的な投資家は減少しているように思っている。そのため、市場に対して投資が魅力的であるとアピールしなければならないと考えているが、なかなか難しい」(Peter Howard氏)。

続いてTop Flight Technologiesが韓国のヒュンダイと提携した経緯についての質問が出た。「最近は自動車メーカーの多くが自動運転に資本を投下しているが、将来的には自動運転だけでなく自動で飛ぶ車も考えられる。自動車メーカーは航空宇宙産業まで視野に入れており、人などを輸送する伝統的な自動車から空を飛ばすところまで、今後5年から10年の間に大きな変革が起こる。自動車メーカーも空を飛ぶ自動車を作らなければいけない時代に入っている。ヒュンダイは飛ぶ自動車を作ろうと考えてTop Flightに来た。私たちはツールを提供することでより迅速に飛ぶ自動車を作るための研究に入った」(Long Phan氏)。Long Phan氏は日本の自動車メーカーとコミュニケーションしているものの、「日本のメーカーは少し動きが遅いように思う」と語っていた。

自動運転AI開発を行うトヨタ自動車の子会社であるTRI(Toyota Research Instituteからの出資も受けているRealtime RoboticsのPeter Howard氏の見方は違う。「私はそんなに動きが遅いとは思っていない。伝統的な企業であるトヨタ自動車とは違って、TRIは迅速に動いている。我々はドイツのBMWなどとも一緒に取り組んでいるが、大きな違いはない。ただし、会社機構にどのくらいのマネジメント層がいて、説得する段階には大きな違いがあるように思う」(Peter Howard氏)。

Peter Howard氏はロボティクスにおいて日本市場は最も重要だと語った。「約50%のロボットは日本で作られているため、日本は我々にとって最も集中すべき市場だ。我々は50年以上FA(ファクトリーオートメーション)に取り組んでいるJOHNANとパートナーシップを結び、さまざまな工場の自動化を進めている。ロボット業界では日本が最も重要で、2番目がドイツ、その次に重要なのが米国だ。これらの市場に技術を導入していきたい」(Peter Howard氏)。

日本の企業と協業する魅力についてPeter Howard氏は続ける。「ロボットは人の近くで働くため、最も関心が高いのが安全性だ。いろいろな人が作業している中でロボットがコントロールできなくなると、作業者の怪我にもつながる。日本やドイツのメーカーが強いのは品質や信頼性が高いからだ」(Peter Howard氏)。

オープンイノベーションは日本の文化に根付いた大企業には難しいとPeter Howard氏は語った。「知的財産を保護することなどはオープンイノベーションの逆で、克服するのは難しい。例えばTRIとオープンイノベーションを進めていても、トヨタ自動車のエンジニアリングチームとやり始めると我々のペースで進めるのが難しくなる部分はある。しかしトヨタは別の新会社(TRI)を設立したことでオープンイノベーションが生き残れるチャンスを作った」(Peter Howard氏)。

Long Phan氏は「4年前から観察してきて日本の企業も変わってきた」と話す。「最初の頃は下から順番に上げていかないとならなくて時間がかかり、結果も出なかった。今は日本に来ると大企業のトップでも私と会ってくれるようになった。先進的なロボット技術を取りこむということを企業トップが自分の責任として意識してやり始めたのは素晴らしいと思う」(Long Phan氏)。

共有と熱量がオープンイノベーション成功の鍵、Scrum Connect 2018レポート

米シリコンバレーでアーリーステージのスタートアップ企業を中心に投資を行っているVC(ベンチャーキャピタル)のScrum Venturesは、2018年11月19日に米国で活躍する起業家によるセッションや投資家同士のネットワーキングを目的としたイベント「Scrum Connect 2018」を開催した。

01_P1060027

「Scrum Connect 2018」の会場の様子

「ビジョンの共有」と「熱量」がオープンイノベーション成功の鍵

「日本における、オープンイノベーションの現状と展望~Nikkei Startup X Special Session​~」では、実際にオープンイノベーションを起こしているバカン代表取締役の河野剛進氏とエクサウィザーズ取締役の粟生万琴氏が登壇し、それぞれの取り組みについてのトークセッションが行われた。

02_P1050990

バカン代表取締役の河野剛進氏

バカンは「VACANT(空いている)」という言葉が語源で、レストランやカフェなどの空席情報を提供する「VACAN(バカン)」、トイレの空席管理IoTサービス「Throne(スローン)」、お弁当を探して取り置きができる「QUIPPA(クイッパ)」の3つのサービスを展開している。

京都大学、大阪大学出身者のエンジニアが創業したベンチャーと静岡大学情報工学部のベンチャーが一緒になったエクサウィザーズは、AIを利活用したサービス開発を進めている。高齢者の認知症患者のケアの技法としてフランスで開発された「ユマニチュード」を広げるケア事業、労働人口減少に向けたHR(人事)テックなど、社会課題解決に向けた6つの事業を展開しているという。

03_P1050994

エクサウィザーズ取締役の粟生万琴氏

ケア事業では、認知症患者をケアするコミュニケーションとスキンシップのメソッドである「ユマニチュードケア」の達人の技をAIが学習し、その内容をコーチングすることで技能を伝承する実証実験を行っている。

ロボット事業では、製造業の労働人口減少という課題を解決するためにロボットの導入を進めている。通常はロボットが動作するための複雑な制御プログラムが必要になるのだが、人間の動作をAIが学習して再現することで、複雑なプログラミングなしにロボットの導入ができるように開発を進めているところだ。創業間もない頃にデンソーから無償でロボットを借り受け、開発を進めることができたと粟生氏は話していた。

オープンイノベーションを成功に導くために重要なこととして、バカンの河野氏は「熱量」を挙げた。「私たちもそうだが、熱量がないとコラボはうまくいかない。本気でこういうサービスを世の中に一緒に広げていきたいと思ってもらえることと、困難があっても乗り越えようという思いがあること。それを大企業の上の方が認めて『やってみなはれ』と言ってくれる環境があるかどうかが大事だ」(河野氏)。

河野氏は続ける。「プロダクトができきっていない時に、よく分からない人たち(スタートアップ企業)から提案を受けて、それを自社で取り組むかどうかを判断するのは大企業の方にとってすごく難しい。その企業の中に本当に熱心な方が『このサービスはあるべきだ』と考えて一緒に伴奏してくれて、実証実験をしていただいたり、そこで出てきた課題をどう解決するかを一緒に悩んでいただたりした。価格についてもアドバイスをもらいながら作ってきた。大変だったが、まさにオープンイノベーションが普及した中で乗り越えられたと思っている」

エクサウィザーズの粟生氏は「受発注の意識じゃオープンイノベーションは成立しない」と語る。「私たちも『受託している』という意識をまず捨てることが非常に重要だ。本気で投資していただく代わりに、我々スタートアップが技術を含めて一緒に汗をかくこと。会社対会社ではあっても、熱量を一緒に上げていく中で『誰』と『何をやるか』が重要だ。お互いの人となりや価値観を話しあう場を最初に無駄にしなてはいけないと思った」(粟生氏)

バカンの河野氏も「相手とビジョンが一致ことが重要」だと語った。「多少トラブルがあったとしても、ビジョンさえ合っていればこれから何をすればいいか案を出しながら解決したり、修正したりしていける。将来どういう世界を作っていきたいかをお互いに語ったり、そういうことを応援してくれる方たちなので、共感できるビジョンを最初にしっかりプレゼンするといいと思う。スタートアップの組織内もそうだが、しっかり話し合ってお互いに信頼関係を築くこと。自分の欲だけではオープンイノベーションはうまく行かない。ここは譲れるけどここは譲れないというメリハリを付けるのも大事だと思う」(河野氏)。

一緒に熱量を上げて共創していくためのポイントとして、大企業側の担当者に気持ちよく仕事をしてもらうための取り組みが重要だとエクサウィザーズの粟生氏は語った。「オープンイノベーション担当者は大企業の中ではどちらかというとマイノリティだと思う。そういう人が社内で気持ちよく仕事をしていただくためには、縦の人間関係だけでなく横や斜めの部門にも我々を紹介していただくなどして、新規事業担当者がやっている取り組みを一緒になって語るような形に入り込んでいる。むしろ我々スタートアップのメンバーをうまく使ってほしいと思う」(粟生氏)

バカンの河野氏も「担当者の評価が上がるように僕たち自身も頑張るというのが大事で、『このアライアンスのKPIは担当者の評価が上がること』というのを繰り返し言いながら進めている」と語った。