リーン・スタートアップはテクノロジー分野を超えて普及するか?

日本でも新しい起業の手法として注目を浴びるリーン・スタートアップですが、どちらかというとまだまだネットやテクノロジー業界を中心に活用されている手法かと思います。一方、米国ではテクノロジー分野を超えて様々な業界でリーン・スタートアップの手法が活用され始めているということで、最新の状況を事例を交えて紹介します。 — SEO Japan

リーン・スタートアップ方法論は、企業が生き残るためには素早くイテレートしなければならないテクノロジー分野に端を発する。しかし、この手法は、私たちが名前を挙げることができるほぼ全ての業界に拡大しつつある。実際、去年のリーン・スタートアップ・カンフェレンスでは、私たちは、政府、運送業、教育、公衆衛生など数多くの他分野からスピーカーを用意した。彼らは、テストと効果測定が、多くの業界にとって本当に便利で成功する製品およびサービスを築くのに役立つ方法であることを示した。

今年のカンファレンス―ディスカウントチケットの新しい束が発売されたばかり―では、さらに追加される業界と共に、リーン・スタートアップが他分野でどのように機能するかにより深く焦点を合わせて、この話は継続していく。去年参加できなかった人のために、2012年からいくつかの講演を紹介しよう。

連邦政府以上にスタートアップに似ていないものはあるだろうか?この国の最高技術責任者Todd Parkは、去年リーン・スタートアップ・カンフェレンスで話した時に、朗らかにそんなことを認めた。しかし、彼は、“政府内のプロジェクトは時々似ている”とも言った。Parkは、連邦政府が、“アメリカ国民に貢献するために、リーン・スタートアップの力を利用する”支援をする。彼は、幅広い分野―健康、エネルギー、教育、公安、財政、非営利―における眩暈がするほどずらりと並んだ構想について説明した。ここで紹介するのは、単なる一つの例だ。FDAは、革新的なメディカルソリューションを評価・承認するための合理化されたプロセスを提供するプログラム、Innovation Pathway 2.0を保有する。

デバイスを作る会社には、これらが、急速に耐圧テストされ、臨床試験の長さをカットし、製品が市場に出るまでの時間を短くしている(および失敗するアイディアをより早くカットする)ということが分かる。特定の課題―例えば、末期の腎臓病を解決するために人工腎臓を試験にかける要求―が、この取り組みを増幅させる。Parkの使命は、動きの遅い政府が、効果的なことに向かって素早くピボットすることを学ぶ手助けをすることだ。

もちろん、Parkが前回の例で触れたMVP(註:minimum viable product / 実用最小限の製品)とプロトタイピングは、リーン・スタートアップの主要ツールであるし、去年私たちは、テックから遠く離れた分野でそれを使用して成功した2人のスピーカーから話を聞いた。Lit MotorsのDanny Kimは、魅力的な小さな乗り物を開発した。それは、彼が言うように“自動車の安全性と効率性と共に、冒険心とバイクの効率性”を備える。それは、基本的には、自動車を半分にカットして運転席の部分だけを残したものだ(それにカッコいいタイヤがプラスされる)。

このアイディアは、持続可能で手頃な価格―彼が言うには、“Model-Tがしたのと同じこと”―が目的だ。自動車のように複雑な製品の大量生産に飛び込むことは難しいため、彼は車を作る前にショールームでテストをすることから始めた。この体験ショールームに足を運んだ人のおよそ16%がその場でお金を払うつもりがあることが分かった時、彼は、個人販売のためにこの乗り物を手作りし始めるだけの十分な市場性をはっきりと示したのだ。そして、Series Aファンディングを獲得する前にこのマシンを売り尽くした。

IDEO.orgのJocelyn Wyattから学んだように、あなたはどんなものについてもMVPを作ることができる。彼女は、人口の72%が室内にトイレを持たない250万人都市、ガーナのKumasiで、手頃な価格の廃棄物除去に向けて取り組んでいる。Wyattの組織は、キャンプ設備のような機能―耐久性があり、下水システムを必要としない―の付いたトイレで、人々が使おうと思うようなものを見つけるために一連のMVPを通してイテレートした。

そして、IDEOはそのような設備を手に入れると、今度はそれを空にするためのサービスオペレーターのシステムも試作した。彼らは、ブランド名とロゴさえも試作してテストし、地元の人が好むと彼らが考えていたものではなく、実際にガーナ人が選んだものを反映した(驚きの違いを動画で見よう)。結果:IDEOは、2年間で150台のトイレから10,000台へと拡大した。

最後の例は、リーン・スタートアップの手法が“テスト”に全く新しい意味を与えている、教育の分野だ。ベイエリアのチャータースクール、Summit Public SchoolのDiane Tavennerは、昨年、“典型的な公立の学校は、リーンやスタートアップの真逆だ―それは、顧客が保証され、利益が保証されている。たとえ顧客を失っている時でも。”と、教えてくれた。

しかし、単に生徒だけでなく学校の手法をテストすることによって、彼女はそれを変えているのだ。そして、1つの大きな原則『自らデザインする』を用いて数学のカリキュラムを始めている。彼女のチームは、幅広い教材―オンラインのコースと宿題、教材のプレイリスト、ゲーム、対面の講義―を用いた数学の指導書を作り、生徒に自分自身のペースで学習することを奨励した。そして生徒は、自分が何をいつテストされるのか決めるのだ。

教師と事務員がデータを収集し、毎日それについて議論するために顔を合わせ、何が効果的かを見るために異なるソリューションをテストして、週に一度のサイクルで返答する。彼らは、自分たちの生徒を4年制大学からの卒業率100%にすることを目指している。現在のところ、すでに生徒の100%が大学に入る権利を得た。ちなみにカリフォルニアの平均は24%だ。Summitの“個別指導バー”がどのようにして講義と置き換わったのかについて知るには、2012年の彼女の講演をチェックしよう:

去年のスピーカーの一部の人は、今年12月のリーン・スタートアップ・カンフェレンスに戻って来て、もっと細かな見解を共有するだろう。私たちは、これらの分野および、USヘルスケアや生命科学や伝統的な自動車製造(リーンの原則が始まった場所)などをはじめとするカンファレンス初参加の分野からもスピーカーを取り入れる予定だ。もし、あなたが要望する特定の業界があれば、コメント欄で教えて欲しい。同時に、覚えていると思うが、ディスカウントチケットは束で販売しているので、1つの束が売り切れると価格は上がる。ちょうど今日、新しい束を開けたばかりだ。12月にあなたと会えるのを楽しみにしている。


この記事は、Startup Lessons Learnedに掲載された「Lean Startup Beyond the Tech Sector」を翻訳した内容です。

どれもなるほどなぁ、と納得できる事例ばかりでした。政府や自治体、公共のプロジェクトも、リーン・スタートアップを活用して失敗のリスクを減らせそうですね。まず予算獲得(多くは年度で)ありきな仕組みもありますし、小規模予算から始めてテスト&効果測定を繰り返しながら徐々に拡大、という発想は難しそうな気もしますが。。。とはいえ、事例を読んでいても確実にその方が効果が高い気もしますし、国の運営の仕方まで改めて考え直してみたくなります。そんなことまで考えさせるリーン・スタートアップ、日本でも様々な分野で普及していってほしい試みです! — SEO Japan [G+]

リーン・アントレプレナーの時代

小規模に始めるスタートアップ、その名もリーンスタートアップが新しい起業の形として昨年日本でも話題になりました。色々な批判もありながら、デジタル時代ならではの起業スタイルとして市民権を得つつあるリーンスタートアップ、その延長線上で、新たに「リーン・アントレプレナー」という言葉が提唱されているいうことで、早速その内容をチェック。新手のバズワードかと思いつつ筆者が著者「ザ・リーンスタートアップ」でお馴染みのエリック・ライズとくれば、興味レベルも増してしまいます。 — SEO Japan

去年5月、長い間Lean Startupを提唱しているBrant CooperとPatrick VlaskovitsがFAKEGRIMLOCKのイラストを使ってThe Lean Entrepreneurと呼ばれる新しい本に取り組んでいるというニュースをシェアした。今、その新しい本が全国の書店に並ぼうとしている。

彼らが私に前書きを依頼してきたこと、また、以下に抜粋を投稿することを許可してくれたことを光栄に思う。2012年のカンファレンスの後、私はそれをそのムーブメント全体の成長と進化をじっくり検討する機会として捉えた。

BrantとPatrickがThe Lean Entrepreneurでやったことで私が気に入っていることの1つは、起業家がどのように新しいベンチャーに取り組み、リスクを最小限にし、成功する手段を学んでいるかの数多くのケーススタディだ―これらのケーススタディが、ガレージ・スタートアップや企業経営者のような人達に語りかけるだろう。

詳細なケーススタディの例:

  • 1999年、オンラインの自動車販売の需要を検証するため、後にCarsDirect.comとなるMVPを築いた伝説的なBill Gross。
  • 新しい車両カテゴリーを作るためにLean Startupを使ったLitMotorsアプローチ。
  • 本当の痛みを伴う正真正銘のアーリーアダプターを浮上させるために“高いハードル”の新手法を作っているAppFog。
  • 国を出ることによって開発されたEmbrace幼児保温器。Rob Emrichはどのように学び、自らの非営利企業Road of Lifeを拡大したのか。(ソーシャル起業家は注目!)
  • アパレルMVPを築いてそれらをターゲットの顧客コミュニティで素早く検証しているBetaBrand。
  • インターネットのスピードで動くことを学んでいるTelecom O2。
  • 500 Startupsおよび、アーリーステージの投資では何が機能し何が機能しないかに関するその加速されたフィードバックのループ。
  • 人々の生活を変えるためにデジタルファブリケーションと3Dスキャンニングの新生テクノロジーを繰り返し活用しているScott Summitt。
  • David MarcusとBill Scottの指揮の下、製品体験を向上するためにLean Startupを採用することによって自身を再定義およびリエンジニアリングしているPayPal。
  • 仮説検証を介してセールスファネルにある問題に取り組むために部門の枠を超えたチームを築いて権限を与えているKISSmetrics。
  • 社内革新とスタートアップの新しい試みを養育することを計画している分野とLean Startupを結合する方法を大企業に見せているIntuit社。
  • Berkeley Pizza:ファーマーズ・マーケット内のピザから着席形式のレストランまで。

The Lean Entrepreneurに関して私が気に入っているもう一つのことは、BrantとPatrickがこの本をスタートアップのように扱っていることだ。1つの例が彼らのマーケティングにある。今日の環境では、それは価値を提供することが要求される。これは、製品を指し示してその製品の価値を説明するということよりも、マーケティングが価値そのものを提供するという意味だ。

ブックキャンペーンの一部として、BrantとPatrickは、以下を含む4つの無料オンラインビデオクラスを提供するためにGeneral Assemblyとチームを組んだ:

リーンなUXリサーチのテクニック、迅速なプロトタイピング、開発者の雇用方法、成長するハッキング

本の予約をすると、これら全てのクラスにアクセスすることができる―実際にはもっと多くの特典がある。2013年2月10日までは彼らのサイト上で予約が可能で、その後はAmazonでできる。

最後に、私がThe Lean Entrepreneurのために書いた前書きをシェアしたいと思う。2013年に入った今、Lean Startupのムーブメントがどこまで進んだのかをじっくりと考えるのにふさわしい時だ:


2008年8月に初めてブログを書き始めた時、私は何が起こるか見当もつかなかった。その頃、スタートアップブログはあまり“クール”ではなかった。多くのベンチャーキャピタリストが、私にそれをしないようにアドバイスした。

私の個人的なバックグラウンドはエンジニアで、勤めていた会社はWebベースのスタートアップだったため、私はそれについて書いた。それらの会社の成功と失敗にについて説明することに苦労しながら、私は、継続した展開や顧客開発やアジャイルの超加速された形式のような原則について議論した。リーン・マニュファクチャリングを掘り下げて考えた時、私は、ぴったりと一致するコンセプトと専門用語を発見した。その結果が、私がThe Lean Startupと呼んだ新しいアイディアだ。

私はいくつか基本的なセオリーから始めた:スタートアップとは、極度の不確かさの土壌で育つようにデザインされた組織であり、予測と計画に根付いた従来のマネージメントテクニックはその不確かさの前では上手く機能しない。それ故に、私たちには、イタレーションと科学的学習と迅速な実験のためにはっきりとデザインされた新しいマネージメントツールキットが必要だった。

当時私は、そのセオリーはハイテクスタートアップやウェブをベースにした環境のような特定の業界に結びついているのかもしれないと偶然として捉えていた。とはいえ、リーンは、巨大な自動車生産会社であるトヨタから現れたのだ。私は、Lean Startup原則は他の種類のスタートアップや不確かに支配された他の分野のビジネスにおいても機能するという信念を述べた。

しかし、私は次に起こることに対する準備はできていなかった。私は、私たちがスタートアップの作られる方法を変えることを望んでいたが、4年以上早送りして自分がその進化に驚かされることを知らなかった。新生コミュニティは、一人前のムーブメントへと花開いた。新規および経験豊富な起業家は共に、ケーススタディやカンファレンスや数多くのブログで自分たちのLean Startup体験を堂々とシェアする。情熱的な実践者によって生み出された本やワークショップやコースは、Lean Startup原則を独自に作る方法を生徒に教えるために、経験を語り、考えを共有し、ツールを作り出す。多くの投資家、アドバイザー、メンター、さらには有名な起業家アイコンさえも、Lean Startup言語を話す。

それは大きなテントだ。私たちは、顧客開発、破壊的イノベーションの理論、テクノロジーライフサイクル採用理論、アジャイル開発という、巨人の肩の上に立つ。ユーザー体験のプロ、デザイン思考実践者、販売やマーケティングやオペレーションやさらにはアカウンティングの機能的な領域みたいに、相補的な考え方が、一体となって私たち皆を高める実践を共有する。

Lean Startupはメインストリームとなった。これはいくつかのマスタープランの一部だった、私はあらゆる規模の企業が―ハイテク界のはるか外側で―Lean Startupを採用することを最初から知っていた、と言えたらいいのだが。The Lean Startup: How Today’s Entrepreneurs Use Continuous Innovation to Achieve Radically Successful Businessesを発行する年に、アメリカ連邦政府のようなモンスターを含む多くの巨大組織が、より高速で、より競争が激しく、情報であふれかえった今日の世界に立ち向かうためには、新しい手法が必要とされることに気が付くだろうと予測していたなら良かった。実際には、この変化は全て、私たちの誰もが想像した以上に早く全面的に発生した。そして、もうお分かりのように、私たちはまだ始まったばかりだ。

だから私は、あなたが手にしているその書物に興奮しているのだ。The Lean Entrepreneurには、それらの新しい手法に関することが書いてある。Brant CooperとPatrick Vlaskovitsは、Lean Startupや顧客開発のような新しいアイディアの最も早い採用者の中にいる。彼らの新しい著作物は、そのレンズを3つの重要な焦点に向けている:不確かなビジネスの試みの針を動かすために、顧客とやり取りし、実験を行い、すぐに使用可能なデータを使用する方法だ。

彼らの全ての著作物と同様、彼らのものは単なる理論の本ではない。BrantとPatrickは、これらの分野それぞれに素晴らしい戦術的な奥行きを提供している。

彼らはこんな疑問に答えようと努めている:あなたが組織としてどのような場所にいるとしても、どこで自分のLean Startupアクティビティに焦点を合わせるべきかを知るのか?Lean Entrepreneurは、組織が無駄を省いた方法でビジネスモデルの課題を特定してそれに基づいて行動するのを助ける新しい考え、ツール、アクティビティを提供する。従来のリーン思考の教えに従って、BrantとPatrickは、組織が製品開発やマーケティングやセールスなど価値を生み出すために自分たちがすべきことを仮定するのに役立つ価値発見プロセスを紹介する。これらのビジネスモデルの前提は、テスト、測定、イテレートの機が熟している。

さらに、あなたが生み出す価値は、それを必要とし、求め、強く願い、最終的にはあなたが作ったものの最終的な価値を判断する顧客なしでは意味がない。BrantとPatrickは、あなたが自分の顧客セグメントをじっくりと考えるのを手助けすることにかなりの時間を費やす。彼らは、賢くそして科学的な手法の姿勢で、あなたの顧客理論のどこが間違ってきるかを発見するのを手助けする。

誰もが良いストーリーを好むものだ。BrantとPatrickはたくさんの起業家にインタビューし、ハイテク内外のスタートアップおよび大企業の数えきれないほどのケーススタディを記録した。1998年に遡ったクラシックなWizard of Oz法のMVPさえもあるのだ!

間違いなく、BrantとPatrickは始めからここにいた。彼らは、2010年4月にThe Entrepreneur’s Guide to Customer Developmentを自費出版した。最初から、彼らは実践者でありメンターであり、ペイント・バイ・ナンバーのアプローチに従うのではなくリーンに考えること―素早く、敏しょうで、継続的な学習―を起業家に勧めていた。過去2年にわたって、彼らは世界中を旅して、Lean Startupについて話し、アドバイスし、教えてきた。

The Lean Entrepreneurは、私たちがイノベーションと不確かさに取り組む方法を改善するためにデザインされた原則と実践の増していくライブラリに追加する大切な一冊だ。それがスタートアップであれ、Fortune 100であれ、非営利であれ、政府であれ。

私は、BrantとPatrickが友人であり同僚であることを幸運に思っている。この本からあなたが価値のある考えを獲得し、あなた独自のLean Startupを作り、そしてもっと重要なことに、あなたが世界を良い方向へ変えることに成功することを期待している。

Eric Ries,
2012年12月、サンフランシスコにて


この記事は、Startup Lessons Learnedに掲載された「The Lean Entrepreneur is here」を翻訳した内容です。

実は書籍のタイトル&紹介記事だったわけですが、ケーススタディ満載で起業家&スタートアップ研究家?であれば必読な雰囲気の内容ですね。そしてエリック・ライズの序文も熱い。 — SEO Japan [G+]