あらゆるデバイスで多くの映画や動画を視聴できる動画配信サービスは、安価で便利であり、多くのユーザーの支持を集めていると思います。その中でもNetflixはトップに位置づけられるサービスでしょう。彼らがどのようにしてユーザーを魅了しているか、デザインとUXの観点から考察したCXLの記事をご紹介します。
Netflixは、Blockbusterの対抗馬として、ビデオレンタルサービスを1997年に開始した。現在、このストリーミングサービスは、カナダ、アメリカ、日本の総人口ほどのユーザーを世界中に持っている。
Netflixは、世界中のあらゆるストリーミングサービスの中でも最も人気のあるプラットフォームであり、ユーザーは毎月、毎年、その契約を更新し続けている。継続率については、後ほど説明しよう。
では、Netflixのような巨大企業は、いかにして、競合性の高い業界で魅力的な体験を作り出しているのだろうか?この記事では、Netflixのデザインとユーザー体験の要素を探っていきたい。
なぜ、Netflixのユーザージャーニーは効果的に新規ユーザーを獲得し続けるのか?
クレジットカードの情報を入力してから驚きを与える他のプラットフォームとは異なり、Netflixはトップページからユーザーを惹きつけている。最小限のデザインとコピーにとどめており、たった一つのゴールである「サインアップ」を目指している。
ソース:Netflix
トップページは階層構造が簡潔であり、複雑さとは無縁である。そのため、「開始するためにはEメールアドレスを入力する」というたった一つのわかりやすいコール・トゥ・アクションと訪問者との摩擦を軽減しているのだ。
また、この企業のユニークセリング・プロポジションが最大のベネフィットを明確に説明している。さらに、「映画やTV番組、アニメが見放題。映画やドラマをもっと自由に。いつでもキャンセルOK。」という、代表的なよくある質問の2つを先んじて表示している。
目的が明らかであり、要求もわかりやすく、それに必要な作業もシンプルである。
USPとUIが一体となり、コンバージョンに最適化されたバリュー・プロポジションを作り上げている。彼らが提供するものを非常に具体的に説明しており、「見放題」という表現を裏付ける関連画像を背景とし、バリュー・プロポジションを後押しする「いつでもキャンセルOK」という要素も備えている。
スクロールすれば、下記のような、さらに価値を提供する要素が表示される。
- ゲーム機やTV機器など、Netflixが対応している多くのプラットフォームについての説明
- ストリーミングコンテンツをオフラインで視聴するためのダウンロード方法や、すべてのデバイスで映画を無制限にストリーミングできる機能の説明
- 子供向けのプログラムの用意
- 2つ目の入力フォームのすぐ上に設置されたよくある質問のセクション
ここでは、Netflixはその柔軟性を強調している。彼らのホームページは攻撃的なほど長いわけではない。提供サービス、機能、メリット、よくある質問などの情報を最小限の量で提供することで、障害とユーザーが持つためらいを取り除いている。
ここから、ユーザーはパーソナライズされたジャーニーを開始する。Netflixは、ステップの数がたったの3つであることを強調し、目の前のタスクを完了するためのモチベーションを高めている。
ソース:Netflix
期待値理論とは、タスクを完了できる期待値が高く、主観的な価値も高ければ、より高いモチベーションでやり遂げることができるとする理論である。言い換えれば、モチベーション=期待値×価値、と表現することができる。いずれの要素の1つでも欠けてしまえば、モチベーションは簡単に崩壊してしまうのだ。
「ステップ1/3」というメッセージを中心に表示することで、タスクが短い時間で完了することを指し示しており、期待値を高めている。(Netflixの強力なバリュー・プロポジション、USP、ユーザー体験を考えると)この時点での価値はすでに高いはずだ。
2つ目の画面では、プランの選択を求められる。ここでも、直面している迷いに対し、回答を事前に提供している。つまり、「簡単登録、いつでもキャンセルできます。」と表示しているのだ。
ソース:Netflix
その後、プランを選択する。3つのルールに基づき、シンプルで魅力的なプランを提供しているのだ。
これにより、ユーザーは圧倒される感覚を持つことなく、いつでも退会できる機会も提供している。また、ユーザーがなぜサインアップのボタンをクリックしたのかを思い出させるために、コアベネフィットを再度表示している(これは、主観的価値を高く維持するために効果的である)。
ユーザーがアカウントを作成すると、Netflixはお気に入りの映画やTV番組をいくつか選ぶように促す。このデータはNetflixのアルゴリズムへのインプットとして、パーソナライズされたレコメンデーションを「ジャンプスタート」させるために使用される(アルゴリズムを元に行われれるパーソナライズについては後述する)。
サインアップ後にユーザーが最初に見るものは、オンボーディングの最中に選択した設定と似た、Netflixのオリジナルの作品の予告版の自動再生である。
ソース:Netflix
主要なコール・トゥ・アクションは「再生」ボタンを押すことであり、すぐにこのプラットフォームと関わることができる。「フラストレーションのない」パッケージと同様に、目立つように設計された再生ボタンは、ユーザーのエンゲージメントを高め、ユーザーをこのプラットフォームにより長く留めておくことに効果を発揮する。
視聴を開始すると、Netflixのアルゴリズムは関連する新しいメディアをトップページに継続的に表示するようになるため、ユーザーの当初の好みがより拡大していく。
Netflixにおけるあらゆるストリーミングのオプションは、コンテンツに対する評価をユーザーが行えるため、アルゴリズムへ自分の好みをさらに指示することができる。
ソース:Netflix
例えば、「タイガーキング」に対して高評価を与えた場合、Netflixはより多くのドキュメンタリー番組を表示するようになるだろう。
アルゴリズムは、下記のような多くの指標をベースに、「視聴の可能性」を推測している。
- 視聴履歴
- ジャンルやカテゴリー
- 視聴する時間帯
- 視聴時間
- 視聴するデバイス
- 類似コンテンツの評価履歴
- 好みが類似しているNetflixの他のユーザー
Netflixのアルゴリズムは、特定のユーザーシグナルによって再学習され、レコメンデーションの精度を改善し、パーソナライズされた視聴体験を約束するのだ。
Netflixにおけるユーザー体験のレッスン1
- ユーザーインターフェースをシンプルにする。CTAを目立たせ、わかりやすくし、関連する画像の隣に最も重要な利点を表示させる。
- サインアップに必要なプロセスの数を明示し、期待値とモチベーションを高める。ユーザーテストを実施し、コンバージョンを妨げる障壁を最小とするユーザー体験を提供する。
- 最終的なコール・トゥ・アクションの前にFAQのセクションでよくある質問を表示させ、障壁を取り除く。
- 可能な限り、パーソナライズを強調する。Netflixはユーザーの期待に合わせた体験を提供することに苦心している。
Netflixのようなインテリジェントなアルゴリズムを使用していないプラットフォームであっても、ユーザーの好みを実装する方法は存在する。当初から、Netflixはユーザーに対し、彼らの好みを尋ねてきた。その返答に基づき、Netflixはトップページをカスタマイズしていたのである。
すべてのデバイスでシームレスなオンボーディングプロセス
Netflixのサインアッププロセスは、下記のような、多くのデジタルデバイスで完了することができる。
- Android
- パソコン
- iPhone、iPad、iPod Touch
- スマートTV、ストリーミングメディアプレイヤー
登録後、ユーザーはホーム画面に移動する。(効果的なUIデザインの一例と言える)シンプルなプラスのサインをクリックすれば、プロフィールを追加できる。
ここで、ユーザーはプロフィール名や子供の視聴制限を設定することができる。さらに、家族や友人のために、世界中のどこでも視聴することができる、最大4つまでのプロフィールを追加することが可能だ。
ソース:Wired
オンボーディングプロセスを完了させるために、下記のようなストリーミングの種類を、ユーザーはカスタマイズすることができる。
- プロフィールのロック
- 年齢制限
- 再生の設定
- アクティビティログの表示
- 字幕の表示
- 言語の設定
- 特定の視聴制限
- TV番組や映画のパーソナライズされた提案
Netflixのカスタマイズ機能は、競合他社のそれと比較し、優れているというわけではない。Netflixの差別化に役立っている要素は、設定のパネルに隠すのではなく、オンボーディングのプロセスで機能させていることだ。
こうすることで、ユーザーは初めから自分好みの体験を作り上げているように感じるのだ(その結果、主観的価値を高水準で維持することが可能となっている)。
Netflixにおけるユーザー体験のレッスン2
- シンプルであることの重要性の再確認。オンボーディングやログイン画面はシンプルにすべきだ。最も重要なボタンやコピー文のみを表示する。また、可能な限り、テキストを広く理解されている記号に置き換える。
- ユーザーが自身の体験をカスタマイズできるようにする。言語や通知の設定など、すでにこれを実現できる環境を備えているかもしれない。
- これをユーザーにしっかりと知らせる。もしくは、オンボーディングの段階で環境設定を説明する。
残りのユーザージャーニーと同様、最初はシンプルで、簡易であり、顧客目線に立ったものとする。ユーザーがプラットフォームに入れば、Netflixのオリジナルコンテンツから始まる、複数の選択が提示される。
オリジナルの作品を強調する
アバブ・ザ・フォールドには、最新トレンドのコンテンツとNetflixのオリジナル作品が掲載されている。オリジナル作品は、その価値を伝えるため、他のコンテンツよりも大きめに表示されている。
ソース:Netflix
近年、従来の有料TVとの契約を打ち切り、新しいプラットフォームと契約する家庭が急増している。ケーブルTVとの契約の打ち切りやストリーミングを好む傾向は、パンデミックにより拍車がかかり、今後も継続すると予測されている。
消費者がケーブルTVとの契約の打ち切りを選択するのは、ストリーミングという代替手段と比べ、価格が高いことが理由だ。2020年の上半期にスポーツの生中継がなくなったことも、減少の要因となっている。スポーツが戻ってきたとはいえ、従来のケーブルTVや衛星放送に戻ってくる人は少ないだろう。
エリック・ハグストーム eMarketer forecasting analys
こうした変化は「ストリーミング・オリジナル」への需要を増加させ、それは、Netflixが2012年以降、独占している領域である。ここ数年間で、Netflixは、わずか8時間から約3,000時間へと、オリジナルコンテンツを拡大させている。
ニールセンの調査によれば、2020年の米国のストリーミングサービスのオリジナルコンテンツにおいて、人気のあるコンテンツのTOP10のうち、9つがNetflixが作成したコンテンツであるとのことだ。
「Orange Is the New Black」、「Stranger Things」、「Black Mirror」などのNetflixのオリジナルシリーズは、テレビ好きのユーザーにとって、カルト的な人気を博している。かつてエグゼクティブであったシンディ・ホランド氏への独占インタビューによると、1億500万以上のユーザーが、「Orange Is the New Black」のエピソードを少なくとも1話は見ているとのことだ。
使い勝手の良さが人気の秘訣とはいえ、こうしたオリジナル作品が、ユーザーにとっての価値を高めている。
これらのシリーズの成功は、ユーザーをNetflixへとさらに没入させるための、革新的な戦術を生み出した。Netflixは、ユーザーの個別の興味に応じて回転する、12のサムネイルオプションを開発している。この戦術は、「アートワーク・パーソナライゼーション」と呼ばれている。
Netflixのオリジナル作品である、「Stranger Things」を例に挙げてみよう。コメディに興味のあるユーザーには、子供たちがゴーストバスターズの格好をしている、「Stranger Things」のサムネイルがプラットフォームに表示される。
しかし、犯罪ドラマに興味のあるユーザーには、霧に包まれたかぼちゃ畑を見つめる警官といった、よりシリアスなサムネイルが表示される。
こうした、積極的なパーソナライゼーションとユーザーの好みへの徹底が、Netflixの継続率が長期に渡って安定している理由の1つとなっている。
どのようにして、Netflixはトレンドとなるオリジナルのシリーズを売り出しているのか
ソース:Netflix
Netflixは、静止画を表示する代わりに、ユーザーがスクロールを開始するとすぐに自動再生される、予告編の動画を表示するよう、プロダクトデザインをアップデートした。
上記の例では、「My Unorthodox Life」にカーソルを合わせると、予告編の動画が自動再生され、ジュリア・ハートがカルト教団から脱出し、7年間でニューヨークで成功したCEOになるまでが描かれている。
このUXの戦術は、夢中で視聴してしまうようなコンテンツでユーザーを包み込み、予告編がなければ見逃されてしまうコンテンツを、即座に表示するようにしている。
Netflixにおけるユーザー体験のレッスン3
- 価値の高いコンテンツには誇りを与える。目立つように配置し、バッジを表示し、動画でプロモーションを行う。その他、様々な方法で、複数の候補の中から目立たせる。
- 自身のプラットフォームに価値を与え続ける。Netflixは、オリジナルコンテンツでこれを実現している。
- 可能であれば、価値の高いコンテンツを、各セグメントに合わせた形で提供する。Netflixは、アルゴリズムによるコンテンツの選択と、サムネイルのデザインでこれを実現している。
ここまで、我々は、ユーザーを自身のプラットフォームに即座で容易に没入させるための、Netflixのシンプルかつ顧客目線でのユーザージャーについて学んできた。次は、Netflixがユーザーを引き止めるために行っている方法について見ていこう。
パーソナライゼーションを強力に活用したリテンション戦略
パークスアソシエイツの調査によれば、Netflixの平均的なユーザーは、50ヶ月以上、契約を続けているとのことだ。
平均で、2/3以上のユーザーが、加入から1年経過してもまだサービスを利用している。これと比較し、同じ期間のHuluのユーザーは、53%しかサービスを継続していない。
既存ユーザーの人気が、新規ユーザーのサブスクリプションへの加入に対する魅力の理由になっているかもしれない。
COVID-19のパンデミックの初期の頃、多くのアメリカ人が軽微な支出を抑えようとしていた。しかし、この頃にNetflixは同社史上最高の成長を遂げている。Netflixは、2020年の最初の3ヶ月間だけで、1,577万人の加入者を増やしたのである。
パンデミックの緩和に従い、Netflixの成長も鈍くなっていった。しかし、それでも多くの消費者に愛されている。
解約を望むユーザーのために、Netflixは解約のプロセスを簡単にしているが、考えを変えたり、いつでも戻ってこられる機会も提供している。
ユーザーを長期間維持させるために、我々はこのプラットフォームから、他に何を学ぶことができるだろうか?
絶対的なパーソナライゼーション
パーソナライゼーションは、Netflixが高い継続率を維持している大きな要因である。上記で述べたとおり、Netflixはサムネイル画像でさえ、それぞれのユーザーの好みに合わせてカスタマイズされている。
トップページの下部には、3つのパーソナライゼーションのエリアがある。
- 選択の列:視聴継続、新作、話題の作品、あなたの視聴履歴から、など。
- 列内のタイトルの選択:例えば、ユーモアを好むユーザーには、「新作」の中に新しくリリースされたコメディ番組を含める。
- 選択したタイトルのランキング:例えば、露骨なコンテンツを好むユーザーには、子供向けのコメディの前に、ラブコメを表示させる。
各レコメンデーションの列において、Netflixのアルゴリズムは様々な要素(非公開)を重み付けし、ユーザーがその瞬間に見たいと思うであろう作品を表示させている。
すでに視聴を開始している番組は、ボタン内のメッセージが「再生」から「再開」に変更される。また、どのエピソードを見ているかを把握できるようにするため、エピソードの進行状況も目立つように表示される。
ソース:Netflix
これほど多くの選択肢を与えることができるのは、最も成功したプラットフォームのみに許されている、と思うかもしれない。しかし、選択肢を与える強さが、Netflixの成功を裏付けるものであり、競合他社もそれを悟ったのである。Hulu、Amazon Prime、Disney+も、豊富な選択肢を提供するようになった。
新作のコンテンツをお知らせする、Eメール戦略
Netflixは一貫したEメール戦略も採用しており、そこでは、新しく公開されたコンテンツをユーザーに知らせている。また、利用が滞っているユーザーに対しては、彼らが過去に見ていた番組の最新エピソードを紹介するなどして、再エンゲージメントを促している。
初回のウェルカムメッセージの後、通常、Netflixは月に4~7通のメールをユーザーに送付している。実際はユーザーの視聴履歴によってカスタマイズされるが、メールのタイトルには以下の文言を含めている。
- 新作番組
- 新作映画
- Netflixオリジナル番組
- ユーザーが過去に視聴した番組の新シーズン
Netflixは標準化されたテンプレートを使用しているため、すべてのメッセージにおいて、一貫したブランディングが維持されている。このテンプレートはGifや動画も使用できるため、ユーザーの興味を惹くことが可能となる。
ユーザーはこうしたメールから番組を直接リストに追加したり、視聴を開始できる。
Netflixにおけるユーザー体験のレッスン4
- ユーザーに選択の機会を与える。ユーザーに自身の体験をパーソナライズさせ、可能な限りのオプションを与える。
- 解約を簡単に行えるようにしつつ、ユーザーが考えを変える機会も提供する。Netflixは、Eメール(そのユーザーが見逃した番組を月ごとに知らせる)による連絡を提案することで、これを実現している。
- 興味をそそるEメール戦略をもって、ユーザーに定期的にプラットフォームに訪れてもらう。
あらゆるストリーミング・プラットフォームの中でも、Netflixは何年もの間、トップに位置づけられているサービスである。最先端のUIとUX、高いパフォーマンスを誇るオリジナルコンテンツ。これらがともに、ユーザーを惹きつけ、維持させている大きな理由なのである。
まとめ
シンプルなインターフェースから、高度にカスタマイズされたレコメンデーション機能まで、Netflixは没入感のある体験を作り出している。
Netflixのこうした体験に匹敵するものを作り出すために、スタートアップの創業者は、視覚的な階層に細かい注意を払う必要があるだろう。混雑を避け、コンテンツをパーソナライズし、主要なコール・トゥ・アクションを全面に押し出すのだ。
サービス内容と手続きがシンプルであればあるほど、加入の際に生じる検討事項も少なく、こうした状況がユーザーの決断を促していると感じました。自社の強みとユーザーの痛みを明確に理解し、それを的確に伝える手法を選択していることが大きな違いを生むようです。サービスや規模が違う場合、手法そのものを参考にすることは難しいかもしれませんが、その背景にある考え方は非常に学びとなるものでした。
この記事は、cxl に掲載された「How Netflix Creates Immersive Experiences with Exceptional Design and UX」を翻訳した内容です。
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