新型コロナウイルス感染症の影響についてはTechCrunchでもたびたび取り上げてきたが、今回、中国のハイテク企業がこの大流行にどのように対処してているかを取材した。また、これが中国以外の世界にとっての意味についても紹介する。
新型コロナウイルス感染症の大流行は中国の社会、経済全般に大打撃をもたらしているが、わずかな救いはテクノロジーが人々の相互の接触を最小限とする手助けとなっている点だ。巨大な人口が自宅で過ごすためにテクノロジー企業がどのような役割を果たしているかにも触れたい。
2002年に中国で流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)は800人近い死者を出したが、これが中国におけるeコマースを立ち上げるきっかけとなった。人々は感染を避けようとして外出を控えることととなり、オンライン通販に頼るようになった。ジャック・マ氏の伝記によれば、Alibabaのオンライン・マーケットプレイス、Taobaoが急成長したのも、ちょうどこのSARS流行期だった。
それから20年近く経ってさらに深刻な新型コロナウイルス感染症が中国の多数の都市をマヒさせている。この中でテクノロジー企業は自らの活動を維持すると同時に生活のライフラインとなり、また新型コロナウイルスを封じ込めるための国や民間の努力を助けようとしている。
データ分析企業のQuestMobileのレポートによれば、中国の市民がモバイルデバイスでインターネットを利用する時間は時間は2020年1月には平均1日6.1時間だったが、旧正月(2020年1月25日前後)には6.8時間にアップし、さらに新型コロナウイルス流行で7.3時間という驚くべき数字に跳ね上がった。これはウイルスの影響で旧正月休み明けにも閉鎖を続けている企業が多いことによる。同時に企業がリモートワークを取り入れつつあることも要因だろう。
以下に紹介するのはテクノロジー企業の努力の例だ。
リモートワークアプリが大ブーム
中国のエンタープライズソフトウェアビジネスは西側に比べると立ち上がりが遅かった。しかし消費者向けオンラインビジネスのプレイヤーが激増するにつれ、テクノロジー系大企業から投資家 までいっせいにエンタープライズ部門に目を向けるようになった。 ここにきて新型コロナウイルスの流行により何百万人ものオフィスワーカーが家に閉じ込められることになったため、リモートワーク向けアプリがブームとなっている。
全国的に学校、大学が閉鎖されたことで、Sensor Towerのデータによれば、オンライン教育ビジネスも同様の活況を呈している。
リモートワーク・アプリのメジャー・プレイヤーはAlibabaのDingTalk、Tencentの WeChat(微信)、 ByteDanceのLark. Appで、 Sensor Towerのレポートによれば、2020年の1月22日から2月20日の期間でDingTalkの14倍をはじめとして、以下のとおり著しい伸びを記録している(対前年同期比)。
DingTalk: 1446%
Lark: 6085%
WeChat Work: 572%
AlibabaはWeChat(微信)に対抗しようとして失敗した後、2014年にDingTalk(釘釘)をスタートさせたが、2020年2月に入って突然急成長し、中国におけるiOSアプリの首位に躍り出た。2019年8月時点の発表ではユーザーは1000万人以上ということだったが、現在は登録ユーザーは2億人以上だという。
WeChat(微信)のエンタープライズ版、WeChat Work(企業微信)は2016年に生まれ、DingTalkの後を追い、当時iOSのダウンロードで2位となった。2019年12月にはWeChat Workには250万社、6000万人以上のアクティブユーザーがいると発表された。
BytedanceがLarkをリリースしたのは2019年と新しい。上記2つの巨大サービスに比べれば小型で、 2月上旬までは300位台だった。しかし新型コロナウイルス流行後、Larkは爆発的に急成長した。LarkはTikTokの中国国内版であるDouyin(抖音)に広告を出し始めた。Douyin(抖音)はショートビデオの人気が高まると同時に企業マーケティングの寵児となりLarkに大きな注目が集まるようになった。一方、WeChatは月間ユーザー10億という巨大なサイズに達しているものの収益化には踏み出していない。
問題は新型コロナウイルスによる突然のブームが、維持可能な安定した市場に結びつくかどうかだ。DingTalkとWeChat Workは、あまりに急激なユーザー拡大のためにたびたびシステムがクラッシュしている。両サービスともこれほどの規模のユーザー殺到は予期していなかった。 また多くの企業は新型コロナウイルスの流行が収束すればリモートワークから従来のオフィスに出勤する勤務体制に戻ると予測される。
実際、「在宅勤務時間中はウェブカメラを常時オンにしておくこと」といったプライバシーの侵害につながるような要求をする企業もあるため、在宅勤務は社員からは評判が悪いことが多い。 またDingTalkは最近スタートさせたオンライン学習クラスに思わぬ反撃を受けている。旧正月休みが延長されたと思ったらオンライン学習クラスで勉強させられることになった生徒たちが一斉にアプリに一つ星の低評価をつけている。
マスク着用と国民監視システム
ウイルスの拡散を防ぐために多数の自治体が公衆の前に出るときはマスクを着用することを人々に義務付けたが、これは中国で一般化している監視カメラによる顔認証に重大な障害となっている。しかし、顔認証に代わる虹彩認証などの新しいテクノロジーが導入されつつある。
私が取材した旅行者によれば、駅で列車に乗る際、セキュリティゲートでいちいちマスクを外す必要はなかったという。マスクをしていても個人が特定できるならプライバシーを重視する立場からいえば大きな問題だ。しかし当局がそのような進化した生体認証行うようになったのか、ウイルスの流行で一時的にセキュリティを緩めているのかは不明だ。【略】
デジタル記録の活用
中国政府はClose Contact Detector(濃厚接触検知器)というウェブベースのアプリを開発し公開した。ユーザーは氏名、身分証番号、電話番号を入力することでデジタル化された移動情報にアクセスすることができる。たとえば航空機で感染者の3列以内に座っていたことが確認されれば「リスクあり」と判断される。これは感染拡大防止に役立つだろうが、一方では「政府がここまで詳しい個人の旅行データを持っているのなら、なぜもっと早く流行の封じ込めに役立てなかったのか?」という深刻な疑問も生んでいる。なぜ流行が拡大し始めて数週間も経ってからこのサービスが公開されたのだろうか?
もちろん中国の膨大な人口と無数の政府機関の存在を考えると実名で登録されたビッグデータを横断的に処理することが極めて困難な問題を引き起こすことは予測できる。新型コロナウイルスの流行は中国政府によるビッグデータの処理の努力を加速しているようだ。旅行許可のデジタル発行の多くは膨大なユーザー数を考慮してWeChatを利用している。【略】
デマと戦う
感染症の流行はデマの温床となる。Dxy.cn (丁香园)は医療関係者を対象としたオンラインコミュニティで新型コロナウイルス関連の情報の迅速なファクトチェックの提供を目的としている。また中国全土のマップで流行の現状をリアルタイムで確認できるようにしている。
Yikuangは独立のデベロッパーとアプリレビューサイトのSspai.comが開発したWeChatベースのサービスで、新型コロナウイルス感染症の流行地域を示す。データは自治体の公式発表に基づいており、近隣で感染があったかどうかがわかる。
上海の高等学校の生徒によって始められたブログは世界中の諸機関による新型コロナウイルス情報をまとめたもので、中国の多数の若者が参加してサービスを拡充している。
食事とエンターテインメント
全国的な社会のロックダウンは当然ながらオンラインエンターテインメントにブームをもたらす。QuestMobileのデータによれば、ショートビデオ市場は1日当たりのアクティブユーザーが5億6900万人に達した。流行以前の4億9200万人から大きく増加している。多くのミュージシャンがコンサートが不可能にあったため、ビデオストリーミングによるバーチャルコンサートに切り替えている。同様に映画も上映館の閉鎖によりオンライン封切りを行っている。
中国の都市の多くがレストランでの外食を禁じたため、料理宅配サービスが肩代わりを余儀なくされている。飲食店の口コミサイト、Meituan Dianpin(美団点評)が運営するで宅配サービスではコンタクトレスと呼ばれる人的接触を避ける宅配システムを作った。これは料理を入れたロッカーで、注文した顧客はロッカーを開いて料理を取り出すことができる(下のツイートの動画参照)
画像:ROMEO GACAD/AFP via Getty Images
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