2019年末、主観で選んだ注目の若手スタートアップ10

筆者はベンチャーキャピタリストではない。テレビでベンチャーキャピタリストを演じたりもしていない(頼まれればやるかもしれない)。筆者はTechCrunchの編集者として、またStrictlyVCという毎日のニュースレターを通して、あるいはそれ以前も多くのメディアで(雑誌Red Herringの初期を覚えている方はいるだろうか)、何年もスタートアップを担当してきて、目を引くスタートアップというものを見てきた。

筆者の興味をそそるものが将来の成功要因になるとは言わない。優れたアイデアがあっても多くの場合、進んでお金を払う顧客たちを数多くを見つけることはできない。管理不足や不運、古き良き競争のために死んでいくスタートアップもある。筆者が紹介するのは、筆者や読者にもっと時間があったならリストアップしたであろう多くのスタートアップのうちの、ほんのわずかなサンプルにすぎない。

筆者はかなり若い企業に焦点を絞った。現時点ではほとんどがシードラウンドで、過去数カ月で資金調達について開示したスタートアップを選んだ(1社例外あり)。業界や市場はさまざまだ。

意図していないのだが、興味深いのは選んだスタートアップにベイエリアに拠点を置く会社が少なかったことだ。ベイエリアは多くの点ですばらしい地域だが、才能やアイデアに関して、以前の優位性を失いつつある。

筆者が選んだ10の優れたスタートアップは以下の通り

Xilis 
ノースカロライナ州ダーラムにあるXilis(ジリス)は1219日、マイクロ流体オルガノイド技術の研究を続けるため、300万ドル(約33000万円)のシードラウンドを発表した。マイクロ流体オルガノイド技術とは何か。同社の技術により、単一のがんの生検から1万個の微小腫瘍を生成し、どのがん治療が患者に効果があるのか、またはないのかを検証し、その患者にとって最も効果的な治療法を発見する時間を短縮するという。果たしてその技術でがんを治すことができるのか。それは誰にもわからない。同社は腫瘍学者であるデューク大学教授が創業した。同社はすでに臨床試験で成功を収めているという。筆者の同僚のJonathan Shieber(ジョナサン・シーバー)がここで同社について書いた。

参考:より効果的ながん治療に向けXilisが微小な腫瘍の培養技術を開発中

Terradepth
Terradepth(テラデプス)は、テキサス州オースティンに本拠を置く創業16カ月の会社で、2人の元海軍SEALs(特殊部隊)隊員が創業した。自動潜水艦を使用して、Data-as-a-Serviceの形態で深海情報の提供を目指す。筆者は多くの業界で使用機会があると思っている。Terradepth(テラデプス)は、ハードウェア企業であるSeagate Technologyがリードしたラウンドで800万ドル(約87000万円)を調達したばかりで、多くの競合他社がいるが、筆者はこのアイデアが方向性として気に入っている。取り組む価値があると思う。海は地表の約70%を覆っているからだ。Darrell Etherington(ダレル・イサリントン)が12月中旬に書いた。

参考:深海調査のための自動運転深海艇を運用するTerradepthが約8.8億円を調達、創業者はNavy SEALs出身

Apostrophe 
カリフォルニア州オークランドに本拠を置く8年目の皮膚科の遠隔医療のスタートアップ、Apostrophe(アポストロフィー)は、電話で処方や治療を受けることを可能にする。同社は、SignalFireがリードし、FJ Labsも参加したシードラウンドで今月初めに600万ドル(約65000万円)を調達したことを発表した。皮膚科の遠隔医療会社は少なくとも半ダースはある。筆者は、最も良い会社がどれか、などと知ったかぶりをするつもりはない。皮膚は人間にとって最大の臓器であり、成層圏オゾンの減少により地表に到達する紫外線が着実に増加しつつある中で、迅速かつ便利に皮膚の検査できるというのは理にかなっている。ところで、同社が具体的にどうお金を稼いでいるのか疑問に思う向きもあるだろう。同社には通信販売薬局もある。Jordan Crook(ジョーダン・クルック)がここで同社について書いている。

参考:スマホでニキビの診察や薬の処方を受けられるApostropheが約6.5億円を調達

Conservation Labs 
ペンシルベニア州ピッツバーグを拠点とする創業3年半のスタートアップ。Conservation Labs(コンサベーション・ラボ)の技術は、建物のパイプから測定データを取得し、信号に変換して水流の推定値を計算し、水漏れを検出する。同社はAmazon Alexa Fundなどの投資家から、シードラウンドで170万ドル(約19000万円)を調達した。筆者は、世界やビルの所有者に貢献する点、そして産業の規模が非常に大きい点も良いと思う。同社自身も注目しているように、米国だけでも毎年3兆ガロン(11兆リットル)以上の水が失われており、それは金額にして700億ドル(76000億円)に上る。

Aircam 
人は虚栄心が強く、せっかちだ。その2つの観点から、非常に表層的なレベルではあるが、筆者は創業約2年のカリフォルニア州サンタモニカに拠点を置くスタートアップ、Aircam(エアカム)が好きだ。結婚式やパーティーなどのイベントでプロの写真家が撮った写真に誰でもすぐにアクセスできるようにする。創業者兄弟が前の会社をAppleに売却したことは、ある程度の信頼につながっている。同社はシードラウンドで650万ドル(約7億円)を調達した。ラウンドはUpfront Venturesがリードし、Comcast Venturesも参加した。Anthony Ha(アンソニー・ハ)が先月それについて書いた。

参考:イベント写真共有のAircamがシードラウンドで約7億円を調達

BuildOps 
BuildOps(ビルドオプス)は、カリフォルニア州サンタモニカを拠点とする創業1年半のスタートアップで、商業不動産に関わる中小下請業者向けのフィールドサービスおよびビジネスプロセスソフトウェアプラットフォームのメーカー。この秋のクロージングを含めて2つのトランシェからなるシードラウンドで580万ドル(約63000万円)を調達した。BuildOpsは、商業不動産建設業界でシェアを奪おうとしている驚くべき数が存在するスタートアップの1つであり、米国だけでも業界規模は毎年数千億ドル(数十兆円)に上る。同社は参入プレーヤーがいない市場セグメントもターゲットにしている。多くの建築家、不動産所有者、大規模なゼネコンはすでに既存のソフトウェアパッケージを使っているが、ビルに関わる中小請負業者や下請業者は通常、個別にオペレーションを回している。そのため建物の所有者も同様に、同社のソフトウェアを使えば利便性が高まる可能性がある。このソフトウェアは全体像を提示するため、不必要な工程、コミュニケーションミス、それらに伴う無駄な費用を回避できる。Jonathan Shieber(ジョナサン・シーバー)が記事を書いた。

Medinas
Medinas(メディーナ)は、カリフォルニア州バークレーに本拠を置く創業2年のスタートアップで、再利用可能な医療機器のマーケットプレイスを目指す。現在は、通常、機器を扱う会社が昔ながらのやり方で販売予定の再利用可能機器をリストアップした上で、直接販売している。Medinaの方法は、何十もの医療センターと協力して、所有しているもの、必要なもの、捨てる必要があるものに分類し、機器の簡易検査から出荷、再度の据え付けまで、販売のあらゆる側面をカバーする。市場は驚くほど大きく、ある市場調査グループによるとその規模は約380億ドル(約4兆円)に上る。Crunchbase News10月に同社について書いたように、筆者は同社が機器を必要とする発展途上国を支援していることも気に入っている。CTスキャナーがカンボジアに、人工呼吸器がインドに、除細動器がメキシコに送られる様子を想像して欲しい。同社は、数カ月前にNFXがリードしたシードラウンドで500万ドル(約5億円)を調達した。

Mable 
ボストンに本拠を置く創業1年の卸売商取引プラットフォーム、Mable(メイブル)は、小さな食品小売店が地元のブランドや新興ブランドを店の棚に置けるよう支援しようとしている。古臭く、つまらないビジネスに聞こえるが、ビジネスチャンスは豊富であり、創業者のArik Keller(アリック・ケラー)氏の見込みも同じだ。同氏の前の会社はFacebook買収された。小規模から中規模の食料品店、ブランド、流通業者は、約15万の独立系の食料品店およびコンビニエンスストアで構成される6500億ドル(約71兆円)の市場の一部だ。中小食料品店のほとんどは、電話、メール、テキストメッセージで商品を仕入れて、棚に在庫を補充している。ケラー氏は元PayPalのプロダクトディレクターで、後に食料品店を買収した。同氏は、中小食料品店のオーナーらに、仕入れ管理に役立つモバイルアプリを使うよう説得できれば、彼らの生活をより楽にし、Amazon(アマゾン)やWalmart(ウォルマート)などの大企業などに対抗する力を高めることができると考えた。Mableの収益に関して言うと、一部の食料品店は同社のサービスに対して月額料金を支払う。それ以外の場合、新しい専門食品会社などのブランドから手数料を得て、新しい店舗への進出を支援している。同社はこれまでシードで310万ドル(約34000万円)を調達した。

Phylagen 
サンフランシスコに拠点を置く創業4年半になるデータ分析のスタートアップ、Phylagen(フィラゲン)は、食品から繊維、偽造品まで、あらゆるものの微生物マップを作成して、モノの由来を判定する。基本的な考え方は、モノの「DNAの足跡」を探り当てること。製品(およびパッケージ)に付着する細菌、真菌、花粉の固有の組み合わせを意味する。同社が狙う市場機会は大きくかつ成長している。Allied Market Researchによると、来年までに食品トレーサビリティ市場だけで140億ドル(約15000億円)の市場になるとの見込みだ。注目に値するのは、同社の資金調達の「旅」が少し進んでいることだ。CultivianSandboxBreakout VenturesWorking Capitalなどが参加した今年初めのシリーズA1400万ドル(約15億円)で完了した。

Bunch
サンフランシスコに拠点を置く創業2年半のスタートアップ、Bunch(バンチ)が開発したアプリは、ダウンロードすると、モバイルゲームをしている友人とオーディオチャットやビデオチャットができる。一見すると、「軽い」アイデアだと思うかもしれない。例えば、合成ポリマーから血管シーラントを開発しており、資金調達が進捗を見せているTissium(こちらもかなりきちんとした会社だ)と比べて欲しい。だが、人と人とのつながりが希薄になりつつある現代社会で、このアプリは娯楽だけでなく健康の観点からも幅広い魅力を持つ。社会的つながりが寿命を伸ばすことを示す研究は後を絶たない。Bunch(バンチ)が、SupercellTencentRiot GamesMiniclipColopl Nextなどのトップゲームメーカーから11月のシードラウンドで385万ドル(約42000万円)を調達したことにも大きな意味がある。というのも、具体的には今回のラウンドの参加企業は、同社を競争相手とみなしているのではなく提携相手と考えているからだ(筆者はそう思っている)。Jordan Crook(ジョーダン・クルック)がこれについても書いている。

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(翻訳:Mizoguchi)

より効果的ながん治療に向けXilisが微小な腫瘍の培養技術を開発中

米国のみならず世界中で、がん治療が奇跡的と言ってもいいほどの進歩を遂げているにもかかわらず、依然としてこの病気は米国で死因の第2位を占めている。

問題は、人間の体が一人一人異なるため、あらゆる病気の症状も患者に固有であるということだ。一般的にがん治療の有効性は、ある種類のがんにかかっている人のうち同じ治療法でいかに多くの人を治せるのかにかかっている。

疾患の理解が進むにつれて、個別の疾患に標的を定めた治療が市場に出始めた。Xilis(ジリス)の創業者は、その種の治療をさらに効果的にするプロセスを開発した。

Xilisは、それぞれデューク大学の教授および研究者であるXiling Shen(シリン・シェン)氏とDavid Hsu(デイビッド・スー)氏が創業した。同社における技術は、オランダの研究科学者Hans Clevers(ハンス・クレバース)氏の研究をベースとしている。クレバース氏は、2004年にライフサイエンスのBreakthrough Prizeを受賞し、現在はロシュの取締役を務める。同氏は、研究用に人間の小型臓器を培養する手法の改良に貢献した。

シェン氏とスー氏はその研究を一歩進め、がん患者の腫瘍を培養・維持できるプロセスを開発している。医師や製薬会社が、一つ一つのがんにあった治療法を開発するのに役立つ。

「当社の技術は、1つのがん生検から1万個の微小な腫瘍を生成し、どのがん治療が患者に効果があるのか、またはないのかを検証する」とシェン氏は声明で述べた。「臨床試験ではすでに、当社の技術が治療の成功に貢献する見込みを示すデータや、薬剤耐性患者への新しい治療法発見を示唆するデータもある」。

創業者らは2019年の早い時期に、研究での発見に基づき臨床試験を開始した。その結果は非常に有望だったため、2人はこの技術を活用に向けて会社を設立し、臨床現場で使えるまでの時間を短縮するため資金調達することを決めた。臨床で使えるようになれば、患者は標的を定めた治療法の恩恵にあずかれる。

シェン氏はインタビューに対し、同社の技術には非常に説得力があるため、先駆者であるクレバース氏が共同創業者として会社に参画し、将来の開発に協力することに同意した、と述べた。

「我々が発明したのは、マイクロ流体力学で使える微小な液体だ」とシェンは言う。「マイクロオルガノイド(試験管内で作られた小型臓器)を培養して、その3次元の微小環境でがん細胞を腫瘍に成長させる」

Xilisは技術の商業化を加速するため、シードで300万ドル(約3億3000万円)を調達した。投資家には、数十億ドル(数千億円)規模のがん治療技術開発企業Guardant Healthの初期投資家であるFelicis Ventures、元NFLのスーパースターJoe Montana(ジョー・モンタナ)氏のファンドであるLiquid 2 Ventures、Pear、8VCなどが名を連ねる。

同社の技術の価値は、短期的には患者一人一人に的確に合わせた治療を生み出す能力にあるが、長期的には同社が蓄積するデータセットに価値がある。「当社が保管・蓄積するマイクロオルガノイドを、製薬会社が試験に使いたいと考えている」とシェン氏は言う。

シェン氏は、新薬の有効性を検証する初期的な試験で何百万ドル(何億円)も節約できる可能性を、製薬会社が見逃すはずはないと言う。この技術を利用すれば、製薬会社は「はるかに早くかつ低コストで大規模な医薬品スクリーニングを行うことができる」

画像クレジット:Oregon State University / Flickr under a CC BY-SA 2.0 license.

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(翻訳:Mizoguchi)