ビジネスアプリの機能をスマホのキーボードに統合して仕事の効率化を目指すOneKey

「スマートフォンで最もよく使われるアプリでありながら、意識されていない。それがキーボードだ」と語るのは、OneKeyの共同創業者でCEOのChristophe Barre(クリストフ・バール)氏だ。

直近のYコンビネーターの参加者であるOneKeyは、キーボードをカレンダーやTo Doリストといったアプリ、そしてゆくゆくはSalesforceの機能にも対応させて、モバイルデバイスをもっと使いやすくしようとしている。

絵文字や多言語、GIFをキーボードから入力することはできるが、ビジネスアプリをキーボードの機能に統合する方法はほとんどないとバール氏はいう。そして同氏は、この状況を変えようとしている。

現時点では、OneKeyはまずカレンダーのようなスケジュールアプリをキーボードのインターフェイスに組み込む予定だ。その後は、スマートフォンのキーボードの領域で使うモジュールを作成し、アプリストアのようなマーケットプレイスで販売することを目指す。

バール氏がOneKeyの元となるヒントを得たのは、南米で主にWhatsAppで仕事をしていたときのことだった。メッセージングツールとしては便利だったが、スケジュールや企業向けアプリとの統合に関しては至るところで機能しなかった。

「人々はモバイルでどんどん多くのことをするようになり、今やビジネスもそうなっている。コンピュータがメインである世界から携帯電話の世界へと移行すると、生産性に関する機能の多くが失われてしまう」と同氏はいう。

パリ郊外出身のバール氏は、パートナーとともにコロンビアのボゴタに渡った。パートナーはそこに住み、バール氏はDeepLookというセールスオートメーションのスタートアップを始めた。DeepLookを一緒に創業した高校時代の友人であるUlysses Pryjiel(ユリシーズ・プリジエル)氏とバール氏は、必要なビジネスツールを何かしらモバイル環境に組み込めないかを考えた。

バール氏は重要なことに気づいた。携帯電話のキーボードが配置されている場所があまり活用されていないということだ。OneKeyは携帯電話のキーボードの場所に着目したブラウザ拡張機能のようなものだと同氏は考えている。

「アプリのマーケットプレイスは長期的なビジョンだ。マーケットプレイスがあれば、人々にさらに高い価値を提供できる。まずは専門的になりすぎず、すぐに価値を提供できるカレンダーやTo Doリストといった機能からスタートする」とバール氏は語る。

このアイデアはまったく新しいものではない。Microsoft(マイクロソフト)のSwiftKeyには背景画像のマーケットプレイスがある。しかしバール氏が考えているほど強力なアプリやサービスはないという。

バール氏は「一般的なアプリでできることは、キーボードでできるようになる可能性が極めて高い」と語っている。

画像クレジット:cifotart / Getty Images

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(翻訳:Kaori Koyama)

Reduced Energy Microsystemsが新しいチップで業界の雄たちに挑みかかる

あなたが所謂IoT(物のインターネット)を好きかどうかに関わらず、私たちは既にIoTに囲まれて暮らしている。そしてそれらの「物」の中にはチップが入っている。そうしたチップは、もちろんとても先進的であると同時に、様々な観点から従来の方式に従っている。Reduced Energy Microsystemsはこの現状を、日常デバイスにおけるAIやコンピュータービジョンの能力を、飛躍的に改善できる可能性のあるチップテクノロジーで、覆そうとしている。しかしその行く手には激しい競争も待ち構えている。

REMは、Y Combinatorが選んだ最新プロジェクトの1つである。Y CombinatorはREMをDraper Associatesに引き合わせる役割を果たし、技術に関心を寄せたDraper Associatesは、シードラウンドとして200万ドルを提供した。

私たちのカメラや携帯電話デバイスの性能を向上させる方法は沢山ある。まずソフトウェアの改善。例えばWindows 8からWindows 10へ移行すること。あるいはアーキテクチャの改善。例えば32bitから64bitへの移行。そして、チップレベルでの改善も可能だ。REMが望んでいるのはこのレベルの改善だ。

もちろん、チップは絶えず改善されていて、新しいものが毎年発表されている。しかし、IntelまたはARM、x64またはx86、CoreまたはRyzenのどれを選ぼうとも、それらは全て同期式(synchronous)と呼ばれるものだ。つまり、その中のどこかにクロックがあって、1秒に何100万回もの時を刻んでいる。すべての小さな動作ユニットは一斉にその時計に同期しながら、お馴染みの「ギガヘルツ」速度を達成しているのだ。

しかしこれらのCPUの全体的な速度は、クロックの速度に制限されている。もし特定の操作、たとえばとても簡単なロジックが、クロックの生み出す時間の間隔よりも短い時間で終了してしまうとしたらどうだろうか?CPUはただそこに留まり、待っているだけということになる。そして、1秒のほんの一部のさらにほんの一部というものは、あまり大したことはなさそうに響くが、もしそれが何千もの場所で。何百万回も起こるなら、あっという間に合計が無視できない量になってしまう。マルチコアやマルチスレッドというものは、この問題にアプローチしたものだが、同時に難しさも増してしまう。

もしクロックの専制政治からこれらの操作を解放する手段があったなら…いや、実際は存在しているのだ!非同期(Asynchronous)処理を使えば、計算をそれぞれのペースで進めることが可能になり、時間とエネルギーの節約になるのだ。チップメーカーは、このことについては昔から知っていた。しかし彼らはあまりにも多くのリソースを同期式のものに振り向けてきたので、非同期式のものが市場で出回るのを見ることは無かったのだ。REMが狙うのは、その状況を変えることだ。

私は同社の3人の共同創業者のうちの2人である、Eleazar Vega-GonzalezとWilliam Kovenと話し、会社の狙いと主張を尋ねた。

「組み込み携帯機器領域のこととなると、大きさについての話になりますよね?」と話すのは、同社のソフトウェア責任者であるVega-Gonzalezだ。「普通ARMを利用している場合、簡単なタスクを行っている間は低スペックのコアが用いられます、そしてユーザーがより複雑なことを始めると、より大きく強力なコアへと切り替わって行きます。それは動作しますし、現段階では良い解決方法です…でも私たちが実現したのは、1つのコアをダイナミックに加速したり減速したりすることなのです」。

非同期の持つ性質によって、その速度調整の幅は、既存のチップよりも極端に大きなものになる。同じチップをある目的に対しては僅かな電圧で動作させることもできる。そして需要に応じて消費電力をスムースに積み増していくことが可能だ。

テストボード上の試作チップ – 製品版では当然、もっと小さくなる。

しかし、それはこの分野のスタートアップを長い間邪魔してきたエキゾチックな製造プロセスを必要とするものではないし、プログラマーが学習しなければならない難解な新しい原理やアーキテクチャでもない。

「私たちは現在業界が使っているものと同じ設計ツールを使う手法を考え出しました。私たちがARMコアを実装すると、それはプログラマーの目には普通のARMコアのように見えます」と語るのはCEOのKovenだ。「そしてユーザーには違いがわかりません、単に良く実行された結果を見るだけです。私たちがやっているのは、これら2つの立場の間の部分なのです」。

結果として作られたのは、殆どの場合は動作している必要性のない、例えば家庭用セキュリティカメラを駆動するための、超低電圧で動作する標準チップである。とはいえ、一旦必要とあらば、動作は加速し、従来のチップに対して同じ電力でより効率的な顔面認識アルゴリズムを実行することができる。こうして、エネルギー効率を改善しながら、性能を上げることができるのだ。アプリケーションに依存するが、3から4倍の改善となる。

話がうますぎて、信じることがおそらく難しいかもしれない。もし非同期チップがそんなにクールなら、なぜ既存の大チップメーカーはこの分野に参入していないのか?数年をインテルで働いて過ごしたKovenは、彼らのDNAからはその考えがパージされてしまったからだと語る。

「私はこのプロジェクトを育てる場所を見出そうと、Intelの中で多くの時間を費やしました」とKoven。「非同期性は、Intelの中ではある意味禁忌の言葉なのです。それは単に彼らが組織としてやっていることとは、あまりにも違うことなのです。それらが異なっていて、恐ろしいという理由で、彼らはこのような技術の多くを放逐してきました」。

「これはこれまでも何度か試されていて、歴史的に起きたことは、こうした利点は理解されつつも、それが市場に受け容れられるには多くの困難が待ち受けていたということです」とVega-Gonzalesは語る。「私たちは、業界のどこよりも素早く動くことができるように、特に内部で使われるツールに力を入れて来ました。これはソフトウェアスタートアップが、大きな企業を打ち倒したり出し抜いたりするために行う方法と同じです」。

同社が想定しているのは、警察のボディカメラ、デジタルビデオレコーダー、ドローン、セキュリティカメラのような応用分野だ。そこでは製造業者と開発者たちが、コストを掛けずそしてバッテリー消費を増やすことなく、提供できる機能を改善する方法を探している。チップの製造はほぼ終了し、製品との統合を現在彼らはテストしている。今年の末までにはプロトタイプができる予定だ。

REMは、通常はソフトウェアに焦点を当てているY Combinatorからの初めてのチップスタートアップだが、プログラムはREMにとって役立つものであったようだ。

「素早く動き、ビジネスと顧客関係に焦点を当てるようにさせる、一貫した圧力のようなものがありました」とVega-Gonzales。驚くようなことではないが、ハードウェアスタートアップには、物作りに対するものと、ご存知のように、収益を上げることに対する、大きなリスクがつきまとう。

「Draperに関して言えば…彼らは私たちが実現しようとしている未来を本当に信じてくれています」とKoven。「彼らはこの実現のためには、ソフトウェアよりも時間がかかることを理解しています。そして半導体業界は、色々な意味で停滞しているのです」。

技術的、市場的、そして金銭的理由から、この領域への参入は簡単ではない。自身で基本的に異なるチップを設計し製造するスタートアップの構想は、容易に受け容れられるものでもない。だから、REMが敢えて戦いに乗り出す大胆な姿勢は賞賛に値するものだ。彼らは自身の製品を信じているし、それは実際市場にある何物からも異なっているように見える。運と創意(そして数百万ドル)があれば、予測可能な市場に飢餓感を感じている顧客たちの前にボールを転がすことができるかもしれない。

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(翻訳:Sako)