「いよいよ方向性が見えてきた」gumiがVRゲーム開発のよむネコをグループ会社化したワケ

    gumi代表取締役社長の國光宏尚氏(左)とよむネコ代表取締役の新清士氏(右)

3月に発表した2016年度第3四半期決算で、営業利益が12億4000万円(前年同期は16億2300万円の赤字)、経常利益が13億5100万円(同16億6600万円の赤字)という黒字転換の業績を発表したgumi。2016年6月には代表取締役副社長の川本寛之氏が主力となるゲーム事業を担当し、創業者で代表取締役社長の國光宏尚氏が新規事業(VRなど)を担当する両代表制に移行したが、ゲーム事業が好調に推移した結果で黒字化を達成したことになる。

そして今度はVR領域でも大きな発表があった。gumiは3月23日、VRゲームの企画、開発を行うよむネコの株式を取得。gumiの持分法適用会社としたことを明らかにした。またこれに合わせて國光氏はよむネコの取締役会長(非常勤)に就任した。

国内外で投資やインキュベーションを展開

gumiはゲーム事業でのマネタイズを進める一方で、これまで投資やインキュベーションを通じてVR領域への進出を進めてきた。LP出資する5000万ドル規模のVR特化ファンドであるThe Venture Reality Fund(VR Fund)は、日本、米国、韓国での投資を実施している。

投資の中心はVR向けのオーサリングツールが中心で、そのほかに広告やゲーム制作のスタートアップが続く。「VRで流行るのに必要なのは、『VRならでは』のハイエンドな体験を作ること。今ある2DのコンテンツをVRで見ても仕方ない。かといってただ立体視ができるという3Dテレビとは体験が違う。例えば空を見上げれば鳥が飛んでいて、周囲を見渡せば味方と敵が戦っている中にいる、そういうことがVRならではの体験。だがそんなコンテンツを1から生むのは大変」(國光氏)。そんな状況だからこそ、コンテンツを制作するようなツールが重要になるのだという。「モバイルゲームの時もUnityやアナリティクスツールが登場して状況が変わったように、ゴールドラッシュで金を掘るでのはなく、つるはしを売り、鉄道を作っている」(國光氏)

また一方で韓国では、VR FundのLPでもあるゲーム大手のYJM Gamesと組んで2016年11月よりインキュベーションプログラムを展開している。またこれに先駆けるかたちで2015年11月には、VR特化のインキュベーションプログラム「Tokyo VR Startups」を日本ではよむネコの代表取締役であり、デジタルハリウッド大学大学院准教授、ゲームジャーナリストの新清士氏とともに立ち上げた。第1期プログラムの参加企業5社中4社が次の資金調達を実施するに至っている。3月末には第2期のプログラムのデモデイも控えているところだ。

VR Fundのポートフォリオ

売上1億円超えタイトルも登場、「いよいよ方向性が見えてきた」

「1年半の(VR関連の)活動を通して、いよいよ方向性が見えてきた」——國光氏はこう語る。前述の通り、VRの市場自体が黎明期ということもあり、開発ツールのニーズは高まっている。一方でOculus RiftやHTC Viveといった端末は、PCと繋ぐケーブルや、位置を計測するセンサーといった物理的な制約、そして何より本体価格の高さもあって販売台数はさほど伸びていない状況だ。だが両社ともにPCとの接続を必要としないスタンドアロン型端末をリリースすると明言している。またゲームプラットフォームを見てみると、売上1億円以上になるVRゲームコンテンツも合計10本以上になっているという。

「トップゲームで4、5億円取れるとなると、もう『市場が来るかどうか』という話ではない。今はViveが(販売台数)40万台程度というが、スタンドアロン版も登場し、スマートフォンVRも本格的にやってくれば、市場が立ち上がることになる」(國光氏)——そんなVRコンテンツ市場への期待を込めたgumiとしての(コンテンツ面で)最初のチャレンジがよむネコでのゲームの提供ということだろう。

よむネコの設立は2013年4月。Tokyo VR Startupsのインキュベーションプログラム第1期に採択されているVRスタートアップだ。2016年12月には、米Oculusのコントローラー「Oculus Touch」のローンチタイトルとして、VR脱出ゲーム「エニグマスフィア〜透明球の謎〜」をリリースしている。エニグマスフィアはVR空間上でプレイできる脱出ゲームで、2人数プレイも可能なのが特長だ。フィールドテストを経て、大阪・梅田にある梅田ジョイポリスでアーケード版の稼働もスタートしている。

「1カ月間のテストで1000人にプレイしてもらい、1回800円という価格設定ながら(アンケートで)5点満点中4点以上という結果を得た。実はこれが刺さったのは、ITのヘビーユーザーでなくいわゆる『リア充』。VRは興味あって体験したいけど買えないという層の評判が良かった」(新氏)

一方でビジネス面での課題も見つかった。日本のVR市場が形成されることは見越しているが、立ち上がりは新氏が想定するよりも遅いという。また、米国へアプローチするにしても、よむネコ単体のリソースには限界があった。それであればgumiのグループに入って勝負するべきだと考えたのだという。

今後よむネコは、gumiのエンジニアとも人材交流をしつつ、エニグマスフィアのアップデートを進める。3月中にはHTC Vive版もリリースする予定だ。将来的には新タイトルの提供も検討する。

「米国では、VRゲームは家庭用ゲーム系とゲームセンター・ロケーションベース系の2つのビジネスモデルが見えてきた。今までの家庭用ゲームといえば2年で制作して60ドルで販売するというモデルが中心だったが、今は1時間程度のコンテンツを15ドルとか安い値段でリリースして、それ以後はユーザーの声を聞きながらアップデートを繰り返す、いわば『疑似Free to Play』のモデル」(國光氏)

「一方でロケーションベース系は、1回やったら800円といったもの。だから今のままであれば回転率をあげる必要が出てくる。だが多分この形にはならなくて、ネットカフェのようにルームごとに『1時間いくら』というかたちでチャージすることになる。実は韓国のネットカフェは、収益の半分が飲食。日本でもカラオケみたいにワイワイ騒ぐのであれば、(エニグマスフィアのように)みんなで楽しめるゲームが必要になる」(國光氏)

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TechCrunch Japan

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