「とりあえずAIで何かやりたい」ではダメ――AIベンチャーと東大研究室が企業向けの支援事業

ここ1〜2年の間で「AI(人工知能)」という言葉はごく当たり前に使われるようになった。もちろん概念や技術自体は以前からあったものだけど、ほんの数年前まではTech界隈のメディアやSF映画などで目にする、”ちょっと未来感のある”専門用語的な存在だったように思う。

近年はビジネスにおける「AI活用の成功事例」が取り上げられることも増えたせいか、AIを取り入れたいという企業も多い。ただ実際のところ、多くの現場ではAIを導入するにあたってさまざまな課題に直面しているのが現実らしい。

そのような企業を支援するべく、AIスタートアップのストックマークが新たに始めるプロジェクトが「AI Alchemist」だ。

AI導入から自走にむけたトレーニングまでを6ヶ月で

AI Alchemistは企業がAIを導入するところから、開発したシステムの運用を担う担当者の育成までをトータルで支援するプログラムだ。「デザイン思考」→「プロトタイピング」→「マッチング」→「トレーニング」という4つのステップを設定し、約6ヶ月間に渡って企業に伴走する。

一緒にユーザーが求めているものを掘り起こし、AIの活用方法を試すプロトタイピングのフェーズでは東京大学の矢谷研究室と共同でサポート。システムに落とし込む際には最先端の技術を持つAIベンチャーも巻き込む。顧客が自走できるように、AIに精通した人材の育成までをカバーする。

もしかすると、ここまで読んで「いわゆるAI導入コンサルティングのことで、別に珍しくないのでは?」と思った人もいるかもしれない。正直僕も最初に概要を聞いた時、少しだけそう思った。ただ実際に話を聞いてみるといくつかユニークな点があるようだ。

AIスタートアップと東大研究室のコラボ

まずストックマーク自体がAIを活用した自社サービスを展開していること。同社の強みであるテキストマイニングの技術を用いたニュースサービス「StockMark」(個人向け)や「Anews」(エンタープライズ向け)は以前TechCrunch Japanでも紹介した。

同社にはAIが現在ほど脚光を浴びる前から、機械学習やビッグデータ解析の研究を進めてきたメンバーも多い。そもそも創業のベースとなっているのも、CTOの有馬幸介氏が東大の研究室で取り組んでいたテキストマイニング、ディープラーニングの研究だ。そこから各メンバーが大企業にてエンジニアやコンサルタントとして経験を積んだ上で、ストックマークを創業した。

「ビジネス経験と、大学での研究をベースとした最先端のAI技術の両方をもっているのは強み。自社サービスの開発・運営、クライアント企業のシステム開発を通じて培った(AIに関する)知見も提供できる」(ストックマーク代表取締役CEOの林達氏)

AI Alchemistの中心メンバーでチーフアルケミストの森住祐介氏は、前職の日本IBM時代に開発者向けサイト「developerWorks」の日本語版編集長を務めた人物。大企業やスタートアップとのつながりも深く、森住氏の持つ広いネットワークも同サービスの特徴だ。

また上述した通りプロトタイピングの段階では、東京大学の矢谷研究室もサポートに加わる。ストックマークの技術アドバイザーも務める矢谷浩司氏は、ヒューマン・コンピュータ・インタラクションとユビキタスコンピューティングの研究者で、いわゆるUI・UX領域の専門家だ。

Microsoft Research Asiaでの勤務経験もある矢谷氏の研究室と一緒になって、「AIをどのように使っていくのか」をデザインしていくという。

「とりあえずAIで何かやりたい」ではうまくいかないケースも

「Anewsなどエンタープライズ向けの事業を展開するうちに、AIの導入や活用で悩んでいる大企業が多いことに気づいた」——森住氏はAI Alchemistの構想が生まれた背景についてこう話す。

トップが「とりあえずAIで何かやりたい」と考えている企業は多いが、AIによって何が変わるのか、どのような価値が生まれるのかを深く理解しているケースは限られる。結果として実際に担当することになる現場のスタッフに、大きな負担がかかっているという。

「AIについて聞いたことはあるが『どう使っていいのかわからない』という声が多い。本気で取り組むのであれば、既存のビジネスの延長で考えてしまっては上手く進まないし、時には文化的なところから変えていかなければいけない場合もある。担当者1人では難しいので、経営陣や社内のキーマン、外部の企業を巻き込むところまでサポートしていくことが必要」(森住氏)

AIの導入コンサルティングをしている企業はすでにあるが、社内の担当者を育成するといった点まで含めてサポートしているところは多くない。森住氏は「(理論だけではうまくいかない部分も多く)AIの導入って思いの外めんどくさい、泥臭いもの」だという。

すでに商社系の大手企業とプロジェクトが動き出しているそうで、まずはニーズの多い大企業を中心にサービスを展開していく方針。いずれは中小企業にも広げていきたいという。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。