日本でクラウドファンディングといえば、新製品のマーケティングかチャリティー的な支援が中心。2014年に資金決済法が改正されて投資型のクラウドファンディングも始まったが、利用はまだこれからというところだろう。
そんな中でスタートしたReLicのクラウドファンディングサービス「ENjiNE(エンジン)」。彼らは「チケット」という概念を持ち込むことで、より手軽にクラウドファンディングを利用できるようにすることを考えているという。
ENjiNEは、先行する他社のクラウドファンディングサービス同様、サイト上に掲載されているプロジェクトに対して支援を行うというモノだ。支援の対価として製品やサービスを得られる、いわゆる「購入型」と呼ばれるサービスに分類される。
だがENjiNEがこれまでの購入型クラウドファンディングサービスと違うのは、これまでであれば、「お金を払って支援を行う」としていたユーザーのアクションを「電子チケットを購入する」というものに変えたことにある。プロジェクトが終了して、その製品やサービスが提供されるタイミングになれば、電子チケットを使用(ENjiNE上でコードを入力する)することができる。
クラウドファンディングの仕組みを知っている読者は「そこに何の違いがあるのか?」なんて思うかも知れない。だがReLic代表取締役CEOの北嶋貴朗氏は、この「チケット」こそが国内で購入型クラウドファンディングの市場を成長させる鍵になると語る。
「チケット化」でECの市場を取りに行く
「日本のクラウドファンディングの市場は20億円程度と欧米に比べればまだまだ小さい(米国のクラウドファンディング市場規模は2014年度で1億ドル程度だという)。それは投資や寄付という文化が欧米のように根付いていないから。だが見方を変えれば購入型のクラウドファンディングは実態としてはECと同じ仕組み。であればECの市場を取っていける仕組みにしていけばいい」(北嶋氏)
ではクラウドファンディングをECのように使ってもらうにはどうすればいいか? そこで考えたのがチケットという概念だという。「プロジェクトへの支援」と考えるよりも面白い商品を買うという動機を作るだけでなく、購入後に友人などにプレゼントすることもできる(ENjiNEのアカウントが必要になる)。そのための不正防止の仕組みも導入しているという。
それに加えて、ENjiNEで楽天市場やYahoo!ショッピングといったショッピングモールのアカウントを取得。ENjiNEに掲載されたプロジェクトのオーナーは、今後ENjiNEに運用を任せるかたちでショッピングモールで商品を販売できるようになる(モールによっては「チケット」が販売できないケースもあるため、商品の予約販売にする、製造後に販売するなどの対応を行う)。通常のクラウドファンディングであれば、プロジェクトが終了した時点までしか支援できないが、この仕組みを使って継続した商品の販売が可能になる。このあたりはヤフーとソニーが組んだ「First Flight」の発想に近い。
オープン時点ではフォトウエディングサービスを手がけるスタートアップのFamarryによる家族写真撮影のプロジェクトや、スタッズを使った革小物を扱うTheTHIRDによる展示会出展プロジェクトなどが並ぶ。システムの外部提供も決まった。サザビーリーグの主催するビジネスプランコンテスト「Lien PROJECT2016」と連携。3月に開催されるイベントでは、プレゼンの最中にリアルタイムにファンディングを行う「ライブファンディング」の仕組みを提供する。
クラウドファンディングの「前後」も支援
実はReLicが手がけるのはこのENjiNEだけではない。すでにピッチイベントや新規事業制度等の応募資料や合否の管理、メール送信などを行うサービス「Ignition」を提供しているほか、今後はマーケティングオートメーション、CRMといった領域のサービスも開発中だという。
北嶋氏は「会社の理念は『志ある挑戦を創造し、日本から世界へ』。プロジェクトの構想(Ignition)から事業化(ENjiNE)、成長(開発中の新サービス)までをカバーしていきたい」と語る。クラウドファンディングはあくまで1つの事業に過ぎないのだと。
北嶋氏は新卒でワイキューブ、プライマルとコンサル会社を経てディー・エヌ・エーに入り、EC関連の新規事業や事業企画、戦略アライアンスなどの責任者としてキャリアを積んできた。2015年7月にReLicを設立。これまでにベータカタリスト(DeNA元会長の春田真氏らの新会社)や個人投資家からシードマネーを調達している。