「リスクを恐れてはダメ、とにかくチャレンジすべき」 Gusto共同創業者が語った事業成長の秘訣

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2016年11月17日から18日にかけて、東京・渋谷で開催されたTechCrunch Tokyo 2016。18日の午後には、給与支払い業務を始めとするクラウドベースの人事サービス「Gusto」を手がけるGusto共同創業者でCTOのEdward Kim(エドワード・キム、以下キム)氏を迎え、5000万ドル(52億円)を調達するまでの道のり、そして起業家へのアドバイスを語った。

「Why not me? (オレにだって)」という気持ちで起業の道へ

ドイツの自動車メーカー「フォルクスワーゲン」の研究所で、エレクトリカルエンジニアリングのエンジニアとしてキャリアをスタートさせたキム氏。順調にエンジニアのキャリアを積んでいた彼が、起業を志すようになったのは2007年。Y Combinatorが主催しているStartup Schoolに参加したことがきっかけだ。

同世代の起業家が事業をセルアウト(売却)して、数億円という大金を手にする。そんな姿を見て、「Why not me ? 」——自分にだってできるかもしれない——と考えるようになったという。

その1年後、2008年にキム氏はWiFiデジタルフォトフレームを製造・販売するスタートアップ「Picwing」を立ち上げる。ガレージの中で一つひとつ手作りでWiFiデジタルフォトフレームを作っていたのだが、途中でキム氏はハードウェアの難しさを痛感することになる。

「ハードウェアのスタートアップは物理的に大変。資本もないので、製造ラインをつくることもできない。この事業を続けていくことは難しいと思いました」(キム氏)

また経済環境の悪化もPicwingにとって大きな壁となった。2008年はリーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発した“リーマンショック”が起きた年。資金繰りも上手くいかず、事業は立ち行かなくなってしまう。そんなキム氏に追い打ちをかけるかのように、トラブルが発生した。

ガレージでWiFiデジタルフォトフレームを組み立てているとき、工作機械のドリルを落とし、腕に穴が空いてしまった。すぐさま病院に運ばれ、手術を受けることができたのだが、キム氏はこの出来事を契機に、事業のピボットを決意したという。

ハードウェアの難しさを知ったキム氏は、Picwingの事業をWiFiデジタルフォトフレームから撮影した写真を紙にプリントし、毎月2回指定された宛先に写真を送ってくれるサブスクリプションサービスに転換した。

PCやモバイル向けのアプリから写真をドラッグ&ドロップするか、特定のメールアドレスへ写真を添付して送るだけという簡単な設計が、「孫の写真を祖父母に送りたい」という30〜40代の男女に大ヒット。ハードウェアを諦め、ソフトウェアの開発に注力していった結果、成功を手にすることができたのだ。会社が急成長していく中、経営者としてキム氏は様々な悩みに直面したが、そんなときに役立ったのがY Combinatorのメンターの教えだった。

「定期的にパートナーと会えるのが、Y Combinatorの良さだと思います。会社が大きくなっていくと、様々な問題が発生するのですが、メンタリング中にメンターの人から『いい問題があることを有り難いと思え』と言ってもらえたんです。成長する中で発生する悩みは、いい悩みだから、悩まなくていいと。これはすごく自分の助けになりました」(キム氏)

そして2011年、キム氏は100万ドル弱でPicwingの事業を売却した。

TechCrunch Japan編集長の西村賢(左)とGusto共同創業者でCTOのEdward Kim氏(右)

モデレーターを務めたTechCrunch Japan編集長の西村賢(左)とGusto共同創業者でCTOのEdward Kim氏(右)

お金はたくさん入ってきたけど、退屈になってしまった

起業から3年後、キム氏は経営者として初めてエグジットを経験したわけだが、彼の挑戦は止まらない。Androidアプリの開発に興味を持ったキム氏は、2度目の起業に挑戦することを決めた。立ち上げた事業は、クラウド上で複数のAndroid実機を使ったテストができるサービス「HandsetCloud.com」だ。

当時、iOSに遅れをとっていたAndroid。ディベロッパーを対象とした、Androidアプリのテストサービスは市場的にも求められているものということはキム氏自身も感じとっていた。開発者だったこともあり、サービスの立ち上げにそれほど時間はかからなかった。

ユーザーの反応を確かめるべく、早速HandsetCloud.comを公開してみると、多くのディベロッパーをサービスを使ってくれて、見る見るうちに事業は成長。あっという間に年間100万ドル(1.1億円)の売上を上げるほどの規模になった。

しかし、キム氏は自分のやっていることに違和感を覚え始める。

「多くの人たちにHandsetCloud.comを使ってもらえて、お金はたくさん入ってきたんですけど、退屈だなと思いました。これをずっと続けても、先が見えているなと」(キム氏)

そう思ったキム氏は、事業の売却を決意。具体的な金額は明示されなかったが、200〜300万ドル程度で事業を売却。2度目のエグジットを経験することになった。

旧来の給与支払いサービスは高くて、使いづらい

2社の売却を経験したキム氏が、次に目をつけたのが給与支払い業務だった。アメリカに個人経営の中小企業がたくさんあるのだが、その多くが給与の支払いに関して問題を抱えていた。そこを解決すべく、キム氏が2011年に立ち上げたのがGusto(当時はZenPayroll)だ。

もちろん、Gustoが登場するまでにも給与支払いの業務をウェブで一元管理できるようにするサービスはいくつかあったが、そのどれもが利用料金が高く、中小企業にとっては使いづらいものだった。そんな状況を踏まえ、Gustoは中小企業が気軽に使えるよう、利用料金を低く設定。

「アメリカのは50もの州があるので、それだけ多くのビジネスチャンスがある。ただ、いきなり全ての州に対応するのではなく、カリフォルニアからサービスを開始し、少しずつ利用可能な州を増やしていきました」(キム氏)

Gustoは利用企業数の増加に合わせるかのように、サービスも拡大。最初は給与支払いのみだったが、休暇申請や401K、保険業務にも対応するようになっていった。こうしてGustoの創業から4年後、5000万ドル(52億円)を調達するユニコーン企業となった。

2度のエグジットを経験し、3社目はユニコーン企業となったキム氏から、イベントの最後、起業を志す人たちに向けてメッセージが送られた。

「何かアイデアがある、夢がある、世の中にないものを提供していきたいと思っているなら、リスクをとることを恐れずにチャレンジしてほしい。もし失敗したら、どこかの社員になればいいだけ。やってみなければ分からないことは世の中にたくさんある」(キム氏)

そして、スタートアップを成功させるための秘訣も語ってくれた。

「スタートアップの成功指標は、強い決意をもった創業者がいるか否か。事業を創っていく過程で、もちろんツラいこともあるし、もうダメだと思うこともある。ただ、創業者が強い決意を持っていれば、周りの環境がどうであれ必ず前に進んでいってくれるはずです」(キム氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

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