「個人事業主」向けバックオフィスプラットフォームのCollective、シードラウンドで9億円を調達

米国だけでなく世界中で自営業者の数が増えている。数ある中でも特に大きな原因となっているのは、優れたソフトウェアが利用できること、柔軟な働き方が必要とされていること、高いスキルを要するサービスを提供できる場合には特に高報酬が期待できることだ。

ちょうど1年前、フリーランサー向けのデジタルプラットフォームであるFreelancers UnionとUpworkが公開したレポートの推定によると、米国の労働者の35%がすでにフリーランスに転向しているという。国内でも世界中でも新型コロナウイルスの流行が依然として続いており、何千万という人々が働き方を大幅かつ継続的に変えることを余儀なくされているため、フリーランサーの割合は急上昇することが予想される。

大半のフリーランサーは、自身のビジネスの安定的成長には関心を持つが、人や物事を管理する作業は煩わしいと思っている。当然ながら、そうした自営業者の経済力に目を付ける抜け目のないスタートアップが登場している。その代表例が、サンフランシスコを拠点とする、創業2年半、従業員数20名のスタートアップ企業、Collective(コレクティブ)だ。コレクティブは、これまであまり注目されてこなかったが、同社が言うところの「個人事業主」向けに確定申告書類の作成や簿記といった事務管理サービスを構築してきた。同社は最近、シード投資ラウンドで865万ドル(約9億1300万円)の資金調達を終えたばかりだ。

この投資ラウンドをリードしたのはGeneral Catalyst(ゼネラル・カタリスト)とQED Investors(QEDインベスターズ)の2社で、Uber(ウーバー)共同創業者のGarrett Camp(ギャレット・キャンプ)氏、Figma(フィグマ)創業者のDylan Field(ディラン・フィールド)氏、DoorDash(ドアダッシュ)経営幹部のGokul Rajaram(ゴクル・ラジャラム)氏などの有名エンジェル投資家たちも参加した。

コレクティブの共同創業者兼CEOのHooman Radfar(フーマン・ラドファー)氏に、同社のミッションである「自営業者コミュニティのパワーアップ、支援、つながり形成」や提供しているサービスの内容について話を聞くことができた。

TechCrunch(以下、TC):以前会社を興し、2016年にその会社をOracle(オラクル)に売却する前に、早々とベンチャーキャピタル業界に転身して、ギャレット・キャンプ氏のスタートアップスタジオExpa(エクスパ)で仕事をしておられましたね。起業支援ではなく起業する側に戻ってこられたのはなぜですか。

ラドファー氏(以下、HR):AddThis(アドディス)やエクスパでの経験やエンジェル投資事業を通して、財務管理業務は大変な仕事だということがわかりました。小企業にとって、会計、税務、コンプライアンスといった一連の業務は、本当に厄介なものです。

2年前、[コレクティブの共同創業者の]ウグル[Ugur Kaner(ウグル・ケーナー)氏]がエクスパにやってきて、「お手軽スタートアップ」プログラムなるものを売り込もうとしてきました。起業支援ビジネスを立ち上げる話だったのですが、[どちらかというと起業に伴う事務作業や管理業務を引き受けるのが狙いでした]。ウグルは私と同じ移民で、起業に関する財務に疎く、追徴税を取られる羽目になった苦い経験がありました。フリーランサーにとって、こうした追徴税は企業よりも厳しいのです。我々が提供しているサービスのオーダーメイド版のようなものを提供しようとするスタートアップもありますが、我々から見れば「そんなサービスなんて必要ないんじゃないか」と。このようなサービスはいわば便利な道具のようなものですが、それを1つのプラットフォームにまとめると、非常に強力なサービスになり得るのです。

TC:そうした業務をコレクティブで一手に引き受けるということでしょうか。それともサードパーティーの協力を仰ぐのですか。

HR:両方です。我々は、会計や税務といった事務管理業務をメインに行うオンライン・コンシェルジュであると同時に、S法人(小規模法人)の設立のお手伝いもします。そうすれば、LLCとして起業するよりも資金を大幅に節約できますから[LLCとS法人とでは税金の要件が異なる]。ですから、統合レイヤーがあって、その上にダッシュボードがあるというイメージです。S法人の場合は給与支払名簿が必要ですから、そこはGusto(ガスト)と提携しています。ガストのサービスは当社のサブスクリプション契約に含まれています。QuickBooks(クイックブックス)とも提携しています。コンプライアンス業務についてはサードパーティーと協力して対応しています。当社のビジョンはこうした事務管理業務を簡素化してオートパイロット方式で行えるようにすることです。まさに時は金なりです。起業家には、面倒な事務仕事をしている時間などないことはよく分かっていますから。

TC:料金を教えてください。

HR:税務、会計、企業バンキング、給与のコアパッケージで、月200ドル(約2万円)です。簿記と、より包括的なサービスを含むフルパッケージについても現在試験的に導入中ですが、徐々に[それに近い姿か]その方向に向かうと思います。フルパッケージは追加料金になります。

TC:こうしたサービスが料金に見合うものであることを、個人事業主にどのようにアピールされますか。

HR:米国には、年収10万ドル(約1000万円)以上[の個人事業主]が300万人近くいます。そうした個人事業主が上記の[各種サービスの]うちすでに利用しているものがどのくらいあるのか考えると、当社のサービスは大いに利用価値があります。クイックブックスやガストは、当社経由で利用したほうがお得です。出費を抑えることで節約できます。ポイントは、S法人をすぐに立ち上げることです。S法人には普通所得税がかかりますが、配当は所得と課税方法が異なります。所得税より税率が低くなります。ですから、給与データを取り込み、各州の支出の集計を見て、「キャッシュフローの状態から判断すると、お勧めの方法はこちらになります。これで、この配当を規制に準拠した方法で認識できます」と伝えます。

TC:有益な顧客データを蓄えることになりますね。そうしたデータはどのように利用するのですか。

HR:第一に考えるべきことは、然るべき人だけがデータにアクセスできるよう配慮することです[我々はプライバシーを重視しています]。とはいえ、データの使用権を獲得すれば、そのデータを集約していろいろなことができます。たとえば、理論的には、新しい形の財務スコアを作成することも可能です。個人事業主の場合、住宅ローンや通常のローンを組むのが難しい。クレジット会社側に彼らを査定するためのツールがないからです。ですが、数年に渡る財務履歴があれば、自分が真っ当な人物で、きちんとした会社を経営していることを示せます。

これから会員ユーザー(もうすぐ2000人になる)が増えれば、別の面白い方向性も見えてきます。会員数の力で、会員が安価で保険に加入したり、クレジットを容易に利用[信用が提供される]できたり、401kに対応[サポートを受けられる]できたりといったことが実現します。

TC:プロジェクト管理からグラフィックデザインまで、他にもできることはたくさんありそうですね。

HR:現時点では、コアサービスを確実に提供したいと考えています。

Uber(ウーバー)はライドシェアリングに、Uber Eats(ウーバーイーツ)は食品宅配に、透明性と安心感をもたらしました。調理中とか、配達中とか、到着予想時刻といった情報を確認できるからです。我々は、多くのものについて、そうした高レベルの透明性と説明責任が提供されることを当然と思うようになっていますが、会計処理サービスに関してはそうなっていません。これはおかしな話です。ユーザーのお金を扱っているにもかかわらず、透明性も説明責任も果たされていない。この状態を変えたいと思っています。

TC:「個人事業主」を対象にするということは、断片化の度合いが大きい市場を相手にすることになります。潜在的な顧客にリーチできるよう、どのような企業と提携しようと考えていますか。

HR:現在交渉を進めているところですが、まずネオバンクが浮かびます。他にも、看護師と医師、不動産仲介業者、ライターのための垂直市場などが考えられます。多くの可能性があります。

写真は、コレクティブの共同創業者たち。左から順に、CTOのBugra Akcay(ブグラ・アッケイ)氏、CEOのフーマン・ラドファー氏、CPOのウグル・ケーナー氏。

関連記事:フリーランサーのための公平なマーケットプレイスを目指すBraintrustが約19億円調達

カテゴリー:ソフトウェア

タグ:フリーランス インタビュー 資金調達

[原文へ]

(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。