「農業」「検査」などBtoB領域は日本にもチャンス——ドローン市場の可能性をDrone Fund代表に聞いた

編集部注: AIやIoTなどと並んで今後大きな産業になると期待されているドローン。「ドローンビジネス調査報告書2017」によると、日本国内のドローン市場規模は2017年度で533億円。そして5年後の2022年度には約4倍の2116億円にまで成長すると予測されている。

この調査におけるドローン市場は「機体」「ドローンを活用したサービス」「周辺サービス」の3つに分けられていて、中でも今後大きく伸びていくのがドローンを活用したサービスだ。2017年度の時点で全体の40%を占め、2022年には約70%までになるという。

そこで今回は2017年6月1日にドローンスタートアップに特化した「Drone Fund」を立ち上げ、すでに10社を超えるドローン企業に投資をしているドローンビジネスの専門家、千葉功太郎氏に国内を中心としたドローン市場の現状や課題、そして今後の展望について聞いた。なおDrone Fundについては設立時に紹介しているので、詳しくはそちらを参照いただきたい。

日本はこの2年で「ドローンの意識が高い国」になった

ドローンとは、無人航空機の総称。2015年7月に閣議決定された改正航空法での定義で言えば、「航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器であって構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦(プログラムにより自動的に操縦を行うことをいう。)により、飛行させることができるもの」のことを指す。

航空法が改正されたきっかけとも言えるのが、2015年の4月に起こった、首相官邸へのドローン落下事件。実際あの事件をきっかけにドローンを知ったという人もいるはずだ。それから現在までの2年間で国内のドローンビジネスは、「認知」「規制」という2つの軸で急速に発展してきた。

まず2015年以前は一部の人しか知らなかったドローンが、この2年ほどで広く認知された。新しい産業が一定の認知を得るということは想像以上に難しい。たとえば近年注目を集める技術のひとつである「ブロックチェーン」でも、まだまだ認知が高いとはいえないだろう。

もちろん事件があってよかったと喜ぶことはできないが、ドローンを知る人が増え国も本気で向き合うきっかけになったことは間違いない。

結果として前述のとおり航空法が改正され、ドローンに関する規制も設けられた。ドローンビジネスの面では世界を追いかける立場の日本だが、法整備については他国と比べても先進国だといえる。日本はこの2年で「ドローンの意識が高い国」になってきたということだ。

インフラや農業など、BtoBのソリューション市場で大きく発展

規制の関係もあって一般人が日本国内でドローンを飛ばす機会というのはまだ多くなく、BtoCの分野では遅れているのが現状だ。機体の開発などハード面でも中国が圧倒的で、中でも市場を牽引するDJIが拠点を置く中国・深センが強く、日本は今後もBtoCの分野では苦戦するかもしれない。

一方で日本はビジネスにおけるドローンの活用に寛容で、BtoBの領域が成長してきている。特に注目したいのが「農業」「検査」「測量」といったBtoBのソリューション市場。一見地味な分野ではあるが市場規模も大きく、かつ日本が勝てる可能性もある。

というのもこの分野において日本は「課題先進国」だからだ。国内の労働力人口は今後さらに減少していくことが確実で、特に農業を含む一次産業では従事者不足が問題となっている。加えて橋やトンネル、鉄道、水路といったインフラの老朽化は進み、この分野ではさらなる人員が必要だ。

人間だけではもたない時代では、これまで人間がやっていた仕事をAIやロボティクス、ドローンで補っていかないといけない。そもそも人手が足りないのだから「人の仕事を奪わずにすむ」というのは大きい。

農業分野では生育状況の調査や農薬散布でドローンの活躍が期待されている。ドローンで空から畑や田んぼを撮影し、データを解析することで生育状況のムラなどを把握。それを元に別のドローンで農薬を撒いていく。インフラ検査では橋の下やトンネルといった危険な場所や、下水道管のように検査しづらかった場所で活用が見込まれる。今までは問題が起こった後で対応していたような場面でも、事前にドローンで検査し状況を把握することで、先回りして対応できるようにもなる。

このような課題は日本にとってのビッグイシューであり、ビジネスとしてもインパクトが大きい。国内ではロボティクスやAIと比べてドローンが注目されたのは最近だが、日本のドローン企業がいち早くソリューションを提供することができれば、世界でも戦えると考えている。

課題は「リスクマネー」「経営手法」「技術プロデュース」

可能性があるとはいえ、現時点では中国などと比べると日本は「ドローン後進国」だ。他の産業に比べ日本でドローンスタートアップが育ってない理由は以下の3つが大きい。

  • リスクをとって投資する投資家が少ないこと
  • スタートアップ的な経営手法が根付いていないこと
  • 技術のプロデュースが不十分であること

国内ではドローンの歴史が浅く、ドローンスタートアップに投資をする投資家がまだ少ない。インターネット業界では資金調達をして赤字でもやりたいことだけに集中するという選択も珍しくないが、ドローンスタートアップではそのような文化がない。

スタートアップというよりは個人事業に近い印象で、撮影など受託仕事をしながら数人でほそぼそと事業を回しているところも多い。資金調達をして人員を増やし、急成長やエグジットを目指していくというスタートアップ的な考え方も根付いていないのが現状だ。

また技術や専門家は存在するものの、個々が単体で存在していてその力を十分に活用しきれていない。そのような技術をプロデュースし、上手く組み合わせることができれば市場はもっと成長していくと考えている。これはスタートアップや個人に限った話ではなく、大企業に眠っている技術もある。

たとえば自動車メーカー向けに素材を提供している素材メーカーや、燃料電池を開発している企業。現在はドローンに使われていないが、非常に技術力が高くドローンに転用できるものも多い。しかしドローンに活用できると気づいていないために、眠ってしまっている。日本のドローンスタートアップを育てるためには、このような技術を持つ大企業を巻き込むことも必要だ。

ここ最近では日本を代表するような大企業もドローンに注目していて、東京電力とゼンリンが掲げる「ドローンハイウェイ構想」などはその代表といえるだろう。

インターネットのように、ドローンが当たり前になる社会

世界はもちろん日本でもこれから数年でドローン市場が急速に成長していく。個人的には5年先、つまり2022年頃にはインターネットに接続されたドローンが当たり前のように空を飛び、さまざまな産業に活用される「ドローン前提社会」が実現しうると考えている。

想像しがたいかもしれないが、今でこそ当たり前となっているインターネットも1990年代後半は非常に限定的なもので、一般の人が日常的に使うものとは考えられていなかった。数年後に携帯電話が普及しモバイルインターネットという概念が生まれた当初も現在とはまったく違い、たとえば電車で携帯電話をいじっていれば「盗撮をしているのでは」と疑われるような時代だった。

現在の国内ドローン市場はまさに90年代後半のインターネットバブル前夜と同じような状況にある。現政府のロボット政策の中にはドローンも組み込まれていて、未来投資会議でもドローンの活用には度々言及されるなど期待値も大きい。

それもあってドローンの技術革新のスピードは著しく、技術的には2020年代に都市で多数の自立飛行ドローンが活躍する社会(レベル4)を目指せるレベルだ。どちらというと社会実装が追いついていないため、法整備とともに先の携帯電話の事例のように社会の許容度がどこまで変化するかがポイントになるだろう。

順調にいけば2022年のドローン市場は、インターネットが常時接続されるようになった2002~2004年のような状況になる。常時接続が当たり前になったことで、SNSを筆頭にさまざまなサービスが誕生しインターネット業界は爆発的に成長を遂げた。

ドローン市場においてもインターネットに接続されたドローンが当たり前となることで、それを前提とした今では想像できないようなサービスも生まれていくはずだ。

千葉功太郎

慶應義塾大学環境情報学部卒業後、株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に入社。2000年より株式会社サイバードでエヴァンジェリスト。2001年に株式会社ケイ・ラボラトリー(現 KLab株式会社)取締役就任。

2009年株式会社コロプラに参画、同年12月に取締役副社長に就任。採用や人材育成などの人事領域を管掌し、2012年東証マザーズIPO、2014年東証一部上場後、2016年7月退任。

現在、慶應義塾大学SFC研究所 ドローン社会共創コンソーシアム 上席所員、株式会社The Ryokan TokyoのCEO、国内外インターネット業界のエンジェル投資家、リアルテックファンド クリエイティブマネージャー、Drone Fund General Partner を務める。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。