「DayDreamに対抗するVRプラットフォームを創りあげる」──こう語るのはワンダーリーグの代表取締役社長・北村勝利氏だ。同社はiPhoneや既存のAndroid端末でも使えるスマホVR用のモーションコントローラー「Vroom」を開発し、Kickstarterで出資の募集を開始した。目標金額は約100万円で、2017年1月後半の出荷を予定する。
Vroomは、ハコスコなどといった市販のVRビューワーと組み合わせて、iPhoneや既存のAndroidスマートフォンで使うことができるVRモーションコントローラーだ。加速度、地磁気、傾きの9軸センサーを搭載し、手の動きをVRの仮想空間に反映させることができる。筆者はエンジニアリングサンプルを使ったデモを見たが、iPhoneのスクリーン上に表示したVR空間上に、まるでOculus TouchかHTC Viveといった専用機のコントローラーで操作するごとく手の動きが再現されており新鮮さを感じた。
DayDreamはGoogleにしては「珍しくクローズド」
スマホVRを巡っては、Googleが今年春に最新のVRプロジェクト「DayDream」を発表。10月のイベントでは対応ヘッドセット「View」とスマートフォン「Pixel」を発表した。DayDreamの特徴は、手の3次元の動きをVR空間に反映できる”モーションコントローラー”を備える点にある。HTC Viveなどの据え置き型VRでは当たり前だが、これまでのスマホVRにおいてはモーションコントローラが存在しなかったこともあり、DayDreamの登場でスマホVRのリッチ化が進むとの期待が大きい。
一方でDayDreamは「Googleにしては珍しくクローズドなプラットフォーム」だと北村氏は指摘する。同氏は「ハードウェアはGoogleが指定したメーカーしか作れないし、アプリケーションはGoogleが審査したものしか動かない」とも話す。このクローズさを勝機と捉え、DayDreamに対抗する”オープンソース”なVRモーションコントローラとして開発したのがVroomだという。
「Macに対してWindows、iPhoneに対してAndroidが立ち上がったように、リーディングプロダクトがクローズドな仕組みで登場すると、これに対抗するオープンな仕組みが求められる。今そのポジションが空いたと判断した」(北村氏)
北村氏は、福岡県出身の実業家。25歳にして情報提供サービスを手がける会社を設立。以来25年にわたってソフトウェアやモバイルビジネスの分野で会社を経営し、次々に事業を立ち上げたシリアルアントレプレナーだ。エグジットはこれまでに4度も経験し、東芝子会社の社長を3年間務めたこともある。同氏が2004年に設立し、しばらく休眠状態に置いていたワンダーリーグ社を本格始動させたのは2014年。2015年までEスポーツアプリの開発を手がけていたが、今回新規事業としてVRに参入した。資本金は約1億3000万円(資本準備金9200万円)で、これまでアドウェイズ、サイバーエージェント・ベンチャーズ、B Dash Ventures、日本アジア投資、D2C R、ベルロックメディアから出資をウケている。
世界に500万人いるUnityユーザーに届けたい
北村氏は「ハードウェアで儲けるつもりはない」と話す。Vroomについても「誰でも採用できるオープンなVRコントローラーのプラットフォームを目指した」としていて、VroomのファームウェアやSDKも全てオープンにしている。Kickstarterで出資を募集したのは「世界に500万人いるUnityエンジニアの方々に届ける」ことが目的だと北村氏は言う。目標額が日本円にして約100万円と控え目なのは、このような事情もあるのだろう。
ではどこでマネタイズするのかというと、Unityのアセットストアにおいて、Vroomのアセットをエンジニア向けに販売したりする。「ソフト屋なので、Vroomのプラットフォームが広がれば支援業務で稼げる」と北村氏は語る。例えば中国メーカーが低価格なVRビューワーに、Vroomのプラットフォームを採用することも大歓迎なのだという。顧客としては全世界のスマートフォン向けアプリディベロッパーやVRビジネス参入検討会社、そして玩具メーカーなどを想定している。
また国内では、不動産や建設会社向けのAR/VRのソリューションにも取り組む。「VRを使えば住宅展示場と同じことがスマホ1台で行える。従来のスマホVRは『見るだけ』だったが、Vroomを使えば手を伸ばしてドアを空けることもできる。また既存のスマホやiPhoneを使えるので、数を用意することが必要な法人ソリューションに最適」と北村氏は述べた。
なお現時点でVroomの競合は、DayDreamを除いて存在しないという。大手メーカーが競合となる可能性ついては、東芝子会社の社長を3年間務めた経験から「大手はSDKが必要な製品は作りたながらない」と北川氏は語り、さらに「我々が既にオープンソースで出しているので、競合が出す意味もない」と付け加えた。