10代、20代のネットユーザーが熱狂するサービスがある。ツイキャスで自分の日常をライブ配信したり、面白いYouTube動画を投稿するユーザーが芸能人なみの人気を獲得していたり、30代以上のネット古株世代には知られざる世界が、そこには間違いなくある。
そのへんのサービス運営者を集めて、まとめて話を聞いてみようというセッションがTechCrunch Tokyo 2014であった。セッションに登壇したのは、先に挙げたツイキャスを提供するモイ代表取締役の赤松洋介氏、「YouTuber」と呼ばれる人気投稿者を束ねるuuum(ウーム)代表取締役社長の鎌田和樹氏、そして中高生向けオンライン学習塾「アオイゼミ」を提供する葵代表取締役の石井貴基氏だ。
特に10代から支持を得る3サービスの運営者が、若い世代のインターネットユーザーを虜にする秘訣を語った。
YouTuberのファン層、下は2,3歳から
スマホからライブ配信できるツイキャスは800万ユーザーを抱える。漫画などにもツイキャスを使うシーンが登場するなど、もはや10代の間では知らない者はいないほど浸透しているそうだ。
ツイキャスを開発した赤松氏によれば、ユーザーは16歳から22歳、高校生と大学生が中心。女性が6割以上を占めるという。「ライブ配信というか、話し相手。いま自分が何しているかを気軽に共有する感じで使われている」と話す。
uuumはYouTuberの支援事業を展開している。2013年に設立したばかりだが、日本では圧倒的な知名度を誇る「ヒカキン」をはじめ30人ほどの有力YouTube投稿者をサポート。具体的には動画を作ったり、収益を得る仕組みを提供するなどして支えているそうだ。
YouTuberの熱狂的なファンは高校生までの若年層がほとんど。uuumの鎌田氏は「下は2、3歳から上は18歳くらいまで」と驚きの実態を語った。「いまや幼稚園児の保護者がテレビではなく、YouTubeを見せている。子持ちの方であれば、自分の子どもにYouTubeを見せるのは決して珍しくないと思う。勝手にスマホをいじって、YouTubeのアプリを起動する子もいる」。こんな状況なのだという。
10代の学生向けにサービスを提供しているオンライン学習塾のアオイゼミ、「無料で、みんなで、継続して」学べるのが特徴だと石井氏は語る。ライブストリーミング授業といえば、机に座ってPCに向い、ノートを取りながら……などと想像しがちだが、ほとんどの受講者がスマホ経由だそうだ。スマホで授業を聞き、スマホで質問し、理解する。「双方向性の高い授業が提供されている」と石井氏。
結局、学校などのリアルな世界が一番大事
なぜこれらのサービスが10代にウケているのだろうか–。サービス運営者たちはその答えを持っているのだろうか。赤松氏に聞いてみると、「よくわからない」ときっぱり。それでも「若い人は手元にスマホが当たり前。そこで新しい世界につながるのが刺激的なのだと思う。ツイキャスはTwitterが流行った時に、実際に顔が見えるサービスとして流行った。当時のトレンド的な要因が大きい」と分析した。
「10代の子は結局、学校などのリアルな世界が一番。友達同士で『一緒に使おうよ』ってなるのが大事。『みんなが使っていると私も使う』ってのがあるので、そこの着火点があったと思う」(赤松氏)。
友達同士のコミュニケーションから徐々に広まり、ロンドンブーツ1号2号の田村淳なども利用し始めた。物まねメイクで有名なざわちんも以前はツイキャスでメイクの様子を配信していた。プロとアマチュアがミックスして盛り上がっていたという。
「昨日のヒカキンTV見た?」が成り立つ
uuumの鎌田氏にも、なぜ若者がYouTuberと呼ばれるプロフェッショナルな投稿者の動画に熱狂するのが聞いてみた。要因としては、テレビとの付き合い方が変わったことにあるようだ。
「もう10代はテレビを見ない、あるいはそもそも持っていない人が多くなってきた。ほぼスマホで物事を解決してしまう。ヒカキンの動画は50%以上がスマホから閲覧されている。スマホの普及が一番の鍵だと思う。高校生だと『昨日のヒカキンTV見た?』という会話が成り立つ。テレビよりも身近な距離感が流行りの秘訣かもしれない」(鎌田氏)
YouTubeにはコメント機能がある。Googleのアカウントがあれば誰でもコメント可能だ。ファン同士で論争が起きることもあるが、なによりヒカキンなどの有名人がどんどんコメントに参加するのが新しい。そのあたりがテレビとの距離感ということのようだ。
10代の場合、ネットサービスでいえばTwitterはまだまだ流行っているが、Facebookを使ってる人は少ないという。YouTuberもTwitterとInstagramをメインに情報発信しているのが現状とのことだ。
いまや「PCって何ですか」と聞かれる時代
アオイゼミの授業では、コミュニケーションを頻繁に取る講師ほど人気だという。「通常の学習塾と違ってドライに閲覧数が出るので、どの授業が継続率が高いのか追っている。するとコミュニケーションの要素が大きいことがわかった。生徒から飛んできたコメントを読み上げたり、質問に答えてくれた子を褒めたりする講師が人気。生徒も気になるし、人気になる」と葵の石井は語る。10代は特に承認欲求が強い世代であるため、その部分をしっかり満たしてあげるのが大事だという。
石井氏は総務省の調査データを引用し、「中学生のスマホ保有率が55%、高校生は85%。Nexus 7やiPod touchみたいなキャリア契約してないデバイスもかなり多い。中学生の8割は何かしらのスマホデバイスを持っているはず」と分析。アオイゼミでも2013年にiOSアプリを出したところ、そこから成長率が3000%に伸びたという。
「スマホアプリ出してなかったら、いまごろ生きていない。欠かせないもの」と石井氏は言い切った。そして授業中のやりとりで印象的な出来事として、「『いまPCから使っています』って言ったユーザーに対して、他のユーザーが『PCって何ですか?』と聞いていた。そういう時代になっている」というエピソードを紹介した。
で、10代のユーザーって金になるの、ならないの?
さて、10代のユーザーばかりを相手にして、果たしてビジネスになるのか?
赤松氏はこう語った。「うちは10代向けに一切考えていない。お金儲けを意識せずにやっている。今後は何かあるかもしれないけど、まだ先の話で、あまり考えていない。何事にも適正対価があって、価値に対してお金を払ってもらう。10代向けのコミュニケーションツールだとそこは作りづらい。もっとアッパー層に向けて何かを仕掛けたいと思う」。
鎌田氏は「10代にリーチしたいというクライアントが増えている。獲得案件ではなく、認知を取りたいと。ヤマハは十数万円のスクーターを認知させるプロモーションを展開した。いま10代はヤマハを知らない。そこでヒカキンがヤマハの試乗会に参加して動画をアップしたところ、100万回以上の再生があった。公式のビデオよりもはるかに見られている」と事例を話してくれた。
アオイゼミはシンプルで、現実の塾の代わりに利用してもらうことを目指す。「ミニマム900円からで、子どものお小遣いでもいける。でも無料でも使える。塾は使い手と払い手が違うというのが悩みではあるが、学習塾は月額2万1000円で、そこよりはだいぶ安い。チャレンジしていきたい」と展望を語った。