【コラム】「ノーコード」もコード

編集部注:本稿の著者Greg Brockman(グレッグ・ブロックマン)氏は汎用人工知能が全人類に恩恵をもたらすことを使命とする研究・開発企業OpenAIの共同設立者兼CTO。Hadi Partovi(ハディ・パートビ)氏はすべての学生がコンピュータサイエンスにアクセスできるようにすることを目的とした非営利団体Code.orgの創設者兼CEO。

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米国時間8月11日、自然言語をコードに変換する新しいAlシステム「OpenAI Codex」がリリースされ、コンピューターソフトウェアの書き方におけるシフトの始まりが示された。

ここ数年「ノーコード」プラットフォームに関する話題が増えてきているが、これは新しい現象ではない。実際、プログラマブルデバイスの登場以来、コンピューターソフトウェアを「コーディング」する方法において、コンピューター科学者たちは定期的にブレークスルーを生み出してきた。

初期のコンピューターは、キーボードが発明されるまで、スイッチやパンチカードを用いてプログラムされていた。コーディングは数字や機械語を入力する作業から始まり、やがてGrace Hopper(グレース・ホッパー)氏が近代的なコンパイラとCOBOL言語を発明して、プログラミング言語とプラットフォームにおける数十年の革新を先導した。Fortran、Pascal、C、Java、Pythonなどの言語は進化を続け、最新の言語(古い言語を使用して構築)によって、プログラマーはより一層人間的な言語で「コーディング」できるようになった。

言語と並行して、私たちは「ノーコード」プラットフォームの進化を見てきた。1980年代に現れたノーコードの草分け的存在であるMicrosoft Excelを含め、学校や職場などの場所を問わず、視覚的なインターフェイスでコンピューターをプログラムできるようにするプラットフォームだ。スプレッドシートに数式を記述したり、Code.orgやScratchにコードのブロックをドラッグすることで、コンピューターのプログラミング、つまり「コーディング」が実行される。「ノーコード」はコードだ。10年ごとにブレークスルーとなるイノベーションが生まれ、コードを書くのが容易になり、古いコーディング方法が新しいコーディング方法に取って代わられる。

イノベーションの波に乗るように、発表がもたらされた。今回、OpenAlは自然な英語で「コードを書く」まったく新しい方法であるOpenAI Codexを発表した。コンピュータープログラマーは、自分たちのソフトウェアに何をさせたいかを英語で記述することが可能になる。OpenAlの生成Alモデルは、それに対応するコンピューターコードを、ユーザーが選択したプログラミング言語で自動的に生成する。これは私たちが常に望んできたことだ。コンピューターが、プログラミング言語のような複雑な媒介を介さずに、私たちが何をして欲しいのかを理解し、それを実行する。

ただし、これは終わりではなく始まりである。Alが生成したコードによって、あらゆるプログラミングツールやあらゆるプログラミングクラスにおける進化、そして新しいソフトウェアのカンブリア爆発のような変革が想像できる。それはコーディングの衰退を意味するものだろうか?いや違う。プログラマーがコードを理解する必要性を置き換えるものではない。パンチカードからキーボードに移行したときや、グレース・ホッパー氏がコンパイラを発明したときのように、コーディングが格段に容易になり、インパクトが大きくなることで、その重要性が増すことを示唆しているのだ。

実際に、今日のソフトウェアに対する需要はかつてないほど高まっており、今後も増加の一途を辿ることが予想される。この技術が発展するにつれて、Alはコードの生成においてより大きな役割を果たすようになり、ひいてはコンピューター科学者の生産性とインパクトが増幅され、より多くのコンピュータープログラマーがこの分野にアクセスできるようになるだろう。

ドラッグ&ドロップだけでプログラムを作成したり、音声でコードを記述できるようにするツールはすでに存在している。これらの技術やOpenAI Codexのような新しいツールにおける進歩は、ソフトウェアを作る能力の民主化につながるはずだ。その結果、世界中のコードの量とコーダーの数が増えていくだろう。

これはまた、新しい方法でプログラミングを学ぶことが、これまで以上に重要になっていることを意味する。コードを学ぶことで、機会への扉が開かれ、世界的な問題の解決に寄与することもできる。ソフトウェアの開発が容易になり、アクセスしやすくなるにつれて、あらゆる学校のすべての生徒に、技術の利用者になるだけでなく、創造者にもなれる根本的な知識を提供していく必要があるだろう。

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画像クレジット:Luis Cagiao Photography / Getty Images

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(文:Greg Brockman、Hadi Partovi、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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