【コラム】クリエイターエコノミーとクリエイターテックが実現する大きなビジネス

クリエイターエコノミーという言葉を聞いたことがある人は少なくないはずだ。もはや新しい概念ではないし、それが何かをよく知っている人もいるだろう。しかし、その名が示す通り、クリエイターエコノミーにはクリエイターが必要だ。

私たちがクリエイターエコノミーと呼んでいるものは、本質として2つのグループを内包している。1つは、主に独立したクリエイターで構成された、大規模で分散化された非定形のグループで、何らかの方法でデジタル空間に接続されているものだ。ミュージシャン、ビジュアルアーティスト、映像クリエイター、グラフィックデザイナー、ブロガー、インフルエンサーなどがこれに含まれる。そしてもう1つは、こうしたクリエイション(創造)を可能にするツールを提供する企業やプラットフォーム(クリエイターテック)で、その延長線上には、配信や収益化も含まれる。

当然のことながら、クリエイターエコノミーのビジネスは基本的にデジタル上で行われ、ハイテクの領域にある。これにより、組織に属さないクリエイターが従前よりも簡単に自分の作品で収益を上げることができるようになった。

これが、長期にわたり栄華を極めてきたスーパースターモデルの崩壊のきっかけにもなっている、というのは驚くべきことだろうか。スーパースターモデルとは、一部の著名なスター集団によるコンテンツをユーザーが視聴するという、昔ながらのエンターテインメントビジネスの手法である。何十年にも及ぶスーパースターモデルのもとで、サブカルチャーが繁栄していなかったわけではない……実際繁栄していたのだが、大きな収益を上げることは難しかった。

クリエイターエコノミーとクリエイターテックは、どちらかというと自然に発生したものだ。当初はバイラリティ(SNSなどであっという間に人気が爆発すること)や新しいソーシャルメディアチャネルを通じたオーディエンスのアクセスで実現したシフト(変化)だったが、今やクリエイターテック自体が独自の世界を構築している。そのため、スーパースターモデルからのシフトを継続できるかどうかが、クリエイターテックの存続の鍵となっている。

スーパースターモデルに風穴を開ける

Netflix(ネットフリックス)は、7月16日の株主総会で「TikTokは『驚異的な』成長を遂げている」として、真のライバルであることを認めた。NetflixがTikTokの競争力を最初に認めたのは、2020年、TikTokに対応すべく「Fast Laughs(ファストラフス、短いおもしろ動画)」を立ち上げたときだったと考える人もいるかもしれない。Fast LaughsはTikTokのコンセプトを借用して、Netflixのコメディーラインナップから抜粋した短いクリップを提供する動画フィードである。

Netflixが長い間スーパースターを利用してきたのは紛うことなき事実である。Zac Efron(ザック・エフロン)は世界中を旅し、Paris Hilton(パリス・ヒルトン)は料理をし、有名なコメディアンは1つ以上のスペシャル番組を持ち、オリジナルの映画やシリーズでは、ほんの数例挙げるだけでもTimothée Chalamet(ティモシー・シャラメ)、Jane Fonda(ジェーン・フォンダ)、Sandra Oh(サンドラ・オー)、Anthony Hopkins(アンソニー・ホプキンス)などが活躍している。古き良き時代の姿だ。

一方、TikTokにおける最大のスターは、いわゆる「スター」ではなく、たまたまおもしろくて、賢くて、痛烈で、アルゴリズムの運と自分の創造性だけで視聴者を集めたごく一般の人々である。たとえ有名でなくても、多くのクリエイターがニッチなフィールドを見つけ、熱心なファンを獲得している。彼らは(オーディエンスの)貴重な注目と視聴率を奪う新しいプレイヤーだ。

クリエイターエコノミーには「テントポール」の作品が存在しない。テントポールとは、そのスタジオ自体の経営を左右するほどの大ヒットを記録する作品を意味する用語である。ほとんどのアルバムは制作費を回収できない(メジャーレーベルでも同様だ)。そこにAdele(アデル)が現れてレコードを発表し、回収できなかったレコードの代金を支払い、多少の収益をもたらす。

これはクリエイターエコノミーには当てはまらない。確かにTikTokでもKhaby Lame(カベンネ・ラメ)のようなタイプのスターが生まれている。彼は、複雑すぎるライフハックに対しておもしろおかしく苛立ちを表現することで世界的に有名となり、今ではMeta(メタ)の宣伝をしている

しかし、カベンネ・ラメのフォロワーが、彼の最新の動画を観るためだけにアプリを開く(そして視聴後はアプリを閉じる)ことはない(そうさせないようにアルゴリズムが設計されているのだが、それはまた別の話だ)。フォロワーたちはこれらの有名人だけでなく、小規模なクリエイターも数多くフォローしており、彼らが鑑賞する動画の大半は、世界的に有名ではないクリエイターが作ったものであることが統計的に明らかになっている。

小規模クリエイターがニッチなフィールドで成功を収め、熱心なファンを獲得し、すべてが変わりつつある現在、クリエイターテックもリアルタイムでそのニーズに応えるために進化している。クリエイターの幸福(ウェルフェア)を重視し、その維持を最優先すべき時が来た。

良い倫理観=良いビジネス

クリエイターの報酬を単に倫理的な問題としてとらえるのは簡単だが、すでに語りつくされた議論である。もちろんアーティストは自分の作品にふさわしい報酬を得るべきだ。では、別の視点から考えてみよう。

クリエイターエコノミーにおけるテックプラットフォームや企業が活動を存続するためには、小規模クリエイターへの公正な報酬をビジネスモデルの中核とすることが重要である。クリエイターをプラットフォームに呼び込み、定着させて、プラットフォームへの需要を喚起するのである。

これは現実的な解法でもある。今は90年代ではないし、大きなイベントも存在しない。クリエイターテックにとってはクリエイターの数こそが重要である。プラットフォームの需要を支えているのは多くの小さなクリエイターたちだ。

クリエイターテックは、小規模クリエイターの支援に全力で取り組むべきである。彼らを支援し、適正な報酬を提供し、クリエイターをスポンサーやパトロンと結びつけるプラットフォームを継続的に改良していかなければ、スーパースターモデルに対する(クリエイターエコノミーの)進化はすべて無駄になってしまい、クリエイターテックは自らの首を絞めてしまうことになる。

クリエイターの利益よりも(プラットフォームを提供する企業の)株主の利益の方が大きいというビジネスモデルは、特に視聴者の需要と支払い意欲が高い状況において、望ましいものではなく、持続可能性も損なっている。コンテンツクリエイターが更新を中断すると罰せられるようなアルゴリズムは馬鹿げており、廃止すべきだ。クリエイターエコノミーモデルとそれを利用する企業は、根底から見直しを行うべき時である。

クリエイターテックは、クリエイターのパトロネージュ(支援者)としての役割を受け入れ、革新し続けなければならない。すでに特定のクリエイターのニーズに対応して、場合によってはブランドとクリエイターを結びつけて収益性の高いパートナーシップを実現する、競争の激しいパトロンサービスの市場を作り出そうとしているクリエイターテックも存在する。

Substack(サブスタック)は、フリーランスライターのためのプラットフォームを進化させようとしている。Patreon(パトレオン)はあらゆるタイプのコンテンツクリエイターに使ってもらえると自称しているが、公式な手段ではない。今後は最も多くの報酬、知名度、チャンス、そして最も使いやすいサービスを提供するプラットフォームが勝利することになるだろう。

ライセンス、配信、ブロックチェーン認証などの面で進化を続けることは、クリエイターのウェルフェアにとっても、これらの進化を実現する企業にとってもメリットがある。アートオークションのプラットフォームが従来型のギャラリーの枠を超えてユーザーに利用してもらうにはどうするべきだろうか。デジタル音楽、映像、画像のライセンシング(ライセンスを供与して利益を得る行為)は加速し、映像コンテンツクリエイター、フォトグラファー、ソングライターなどのクリエイターエコノミーの中で重要な役割を果たしている。

冷静に考えれば、収益を上げる過程で誰かが搾取される必要はないのだ。

小規模クリエイターへの投資は経済的にもメリットがある

個人がクリエイターになる時代、クリエイターテックが負うクリエイターに対する責任は、自己保身のためだけでなく、倫理的にも重要である(繰り返しになるが、クリエイターテックは小規模クリエイターのエコシステムが充実していなければ成立しない)。スーパースターエコノミーは、プラットフォームやメディアに散在する熱心なファンを持つ独立したクリエイターが支えるエコノミーに道を譲ろうとしている。

活発なクリエイターエコノミーには、まずクリエイター自身の健全な成長が必要である。熱心なファンは意外なところからボトムアップで生まれるので、オーディエンスがコンテンツに簡単にアクセスできることが必要だ。クリエイターテックの成功は、クリエイター自身の成功と切り離せない関係にあるのだから、クリエイターテックはクリエイターを搾取してはならない。

テック産業は、自分たちの命運をユーザー(クリエイター)の命運と結びつけて考えない悪い癖がある。純粋なビジネスの観点からも、倫理的な観点からも、クリエイターテックはこの間違いを犯してはならない。

編集部注:Ira Belsky(イラ・ベルスキー)氏は、Artlistの共同設立者兼共同CEO。

画像クレジット:Stephen Zeigler / Getty Images

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(文:Ira Belsky、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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