ほぼ2年にわたり、世界中の人々が世界との関わり方を大きく変えてきた。それは多くの人々に日々の行動を変えさせた。残念なことに、これらの変化の一部によって、多くの人が当たり前に思っている日常業務が、アクセシビリティやアコモデーションを必要とする人にとって気が遠くなるような困難なものになってしまうことがある。
ハリス世論調査では、米国の成人の半数以上がパンデミックのためにオンライン活動を増やしていることが明らかになっている。障がいのある人の場合、その数字は60%になる。
オンライン活動が増えたからといって、誰もが目標を達成できるわけではない。では、この危機はアクセシビリティにどのようなインパクトを与えているのだろうか。アクセシビリティの重要性について、組織は最終的にメッセージを受け取っているのだろうか?
増加傾向にあるアクセシビリティへの意識
近年、どこを見てもアクセシビリティや障がいのある人についての何かがあるように感じられるのではないだろうか。大手テック企業のテレビ広告の多くは、障がいのある人々やアクセスしやすいテクノロジーを取り上げている。
Apple(アップル)ではネットワークテレビの最初のプライムタイム広告の始まりを告げ、Microsoft(マイクロソフト)は米国最大の試合中に広告を出している。Google(グーグル)の広告では、耳の不自由な男性が、自分のPixel(ピクセル)スマートフォンでLive Caption(ライブキャプション)を使って初めて息子に電話をかける様子が描かれている。またAmazon(アマゾン)の広告には、聴覚に障がいのある従業員Brendan(ブレンダン)氏の職場や家での姿が映し出されている。
アクセシビリティへの意識が高まっているのは明らかだ。2021年5月の「Global Accessibility Awareness Day(グローバル・アクセシビリティ・アウェアネス・デー)」に敬意を表し、Apple、Google、Microsoftは自社プロダクトのアクセシビリティに関する多数のアップデートとリソースを発表した。DAGERSystem(デーガーシステム)は、近くリリース予定のAccessible Games Database(アクセシブルゲーム・データベース)を公開した。これによりゲーマーは、プラットフォームごとにアクセシブルゲームを検索し、聴覚、視覚、色、微細運動のカテゴリー別にアクセシビリティをフィルターできるようになる。
テック企業がアクセシビリティについて語り、それをプロモーションし、マーケティング予算の一部にしているのはすばらしいことだ。しかし、それについて語ることと行動を起こすことの間には違いがある。語ることでウェブサイトのアクセス性が向上するわけではない。それには行動が必要である。
最近のForrester(フォレスター)サーベイでは、10社中8社がデジタルアクセシビリティに取り組んでいることが示された。では、実際に何か変化は起こっているのだろうか。人々は障壁なしにウェブサイトを利用することができているだろうか?
インターネット利用率の上昇はアクセシビリティを向上させたか
これは、2021年のState of Accessibility Report(SOAR、アクセシビリティの状況レポート)で明らかにされた疑問である。SOARの目的は、企業や業界全体のアクセシビリティの現状を評価することにある。アクセシビリティが改善された点や、作業が必要な部分を見つけるためのツールとなっている。
同レポートはこれまで、Alexa(アレクサ)のトップ100ウェブサイトのアクセシビリティの状態を分析することで、アクセシビリティの指標を得てきた。このレポートでは、販売数ではなく、最も人気のあるデジタルプロダクトに焦点を当てている。ほとんどの場合、変化は上位から始まる。上位で状況が改善すれば、残りは後に続く。
80/20ルールとしても知られるパレートの法則がここで適用される。デジタルプロダクトの上位20%でトラフィックの約80%に到達する。
興味深いのは、Alexaのトップ100は2021年に31の新しいウェブサイトをリストしているが、それらは2019年や2020年にはトップ100に入っていなかったことだ。2019年にAlexa 100のリストに掲載されたウェブサイトの中で、2021年のリストに掲載されたのはわずか60%であった。
こうした変化や現在のAlexaトップ100ウェブサイトをレビューすることで、パンデミックによってオンライン行動がどのように変化したかが容易に見て取れる。上位のウェブサイトには、ファイル転送やコラボレーションツール、配送サービス、Zoom(ズーム)やSlack(スラック)などのコミュニケーションツールなど、多くの生産性アプリが含まれていた。
ビデオプラットフォームに関していえば、特にクローズドキャプションが導入された地域において、パンデミックがアクセシビリティに大きなインパクトをもたらしたことは明らかであろう。2020年4月の時点で、Skype(スカイプ)以外のビデオプラットフォームには自動キャプションが組み込まれていなかった。残念ながら、Skypeのキャプションは最高の品質とはいえなかった。
Google Meetには、2020年5月までにキャプションが追加された。この時点でZoomは、自動キャプションのベータテストを行っていた。だが当初は有料アカウントにのみ展開していた。嘆願書の提出を受け、Zoomは無料アカウントでの提供に同意した。そうなるまでに約8カ月を要している。
6月頃には、Microsoft TeamsのiOSアプリで、Teamsのネットワーク上にいないユーザーが無料でキャプションを付けて利用できるようになった。これは良いスタートだが、ビデオプラットフォームのアクセシビリティにはキャプション以上のものが求められる。マウスなしでナビゲートできる必要がある。キャプションに加えて、プラットフォームはトランスクリプトを提供する必要がある。スクリーンリーダーや更新可能な点字デバイスと互換性があるのは、キャプションではなくトランスクリプトになる。
Alexaのトップ100ウェブサイトのテスト結果は以下の通りである。
- テストしたウェブサイトのうち、スクリーンリーダーがアクセシブルであるのは62%で、2020年の40%から増加した
- すべてのページが、有効なドキュメント「lang」属性を持つことに対して合格となった
- テストしたウェブサイトのうち、入力フィールドのラベルにエラーがあったのはわずか11%だった
- 最も一般的なエラーはARIAの使用であった
- 2番目に多いエラーは、カラーコントラストであった
要約すると、Alexaのトップ100ウェブサイトのスクリーンリーダーのテストでは、2019年と2020年のテストよりも大幅な改善が見られた。
モバイルアプリはどうだろうか?ある調査では、モバイルインターネットに費やされる4時間について、回答者の88%がその時間をモバイルアプリに費やすと答えている。アプリの利用率が高く、アクセシビリティコミュニティがアプリのアクセシビリティに関心を持っていることから、SOARは今回初めてモバイルアプリをテストした。Web Content Accessibility Guidelines(WCAG、ウェブコンテンツ・アクセシビリティガイドライン)2.1では、モバイルデバイスのアクセシビリティに関する10の成功基準が追加されている。
モバイル分析では、iOSとAndroid向けの無料アプリのトップ20と、両OS向けの有料アプリのトップ20に注目している。最大の驚きは、無料アプリの方が有料アプリよりはるかにアクセシブルであったことだ。
無料アプリの主要機能のアクセシビリティをテストしたところ、iOSアプリの80%、Androidアプリの65%が合格した。有料アプリの主要機能のアクセシビリティに関しては、合格したのはiOSアプリでわずか10%、Androidアプリで40%であった。
なぜ格差があるのか?Statista(スタティスタ)によると、93%以上がAndroidとiOSデバイスの両方で無料アプリを使用しており、無料アプリのユーザー数は有料アプリをはるかに上回っている。プロダクトの利用者が増えれば増えるほど、利用者がアクセシビリティに関する要望やフィードバックを行う可能性が高くなる。また、無料アプリを提供している企業の多くは、アクセシビリティを最優先事項としている大手テック企業である。
私たちができること
デジタルアクセシビリティが進歩しているのはとても喜ばしいことだが、企業は軌道を維持する必要がある。そのための最も効果的な方法の1つは、アクセシビリティに対するトップダウンのアプローチを採用することである。それを企業文化の一部にしていくのである。
アクセシビリティ優先の文化をひと晩で構築するということはなく、数カ月で構築することもない。時間が必要となる。どんな小さな一歩も進歩である。重要な点は、どんなに小さくても最初の一歩を踏み出すことだ。それは、画像に代替テキストを追加することを社内の全員に指導するようなシンプルなものかもしれない。あるいは、適切な見出しの使い方について、ということも考えられよう。
マッスルメモリーになるには相当な練習が必要となる。あるものを制覇したら、次のものに移る。SOAR 2021によると、多くの企業が代替テキストと見出しを習得し始めているという。しかし、彼らはカラーコントラストとARIAに苦戦している。おそらくそれが次のステップになるだろう。
アクセシブルなプロダクトを生み出すには、障がいのある人たちがそのプロセス全体に関わる必要がある。そう、実用最小限のプロダクトを構築する前に。さらに良いのは、障がいのある人を雇用することで、常に専門家の手が届くようにすることだ。
アクセシビリティの格差が大きい理由は、教育と訓練の不足にある。企業はプロダクト開発チームだけではなく、すべての人を訓練する必要がある。開発チームはアクセシブルなウェブサイトを作ることができるが、マーケティング担当者がキャプションなしでビデオを投稿したり、グラフィックデザイナーがコントラストの悪い画像を作成したり、営業担当者がアクセシブルでないPDFファイルを公開したりすると、その苦労はすべて水の泡になる。
アクセシビリティはすべての人の責務といえよう。
編集部注:本稿の執筆者Joe Devon(ジョー・デボン)氏は、アクセシブルな体験を構築するデジタル・エージェンシーであるDiamondの共同設立者。また、Global Accessibility Awareness Dayの共同設立者であり、GAAD Foundationの議長も務めている。
画像クレジット:twomeows / Getty Images
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(文:Joe Devon、翻訳:Dragonfly)